228 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/09/28(木) 22:44:39
ID:ty/2JeEo
ようやくここまで来たか・・・
大阪IMPプラザは7・8割の客入りで、団体旗揚げ戦にしてはいい方だろうと思う。
これもメインに登場するうちのエース・芝田美紀の話題性のお陰なのか。
「長い道のりだったな・・・美紀」
フィギュアスケートの世界から女子プロへ転向し、期待の大型新人として美紀がデビューしたのは今から4年前の春だった。
スケートで鍛えた強靭な足腰と跳躍力から繰り出される飛び技には目を見張るものがあり、業界の将来を担う逸材と騒がれたものだ。
特に彼女が早くから注目されたのには理由がある。
デビュー前から考案・練習していた必殺技があったからだ。
その名も「スワンダイブ式スパイラルミサイルキック」 その後ファンに公募して正式に「トリプルアクセル」と言う名前がつけられた美紀のオリジナル必殺技だ。
これには当時度肝を抜かれた。正直デビュー1年も経っていない新人に出来るレベルの技ではなかったからだ。
「これは本物だ!」
これだけの選手だから、自分が団体を立ち上げるとしても、まさか移籍なんて不可能だろうとは諦めていたが
それでも1プロレスファンとして彼女には魅了された。
当時所属していたワールド女子の新人トーナメントに優勝し、海外修行権を手に入れ
帰国後もジュニアのベルトを初挑戦で獲得、デビュー2年後には団体トップクラスとのマッチメイクも多くなってきていたのだから
あの頃の彼女は順風満帆だったと言えるだろう・・・・・あの事故が起こるまでは・・・・・
230 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/09/28(木) 22:45:50
ID:ty/2JeEo
確かあの試合は、彼女が始めてドームクラスの会場でセミファイナルのシングルに出場した試合だった筈だ。
相手は2年先輩で名実共に団体エースだった霧島レイラ。
無尽蔵のスタミナと、容赦の無いハードな攻めに苦しめられながらも
試合開始20分過ぎに訪れた唯一のチャンスに、美紀は必殺のトリプルアクセルを出そうとした。
あれは今思い出しても信じられないミスだったと思う。
エプロンからのスワンダイブ式から改良し、リング内からノータッチでトップロープに飛び乗ってから反転して放つ改良型のトリプルアクセル
その時彼女はロープから足を踏み外したのだ。
垂直落下式の投げ技をくらっても怪我もしないプロレスラーが、こんな単純な落下事故でここまで大怪我を負うものかと、当時の俺は驚いた記憶がある。
トップロープで足を踏み外し、そのまま足から落下した彼女に下された診断は
右足首靭帯断裂
元々スケートをしていた頃から酷使していた足首の疲労が一気に爆発したのかもしれない。
重度の靭帯断裂により全治1年を告げられた彼女は、その後ワールド女子を退団
そのまま引退かと業界は騒然となった。
彼女にとってそれは、レスラー生命に関わる事故であったのだが、その時俺は不謹慎にも「これはチャンスだ!」と思ったのだ。
オリンピック代表も夢ではないと言われていたフィギュアスケートを辞めてまで始めたプロレス
きっと彼女の心は、いやレイラーとしての魂はまだまだこれしきでは折れてはいまい。
本人が諦めなければきっと道はあるはず、そして今回の事故でワールド女子を退団した彼女は今やフリーの身なのだ。
うちに入団してもらい、団体旗揚げ興行で彼女の復帰戦を行う・・・・これしかない!
美紀「これは何の冗談ですの? 私はもうプロレスが出来ないかもしれないと言うのに・・・・」
当然だが最初彼女は俺の話に耳を貸さなかった。それでも俺は彼女の移籍交渉を諦めず病院に毎日通いつめた。
団体のエースとしてネームバリューのある彼女を獲得したいという思いも当然ながらあったのだが
何よりただのプロレスファンとして、”天空美影”と異名をとった彼女のあの美しい空中殺法をまた見たかったし
このまま彼女にレスラーを引退して欲しくなかったからだ。
231 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/09/28(木) 22:46:34
ID:ty/2JeEo
団体立ち上げのための準備に忙しい時期だったが、既存の団体に勤務した経験も無く、レスラーに人脈もない俺の絵空事のような新団体なんぞに
入門を希望する新人などいるわけもなく、また移籍にYESと言ってくれるフリー選手も皆無だった。
とにかく今は彼女にかけるしか無い。毎日時間を作っては病室に通い続ける俺の熱意にうたれたのか、とうとう彼女は俺に笑顔を見せてくれたのだ。
美紀「もしも復帰できたとしても、あの頃みたくは輝けないかもしれなくてよ? それでも本当にいいんですの?」
「いいや絶対出来る! 美紀さんならもう一度 必ず輝けるさ! 俺も全力でバックアップする!だから俺の団体に来てくれないか?」
美紀「こんな傷モノに随分ご執心なんですのね?うふふ」
232 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/09/28(木) 22:47:14
ID:ty/2JeEo
怪我をしてからの彼女は、いつも暗い表情をして塞ぎこんでいた。そんな彼女が見せる笑顔はとても眩しく、そして輝いていたのを今でもよく覚えている。
それからの旗揚げ準備は順調そのものだった。
業界を騒がせた”あの”天才・芝田美紀がプロレス界に復帰!
俺はその事実をすぐに各方面に発表し、退院後の美紀のリハビリや練習にも取材を受け付けた。
ビッグネームの入団決定が影響したのだろう。うちのような弱小新団体にも入門を希望する新人の子が現れた。
そして何より復帰に向けて練習する美紀を勇気づけたのは、かつての先輩
彼女にとって人生の分岐点となったあの試合の相手をつとめた、霧島レイラ選手の入団が決まった事だ。
すでに21歳となりワールド女子を離れフリーとして活躍していた彼女は、美紀の復帰ニュースを聞いて駆けつけてくれたのだ。
恐らく霧島選手も美紀の怪我に責任を感じていたのかもしれない。正確には彼女は美紀に何もしていない、ただ美紀が自らの技を失敗しておきた事故だった。
だが自分の試合で相手が再起不能かもしれない程の怪我をしたのは、やはりショックだったのだろう。
美紀の復帰に向けてのスパーリングパートナーとして、そして旗揚げ戦のメインシングルの対戦相手としてこれ以上無いと言う程の選手だ。
霧島「社長、やっぱりあの子は本物の天才だよ。復帰戦は楽しみにしてなよ。」
何やら俺にも内緒で特訓を始めたらしい、まあこの二人が入団してくれただけでも充分なのだが
復帰戦は期待する事にしよう。
元々後輩の面倒見が良い事で知られていた霧島選手は指導者としての才能も優れており
うちの旗揚げ戦がレスラーとしてのデビュー戦となる新人の子達の練習も全て彼女に任せっきりだ。
安心して道場を彼女に任せた俺は、芝田の地元となる大阪IMPホールの手配と、旗揚げ興行の宣伝・営業に集中する事が出来たというわけだ。
233 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2006/09/28(木) 22:48:13
ID:ty/2JeEo
ある意味長い道のりだったとも言えるし、アッと言う間に過ぎた2年間だったとも言えるだろう。
とにかく俺達の新団体は今日、旗揚げする事が出来た。
霧島・芝田のネームバリューで、旗揚げから1000人規模の会場をある程度埋める事が出来たのは幸いだった。
この会場の熱気は選手達のモチベーションを高めてくれるだろう。そして何より復帰戦をする美紀には心強い味方となるはずだ。
霧島の人脈で駆けつけてくれたスポット参戦の旧ワールド女子の選手達がセミファイナルを盛り上げ
いよいよ今日のメインイベント、”飛翔美影”芝田美紀 vs ”女帝”霧島レイラのシングルマッチが始まろうとしている。
会場のボルテージも最高潮に達し、とうとうやってきたこの試合・・・・・
花道を入場する美紀は、とてもいい表情をしている。脅威の新人として騒がれていたあの当時と全く変わらない自信に満ち溢れたいい表情だ。
「ありがとう美紀・・・・そして ありがとうレイラ」
俺達の新しい旅立ちの日に最高のスタートを飾れたよ。
一度は閉ざされたスターダムへと登りつめる道
今そこには新しい道が開けている。
お前は何も考えずに、ただその道を突っ走ればいいんだ
いつか世界の頂点を極める その日まで・・・・・