「はぁ…はぁ、はっ…、け、圭ちゃん…ごめんなさい…もう少しでいいですから…、はぁ…我慢して下さい…、お願い、お願いします」

身体が異常に火照っていた。
俺は、汗まみれの身体をやっぱり汗まみれの詩音の背中に擦り付けてしまいそうになりながら、必死で身体を支えた。
頭がクラクラする、それはきっと汗と詩音の身体から発せられている獣みたいな匂いのせいだと思った、いつもはとてもいい匂いがする詩音の身体が、今は動物みたいに野性的で官能的とも言える香りを発している。
背中がとても熱い、それはきっとこんなに可愛い女の子と、こんなにくっついてしまっているからで、それはきっと…

ここが、こたつの、中、だからだ。

始まりは、冬の雛見沢だった。
雛見沢での初めての冬に、俺は悲しいまで惨敗を喫していた…。
身体が、まだまるで寒さに慣れなくて、家でも部活でも登下校中でも俺はただひたすらにがたがた震えているだけだった。
そんな俺を見かねた魅音は、俺にこういってくれたのだった。
うちにもう誰も使ってないこたつがあるから、よかったらもってく?、と。
俺は歓喜した、何故なら俺の部屋には暖房器具というものが無かったから。
しかし、折り悪くその日、魅音は用事が出来てしまって家を夜まで空けなくてはいけないらしい。
でも取りに来てくれるのは構わないよというので、雪がゴウゴウと降る中、俺は少し首をかしげながら魅音の家の物置に向かったら、そこにいたのは、こたつで蜜柑を食べながら、はろろーんと悪戯そうに頬笑む魅音の双子の妹だった。
そこからの事はあまりよくは憶えていない。
二人でいつも通りにじゃれあっていたと思っていたら、魅音の婆さんの声が聞こえてきて血相を変えた詩音に、こたつの中に引きずり込まれたのだった。
そして俺達は閉じ込められてしまったんだ、この、こたつに。
閉じ込められたというのは、どうも物置の中に置いてあった色んなものが、こたつの上や回りに雪崩の様に落ちてきたからの様だった。
というのは、俺達はこたつの中に埋もれきってしまってるから、外の様子がまるで分からないからで、俺は仰向けになった詩音の上に四つんばいを崩したような体勢で、もうずっと動けないでいる。
魅音の婆さんは、ひとしきり魅音を探すと諦めたのか、また何処かに行ってしまった。
それから二人で何とかここから抜け出そうとしてみたもののこたつは、まるでぴくりとも動きもせずに、布も何かに押さえつけられてるのか、全く動きそうも無かった。
問題はいくつもあった。
まずいくら冬とはいえ、こたつの中というのは、相当に熱くて俺達はお互い汗をだらだらだらだらとかきながら、半ば意識朦朧となりかけていた。
…そして、もう一つの問題は互い違いの体勢のせいで、俺は詩音の露になっている太腿と汗にまみれて透けそうになっている薄い緑色の下着を目の前にしている事だ。
それまで一度もそんな風にして見た事のないその場所は酷く肉感的だった。
俺が無理に四つんばいの体勢になっているのも、このせいだ、何もしないでいたら俺は詩音の大事な場所に顔を密着させてしまうのだから。
…俺だって年頃の男なんだから、本当はそうしてしまいたい、詩音の白い太腿に顔を埋めて、まるで変態みたいに大切な所に顔を近付けてみたい。
でも俺は男だから、そして詩音を何だかんだと言っても本当に大切な仲間だと思っていたから、逆にそんな事は絶対出来ないと思ったのだ。
詩音が言うには、魅音が帰ってくるのは夜の8時を回るらしい。
それまでまだまだ時間はあるのに、俺は無理な体勢がたたってフラフラとするぐらい、意識が朦朧とし始めていた。
幸い空気は、僅かな冷気と共に隙間から入ってきて、そのおかげで俺は、もうボロボロだけれど、何とか体勢を保てていた。
異変に気付いた、いや、気付かれてしまったのは詩音の方にだった。
「…圭ちゃん、もしかして……」
詩音の手の動きに気付けなかったのは、意識が朦朧としていたからとは言っても、やはり最悪のミスだった。
「圭ちゃん、あんた…いつからこんな…何でこんな無理してるんですかっ!」
詩音の手が俺の腰を触ると、俺は酷くヒリヒリした痛みと共に腰をびくんと震わせてしまった。
無理に四つんばいになっていたせいで、俺の腰と背中はこたつの発熱する部分にずっと当たってしまって、少しだけ火傷に近い状態になってしまっていたのだ。
詩音の指が、俺の腰をはい回る度に俺の身体はびくんびくんと震えてしまう。
「や、やめてくれ、詩音、大丈夫だから、本当に大丈夫だから、頼む、やめてくれよ…頼む」
…その時、俺は酷く哀れっぽい声を出していたと思う。
だってこのままでは気付かれてしまうと思ったから。
「…熱っ、ズボンの金具が…圭ちゃん、そんな事言ってる場合じゃないんです、自分で分かるでしょう…?」
そんなのは最初から分かってるんだよっ、と言いたくなるのを必死でこらえた。
でもそれよりも怖い事があるから…だからこうやって頼んでるんじゃねぇか…詩音…。
詩音が、俺のズボンに手をかけたのが分かった。
俺は必死に暴れた、今、そんな事されたら…俺はっ!
「やめろ、やめてくれっ、詩音っ、頼むから…」
「暴れないで下さいっ、暴れるなっ!前原圭一っ!…いいじゃないですか、どうせさっきから私のは見てるんですからお互い様です…、そういう事なんでしょう?」
そうだっ、そうなんだけど違う…、違うんだよ、詩音…
詩音は、中々外せない金具にイライラしている様だった。
ふいに詩音の手がズボンから離れた。
そして腰の後ろに回される。
ズボンに吐きかけられる詩音の吐息が少しだけ強まった気がした。
「やめろ…何して、詩音、何する、うっ…」
ジッパーが、少しだけ、開いた。
詩音の熱い息が、強くなった気がした。
く、口で、開けてる…?
俺は身をよじって、必死に拒絶しようとした。
なのに詩音は信じられないぐらい強い力で腰を抑えつけると、更にジッパーを開いていく。
「あ…あ…あ…あああ…」
もう間に合わない…。
身体から力が抜けていく。
気付かれてしまう、これだけは、隠しておきたかったのに…。
そして俺は、自分のこれ以上ないぐらい勃起してしまったものが、戒めを解かれて、柔らかい何かに触れたのを感じた、感じてしまった。
これ、詩音の…顔だ…。
それを考えてしまった瞬間、俺のソレはびくんと震えて、背中にぞくぞくするような快感が奔った。
俺はもう何も言えなかった。
自分を最低だと思った。
仲間だの何だの言いながら、下着を見ただけでこんなになってしまった、こんな状況で。
それだけならまだしも今、こうして詩音の顔に自分の汚いモノを擦り付けたと思っただけでこんなに気持ちいいと思ってしまっている。
…本当に、最低だ。
詩音が、何ていうのかが怖かった。
何となじられても仕方のない事をしているのに、やっぱりそれは怖かった。
怒られて、口を聞いてももらえなくなるんだろうか…、それとも気まずくなって段々と疎遠になってしまうんだろうか…

とても、怖い。

ふいに背中に手を回されるのを感じた。
擦られるように優しく背中を撫でてくれている。
「…詩音?」
俺の声は少し震えていたと思う。
「…大丈夫ですよ、圭ちゃん、私は気にしません、だから圭ちゃんもそんなに気に咎めないで下さい」
その詩音の声は今まで聞いた事なかったぐらい、優しくてあたたかくて、俺は汗とも涙とも分からないものをぼろぼろと流した。

<続く>
最終更新:2008年03月07日 11:01