いつも仲良しふじえるくんと幸子ちゃん。でも今日はいつもと様子が違って……?
「ふじえるさんのバカ!ヘンタイ!下着ドロボー!」
「幸子のチビ!貧乳!美少女!カワイイ!美少女!」
「っ、またボクをおだてて有耶無耶にしようったってそうはいきませんよ!このふじえるさんの女たらし!」
「幸子ちゃんがカワイイのが悪いんだぞ幸子ちゃんの男殺し!悩殺魔!」
二人とも売り言葉に買い言葉でなかなか喧嘩が止みそうにありません。そこに一人の少女がやってきました。
「これこれ、そなたたちー。諍い事を止めなされー」
「よ、よしのん!?」
「諍いは二人だけでなく諍いを聞いているみなの心も荒ませるゆえー。諍いではなく落ち着いた談論にて物事を解決しなされー」
「芳乃さん……ですけどふじえるさんが……」
「万物には因果がありましてー。わたくしが聞いてさしあげましょうー」
よしのんの言葉を受けた二人は一旦喧嘩を止め、事情を説明しました。
聞けば幸子のキャミソールが一着無くなったらしく、またふじえるが盗んだのではと問い詰めても知らないと言い張ったため、喧嘩になったそうで。なのでよしのんが失せ物探しをした結果、幸子の鞄の中に一着だけ紛れていて、無事解決しました。(なんで鞄の中にあったのか、なんでいの一番にふじえるを疑ったのかは追及しないこととする)
その晩、よしのんは自室で考え事に耽っていました。
(人はなぜ争い傷付けることやめないのでしてー)
(みなに愛されるアイドルになるにはー、みなの愛する心を守らなければならないのでしてー)
(そのためにはー、みなの心を喧噪から救いだすー、まさしく神様のような力が必要でございましょうー)
(神様ー……確かあの人※がそんな事を言ってましてー)※よしのんPのこと
「日本は正月を神社で祝い、結婚式は教会で行い、葬式は坊主に任せる、ヘンテコな国だ。こんな国はなかなか無いだろう。でもこれは、神様に、宗教に人間の本質と言うものをいち早く見出してきたからこそだと思うんだ」
(人間の本質を見出すー、それが宗教学だとあの人は言ってましてー……)
(宗教学ー。宗教に人間の本質が見えるのならばー、宗教学を学んでみましょうー)
どうもー、数日前に幸子ちゃんにキャミソール泥棒を疑われた腹いせに一昨晩は散々幸子ちゃんを責め立てたふじえるでーす。何度も何度も幸子ちゃんを果てさせたからすごいスッキリした。その次の朝幸子ちゃんに「ふじえるさんの鬼畜!ベッドヤクザ!」って言われたけど、ぼくを散々疑った幸子ちゃんが悪い。おかげでぼくもだいぶ精気を幸子ちゃんに吸い取られたしおあいこにしてほしい。
そんなわけで今日も一日がんばるぞい!したらよしのんを見かけるわけよ。こないだはよしのんのおかげで喧嘩が止んだしお礼にお煎餅用意して渡そうかなって声かけたら、よしのんの様子がおかしいのね。
というかよしのんに後光が射してて神々しい。前から神秘的な雰囲気のあった娘だけどそういう雰囲気じゃなくてガチで後光が射してるし、よしのんの身体の周りに光り輝く虹色のオーラがなんか見えるのよ。これが龍が如くだったらよしのんにヒートアクションキメられそうってくらい強い。多分ノブだったら今のよしのん見ただけでハゲ上がって戦意喪失する。
でも、声かけたら普通に返事してくれて、お礼のお煎餅渡したらいつも通りの調子で喜んでくれたから、なんか射してる後光も虹色のオーラもきっと日の光の位置の関係でそう見えるだけだろう、はははって軽く流そうとしたのね。
ところが事件はここから始まった。
あるプロデューサーが「担当の声が……声が聞こえない……鼓膜が足らない……」と呻きながら耳を押さえて通りかかったのね。それを見たよしのんがちょいちょいとそのプロデューサーの袖を引っ張って振り向かせたと思ったら、優しい光のオーラで包まれた両手でプロデューサーの両耳を優しく包んだのね。何をやってるんだろう、って思ったら、よしのんが手を離したあと、プロデューサーが「あれ……?関裕美の声が聞こえる………!?関裕美が俺に笑いかける声が聞こえる………!!?夢じゃない……夢じゃないぞおおお!!」って突然興奮しだしたのね。ぼく目真ん丸にして驚いた。プロデューサーの鼓膜を取り戻した?そんなバカな。よしのんに尋ねたら「あのお方が欲するものをー、与えただけでしてー」って答えるのよ。いやおかしい。普通鼓膜は与えるもんじゃない。だけどあのプロデューサーの興奮っぷりを見るとどうやら本当のようだ。てか今ここに関裕美ちゃんいないのにどうやって声が聞こえるんだ。怖い。
その後、小梅ちゃんの周りにいる悪霊がよしのんが近づいただけで全員安らかな顔で成仏したり、ウサミンこと安部菜々さんの持病の腰痛が綺麗さっぱり無くなったり、川島さんの肌年齢が10歳若返ったりと、よしのんがそのオーラで次々と奇跡を起こしていくのね。いつの間にそんな力を身につけたのか聞けば、ぼくと幸子ちゃんとの喧嘩の後、人間の本質とは何か学ぶ為にふみふみの叔父さんの書店や図書館で宗教学の書籍を読み耽っていたらしい。その際、"真理"を理解し万物の根源を解明した瞬間、身体中から力が湧き出てきてこんな風になったそうだ。わからん。
その力は歌にも乗るそうで、よしのんのCDデビューの日、ライブやCDシングルを聴いた人は皆一様に涙を流し、心が洗い流され、犯罪率が激減したとその日のニュースで話題になったのよ。その辺りから段々とよしのんのファンというか、信者が形成されていって、「芳乃教」なるものが結成され始めたのね。みなよしのんに救いを求めてよしのんを信奉し、よしのんの為に争いを無くす為の平和活動に従事するのよ。ぼくと幸子ちゃん夜にテレビでそのニュースを見ながら唖然とするわけ。怖い。
その後、芳乃教は着々とファン数を増やし、やがて鹿児島市内に芳乃教の総本山、「よしのん市国」を建国し、一大宗教として名を馳せローマ法皇と謁見したりと、よしのんの神性は止まることを知らないのよ。よしのんは「アイドルとしてー、みなわたくしを愛してくれて本望でしてー」って言うんだけどこれもうアイドルじゃなくない?
ぼくと幸子ちゃんはよしのんとよしのんPに招待されてよしのん市国での食事に行ったけど、すごい数の信者がよしのんを一目見ようと集まってて2人して乾いた笑いしか出ませんでした。
最終更新:2016年05月30日 21:59