幸子ちゃんに自らの命運を委ねる話

「もうこの力はぼく自身ではどうしようもないんだ……」

「ふじえる……いえ、フザイエールさん…………」


 権能を奪われ、座を追われた熾天使ふじえるは、顕現するだけで世界を毒に侵す不在天使フザイエールへと堕ちた。
 もはや自身の制御すらままならないフザイエールは、その暴走を止める為幸子に身を委ねる。

 神、悪魔、天使……肉体を持たない高位の存在には刃も毒も通用しない。


 殺す方法はただ1つ、その者の真名を呼ぶこと。


「いいか、幸子ちゃん。今からぼくの真名を教える……それで、ぼくを殺すんだ……」

「はい……」

涙を堪えるように幸子は静かに頷く。
フザイエールは、自身が最も信頼しているとはいえ一人のか弱い少女に重い責を背負わせてしまったことに自責の念を感じた。

だが、もう止まれない。

フザイエールは詠唱を始め、幸子が慌ててそれに続く。

「滅せよ、汝の名はー」

「め、滅せよ、汝の名は!」




「こんちきちんぽ」

「……」

「こんちきちんぽ…?」

「…………」

「ほら、こんちきちんぽ……」

「イヤです」

「何を言ってるんだ!世界の命運がかかってるんだぞ!今更別れを惜しむなんて」

「イヤですよ何ですかその下品な真名は!言ったら紗枝さんに怒られます!」

「クッ、なら分けて発音すれば気にならないだろ!こん!」

「こん」


「ちき!」

「ちき」


「ちんぽ」

「イヤです」

「あああああああああああああああ!!!!!」

「もう自分で死んでくれませんか?帰りますよボクは」

「待ってくれ!まだ幸子ちゃんにやってないセクハラが」

「こんちきちんぽ」

「がああああ!!き、貴様は武内……!!」

「……輿水さん、ふじえるさんに絡まれて大変でしたね。後は私がなんとかしますのでどうぞお帰りください」

「はあ……それじゃあ失礼します」

「クソッ、クソッ、幸子ちゃんじゃなきゃセクハラにならないのに、クソがあああああああああ!!!!!」

憎々しげに吐き捨てながら、ふじえるは塵となって霧散した…………


ーーーーーー


 ふじえるの消滅を見届けたプロデューサーは、その後もふじえるが消えた虚空を見つめ続けていた。
 無言のまま立ち尽くすプロデューサーに、卯月がそっと横に並び立つ。

「プロデューサーさん、どうしたんですか?」

「島村さん、これでよかったのでしょうか。皆さんの輝きを守る為に、ふじえるさんを……」

「……大丈夫です。きっとふじえるさんも分かってくれます。それに…」

「?」

「プロデューサーさんのおかげで、わたし、みんなの笑顔を取り戻せました!だからきっと、ふじえるさんも最後は笑ってくれます。ですから頑張りましょう!」

「島村さん……ありがとうございます」

「えへへ、パワーオブスマイルです!」

 きっとこの先も、数多の苦難が彼女たちには立ちはだかることだろう。だが、彼女たちの夢へ向かうひたむきな心、そして輝く笑顔があれば、きっと何が来ても怖くない。
 頑張れ!負けるな!突き進め!ゆけゆけ島村卯月!笑顔のために!!
最終更新:2017年05月09日 08:30