上原SS

458 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/10/06(金) 19:53:02 ID:mHE/NZmd
雨。雨は嫌いだ。
上原は窓の外を見る。
ざあざあと音を立てて降る雨を見る彼女の瞳はリング上での鋭い物とは違う、不安げな、年相応のものだった。
そんな上原をベッドに腰掛けた小早川は静かに見つめている。
――小早川にとって上原はまさに理想のレスラーだ。そんな上原の見せたはかなげな姿は小早川の胸を貫いた。
「す、凄い雨ですね」
初デートで話題が無くなってしまった少年のように小早川が切り出す。
正直他に何か無かったのかと小早川は内心自分をはたいてやりたくなった。
「…雨は…昔から苦手でね」
そっと上原の細い指が窓をなぞる。
「…兄を…にぃにを思い出すから」
ぽそっと呟いた上原の言葉は果たして小早川に聞こえていたのだろうか。

 ~~15年前(上原今日子の回想)

「にぃにー! にぃにー!」
ぱたぱたと青年の方に駆け寄ると少女はぽふんと青年に飛び付いた。
「はは。ただいま」
青年は優しく笑いながら少女の頭を撫でてやる。
嬉しそうに少女は青年に顔を擦り寄らせる。
――少女、今日子は青年、兄の事が大好きだ。
なにせ“大きくなったらにぃにのお嫁さんになる!”と豪語するほどである。
そのブラコンっぷりは近所でも有名だ。
「にぃに、あしたなんのひかおぼえてる?」
「大丈夫。今日子の誕生日を忘れる訳がないだろう?」
誕生日。子供達が楽しみにするイベントの一つである。
無論、今日子にとっても楽しみなイベントだ。
それ故今もこうして青年にプレゼントをねだっている訳だが。 
――これが、翌日の悲劇に繋がるとは知らずに。

459 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/10/06(金) 20:48:32 ID:mHE/NZmd
その日は雨が降っていた。ざぁざぁと。
横殴りの雨。沖縄では何もそう珍しいことではない。
今日子は玄関と居間を行ったりきたりしながら大好きな兄の帰りを待っていた。
――にぃに、遅いな。いつもは魔法戦隊マホホンジャーがやる頃に帰ってくるのに。もう、ラリえもん始まっちゃうよ……
プレゼント、買ってきてくれてるのかな? でも……プレゼントより、にぃにが早く帰ってきてくれるほうが嬉しいのに。
と、突然の電話。
「今日子ー。ちょっと電話出てくれるー?」
にぃにを待たなきゃいけないのに。
少しふくれっつらになりながら受話器を手に取る。
「もしもし? うえはらです」
『今日子ちゃん!? 俺なんだけどわかるかな!?』
――聞き覚えのある声だ。にぃにのトモダチ。あの面白いおにいちゃんだろう。
「おにいちゃん、どうしたの?」
『大変なんだ! アイツが、アイツが……』
そう。よくある事だ。雨の日に単車でセンターラインの上に乗っかってしまった。
それが元で兄は事故を起こしてしまったのだ。
今日子は泣いた。兄の身を案じて泣いた。だが、泣いても泣いても、兄は帰ってこなかった。

 ――現在

「……えぐぅ、あぐっ、うぐぅぅ……」
「な、そんなに泣くな。昔の話だから」
「でぼ、でぼうえあださん、がわいぞうで……」
……参ったな。泣かれるのは計算外だった。
そもそもこの話には続きがある。兄が帰ってこなかったのは入院したからであって、別に彼岸に旅立ってしまったからという訳ではない。
私が雨を嫌うようになったのは……兄を待っていて死にそうになるほどの風邪をひいたからなのだが……
「うぇぐぅぅ~~、ぜんばぁぁぁぁい゛」
……本当に、どうしよう。

   何となく雨が振ってたから……ゴメン

最終更新:2008年01月27日 00:20
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