73 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/09/21(木) 04:09:55
ID:r+eMllrU
AM9:30 県立総合病院、305号室。
6人合い部屋の病室は、各ベッドを仕切るカーテンはことごとく破られ、壁には巨大な質量が激突して
崩壊した跡があちこちに。
ベッドのひとつは中央から真っ二つに潰れており、更に病室のドアは蝶番の根本からブチ折れ、金属製
で頑丈な筈のドア自体も、猛牛の突進でも受けたかの様に曲がってしまっている。
そして何より、呻き声を上げ横たわる、我が団体に所属する4人の女子レスラー達。
内田、柳生、藤原、そして兼任コーチの霧島。
いずれもウチの、いわゆる「トップどころ」と言って良い屈強の選手達だ。
嵐過ぎ去りし後。
眼前に広がる光景を一言で表現するならば、これ程似つかわしい言葉は無いだろうと思えた。
「ちょっと若社長!どうなってるんだい、アンタんとこのあの若いコは!」
親父の代から世話になっているベテランの看護師長も、流石の事態に怒るやら呆れるやら綯い交ぜの口調で
俺に捲し立てる。
どうなってるって?そんな事はこっちが聞きたいくらいですよ。
怪我した選手の見舞いに来たら怪我人が増えてるって、どんな状況だっつーの。
「だいたいあのコ絶対安静だってあれだけ言ってt(ry」
そう、“絶対安静”。
本来“絶対安静”で“動ける筈の無い”人物が今、“この場に居ない”事が一番の問題であり、恐らくこの
惨状の原因なのだ。
「ったく・・・何考えてるんだ上戸の奴は」
後々発生するであろう病院への弁済金と、それを起因とする秘書井上さんの静かなる怒りの想像を掻き消す
かの如く一言だけ吐き捨てると、俺は煙草に火を付け・・・。
「若社長!喫煙は喫煙所でって何度言えば解るんだい!!」
看護師長に殺されそうな眼光で睨まれた。
74 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/09/21(木) 04:10:27
ID:r+eMllrU
幸いにも比較的軽傷で済んだ霧島に、その時の様子を聞く事が出来た。
前日の試合で怪我を負い、この病院に入院したマッキー上戸を見舞う為に、霧島ら4人に山本を加えた計5人で
病室を訪れると、満身創痍で絶対安静である筈の上戸が今まさに着替えて勝手に退院しようとしていたという。
当然止めに入る他の選手達。
藤原が押さえ付けに掛かったその時、上戸は怪我人とは思えぬ反応と動きで藤原にタックルを見舞った。
吹っ飛ぶ藤原、引き裂かれるベッド仕切り用カーテン。
その瞬間、彼女達の魂のゴングが鳴ってしまった。
霧島が病室中央で上戸に対して手四つで組み合う。
しかし怪我人相手に油断したのか、一瞬の隙を突かれフロントスープレックスで壁に投げつけられてしまう。
ブリッジから背筋だけで立ち上がろうとする上戸に只ならぬ殺気を感じたのか、柳生が容赦のない右ハイキック
を側頭部へ目掛けて打ち放つが、一歩踏み込んだ上戸は柳生の懐に入るとハイキックを受け止め、そのまま
ベッド目掛けてランニングパワーボムを敢行。二つに割れたベッドはこの時の物の様だ。
最初にタックルを受けた藤原が起き上がって来るや否や上戸のジャンピングニーが炸裂。勝負所でのツメの甘さ
が今後の藤原の課題か。
残る一人はラッキー内田、奇しくもジューシーペア同士のレアな対決となってしまった。
病室のドアの前に陣取る内田、にじり寄る上戸。
交錯する二人の視線。
不意にその視線を内田が脇に逸らす。釣られてそちらを見てしまう上戸。
流石はパートナーといったところか、その一瞬の隙を突いて上戸の鼻柱に掌打を打ち込み、上体が開いた所を
飛びつき腕ひしぎ逆十時、通称「ラッキーキャプチャー1」で絡め取った。
・・・そう思った瞬間、上戸は右腕に絡み付いた内田ごと、ラリアートで病室のドアに打ち付けるという超荒技を
敢行。
その衝撃でドアは内田もろとも根本から吹っ飛び、上戸は何事か叫んだ後、意気揚々と病室を後にしたという。
75 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/09/21(木) 04:11:01
ID:r+eMllrU
かくして病室という名の四角いジャングルは、悪魔もぶっ飛ぶ地獄絵図へと変貌を遂げたという訳だ。
この間、わずか1~2分での出来事だったという。
ちなみに他の4人と一緒に来ていたグリズリー山本は、給湯室を借りてお見舞いのリンゴを剥いていた為に現場
には居らずに事なきを得たらしい。
「いやぁ、あれほど見事なベリートゥベリーを喰らったのは試合でもありませんでしたよ」
あっはっはと忌憚なく笑う、“鬼軍曹”こと霧島レイラ。
「いや霧島さ、あっはっはじゃ無くてさ」
「と、失礼しました、後輩の成長につい。それにしても上戸の奴、怪我を押してまで一体どこへ行ったものか」
問題はそこである。
「うーん、一応井上さんには連絡を入れて、他のみんなに心当たりを当たって貰ってはいるんだけどなぁ。霧島、
病室で何か上戸から聞いてないか?」
「うーん、聞くも何も、病室に入るなり『退院するから!』の一点張りでしたから・・・」
手掛かり無しか・・・折角前日のトーナメントで優勝した矢先だっていうのに・・・ん?昨日の試合・・・!
「霧島!上戸が病室出ていく時に何か叫んでたって言ったよな?なんて言ってたか思い出せないか!?」
「え?ああ、私も最後は朦朧としてて良くは聞き取れなかったのですが・・・確か、10時がどうとか邪魔する奴は
牛にどうとか・・・」
「!! そうか、ありがとう。済まなかったな、後は俺に任せて休んでくれ」
「あ、社長!どちらへ!?」
霧島の言葉を聞くが早いか、俺は院内を早足で出て、タクシーを呼び止めた。
「後楽園プラザまで、大至急」