前回

さて……後は4人だが問題はここからだと思って良いだろう。
学校の授業中。やはり授業に集中できず、今後の作戦を考えることにした。
詩音はもともと僕に好意があったから楽に墜とせたが、次からはこうはいかないだろう。
今後は次に墜とす人物によって大きく方針が変わってくる。
レナは、おそらく圭一が好きなので簡単には攻略できないだろう。
魅音も圭一が好きらしい。ちらっと圭一を見て、ぼそっと言った。
(あんな変態男のどこがいいんだ?理解に苦しむ)
するとどこからか「お前が言うな、なのです。あぅあぅ」とか聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう。
梨花に関しては誰が好きかさえもわかったものじゃない。狸だ。
すると自然に次の人物が限られてくる。実の妹、沙都子。
しかし、沙都子を墜として何かメリットになるだろうか?
今の状態と変わらない気もするし(この前なんて『好き好き∞にーにー』歌ってたくらいだ)
実際一番仲間に入れて役に立つのは魅音だ。園崎家の権力を振りかざしたりできるし、地下の拷問部屋なんて
良いものが沢山ありそうなんだが。
墜とすと言っても、別にレイプではない。やはり一番良いのは、相手の承諾を得て最後に僕の虜にさせることだ。これなら、もし危うくなってもなんとか言い逃れができるだろう。
魅音をどうやったら墜とせるかだが……閃いた!
そうさ、魅音の場合は圭一が好きなことが逆に弱点になる。それはレナにも言える事。
魅音とレナのどちらを取るかと言われれば、よっぽどのことが無い限り
圭一はレナを選ぶ。そして、そのあたりが鍵のような気がする。

……そういえばこの前詩音が言ってたじゃないか。
最近、町で部活をしてきた魅音が泣きながら帰ってきたと。
確かその理由は圭一のデリカシーの無さが原因だったらしい。
しかもそれに圭一は気づいてないとか……。
これこそが天の導きか。
学校ももう終わるし、そうと決まれば早く用意しなければ!
そして大急ぎで学校から帰ってきた僕は、あるものを手に入れるために興宮へ急ぐのだった。




ひ ぐ ら し のく 頃 に ~ 鬼 畜史 ~

第二話 ~オンナノコ~




ジリリリリリン!!ジリリリリリン!!
部活が終わって学校から帰ってくると、電話が鳴っていることに気づいた。
今日は婆っちゃもいないしお手伝いさんもいない。
仕方なく私は受話器をとる。
「……もしもし。園崎ですが」
「北条と申しますが、魅音さんはそちらにいらっしゃるでしょうか?」
「ん~?あ~、悟史か。私だよ私。魅音だけどどしたの?学校終わったらすぐに走ってどっか行っちゃって。
なんか用事があったんじゃないの?」
「もう用事は終わったから大丈夫だよ。それよりさ、今日僕の家に遊びに来ない?詩音が『復帰おめでとうパーティー』なんて開いてくれてるんだけど食べ物の量が多くて食べきれないんだよ」
「詩音のヤツ何やってんだか……。別にいいよ。どうせ暇だったし」
「ありがとう。じゃあすぐ来てね。またあとで!」
ガチャン!
たった二人で復帰パーティー?お二人さんやるねぇ~!
なんか邪魔しちゃ悪い気がするけど、呼ばれたんだから行かなくちゃいけないよね。
……などと一人で考えながら着替えて、悟史の家に行く準備をする。
ふと時計を見ると、もう19時を過ぎたころだった。

服も着替え終わり、悟史の家に行くために外へ出る。
そろそろ20時なので明かりは全く無い。
その暗さはまるで私を混沌へと誘う悪魔の敷地のようにも感じられた。
(この年にもなって、私は何考えてるんだろうねぇ全く……)
私は心の中で何かに怯える自分を無視することにした。
こんな暗さぐらいもう慣れっこだ。
そうさ、たとえ圭ちゃんに女扱いされないことぐらいもう慣れっこだ。
そうして本当の自分に嘘をついて、男勝りだけど暗い殻を纏うのにも慣れっこだ。
その殻の中の暗さなどと比べればこんな暗闇などないにも等しい。
「ははっ…………」
いつの間にか自嘲気味になっていた自分に気づき苦笑いする。
私はこんなに卑屈なやつだっただろうか。
いけないいけない。今日は一応悟史の復帰祝いのパーティーじゃないか。
お祝いに来たほうが暗くてどうする。明るく、いつものノリで。
詩音だって来てるんだしね。
(いいなぁ……詩音は女の子らしくて……。だからきっと悟史とも仲がいいんだろうな……)
ふと湧き上がる嫉妬にも似た感情。
わかってる。男勝りなのは自分がそういう性格を作ったせい。
わかってる。この性格を変えなければ圭ちゃんはこちらを振り向かないことも。
わからない。どうして私はもっと素直になれないのだろうか。
そこで気がつく。そろそろ悟史の家に着くじゃないか。
とりあえずこのことは忘れるんだ。
ほら、悟史の家の明かりが見える。
いつものテンションはどうした私!?
家の玄関の前でテンションを切り替える。
そして私は悟史の家の中に入っていくのだった。

パーティーだと聞いていたから、派手にクラッカーとか飛び散っていてケーキとかが残ってるのかと思っていたが 部屋の中は普通。普通と言うかいつもと変わらない雰囲気。
一瞬、家を間違ってしまったかと思ったぐらい拍子抜けだった。
詩音はなぜか壁に寄りかかって寝ている。なんだろうね、これは……。
部屋の奥から悟史が出てくる。
「やぁ、こんばんわ魅音。よく来てくれたね」
「やぁ、じゃないよ!こんな時間に来てくれっていうから来て見たら食べ物無いし、詩音は寝てるし!もしかしてあれか!?私に詩音を運んでもらいたいって魂胆か、この野郎め!あんたそれでも男かー!?」
「ごめんごめん。ちゃんとお詫びはするからさ。ほら」
悟史は手に持っていた紙袋から何かを取り出す。それは……え……?
それはお人形さんだった。外見はとても綺麗で見惚れる位だった。きっと高いんだろうなって思った。
……そうじゃない。もっと重要な部分がある。
その人形は『あの日』圭ちゃんに貰い損ねた人形だったのだ。
「え……?なんで……悟史がその人形を持ってるの?」
「僕が買ったからに決まってるじゃないか。魅音は何を言ってるんだい?」
そう言って悟史は私にその人形を手渡そうとする。
だけど私はその人形を受け取りたくなかった。受け取ったらもう圭ちゃんに振り向いてもらえない気がしたのだ。
「……悪いけど、私、その人形持ってるんだ…。だから、それいらない……」
気づいたら私は嘘を付いていた。私はその人形が好きだ。
でも好きだからこそ圭ちゃんに渡してもらいたい。そんな思いが私の中で沸き立っていた。
「嘘だよね?魅音はこんな人形を持ってないはずだよ」
だけどすぐに私の嘘を見破る。
「……どうして嘘だって言うの?」
私は何故こんなことを聞いているんだ。私が持っていない理由なんて一つしかないじゃないか……。
「だってさ、男勝りな魅音がこんなもの持ってるわけ無いじゃないか。それとも魅音はこんな乙女チックな物が欲しいの?」
聞きたくなかった。そうさ。こんな私がいくら着飾ったって『オンナノコ』になれるはずがなかった。
「大体僕はこの人形を魅音にあげるとは一言も言ってないよ。魅音はそれよりもこっちの方がいいもんね」
紙袋の中から今度はモデルガンを出して私の手の中に押し付ける。やめて……もうやめてよ……!

「この人形は詩音に渡すんだ。詩音はもっと女の子らしいし、まだ見せてないけどきっと喜ぶと思うな」

それが私に対するトドメだった。
「うああ……あ……あ……ああ……!」
涙が止まらない。私は両手で顔を覆いながら悟史の目の前で泣いた。
恐らく、これが男子が私に抱いている感情なんだ。
女物が似合わない、がさつで男勝りな私なんて誰も女として見てないんだ。
ならきっと圭ちゃんもこう思っているのだろう。
今からでも遅くは無いかな……?なんて、現実を見てないだけのただの戯言。
もう園崎魅音が女の子として見てもらえることなんて起こりえない。
今更どうやっても無駄なんだ……。
私が全てを諦めたその時、私の肩に悟史の手がかかる。でも、何故かその手はとても暖かく感じられた。
「でもね。男らしいって言うのも一つの魅力だって魅音は知ってるかい?」
突然なんてことを言い出すんだこいつは。今の今まで私を散々追い詰めた癖に。
「そんな言葉で私を慰めようとしても無駄だよ……。そんな魅力なんて無い」
「違うよ魅音。少なくとも魅力の無い女の子なんていない。それは魅音も同じ」
「女の子らしくない女の子に魅力を感じる男の子が居るって言うの?じゃあ、よっぽどその人は物好きなんだろうね」
投げやりに言葉を返す。そうさ、そんなの居るわけがな……

「僕がそうなんだよ魅音。僕は、君の男の子らしい元気で溢れる君が大好きなんだ」

え……?悟史が……私のことを好き……?
「勿論、仲間としての好きじゃないよ。圭一はそうみたいだけど、僕は違う。異性として君の事が好きなんだ。
僕はそんなに運動が得意じゃないし、およそ男の子って感じじゃないと思う。
だから君が羨ましかった。活発に動きまわって皆に元気を与える君に憧れた。
そしてその憧れが恋愛感情だとやっと気づけたんだ」
そんなにストレートに言われるとは思わず、心が動揺する。私も過去に悟史が好きだったという記憶が蘇る。
私も悟史が嫌いではない。
「で……でも。私は圭ちゃんの事が……」
しかし、そんな圭ちゃんへの未練を悟史はあっさりと切り捨てる。

「魅音は本当に圭一の事が好きなのかい?もしかしたらそれは、レナへの嫉妬じゃないのかな?」
意味が分からない。私がレナに嫉妬していた……?
「レナは女の子の模範とも言えるほど女の子の魅力に溢れた子だ。勿論、クラスの中での評判も高いし下級生達の憧れの的だよ。でも、魅音はそんなレナを妬んだんじゃないのかな。そしてそのレナが好きだと言う圭一を振り向かせることで自分がレナよりも女の子だと証明したかった。だけど嘘は続けると真実になる。そう。魅音はいつの間にか圭一を好きだと勘違いしていたんだよ。それも自分で気づかぬ内に。違う……?魅音……?」
「私は……私は……」
私はそんな理由で圭ちゃんが好きになったのだろうか。
だとしたら、私のこの想いは所詮まがい物だったということなのだろうか。
私自身が分からなくなる。私と言う自己がふわふわと宙に浮いていて足が地に付かない感覚。
確かに一度くらいはレナを妬ましく思ったことがある。
でもだからって圭ちゃんをレナから引き剥がそうだなんて思ったことは……。
無いと断言できない。確証が得られない。もしかしたらそうなのかも知れないという思いを掻き消す事ができない。
好きだという想いすら確かめることができない。とても……苦しい。
そしてそんな私に悟史が囁く。

「僕だったらそんな君に愛を与えることができるんだ。君が僕を受け入れてくれるのなら君はレナを、そして自分自身を疑わずに済む。そんな不確かな恋心を持ち続けてどうするの?僕のところに来て楽になりなよ。もし僕と付き合ってくれるなら、僕は全霊を懸けて君を癒してあげられる」
頭が痛い。こんな苦しみは嫌だ。レナを、自分を疑うなんてもう嫌だ。
悟史はこんな私を好きだと言ってくれている。
圭ちゃんは私よりもレナが好きだと思う。
そして私は悟史が嫌いではない。付き合ってもいいと思う。
なら私に最初から選択肢など存在しなかったのかもしれない。
「魅音。君の返事を聞かせてくれないかな?」
「私は……園崎魅音は、北条悟史の想い……を受け入れるよ。こんな私だけど恋人としてよろしくね、悟史」
返事をしたことで心が緩くなったのか、涙が止まらない。
そんな私を悟史は黙って抱きしめる。それは言葉で慰めてもらうより、今の私には嬉しかった。

そしてその時悟史は思った。


計 画 通 り ……!

<続く>

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最終更新:2008年04月14日 18:55