幸子ちゃんに搾り取られた話

 多忙のあまり無理しすぎて倒れてしまった時の話をするね。

 大きなプロジェクトがあってそれを成功させるために昼夜頑張るんだけど体力がついていかないから無理矢理ドリンク飲んで身体を誤魔化しながら踏ん張ったのね。

 そんな無茶な頑張りもあって無事プロジェクトは大成功。幸子ちゃんもご満悦でぼくも大満足だったわけよ。

 だけどやった、成功に終わった……って気が抜けた瞬間、ぼくの頭がぼやーっとなって体の力がふっと抜けてきたのね。一瞬自分の体の感覚が無くなった、と思ったらいつの間にかぼくは床に倒れ伏して、硬い事務所の床に寝そべってた。床に打ち付けたのか身体中の骨がジンジンと響く。あれ?なんでぼくは床に寝てるんだろう、幸子ちゃんたちの焦った声が聞こえるなあ、でもプロジェクトは終わったし、体が重くて起きるのも億劫だからこのまま寝よう……って考えてるうちに瞼が重くなっていって、そのまま意識を失ったんよ。


 目が覚めたら白い天井と見知らぬ白いベッドの上にぼくは寝てた。ぼくは困惑して昨日の記憶を思い起こすけど事務所で幸子ちゃんとライブの成功を祝い合った後の記憶がない。あの後ぼくの身に何が起こったんだろうって考えてたら回診に来た看護婦さんが目が覚めたぼくに気づいてお医者さんを呼んで、事情を説明してくれたのよ。

 なんでもぼくは事務所で過労と睡眠不足のあまり意識を失って倒れたらしく、そのまま救急車に搬送されたらしいのね。ただ命に別状はなく、静養すれば数日もしないうちに退院できるそうでぼくはホッとしたんよ。(だけどお医者さんから仕事柄ハードワークになりがちだけど体壊したら仕事続けられなくなるから無茶はするなってやんわり釘を刺された)

 その日の午後、めっちゃ慌てた様子の幸子ちゃんがぼくの容体を確認するために駆けつけてきたのよ。ぼくが元気そうに笑っても何度も何度も「ふじえるさん、大丈夫ですか?本当に大丈夫ですか?」って聞くのね。それが何回も続くもんだから「幸子ちゃんは心配性だなあ」って笑ったら、幸子ちゃんから「心配かけさせたのはどこのどなたですか!」って割りとガチトーンで怒られたから「ごめん……」ってしょぼくれながら謝りました。

 その後しばらくはぼくのお仕事がお休むこととか幸子ちゃんもちょっとスケジュールに空きがあるから休めることとか伝えてもらった後にいつも通りの雑談をして、その翌日に無事退院しました。
 休みの間は普通にゆっくり静養して、数日後にお仕事に復帰したときには完全に快復したのでよかったよかったと一息ついたわけ。


 ところが事件はその翌週に起こった。

 翌週の金曜日の午後、事務所内で幸子ちゃんと二人きりになったときに、珍しく幸子ちゃんから差し入れがあったのよ。幸子ちゃんいわく「こないだはふじえるさんも頑張ってくれたので、ボクからのお祝いです。今回だけのトクベツですからね!」らしいのね。
 中身はラッピングされたグミだった。茶色いグミだからコーラ味かなんかかな?お菓子の袋詰めのおすそ分けか何かかな?って考えながら幸子ちゃんにお礼を言ったら、「フフーン、もっとボクに感謝してくれていいんですよ?あ、でもそのグミは早く食べてくださいね?」って返されたから喜んで幸子ちゃんからもらったグミを食べたんよ。
 グミはコーラ味っぽいんだけど、なんかコーラっぽくない後味や臭いがするのね。まあそれでも普通に美味しかったからペロリと食べたのよ。でも気になったのはグミの味だけじゃなくて、なぜかこのグミを食べてる間幸子ちゃんがぼくの様子を伺うかのように見つめてくるのよ。ぼくがグミをちゃんと食べたか確認するように見つめたと思ったら、一瞬幸子ちゃん目が獲物を見るかのように鋭くなった気がしたのね。でもまあ、ぼくが美味しく食べてくれるか気になったんだったんだろうなって思って気にしないことにしたのよ。

 で、グミを食べたぼくに幸子ちゃんがさらなる爆弾を投下してきた。

「結局こないだはふじえるさんと打ち上げできなかったので、今夜ふじえるさんの家に行きますね。ですからボクのためにご馳走を注文して待っててくださいね!」

 マジかよ!やべえ!こりゃ無茶した甲斐あったな!
 ぼくはそんな幸子ちゃんからのお誘いに我を忘れて喜んで、勢いでとびっきりのお寿司を注文しちゃったのよ。えへへ。(だけど期待しすぎたあまりその日のお仕事はめっちゃ捗りまくってちひろさんに「また無理しないでくださいね?倒れられるとかえってコストがかかるので……」ってたしなめられました)


 その日の夜。自宅で寿司を受け取って幸子ちゃんを待つぼくの体に異変が生じた。

 何故か身体が熱い。身体の奥から熱が湧いて、止まらない。疼く。疼く。疼く疼く疼く疼く疼く疼く。
心臓が内側からドンドンと五月蝿く叩いている。血がビクビクと激しく脈動するのを感じる。まるでぼくの体から逃げ出したいかのごとく、血が、心臓が、血管が、暴れる。思い返せば今日の夕方から妙に元気というか体力がみなぎっている気がする。あの時は幸子ちゃんに誘われた嬉しさから元気になったものだと思っていたが、本当にそれだけだったのか?記憶を辿った時、幸子ちゃんの不審な点がいくつか蘇った。
 何故、いきなりラッピングしただけのグミを渡そうとしたのか?
 何故、すぐに食べさせようとしたのか?
 何故、ぼくがグミを食べているときに目を鋭くさせていたのか?
 何故、いきなり今日に限ってーー

 ピンポーン、とインターホンが鳴った。幸子ちゃんだ。

「ふふーん、ボクが来てあげましたよ!」

 まずい、今のぼくの体調では幸子ちゃんと一緒にいた時何が起こるか分からない。ここは風邪ということにしてまた日を改めてもらおう。
 そう思ったら鍵をかけていたはずの玄関からガチャンと鍵を開けられた音が聞こえた。しまった、合鍵渡してたんだった。幸子ちゃんがリビングに侵入してくる。

「ちょっとふじえるさん?せっかくボクが来てあげたんですから、玄関先でお出迎えするのが当然ですよね?しっかりしてください」

 幸子ちゃんの姿を見た途端、身体中の血流が更に暴れだした。まるで幸子ちゃんを歓迎するかの如く、自分の意思とは無関係に身体が、細胞の一つ一つに至るまで興奮し熱狂している。ああ、襲いたい。脳が色欲に侵されていく。

「悪い……今熱っぽくて、風邪をもらったのかもしれない。……来てくれて悪いけどお寿司だけ食べたらまた別の日にゆっくり打ち上げしないか?」

 崩れそうな理性を必死に抑え、ぼくは乗り切ろうと嘘をついた。
 ところが、そんなぼくの嘘に騙される幸子ちゃんではなかった。確かめるようにぼくの額に幸子ちゃんの額を合わせてきたのだ。

「ホントですかぁ?熱なんか全然なさそうですけど」
 幸子ちゃんの顔が、白い肌が目が額が睫毛が唇がぼくの視界を支配する。何故か幸子ちゃんはぼくの肩を掴んでさするように撫でている。やめろ、やめてくれ。理性の鎖がギシリギシリと軋み始めていく。

「そ、そうだ。寿司を頼んだんだ。悪くならないうちにそれを食べないとな!飲み物も揃えてあるぞ」
「そういえばそうですね。じゃあ食べましょうか」

 やった、危なかった。幸子ちゃんの一挙一動に惑わされていく自分を必死に抑えながら、どうにか距離をとることに成功した。だがこのままでは危ない。今の幸子ちゃんの動作が全て淫魔の誘惑にしか感じられない。理性のメッキを少しずつ剥がされていくのを感じる。早く幸子ちゃんには帰ってもらわないと。
 焦っていたぼくはその時の幸子ちゃんの表情の変化に気づかなかった。必死に離れようとするぼくを見た幸子ちゃんが、妖しい笑みを浮かべていたことに。


 幸い、食事をしている時は何も起こらなかった。他愛のない雑談でなんとか気を紛らわせることができたぼくは先刻よりも幾分かは心に余裕が生まれてきていた。だが身体の熱はなかなか冷めてくれない。今も幸子ちゃんが近づけば、それだけで本能が暴走しそうなほど、追い詰められていた。
 食事後幸子ちゃんに帰ってもらおうか話したけど、もう友達の家に泊まると言ってしまったし準備もしているので今更帰れないとのことだ。(そもそも泊まるつもりだったことも聞いていないのだが……)仕方ない。ぼくは早く寝てやり過ごそうと、すぐに片付けをした後シャワーを浴び、歯も磨いて21時にはもう寝る準備を済ませようとした。

「じゃ、ぼくはソファで寝るから幸子ちゃんはぼくのベッド使ってくれ!おやすみ!!」

 ぼくは勢いで誤魔化そうとソファに飛び込み、横たわって目を閉じた。
 そうだ、もう寝よう。寝るに限る、明日また幸子ちゃんと遊べばいいんだ--

「それで誤魔化せると思ってるんですか?」

 ずん、と幸子ちゃんがぼくに跨ってきた。所謂騎乗位の体勢になる。

「ふじえるさん、もうバレバレですよ。限界だってこと」
「どういうことだ……離れてくれ……」
「ふじえるさん、ボクが家に来てからずぅーっと、ボクを血走った目で見つめて。でも必死に抑えようと身体をプルプルとさせて、フフ、カワイかったですよ。亜鉛グミを食べてもう限界なはずなのに」
「どういうことだっ……!?」
「ボクからのプレゼントですよ。文香さんの読んでた推理小説をお借りして読んだ時、そんな成分のお話があったので、使わせてもらいました。おかげでふじえるさん、ボクをずっといやらしい目で見続けてたじゃないですか」
「そんなこと……」
「バレてないと思ってたんですか?それとも、それを認めたくないんですか?もう頭の中が、ボクを襲いたい、滅茶苦茶にしたいーって気持ちで一杯なのを」
「……っ!幸子ちゃん、流石にそれは冗談が過ぎるぞ」
「フフーン、こんなにガチガチに硬くしたモノをボクのお尻に押し当てて、説得力がないですよ。ふじえるさん♪」

 幸子ちゃんはぼくの脚の付け根から下腹部へと手を滑らせ、さわさわと生地の表面をなぞるように撫でていく。微弱な刺激が電流のようにぼくの身体を襲う。くすぐったさから身をよじらせ逃れようとするが、幸子ちゃんは器用にバランスを取ってぼくの上に跨り続けて逃がしてくれない。それどころが徐々に徐々に与える刺激を強くしてくる。

「幸子ちゃん!もう、やめてくれ……」
「ダメです。これはふじえるさんへのお仕置きでもあるんですから」
「お仕置き、どういうことだ……?」
「分からないんですか?あんな無茶して倒れて。ボクに心配をかけさせて……」
「確かに悪いと思ってるが、あれは仕方ない部分もあっただろ」
「それだけじゃありません!」

 ぼくは驚いて身をすくませる。

「ここのところ仕事にかまけて、ボクを見てくれることが少なくなったじゃないですか。ボクの、ボクだけのプロデューサーさんなのに。なのに一人で突っ走って、ボクを置いていって。……あのまま死んじゃったら、あのとき、ボクはずっとそれしか考えられなかったんですよ?」
「ごめん……」
「いいえ、ゴメンだけじゃ済ませません。ですから、お仕置きです。ふじえるさんが、ずっと、ずーーーっと、ボクだけしか見れないようにするための」
「……だからってこんなことを」
「お仕置きされる側に選択権なんてありませんよ」

 幸子ちゃんはぼくの部屋着のジャージに手をかける。何をしようとしているのか一瞬で理解したぼくは止めようと必死で抵抗した。しかし腕力が事務所内で最弱(小梅ちゃんとどっこいどっこいレベル)のぼくでは、幸子ちゃんを止めきれず、ジリジリと脱がされていく。

「ふ、ふじえるさん、まだ抵抗するつもりですか……?」
「当然だ、こんなことされるわけにはいかな、い………幸子ちゃん、力つよっい……」
「ふじえるさんがひ弱なだけだと思いますが……じゃあこれならどうです」

 そう言うと幸子ちゃんは手を離し、跨ったままぼくの体に重ねるように自分の身体を倒してきた。
 そのまま、唇を奪われる。唇を唇で挟み、擦り合わせ、何度も何度も、唇同士を押印するかのように重ね弾ませる。
 ぼくは予想だにしなかった幸子ちゃんの行動に、身体の動きが止まってしまった。

「ふふーん、ふじえるさん、いつも思ってますが表情が分かりやすいですね。おかげでボクがどうすればいいかすぐわかっちゃいます!」
「幸子ちゃん、な……んで……」
「ふじえるさんはずっと質問ばっかりですね。もう答えてあげません」

 そう言うと幸子ちゃんはぼくのジャージを脱がす作業を再開した。スルスルと下ろされ、脱がされていく。ぼくはおぼつかない思考の中、どうして、こんなことに……ということだけを考えながら幸子ちゃんの"お仕置き"を受けていった。


 そこからの記憶はあやふやだ。幸子ちゃんがぼくの目を熱っぽい表情で見つめながら上下に体を動かし続けていた記憶、うわ言のように「これで、ボクの、ボクだけのもの」と繰り返していた記憶、舌と舌とを結ぶように絡ませられた後に幸子ちゃんの舌と唾液で口内を弄ばれた記憶……断片的には覚えているものの、一部始終を流れとして思い出すことはできなかった。ただただ、幸子ちゃんのされるがまま、搾られ、搾り尽くされたことだけを記憶していた。

 翌朝目覚めると、精力を絞り尽くされた身体が重く感じた。昨日のことが夢のような気分がしたが、何故か一緒にベッドで寝てた幸子ちゃんの姿を見つけると、改めて現実だと思い知らされた。

 ああ、これからどうしよう。ぼくはとうとう幸子うっ!………………ふう。何書いてんだろオレ……やめよう
最終更新:2016年06月18日 07:40