幸子ちゃんのカワイさをかけて戦った話

神谷奈緒が可愛いなって話をするね。

さっきしーえるくんとこのルーム行ったんだけど神谷奈緒まみれのすしざんまいで狂気を感じたね。右を見れば神谷奈緒、左を見れば神谷奈緒。アプリを切っても神谷奈緒。あんなとこに五分もいたら大体の人は精神壊れるわ。
まあうちには幸子ちゃんがいるわけだし?全然負けてないし?と思ってたらしーえるくんから神谷奈緒コレクション自慢を始められたわけ。
曰くこの20年ものの神谷奈緒はマニアの間でも一握りしか知らないだのこの神谷奈緒はディテールが細かくて髪や奈緒まで丁寧に作り込まれてるとか、マジで怖い。奈緒を作り込むってなんだよ。

そんな風に言われてたらこっちの幸子ちゃんも負けてないぞと自慢を始めるんだけど、しーえるくんが「僕のこの選び抜いた九人の神谷奈緒には敵うまい」って勝ち誇った顔をしてこっちを見るのね。
とうとうブチギレたぼくがじゃあどっちが強いか勝負つけるぞ!って喧嘩売ったらそのまま野球することになっちゃったわけ。てへ。

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「……さあ、ということで始まりました、ドラゴンしーえるズ対ふじえるドラゴンズ。実況は僭越ながらCP担当プロデューサーの私が」
「解説はあたしこと姫川友紀が送るよー!」

「姫川さん、早速ですがこの勝負、どう見ますか」

「うーん、まずなんで野球が始まったのかわかんないけど、ドラゴンしーえるズの神谷奈緒ちゃんはどの子も実力派揃いの神谷奈緒ちゃんだからね。体力面で大きく劣るふじえるさん9人がどう戦略を練るかが鍵じゃないかな」
「なるほど、……さあプレイボールです。先発はふじえる」プレイボ-ル!!

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「さあ1回裏ノーアウト満塁、しーえるズは得点チャンスです」

「いやーゴミだね!投手は4球ごとに肩故障するし、守備はオート外したパワプロ初心者よりモタついてるし、なんで野球やろうとしたんだろ!」

「試合前、監督のふじえるは打たせて取る野球と豪語してましたが」

「打たれて取れない野球だよね」

「投手は5人目のふじえるです」

「登録選手の上限がないのをいいことに人海戦術を取ったはいいけど、烏合の衆だよね」

…………
……………

バッタ-アウト!チェンジ!!

「ピッチャーふじえる、その後4番神谷奈緒、5番神谷奈緒、6番神谷奈緒を三振に抑えました。姫川さん、ふじえるの投球が変わったように見えましたこれは」

「急に変化球のキレが増したように見えるけど……これエメリークサいなあ」

「エメリーボール……ボールに何か細工をしているということですか」

「しかも多分審判買収してそうだね」

「ふじえるドラゴンズ、勝ちに貪欲な姿勢を見せています」

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「おっと、ふじえる選手、投手の神谷選手に近寄って抗議の姿勢を見せます。どうやら乱闘を始めるようです」

「ホームベースのど真ん中に突っ立っておいてボールが当たったら乱闘ってどういう神経してるんだろうね」

「乱闘が始まりました。ふじえる選手、神谷選手の胸に執拗に掴みかかります。どうやら乱闘に乗じてセクハラを始めたようです」

「清々しいほどのクズだね!」

…………


「また乱闘が始まりました」

「今のどう考えてもストライクだったよね」

「ふじえる選手、また神谷選手の胸に掴みかかります。一球投げるたびに乱闘を仕掛けていますが」

「野球する気ゼロだね」


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…………


「攻守変わってしーえるズの攻撃、打者は4番神谷奈緒選手……………おや、敬遠のようです」

「今度は何する気なんだろう」

「神谷奈緒選手、ふじえるのフォアボールで一塁に出ます…………また乱闘です!ふじえる選手が神谷選手に詰め寄ります!!」

「敬遠した側が乱闘するんだ!?」

「神谷選手、必死にふじえるを近づかせまいとバットを振り回して抵抗します」

「奈緒ちゃんが可哀想……」


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…………


「0-0で迎えた9回裏、ドラゴンしーえるズの攻撃、バッターは神谷奈緒です」

「こんな試合が9回まで続いたのが奇跡だけど……ツーアウト満塁、スリーボールツーストライクで、まさしく次の一球が勝負を決める場面だね」

「投手は21人目のふじえる、粘りの投球を見せます」

「5球投げただけは粘りって言わないんじゃないかな」

「さあふじえる、振りかぶって………おっと、突如マウンドに蹲りました。何かに苦しんでるかのようにのたうち回っています。これはどうやら球場外から北条選手の攻撃を受けているようです」

「分かるんだ!?」

「はい、あれは北条選手のハッカー・フロム・ヘル。対象に死の病をかけるテクニックです。ふじえる選手、身体中がカビに覆い尽くされます」

「うわー……エグいなあ……」

「投手ふじえるの凄惨な様子を見たふじえる選手団が散り散りに逃げていきます……あっと、ドームを突き破って渋谷選手のアイオライトブルーが次々とふじえる選手を蒸発させていきます!」

「これ凛ちゃんなの!?」

「ふじえるドラゴンズ、選手、監督共に全滅………九人の神谷選手から成るドラゴンしーえるズが勝利しました」

「野球ってそういう勝負だっけ……」

「以上、実況席よりお送りいたしました」


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試合の熱狂が過ぎた夜の球場で幸子は一人、マウンドに立って球場を眺めていた。

あの時の激戦に思いを馳せながら、幸子はマウンドの土を拾う。

あの熱狂が嘘のように、土が冷たい。

サラサラと手の平から零れる砂粒を眺めているとまるであの試合が泡沫のようにすら感じる。

しかし幸子は忘れない。

かつて、ふじえるとしーえるという二人のプロデューサーがいたことを。

2人が己の誇りをかけて戦ったことを。

自身の脳裏にあの激戦の光景を再度焼き付けた幸子は、手に付いた土を払い、球場を後にしたーー
最終更新:2017年04月29日 19:36