幸子ちゃんが日記を書く話

X月XX日 (月)
今日も学校の後に事務所に寄って、軽くレッスンをしてきました。
クラスのみんなは月曜日の朝になるとなんだか気怠げな表情を浮かべてますが、ボクは全然平気です。むしろ月曜日からこのボクのカンペキなカワイさをいつお披露目しようか毎週の週明けが楽しみで仕方ありません。きっとクラスのみなさんも土日にボクの姿を拝めないから憂鬱なんでしょう。ブルーマンデー症候群を癒す特製のボクの笑顔、これは「月曜日の幸子」として毎週全国にも配信しなければなりませんね!

そういえば事務所でも同じ話をまゆさんとしました。まゆさんもボクと同じで月曜日が待ち遠しくて仕方ないようです。なんでも、プロデューサーさんと月曜日に事務所で会うことで、自分の一週間が始まるように感じられるからだとか。
まゆさんはそう話すと、まゆさんのプロデューサーさんを見つけて流れるように近寄って挨拶し、楽しげに会話を始めました。まゆさんと会話するまゆさんのプロデューサーさんの頬に時折冷や汗が覗いたのはきっと気のせいでしょう。

まゆさんに日記を薦められてからこの日記もだいぶ書き溜まりました。最初はノートの清書のついででなんとなく始めましたが、最近では日記に書くために日々の一コマを探しているような気がします。
例えば学校で、事務所で、ライブで、ふじえるさんとの会話で……
って何を書いてるんでしょうか。ふじえるさんはボクのプロデューサーさんですがすきというほどでもないですし信頼してはいますがふじえるさんを愛してるわけでもふじえるさんがすきではなくふじえるさんがふじえるさんふじえるさんふじえるさんふじえるさんふじえ
ーーーーーー


幸子が冷静になると、自分の思考に反してあらぬ事を書こうとする自身の腕に気がついた。自身の思考が飛躍して筆が乗る現象はこれまでも経験したことがあるが、自身の思考に反して筆が乗り続けることなど一度もない。
まるで"誰か"に"筆を乗せられてる"かのようなーー


「まさかこれはふじえるさんッッ!!」


輿水幸子は戦慄した。

今までもふじえるが攻撃(イタズラ)や攻撃(セクハラ)をしてくることはあったものの、全て幸子の近くにふじえるがいた状態で起きたことであった。このような視界外からの攻撃は受けたことがない。当然だろう、普通誰もこんな不可思議な体験などしてこないのだから。しかしそれがふじえるの仕業だと気付いたのは、ひとえに幸子の経験からくるものであった。


幸子がふじえるの名を叫ぶと、ノートの余白にひとりでに文字が綴られ始めた。


ーーよく気がついたね幸子ちゃん、ぼくの無意識に人の思考を誘導する能力「脳漿浸す深淵の囁き-インサイド・インプリケイション-」を破るとは。流石カワイイカワイイ幸子ちゃんだ。このままぼくのことを好きだと書き続けて貰えば、「欺魂心経(ライティングディセイバー)」の能力により書けば書くほどに強力な自己暗示にかけられ、ぼくに惚れるはずだったのにーー


「うわ、気持ち悪いですね……」


幸子は呆れ返った。この能力を身につけるにもまた尋常でない鍛錬を積んだのだろう。わざわざそんなまわりくどいことをするぐらいだったらまずは普段の行いとネーミングセンスを直すところから始めればいいのに。幸子は思ったが黙っておいた。

ともかくふじえるさんの仕込みに気づいた以上、もう今日は日記を書くのを止めよう。幸子が右手を離そうとした瞬間、もう一つの異変に気付いた。


右手が、ノートから離れない。


同時に、また新たにノートに文字が綴られ始める。


ーーダメだよ。幸子ちゃんの右手はもうノートから離れない。ぼくへの愛を、幸子ちゃん自身が錯覚(じかく)するまで書き続けないと離れられない、そういう暗示を先にかけておいたからね。ぼくが消えればその暗示も消えるけど、ぼくは概念世界と一体化したから実態による攻撃は一切通じないよ。残念だったね!


どこまでも、気持ち悪いーー


幸子は背筋に悪寒が走るのを感じた。

ここまでするか、この人は。

しかし右手が自分の意思から離れ文字を書き続けようとするのを止められない以上、ふじえるの術中に嵌るのも時間の問題だ。どうすればいい、幸子が考えあぐねていた時だったーー



「輿水さん、お困りですか」


幸子の背後に突如、CPのプロデューサーが現れた。

幸子は仰天して目を丸くし、同時に幸子のノートにも「た、タケッ!!?」と走り書きのような乱雑な字で書き殴られる。両者共に想像しない事態に驚愕した。


「……またふじえるさんですか。あれほど概念武装を悪用してはならないと釘を刺したはずですが……」


ーーう、うるさい!タケ、お前に何が分かる!これは俺と幸子ちゃんとの問題だ!首を突っ込むな!!


「輿水さん、今から私の言う文字を書いてみてください」
「は、はぁ……」


次々と書き殴られるふじえるの殴り書きを無視し、CPのプロデューサーの指示通り幸子はノートに文字を書き始める。


ーーおい!!紀井店のか!タケ!おれはWarning Message:XSS detected!!さち……おいなにをした


「……やはりそうですか。概念化を急ぐあまり、入力フォームからのクロスサイトスクリプティング対策を怠っていたようですね。実装ありきで正常系にのみ目を向け、異常系に対する設計が疎かになる。貴方の悪癖です、ふじえるさん」


ーーなっ、お前……


「……輿水さん、次はこの文字列を記入してください」
「はぁ……。クロス……スクリプ……?」


ーーおい……おい、なにをする気だタBEGIN TRANSACTIONやめよう悪かったゆるしていまならえらべるずっとはまたないやりなおそうDROP PRODUCER FUJIEL FROM IMAS_DB ポマードポマードポマードカは仮面のかしは死のしあかしけやなげひいろのとりCOMやめてろーるばっくしてロールCOMMIやめよくださいrollba;ckあああセミコロンできらないでcだめこみっときんしコミットだめバリアコミットバリアCOMMIT TRANSACTIONバリアああだめj蟷ク蟄舌■繧�s縺ゅ>縺励※繧九¢縺」縺薙s縺励h縺�@縺ゅo縺帙↑縺九※縺�r縺阪★縺阪◆縺九▲縺溘う繝√Ε繧、繝√Ε縺励◆縺九▲縺溘�縺ォ縺輔■縺薙■繧�=........


謎の文字列を最後に、幸子の日記はいつもの沈黙を取り戻した。


「……ふじえるさんは後日バックアップから復元した後、始末書を書いてもらうことになりますね」
「そ、そうですか……」
「それでは私はここで…」
「あ、あのっ!」
「なんでしょう?」

「助けてくれて、ありがとうございます……たけ、いえ、プロデューサーさん…?」

「いいえ、私は……」


「通りすがりの、情報処理安全確保支援士です」


CPのプロデューサーはそう言い残すと、夜の闇に紛れていった。

闇に溶けていくその背中を眺めながら、幸子は思った。

なんてカッコいいんだろう、情報なんとか安全なんとか士は。ボクも取れたらカッコカワイくなれるのかな、と。

こうしてまた一人、情報なんとか支援なんとか士の資格取得を目指す人が増えたのであった………


みんなも取ろう!なんとか安全確保なんとか士!平成29年度情報技術者試験春期試験の申し込みは2月9日まで!
最終更新:2017年02月06日 23:27