幸子ちゃんのためにルンバを動かす話

 最近母さんがまたルンバを動かすようになったせいでぼくの部屋に寝起きにルンバをけしかけてくるようになったの本当に勘弁してほしい。カーペットの上でスヤスヤ寝てるぼくの頭にガンガンぶつかって髪の毛掃除してくるしケツ掘ってくるし、こないだ朝シャワー浴びたら扉にぶつかってこじ開けようとしてきたし、ルンバがぼくを犯そうとしてるようにしか思えない。

 だけどこんなことでめげるぼくじゃない。ぼくを襲うルンバから着想を得て、幸子ちゃんにえっちなイタズラをするルンバを作ろうと考えたのね。

 ルンバの動作はユーザーがカスタマイズできるから、それを使って幸子ちゃんを追い回すアルゴリズムを組んでイタズラをしまくり、最終的にノックダウンさせてぼくのベッドにお持ち帰りしようと考えたわけよ。

 それで作ったのが光のルンバと闇のルンバ。

 どちらも高解像度のカメラとサーモセンサー、超音波、二酸化炭素センサーを新たに取り付けてあり、各センサーから得られた情報をニューラルネットワークとディープラーニングで得られた輿水幸子の特徴データと照合し、常時幸子ちゃんをトラッキングできるのね。

 光のルンバと闇のルンバの違いは装備の違いだけ。

 光のルンバは幸子ちゃんの足元から風を送ってスカートをめくらせる送風機や幸子ちゃんに近づいて胸元に霧吹きをシュッてやる装置、幸子ちゃんを首筋を羽でコチョコチョする機械など、主にイタズラ目的の装備が揃っている。

 一方闇のルンバはスタンガン、ガイガーカウンター、網バズーカ、催眠ガスディフューザー等、幸子ちゃんを捕獲するための装備が揃っている。

 この光と闇のルンバを駆使して幸子ちゃんにイタズラを繰り返し、疲れたところをそのままベッドに連れ込もうという計画だったわけ。

 これで上手くいく、つもりだったーー

「ふじえるさん、まさかこれルンバですか?」

「その通り、最近忙しくて掃除する時間無くてさ。うちのお古だけど倉庫に眠らせてるよりはいいかなと思って」

 作戦決行当日、ルンバを見た幸子ちゃんはちょっと驚いたような顔をして話しかけてきた。計画通り。事前にルンバ見たさにアイドルたちが押し掛けてくるだろう事態を予想したぼくは幸子ちゃんのスケジュールを調整し、ぼくと会う時間を送らせた上に二人きりのシチュエーションを作り出した。ここまでは順調だ。

「でもこのルンバ、テレビで見たのとちょっと違うような……」

「あ、ああ、それはな、ルンバが実はプログラムで動かし方を変えられるって聞いたことあるかい?大学の研究でもルンバを使ってるとこもあって、ぼくのもちょっと改造してあるんだ」

「……ヘンな機能つけてないですよね?ボクが実験台になるのはイヤですよ?」

 チッ、幸子ちゃんめ。鋭くなってきたな。

「さすがに事務所の掃除用に戻してるから大丈夫だよ。気になるなら動かして確かめてみてよ。そこのボタンを押したら動くから」

「なんか強引に事を進まされてる気もしますが……まあいいでしょう。押してみますね」

 そう言いながら指をボタンに向けて近づけていく幸子ちゃんを見ながら、ぼくは夜神月のごとく笑いを噛み堪えて、ルンバが幸子ちゃんに襲いかかる瞬間を待った。

 いよいよ幸子ちゃんの指がルンバの起動ボタンに触れようとしたとき、

「幸子ちゃん!!それに触れちゃダメ!!!」

「ふぇっ!?」

 破れた軍服姿の新田美波が事務所に飛び入り叫んだ。

「幸子ちゃん!!そのルンバはふじえるさんが幸子ちゃんを襲うために作られたニセモノなの!!そのボタンを押したら、そのルンバはずっと幸子ちゃんを追い回し続けるわ!!」

「美波さん、どうしてそんなことを知ってるんですか?」

「私たちアインフェリアは最近違法ルンバ改造パーツの流通ルートを調べるお仕事をしてたの。そしたら、ふじえるさんの購入履歴も発見して、まさかと思って向かったら案の定こんな事態に……」

「幸子ちゃん!それはデタラメだ!俺がそんなことするわけないだろ!!信じてくれ!!!」

「やっぱりそういうことでしたかふじえるさん」

「あっ幸子ちゃん疑うのが早い!」

 日頃あれだけ幸子ちゃんのために頑張ったのになんていう仕打ちだ。ひどいぞ。

「ふじえるさん、貴方の身柄は私たちアインフェリアが預からせてもらいます」

 ぼくに拳銃を突き付ける美波。

 クソッ、こうなったら最後の手段だ。

「出てこいッ!アウル、ゲルミルーーーッッッ!!!」

 ぼくの叫びに呼応して、空から漆黒の鉄の巨人"アウルゲルミル"が降り立った。

 そのまま美波の隙をついて窓から飛び降り、ぼくはアウルゲルミルに搭乗した。このままアウルゲルミルを使って幸子ちゃんを連れ去ってやる。

 しかしそれを許す美波たちではなかった。

 アウルゲルミルを取り囲むように、純白の鉄人形"ヴァルキュリアドール"たちが降り立ったのだ。

「ふじえるさん、貴方の狼藉を見過ごすわけにはいきません!」

「貴方は今ここで裁きます」

「「「「「私たち、アインフェリアが!!」」」」」

「上等だ!!こんなところで負けるわけにはいかねえ、かかってこい!!!」

黒の巨人と白の巨人が激しく衝突したーー

(続きは生存本能ヴァルキュリアで!)
最終更新:2016年07月18日 01:49