ライラの人情話

979 名前:ライラの人情話[sage] 投稿日:2006/11/10(金) 00:00:34 ID:n6r2iyWC
ある日の道場……
霧子「ライラさん、お客様です」
ライラ「いねーよ。留守留守。」
霧子「あなたのファンですよ。」
ライラ「だから留守だっつの。どうせ血ィ見せろとか騒ぐバカだろ?」
霧子「違います、いいからとにかく会って下さい!」
ライラ「ったくなんだよ……っておい、これが?俺の?ファンだぁ?」
ライラの前に現れたのは頭がライラの胸にも届かないくらいの身長の少年だった。
少年「は、はじめまして……」
ぺこり、と頭を下げる。少年の脇にはリュックサックが置かれ、
チャックからチューブが出ていた。その先は少年の鼻腔につながっている。
ライラ「おう。どっか悪いのか」
少年「小さい時から呼吸器不全で、その、肺の…」
リュックからシュー、カシャンと機械音が聞こえた。
ライラ「あ、いい。難しいのはわかんねえから。で、俺のファンだって?」
少年「は、ハイィッ!僕わ、ライラさんの、ファ、ファンです。」
思わず声が裏返る。
ライラ「無理すんなよ。で、そのファンが何の用だよ」

980 名前:ライラの人情話[sage] 投稿日:2006/11/10(金) 00:01:11 ID:n6r2iyWC
少年「あ、あの、今度のどさんこドームでのタッグタイトル戦、が、頑張って下さい!
カオスからベルト取って下さい!勝って下さい!」
ライラ「言われなくたってやるさ。それ言いに来ただけかよ。」
少年「あ、ハイ。やっと先生から半日だけ外出許可貰って、
家に帰るかで迷ったんですが、ライラさんに会いたくて…」
ライラ「北海道の試合は見に来るのか?」
少年「いえ、病院のテレビで一日遅れで見ると思います。CS入ってますから。」
ライラ「俺らの行く病院にはそんなのねえぞ。金あるんだな、お前のとこ。」
霧子「ライラさん、ちょっと言葉が…」
少年「あっ、いけない。そろそろ病院に戻らないと。あの、今日はありがとうございました。」
そう言うと少年はまたぺこりと頭を下げ、機械の入ったリュックを重そうに
両手で抱えて少しふらつきながら道場を後にし、タクシーに乗って去っていった。
霧子「さっきからなんですか、その態度は。いくらヒールでもファンへの接し方というものが…」
ガッ ライラは霧子の口を顎からつかんで塞ぐ。
ライラ「サイン入れっから、さっきのガキにTシャツ送っとけ。」

981 名前:ライラの人情話[sage] 投稿日:2006/11/10(金) 00:03:00 ID:FfBBD6tB
同月某日、北海道どさんこドーム。
会場はメインを前にすでにヒートアップの頂点を越えていた。
満員の会場では北海道出身であるライラコールと
最強の名を欲しいままにするカオスコールが入り乱れていた。
アナ「只今より、本日のファイナルバウト、WWCAタッグ選手権試合を行います。
チャンピオン、ダークスターカオス選手、レディ・コーディ選手組の入場です!」
カクテルライトに照らされたカオスは、
普段とは違って観客を睨みつけるようなジェスチャーをしながら入場してきた。
思わず身を引っ込ませる観客がいるほどの迫力があった。
アナ「続きまして、挑戦者、ライラ神威選手、八島静香選手組の入場です!」
八島「ライラ、普段どおりいこうぜ。」
ライラ「普段どおりじゃ勝てねーよ。何をしてでも勝つ。どんなゲスい手を使ってもな」
八島「じゃあ普段のあんたじゃん。」
ライラ「違えねえ。」
少年がライラの脳裏に浮かぶ。
だがそれがむしろ勝つことだけに集中させる力を与えてくれているようにライラには感じた。
レフェリー「ファイッ!!」
カンッ!ファンの怒涛の様な歓声の中試合は始まった。
エルボー、アームホイップ、ドロップキック、小技の応酬から段々と技が
高度かつ危険度の高いものとなり、試合を決める大技が出る――よくある展開の試合だ。
そしてその流れの中でじわりじわりと力の差が浮き上がってくる。
下馬評どおりライラ達が不利だった。だが、何かが違う。

982 名前:ライラの人情話[sage] 投稿日:2006/11/10(金) 00:04:26 ID:FfBBD6tB
ライラはカオスが違うと考えた。
ライラ(何だ?強い、確かに強い。だが、いつものエグさが無い。
もっとこう……殺す気満々で来るのがカオスだろ?転がしたら踏みつけてこいよ?)
非情さを感じない、組めば組むほど違和感が募る。試合は負けかかっているのに。
カオス「フンッ」
ライラの首にカオスの太い腕が巻きつき、大蛇のように締めていく。
10秒…30秒…1分…ただのスリーパーがライラを捉えて離さない。
ライラ「んっ……ふぐっ……むっ…」
次第に観客は口をつぐみ始めた。落ちるのか、落ちても締め続けるのか―皆が固唾を飲み込む。
ついに静寂が会場を包む。
「カオーーース!」
小さな叫び声が静寂を切り裂いた。カオスは思わずスリーパーの手を緩め、声の方向に顔を向けた。
遅れてスリーパーを振りほどいたライラは身を転がしながら、カオスの視線の先を見つめた。
そこには車椅子に乗った少女がいた。あまり日に当たらない生活をしているのだろう、
薄く青すら入った白い肌、付き添いが持つのは点滴の器具、点滴の管は少女の左手に刺さっていた。
ライラ「なんだよ、お前もかよ…ココロの綺麗なファンが見てるからキレイに勝ちたいってかよ、アァ!?」

983 名前:ライラの人情話[sage] 投稿日:2006/11/10(金) 00:05:43 ID:FfBBD6tB
掌底。限りなくナックルパートに近い掌底。的確にカオスの人中を狙う。
ふらつくカオスのヒザめがけてタックル。持ち上げてパワーボム。カウント1で返される。
起き上がりにラリアート。もう一度転がす。横に回りこみ、さらに起き上がりに延髄斬り。
ライラ「そんなフ抜けた態度で勝てると思ってんのか!」
引きずり立ち上がらせ、相手の勢いを一切借りない自力のみでのパワースラム。
落とした後に頭をみぞおちに押し付けた。
カオス「グオッ」
倒れ悶えるカオスを尻目にコーナーに向かうライラ。タッチのそぶりで左手を挙げる。
ライラ「ヒャハ、静香ぁ、い~~作戦思いついたぜェ」
八島「すげえぜ!このまま潰そうぜ!で、何やるんだ?」
ライラ「オウ、こうやってな……」
八島の頭を両手で抱える。
ライラ「ガシャーン!」
八島の顔面はコーナーの鉄柱に叩きつけられた!
本日二度目の静寂が会場を包んだ。コーナーから場外に倒れた八島は動く気配が無い。
客A「何だよ、アレ…」
客B「つうか、八島の鼻イってるだろ」
ライラ以外の誰もが何が起きているのか理解できなかった。

984 名前:ライラの人情話[sage] 投稿日:2006/11/10(金) 00:06:22 ID:FfBBD6tB
ライラ「普段どおりのよぉ、オレが好きだからファンになったんならよォ、
普段どおりの事して勝たないといけないよなぁぁぁぁぁ!ヒャッハーァァア!だろう、カオス!」
カオス「フフ…」
5万人の中、理解者はたった2人。
コーディ「おい、タッチだ!2人がかりで決めるぞ!」
暗黒星の大槌がロープ越しにコーディを喉を中心点に回転させながら場外に突き飛ばす。
骨までいったような、イヤな感触がカオスの腕に残った。
それがむしろ快感である。
お互いのタッグパートナーを潰し、リング中央でにらみ合う2人。
カオス「お前も、と言ったな」
ライラ「言っちまったな。」
カオスが右手を上げる。力比べの要領でライラも左手を上げる。
高い点で指が絡まり、静かに下りてくる。眼が合う、息が合った。
ライラ・カオス「ダーッ!」
大きく諸手を上げて雄叫びを挙げる。勝利宣言だ。
カンカンカンカンッ!ゴングが打ち鳴らされる。
リングに向かって様々なものが投げつけられる中、レフェリーの判定も聞かずに
ライラは控え室に走り出した。
少年「ハイ、もしもし。」
ライラ「ハァハァ、オウ、俺だ。ライラ。」
少年「ライラさん!?あ、この間はシャツありがとうございました!一生の宝物にします!」
ライラ「あ、そうか。ところでよ、勝ったぞ。試合。」
少年「ええっ!お、おめでとうございます!僕、僕、」
電話機の向こうからすすり泣く声が聞こえる。
ライラ「あ、悪い。テレビじゃ明日だったか。ネタバレしちまったか?」
少年「そんなんじゃないです…嬉しくて……」
明日の少年の顔を思うと、ライラは苦笑いが思わず出てくるのだった。

最終更新:2008年01月30日 22:59
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