幸子ちゃんとぼくが海を見に行く話

 というわけでぼくことふじえるが不幸な事故により全身不随となったときの話をするね。

 人間いつ何時何が起こるかわからないもんで、幸子ちゃんの収録の打ち合わせでスタジオ入ったときにセットが倒れ込んでぼくに直撃したせいで脊髄やら背骨やら首やら頭やらやられてしまって、体で満足に動かせるのが左手の人差し指一本だけになってしまったのね。幸い目や耳は無事だったらしく、インプットはできるけどアウトプットができない状態。当然そんな状態で仕事を続けられるはずもなく、万が一のために残しておいた幸子ちゃんの為の引き継ぎ資料を、今を駆け抜ける346のスーパーカリスマプロデューサーこと武内くんに渡すよう人差し指のモールス信号で伝えて辞職したわけよ。
 お見舞いに来てくれた幸子ちゃんとのコミュニケーションもぼくは幸子ちゃんの話を聞き取れるからいいんだけどぼくからはモールス信号しか伝えられないからどうしても十分に話が伝えられなくて、普段はボクのためにとかボクが一番なんて自信満々な幸子ちゃんが
「ボクのせいで……」
とか
「ふじえるさん、ごめんなさい……」
ってずっと僕に謝るわけよ。そんな幸子ちゃんじゃなくていつもの元気な幸子ちゃんに戻って欲しいから
「---・ ・-・-・ ・-・ ---- ・・-・・ ・-・ ・- --」
「-・-- ・・ ・-・-・ -・-・・ -・ ・・ --・-・ ・-・--」
って言うんだけど全然伝わらない。翻訳機能つけろ。

 とある日ドクターと打ち合わせて、モールス信号を機械音声に翻訳してくれる機械と僕専用の車椅子を作ってもらって(金の出処は僕の貯蓄から)、幸子ちゃんがお見舞いにくる日に
「うみがみたい」
と機械音声で伝えて、担当のドクターの車に二人とも乗せてもらいながら、綺麗な海が見える崖に連れてってもらったのね。バンザイクリフみたいなとこ。

 そこでしばらく僕と幸子ちゃん二人きりにしてもらって、幸子ちゃんに車椅子を押してもらいながら昔話に花を咲かせるわけよ。でもやっぱり幸子ちゃんどうしても責任感じちゃって、その度に泣きそうになるんだけど僕が慰めようとしても手も体も動かせないからもどかしいのよ。
だから僕は幸子ちゃんに機械音声で
「ありがとう」
と伝えた後に、声にも出して伝えようとするんだけど、「ぁ"………ぅ"」しか言えなくて、それが余計に幸子ちゃんを悲しませちゃったみたい。

 というわけで、僕専用の車椅子の隠し機能、高速前進機能を使って一気に崖から飛び降り自殺したわけ。当然幸子ちゃん悲鳴をあげて僕を引きとめようとするんだけど万一のために控えさせておいたドクターに押さえられて動けなくしてもらって、僕の後を追わせなくした。

 そして僕は幸子ちゃんの心に取り憑き、幸子ちゃんの守護霊として夢の中で毎日いちゃいちゃしましたとさ、めでたしめでたし。
最終更新:2016年05月30日 20:19