幸子ちゃんと薬指を食べあった話

 季節の変わり目って唇がカサカサになるよね。
 口周りが荒れたりしてムズムズするからリップクリームが必須なんだけど、どうやら幸子ちゃんも唇が乾きやすい体質だそうで、うちに来るなりリップを取り出すのね。

 でも生憎リップを切らしてたみたいで、幸子ちゃん焦り始めるわけよ。慌ててカバンの中身を漁るんだけど予備のリップクリームも無いもんだから、どうしようどうしようって幸子ちゃんどんどん冷静さを失っていくわけよ。
 その間唇がムズムズするのか唇と唇を擦り合わせたり甘噛みしてて、唇が赤くなった幸子ちゃんがとってもセクシーでした。

 まあでもこのままの幸子ちゃんをほっとけないから、ぼくのリップを貸そうとしたら「嫌ですよ、人の、しかもふじえるさんのリップを使うとか」って拒否られて死にたくなるのね。つらい。
 このまま自殺しようかな〜って思った時に、とあるものが目に入ったんですよ。


そう、ハチミツ♡


 ハチミツは保湿効果が高くて、はちみつパックなんていう美容法が一時期話題になったとかならなかったとか。万が一体内に入っても元々食用だし問題ないよね、幸子ちゃんは赤ちゃんでもないし。

 というわけでハチミツをリップの代わりに使ったらどうかなって幸子ちゃんに提案したのね。

 最初は幸子ちゃんも半信半疑だったんだけど、まあワセリンみたいなのと説明したら渋々使ってくれることになったわけよ。

 で、その後幸子ちゃんが指をハチミツで濡らして唇に薄く延ばしていく様子を眺めてたんだけど、マジヤバイ。ハチミツが唇に広がるたびに光に反射されてテラテラと唇が光り始めるし、ハチミツの甘い芳香が淡く漂って
非常に官能的なのよ。マジ蠱惑的。自分で提案しといてなんだけど考えた奴は頭おかしいと思う。女の子食うことしか考えてないでしょ絶対。まじえっち。

 だけど幸子ちゃんの唇をしばらく眺めてたら、ちょっと口周りで赤くなってるとこを見つけるのね。だけど口頭だと幸子ちゃんに場所をうまく伝えられないからぼくの顔を使って指差したりするんだけどこれでも伝わらない。とうとうしびれを切らした幸子ちゃんがぼくに塗ってくださいって言うわけよ。

えっ!!!!!ぼくが!!!!!幸子ちゃんの!!!!!!唇に!!!!!!!ハチミツを!!!!!!

 絶対すぐ塗り終わってくださいね?絶対ですよ?変なこと絶対しないでくださいね?って念を押されたけどぼくはめっちゃ気が気でなくなっていくわけよ。そりゃあそうだろ!?さっきまで見てるだけであんなに蠱惑的な!!唇を!!!!ぼくが触れるんだもの!!!!!花の蜜を見つけたミツバチくんみたいなことになっちゃうよ。ぼくの理性が誘蛾灯の如く唇に引き寄せられ、魅惑という電流で焼き殺されることなど火を見るよりも明らかだよ。

 そんなことを考えてしどろもどろしてたら幸子ちゃんがだんだん苛ついて急かしてくるし、仕方なくぼくは幸子ちゃんの唇にハチミツを塗ることになったわけ。

 薬指にちょんとハチミツを付けて、幸子ちゃんの唇に薄く広げる。幸い唇の荒れは微かで、ザラッとした感触もほとんどない。塗りこぼしが無いよう、薄く、薄く、幸子ちゃんの唇に延ばしていく。

幸子ちゃんは気恥ずかしいのか目を閉じてされるがままになっている。

まるでエサを待つひな鳥の様で、ちょっとドキッとするが、我慢して続ける。

我慢だ、我慢ーー


……唇、やわらかいなあ。

絹のようにサラサラとした幸子ちゃんの肌から、人肌の温もりを感じる。

柔らかな感触を感じる。

指を唇の中心に滑るように近づける。

なだらかな唇の起伏にぷにっとした感触。

ぼくの指を押し返す、弾力。

ふにふにと押すけど、すぐに唇は元に戻る。

やわらかい、もっと触りたい。

まるで吸盤のように、ぼくの指は幸子ちゃんの唇に吸い寄せられていく。

ふにふに

ふにふに

ああ、やわらかいなあ……

もっと、触りたい。

唇の奥に、コツコツと歯の固い感触が当たる。

底なし沼の様に吸い寄せて離さない唇の、水底だ。

そのまま唇ごしに歯列をなぞる。

歯のツルツルした感触と唇のふにふにした触感が合わさって、ゼリーのピアノを弾いているようだ。

指が止まらない。

もっと触らせろ、もっと奏でさせろと、指が走る。

もっと、もっと、もっとーー

幸子ちゃんの唇をーー

「ふじえるさん!!」

ごすっ

幸子ちゃんに怒られました……

その後幸子ちゃんに正座させられて説教をくらい続けたのね。トホホ……


 で、しばらく幸子ちゃんの説教が続いたところでもっかい事件が起きたのね。セカンドインパクト。

 説教中に気付いたのか、ぼくの唇も荒れてるじゃないですかって幸子ちゃんが言ってきたのよ。
ウソ、じゃあ俺は自分のリップでも塗っとくかと思ったら、

今度は幸子ちゃんがぼくにハチミツを塗るって言い出したわけ。

いやいやいや、って拒否ろうと思ったけど、正座で足が痺れ切ったぼくは幸子ちゃんの魔の手から逃れられず、馬乗りになってぼくの口にハチミツを塗った手を近づけてくるのね。

そのまま抵抗できず、唇を幸子ちゃんの指で嬲られるんですよ。

幸子ちゃんはフフーンさっきはよくもボクの唇に散々イタズラしましたねって得意げにニヤケながら、ぼくの唇をくすぐるように撫でるから、すごいくすぐったい。

ぼくの唇を幸子ちゃんの指が魚のように這い回ってくるのね。

幸子ちゃんの白い、鍾乳石のような指が。

粘っこいハチミツがぼくの唇と幸子ちゃんの指を柔らかく貼り付けて、そして剥がされていくのよ。

ぼくの唇と、幸子ちゃんの指が、ひっついて、離れて、ひっついて、離れて。

しかも幸子ちゃんの指使いが滅茶苦茶だから、時折ぼくの口の中に軽く侵入しちゃうわけよ。

その時の幸子ちゃんの指は当然ハチミツ塗れだから、本当にドロ甘でヤバい。

そんな幸子ちゃんの甘い薬指がまるで捕食を待ち望んでるかのようにぼくの口で暴れるもんだから


つい、パクッと吸い付いちゃうのも仕方ないよね。


幸子ちゃんはふきゃーっ!って悲鳴をあげて手を離そうとするけど離すもんか。

レロレロとハチミツをこそぎ取るように幸子ちゃんの薬指を舐め回して、啄む。
氷柱をじっくり溶かすように執拗に、丁寧に。

幸子ちゃんはくすぐったそうに目を閉じながら、ぼくの舌に耐えてるのね。その時の顔が、ハチミツを塗る前のあの表情みたいに見えたから、ぼくは追撃を始めるわけよ。

まだ残ってるハチミツを指で掬って、また幸子ちゃんの唇に塗る追撃を。

しかもさっきまでの優しい塗り方から一転して、幸子ちゃんにされたように激しくくすぐるような責めを始めるのね。

指先でさわさわと肌をくすぐるように、幸子ちゃんの唇を責め立てたり、時折幸子ちゃんの歯茎をくすぐるように中まで入り込んだり。

どうや、これがわいのお返しや!って得意げになろうとしたら、

幸子ちゃんもぼくの薬指を吸い立ててきたのよ。

こっちを涙目で見ながらほにゃほにゃほにゃららまじっく言うけどよく分からない。
だけどぼくがしたようにちゅーちゅーとぼくの指を吸って舐めてくるのよ。

ぼくの指は幸子ちゃんの口が捕らえて、幸子ちゃんの指はぼくの口が捕らえて。

そんな両者ともに八方ふさがりの中、どっちが先に音を上げるかの根比べが始まった。

舐めて、舐めて、舐められて、指を躍らせて、吸われて……

まるで幸子ちゃんとぼくで薬指を食べあっているようだな、とぼんやり思ったのね。


 しばらくして2人の指がふやけきったので、引き分けになったけど、幸子ちゃんから「ふじえるさんはつくづくヘンタイですね!どんな人生送ったらこんなヘンタイなこと思いつくんですか!」って怒られたけど、ぼくもこんなつもりじゃなかったのになあと考える、初秋のできごとでした。
最終更新:2017年09月29日 21:15