事の発端は美城専務の暗殺事件だった。
346プロダクションと米国政府による非公式の会談の場で、美城専務と米国国防省長官が何者かに銃殺されたのだ。
美城専務は世界経済の中心である米国と深い繋がりを持ち強い発言力を持つ一方で、敵も多く存在し決して安全を保証された身ではなかったものの、その死は世界中に衝撃を走らせた。国によっては国政や財政すら専務の影響下にある国もあり、その事件により経済に大打撃を受けた国も少なからず存在した。それほどまでに美城専務の影響力は強かった。
暗殺事件の犯人究明が各所で進められる中、凶器と思われる銃から、美城専務に同行した武内Pの指紋が検出、一気に容疑が濃厚になる。
米国はすぐさま武内の身柄を要求、日本政府もそれに応じ346プロダクションに対し武内Pの身柄を要求するが、プロダクション側はそれを拒否。全面対決の姿勢を見せ、あろうことか米国に対して宣戦布告をする。
かたや世界一の超大国。かたや一芸能プロダクション。その勝負は明白かに思えたが、事態は予想外の方向に進展する。
346プロダクション側が人型の巨大兵器「ヴァルキュリアドール」をロールアウト、既存の兵器を歯牙にかけぬ圧倒的実力を見せ、米軍を圧倒したのだ。戦場を鳥のように縦横無尽に駆け抜け、敵をその一撃で討ち滅ぼす姿、その洗練されたフォルムはまさしくヴァルキュリアと呼ぶにふさわしく、人々は畏敬の念を抱いた。
346プロダクションの保有する五機のヴァルキュリアドールによる小部隊、「アインフェリア」は各地の戦闘で華々しく勝利を飾ってゆき、もはや346プロダクションの勝利は目前だった。
しかし突如米国は、ヴァルキュリアドールに対抗すべく、同じく人型の巨大兵器、「アウルゲルミル」を投入する。
アウルゲルミルは一機のみであるものの、ヴァルキュリアドールを上回る防御力と武装の豊富さ、攻撃力の高さから五機のヴァルキュリアドール相手に互角に渡り合える戦闘力を見せた。
アウルゲルミルの登場により両者の戦力は拮抗し、戦闘は膠着状態に陥るのであった……
というわけでぼくが346プロダクションから米国に寝返り、人型兵器アウルゲルミルのパイロットとしてアインフェリア部隊と激戦を繰り広げる話をするね。
そもそもなんでぼくが寝返ったのかっていうと、346プロダクションの恐るべき陰謀と隠された事実を知ってしまったからなんだ。前からおかしいと思ってたんだよね。どんな疲れた人間もたちまち元気にさせるドリンクやら100回引いても出ない1.5%のSSRとか、どの事務所にも決まっている緑のお姉さんとか。それくらいなら良かったんだけど、美城専務暗殺事件の真相とその目的も知ってしまったのよ。
結論から言うと、発端となるこの事件は346プロダクションの一部勢力による犯行だったん。一部の勢力が最強の兵器「ヴァルキュリアドール」の開発を進め、トップアイドルを搭乗させ活躍させることにより、アイドルという存在を神格化させて、そのアイドルを擁する346プロダクションが全世界に対し発言力を持ち世界の実権を握る、これがそいつらの狙いだったん。当然そんな計画も武力の保持もアイドルを大切に思う美城専務が許すはずがない。だから奴らは、口封じのために殺害しようと計画し、更に米国との火種を作るためにわざわざ長官も呼んで専務とともに暗殺、その罪を武内Pになすりつけたのよ。しかも悪辣なことに、武内Pが真実を吐かぬよう身柄の保護という名目で地下に監禁し、アイドルにはプロダクションを守るためという建前を吐いてヴァルキュリアドールに搭乗させたんよ。
その真実を知ったぼくは怒りに震えるんだけど、さらにおぞましい計画の存在も知ってしまうのよ。
その名も「ニヴルヘイムモデル」。搭乗者と機体をデバイスで接続し、スタドリを投与し続けることで戦い続けられる最強のヴァルキュリアドール。しかもテストパイロット候補者に幸子ちゃんの名前を見つけてしまったんよ。ぼくは怒りが頂点に達して、その計画書とヴァルキュリアドールの設計書とかを告発しようと盗んだら当然見つかって、急いで幸子ちゃんを抱きかかえて事務所を飛び出したん。
そのままどこに身を寄せようか考えてたら米軍に捕まってなんやかんや告発したら、幸子ちゃんの身の安全と引き換えにヴァルキュリアドールに対抗しうる兵器の開発を要求され、完成させたのが「アウルゲルミル」だったわけ。
アウルゲルミルはくすねてきたヴァルキュリアドールの設計書をもとに作成したんだけど、ヴァルキュリアドールの設計にはブラックボックスが数多く存在し、完全な性能の再現には至らなかったんよ。当然このままじゃヴァルキュリアドールに勝つことはできない。
そこで、ニヴルヘイムモデルの設計を流用し、搭乗者の脳にデバイスを接続し、二機の人工知能「フギン」「ムニン」によるサポートを加えることで、ヴァルキュリアドールに劣らぬ超人的な運動性と人間の限界を超えた判断力を獲得することに成功した。当然こんな機体に誰も乗せるわけにはいかないからぼくが乗ることになったのよ。
そしてぼくはアウルゲルミルを駆って五機のヴァルキュリアドール部隊、アインフェリアとの戦いに臨んだわけ。
戦いの最中、ヴァルキュリアドール間にのみ通じる通信網も、アウルゲルミルも傍受、送信することができるから誰がパイロットかぼくにはわかるのよ。どうやら大方の予想通りあの5人だった(よくわかんない?生存本能ヴァルキュリアでググろう!)。ぼくはこれまで顔を合わせてきたアイドルと刃を交えなければならない現実を悲しみつつも、みんな戦いを望んでる子じゃないと信じてたから、この通信が誰にも聞かれないってことを伝えつつ、その真実を話そうとしたのよ。
でもダメだった。どうやらぼくは米国の間者だということにされて、美城専務暗殺の犯人だと吹き込まれてたみたい。美城専務暗殺の日、ぼくは自宅で幸子ちゃんとイチャイチャして誰もぼくのアリバイを証明できないのをいいことに犯人に仕立て上げられたんよ。美城専務を暗殺し武内Pに罪をなすりつけて、挙げ句の果てに輿水幸子ちゃんを拉致し人質に取った卑劣な真犯人、そういうことにされたせいで、ぼくが名乗り出た瞬間みんな怒りをあらわにぼくに襲いかかってきたんよ。5人の中で特にCPとして武内Pと深く付き合ってきた隊長の美波ちゃんが一番怖かった。ぼくは必死になって説得しようとするんだけど、聞く耳を持ってくれなくて、その日は撤退したのね。
その後何度も戦闘を重ねて、その度説得しようとして失敗に終わる。そして脳に対する過負荷のせいで身体がボロボロになる、というサイクルを繰り返したせいで、痺れを切らした米国がぼくに最終通告を出したのよ。次で仕留められなければパイロットを降ろすと。
ぼくはかつて仕事を通して苦楽を共にしたアイドルを傷付けたくないけど、他のパイロットの手にかかって殺されて欲しくなかったから、覚悟を決めて最終決戦に臨むわけよ。
そして最終決戦の場アラスカにて、五機と対峙し覚悟を固めるぼく。心を鬼にして容赦なく攻撃をするぼくと、仇討ちに奮えるアインフェリア。互いの装甲を削り、剥がし合い、武器を落とし合う。これまで誰にも傷つけられなかったヴァルキュリアドールの純白の装甲が煤と傷で汚れていく。当然アウルゲルミルもその身が少しずつ、溶けていく氷のように欠けていく。そこには、これまでのヴァルキュリアドール達が無縁だった泥に汚れた戦争が、土にまみれた原初の闘争が顕現していた。
だけどやっぱり五対一は分が悪かった。アウルゲルミルの機体へのダメージはもう限界まで来ていた。だけど幸子の為負けるわけにはいかないと最後の渾身の一撃を放つんだけど、あえなく敗れ去り、撃破されちゃうのよ。
そして倒れ伏すアウルゲルミルとぼくを、アインフェリアが取り囲みトドメを刺そうとしたとき、幸子ちゃんが泣きながらぼくの元に駆け寄ってきたんよ。
幸子ちゃんの叫び声に驚くアインフェリア。なぜ、人質ではなかったのかと動揺する隙に、幸子ちゃんがぼくのコクピットに乗り込んで、通信を通して叫んだのよ。卑劣な陰謀を。この戦争の理不尽を。
その幸子ちゃんの声を聞いて、自分たちのやってきたことは正しかったのか迷うアインフェリアの面々。ぼくへの怒りが過ちだったと気付き、みんなの銃を持つ手が惑い始めたとき、346プロダクション最後のヴァルキュリアドール、オーディンモデルが襲来してきたんよ。
オーディンモデルはヴァルキュリアドールの技術の集大成ともいうべき存在でグングニールの
~~~~~~中略~~~~~~~
その後なんやかんやあって346プロダクションの暗部はアインフェリアの活躍により解決し、平和が戻りました。
だけどぼくは脳へのダメージの後遺症により、色覚を奪われ、モノクロの世界で生き続けることを余儀なくされました。だけど後悔はない。たとえ色の見えないモノクロでも、幸子ちゃんと繋いだその手のぬくもりは、決して色褪せないものだから。
失ったものも大きいけど、守れたものはもっと大きい。どうか、この平和が長く続くように、そう祈るアイドルの姿はまさしく天使のようでした。
最終更新:2016年05月30日 21:44