幸子ちゃんが控室でぼくとスマホでやり取りする話

 ボクの名前は輿水幸子。
 今をときめく最強カワイイアイドル、6代目シンデレラガール最有力候補です!

 カワイイボクは日々レッスンにお仕事にと多忙な日々を送っていますが、最近なんだか身体を張った仕事が多い様な気がします。
 お仕事をもらえるのは嬉しいですが、もっとこうボクのお淑やかさがアピールできるような仕事もしたいですね……

 そんな風に考えていた頃、ふじえるさんがボクに清純派ヒロインを演じるドラマの仕事を持って来てくれました。フフーン、ボクの機嫌を読んで的確に仕事をチョイスするふじえるさんはきっといい召使いになれそうですね。もちろん主人はボクですが!


 今日はクランクイン当日、室内での撮影の為今は控室で待機中です。
 もうすぐ撮影ですが台本をカンペキに覚えたボクは余裕でこなしてみせますよ!

 ちなみにふじえるさんは昨日から小梅さんと打ち合わせに行ってるそうで姿が見えません。
……ふふーん、ふじえるさんが戻ってきたらボクの演技で驚かせてあげましょう。

 なんて思ってたら、ふじえるさんからラインでメッセージが届きました。

《誰ノカしら》

……何故かボクの衣装の写真と一緒に。
衣装は今ボクが着ているので昨日撮ったんですかね。


『ボクの衣装ですよ!!忘れたんですか!?』

《冗談❤️》

『こんな時間にどうでもいい会話投げてこないでください……』

《衣装さ、何かこう……》

『なんですか』

《可愛め、超幸子ちゃんに似あうな》
《イチころ》
《イチコロ》
《癒される》

『フフーン、そうでしょう、そうでしょう!』
『カワイイボクにカンペキにマッチしたこの衣装、どんなシーンだろうとボクのカワイさが際立ちますね!』

《あッ(察し)》

『何を察したんですか!?』
『というかふじえるさんは今どうしてるんですか』

《素行不良乃為、先刻講習ビデオを見つ》
《忍ぶ様通達された……》
《おれは待機……》

『こんなタイミングで何でですか……』

《幸子ちゃんもうすぐ撮影かい?》

『ええ、そうですけど』

《たい変期待される》

『焦って中途半端に変換しないでくださいよ……』

《セリフ》
《ちゃんと漢字は飛ばすんだぞ?》
《あとカタカナも》

『ボクは小学生ですか!!読めますよ!!』

《幸子ちゃん、変なこと言ってごめんね?》

『さっきから何ですか、ふじえるさんどうかしたんですか?』

《なんでもないよ?》

『時間なのでほんとに切りますよ、また後で返事しますからね』

《分かった、後でそっちに行くね…》

やっぱり来るんじゃないですか。ふじえるさんの妄言は日常茶飯事ですが今日は輪をかけて変ですね。

まあでも、いつもの調子のふじえるさんと話したら変な緊張も解けましたしその点だけはふじえるさんに感謝してあげてもいいですね。
そう思いながらスマホの電源を切ろうとした瞬間、とあることに気づいてしまいました。


ーー逃げないと


ーーーーーーー

一時間後

控室に着いた白坂小梅は幸子のいる控室の扉を叩いた。
コンコン、と軽いノック音が控室に響く。

しかし控室からの返答はない。

小梅は再度ノックをする。

コンコン、コンコン、コンコン


「幸子ちゃん……来たよ……」


しかし返事はない。
小梅が扉を開けると、中はもぬけの殻だった。

「幸子ちゃん…………あれ…………いない…………」

「幸子ちゃん……隠れてるの…………出ておいで………」

「おーい、幸子ちゃん…………」

「どうして………いないの………?」

「ふじえるさんも……連れてきたのに………」

「どこに行っちゃったの…………」

「ドウシテ………?」
最終更新:2017年04月24日 23:19