■朝の幕開け
六月十五日の朝は、陽気な雀の鳴き声で始まった。空には雲一つなく、ただ太陽のみがギラギラと輝いている。それは、正に快晴と呼べる素晴らしい天気で、人々は誰もが今日は何か良い事が起こりそうだと予感した。
「詩音ー! あんたは興宮の学校でしょ!? 早く出ないと遅刻しちゃうよー! さっさと支度しなー!」
園崎本家に、魅音の慌ただしい声が響く。だが、その声の調子は何処か嬉しげだった。
「わかってますって!! あ、お母さん、私のハンカチ見ませんでしたか? さっきから探してるんですけど、全然見つからないんです」
「知らないよそんなの。それより、何だいあの子。昨日からやけに声が大きい上に、ずっと顔をニヤニヤさせて、気味が悪いったらありゃしない!」
詩音と茜は、その日の前日から再び用事で本家まで来ていた。その用事は珍しく夜遅くまで続き、どうせだからと本家に泊まって行ったのだ。
「どうも鬼婆によると、日曜の遊びから帰って来てからずっとあの調子らしいです。何があったのかはわからないそうですが。……あ、ハンカチあった」
「詩音ー!」
「今行きますって! それじゃお母さん、お先に行ってきますね」
そう言うと、詩音は玄関に向かって駆けて行った。茜はそれを見送りながら、何が何やらという表情をする。
「まさか……いや、まさかねぇ……」
玄関では魅音が詩音を待っていた。見送りをするつもりのようだ。
「お姉、一体何があったんです? どうしてそんなにハイテンションなんです?」
「ん~? んふふ~、内緒~♪」
魅音は上機嫌にそう言う。詩音は、そんな魅音の様子が気持ち悪くて仕方がなかった。
「……じ、じゃあもう行きますね」
「ありがとね」
「え……?」
「詩音のお陰で最近良い事があったから、だからありがとう」
「……?? どういう事ですか、それ?」
詩音の頭の中に、たくさんクエスチョンマークが広がった。
「……何でもないっ。いってらっしゃい」
「あ、は、はい。……行ってきます」
詩音は、朝っぱらから訳の分からないモノを抱かされた事に少しの不快感を覚えながら、園崎本家を後にした。
――その日、園崎魅音は笑顔だった。
ようやく、彼に対する恋路の幕が開いたからである。
最終更新:2007年10月11日 13:44