重ねる回数の少ないうちは、正しく事態を認識することは不可能だった。定かでない現実への不安を少しでも取り除こうとして周囲に同調を求めても、奇怪な人間だという印象を無駄にばら撒くだけだった。
表面的な孤立だけでも避けようと無理な笑顔を振りまいた。それで、心は守れた。  
迷宮に慣れてくると、はじめのように精神が揺さぶられるようなことはなくなった。作り笑いも板についた。
村人はそれを格別に有難がり、周囲と心との断絶はいっそう強固なものと化していった。嘘のような世界で、偽りの感情だけを振りまくことがささやかな、無意識の抵抗だったかもしれなかった。まだ、在るべき世界を探そうと考えられていたとき。
それすら億劫になり始めると、時間感覚が変に伸びるようになった。未来へ決して繋がらない先へ先へと。
虚を受け入れることを、手元のおもちゃのようにして遊ぶことを覚えた。覚えて覚えて、その遊びが束の間の安楽だと気づいてもやめることはできなかった。
――完全な堕落だった。
そのように振り返ることをするのは、目の前に、同じ世界に、同じ境遇の人間を見つけたからだった。
古いふるい、寂れた鏡を見るようだった。彼は、彼の見える範囲全てに、不条理さを強くぶつけていた。
まだその余裕があった。どの世界でも、新しくやってきた人間だということもあって、奇人変人だと烙印されることが早かった。それなのに、彼は作り笑いを身につけるのが遅かった。性の違いか、年齢の違いか、性格の違いか。どうであれ、結局行き着くところが変わらないのであれば、前原圭一は古手梨花の、古手梨花は前原圭一の、ただ一人の――理解者だった。



――圭一の部屋――

「んっ、あっ、あぅっ、んっ……!」
腰を打ちつけられながらのキスに、梨花は一瞬苦しそうな表情をした。しかしすぐに眉根を落ち着けて、幼い顔立ちを魅惑的に緩める。舌の交わりが互いの唇を邪魔なものと思い始める頃、下半身の動きはゆっくりとしたものになっていた。それまでの激しさから急転直下したような静けさに、二人の性器は物欲しそうにひくついていたものの、長くねっとりしたキスがそれにとってかわっていた。
二人の情事に六畳の部屋は広かった。じっくりとした水音の跳ね返りに、火照った耳が内から直接的に、外からはじわじわと犯されていくのを狂おしそうな笑みで梨花は感じていた。やがて垂れ落ちる唾液の量と、漏れる息が多くなってくると圭一に背を抱きかかえられ、ずいぶん久しぶりのような感覚で身体を起こした。
下半身の結合は保ったまま、梨花の小さな身体が圭一の足組みの上に乗った。細い太ももで腰を挟むとき、くすぐったのか圭一の身体がかすかに揺れるとその振動が中心にまで伝わって、思わず声を漏らしてしまった。
「まだ、痛いか?」
「ううん、痛くにゃ……痛く、ないわ」
お互いにちょうどいい目線になって話す。梨花は熱と疲労に舌の感覚がよくわかっていなかったせいか、上手く言葉を出せていなかった。そのことで何かいわれる前に、軽いキスで唇にチャックをかける。
「圭一の前戯がいいんじゃない? 初めての痛みも、もうそれと感じられないくらい。……明日は、まぁ少し歩きづらいのかもしれないけれど」
敷かれた布団の上には、破瓜の印か、赤い液体が点々としていた。
「それなら、またすれば問題ないんじゃないか? 休み時間にでも抜け出せばいいんだ」
「……学校でするの?」
「ああ、してみたい!」
外で、しかも明るいうちに事をするという提案に若干の驚きと軽蔑を含んだ視線を飛ばしたが、圭一はものともしない様子でそれを跳ね返していた。その後、梨花の呆れ顔を確かめることなく首筋に舌を這わせていった。
「ひゃうっ」
翌日の秘め事の予定に思いを馳せて興奮したのかそれとも結合状態に我慢しきれなくなったのか、突然の行為の動機がいかであれ、梨花は過敏な反応をみせることになってしまった。身体がすぐに熱に浮かされてくる。
圭一の頭をかき抱いた細い両腕がふるふると振るえはじめ、なおいっそうの頼りなさと弱弱しさに支配されていた。
さらに桃色の乳首が、抵抗のできないまま一心に弄ばれると我慢は隠せなくなっていった。
「梨花ちゃん、腰動いてるぞ……」
「だ、だって……っ」
艶の濃い嬌声を小さく響かせる。乳房のわずかの膨らみが胸部ごと揉みしだかれるたびに、つい身体を引いてしまいそうになっていた。その無意識の動きに連動させるかのように、腰のほうもいやらしく前後に動かせる。
ぎちぎちに圭一のものを締め付けた膣内で自分が気持ちよくなるマッサージを止められず続けていた。身体の動きがスムーズになりかつ快感が脊髄で直線的になりだすと、あふれ出る愛液の量に比例するかのように、せつない感情が湧き上がってきていた。蜜の源が滑りを増してきたことは、圭一の肉棒が一番に感じているはずだったが、なかなかその導きどおりには腰を動かしてはくれなかった。
「け、圭一っ……お願っ、い……動いて」
次第に甘くこびるような嬌声になっていたことに梨花自身は気づいていない様子で、ただ圭一を見つめているだけだった。
涙を目いっぱいに溜めた懇願には当然の妖艶さが備わっていたが、それ以上に、さきほどまでの妙に気取った雰囲気とは異なる年相応のあどけなさが表に出てきていた。それは梨花が今まさに圭一に対して求めているものとは本来遠くかけ離れた表情であるはずだった。
梨花はその小さな身体にかかわらず、快楽の虜となっている。
「梨花ちゃん軽いからな」
そう言うと、両の掌に梨花のお尻を収めて立ち上がった。
梨花が何かしら思う間もなく、強い力で腰が打ちつけられた。
「ああぅっ!」
思わず見開いた両目から涙が飛散する。同じようにふわりと宙に舞った長い黒髪が腰に毛先を落ち着けるとき、結合部は亀頭だけが梨花の膣に収まっている状態だった。秘部を開いた柔肉が内襞よりは弱くも、しっかりとした様子で圭一のものを離すまいとしている。
「う、うぅん…んんんっ! あんっ!」
陰茎が引き抜かれるときの長いストロークから奥まで一気に。しかしだんだんと動きに余裕が感じられなくなってくる。梨花の喘ぎはもうずいぶん前から悦楽の頂点に近いところを行き来していた。そしてようやく圭一の中の射精感もその梨花の感覚に追いついてきたようだった。
ともに、昇りつめるところが一寸先に見えるところにまで至る。
「も、もうだめだっ……! 梨花ちゃんっ!」
「ふぁ、あああっ……だ、射精してっ、圭一、膣内にっ……!」
加速は上限に達し、番になった性器は相手の心のうちを呼び覚まそうとするようにびくびくと震え始めた。無意識に目の前の唇を貪りあう様は言葉を要しない本能による行為に違いなかった。そして快感は極まる。
「くっ、うううっ!」
「あっ、ぁああああっ!」
どくどくと梨花の膣内を満たし始める精液。挿入の激動はあっという間に止み、時間さえも瞬間にその行き所を失くしたかのような二人の身体の重なりだったが、唯一尿道口と子宮口だけが永遠のような繋がりの中で互いにしか理解しえない気持ちを共有していた。
やがて時間が動き出す。
梨花は短く何度も呼吸をし、圭一は大きな吐息をついていた。ゆっくりと引き抜かれる男根には、」愛液の輝きを伴った白濁液が頼りない糸を引き、結合の艶かしさをはじめて全て外に表した。すさまじい射精に、雄雄しさをかすかに失い始めていた圭一の性器に対して、梨花の未発達の性器は未だにひくひくと動いていた。そしてどろりと、膣口からお尻にかけて跡を残す血液を覆い隠すように、大量の精液が溢れ出てきた。
さすがに立っていられなくなったのか、圭一が腰を下ろした。
肩にすがり付いていたのを引き離され、改めて向かい合うも梨花の瞳は上手く圭一の顔を認識できていないようだった。溜まった涙が波をうっている。半開きの口からは涎が幾筋にも垂れており、圭一がそれを掬うように舌を這わせてくる。力の入らない首がうなじの部分で支えられるのをかろうじて感じながら、少し経ってようやく反応を返すことができるようになった。
「ん……」
「大丈夫か? 梨花ちゃん」
「……うん」
圭一の胸に頭を預ける。やっとではあるが、触れる額が熱いと感じられるほどには余裕が生まれてきた。ふと下を見ると、自分の股から大量の精液が零れていることに気づく。少しお腹に力を入れ、さらに押し出されてくるものに指で触れれば、粘り気の多さにも驚いた。
「どれだけ出したのよ」
「ここじゃあ初めてだからな」
「まぁ、そうね。にしても……んっ……」
奥から奥から指の隙間を埋め尽くしてくる白濁液に、掻き出す作業は当分終わりそうにないと知る。
それになお敏感な身体では、それ以上急ぐとまた変な気が起こされてしまうかもしれなかった。また疼き始める熱の鼓動を無視しようとため息をついた先で、ぶるっと震えるものがあった。
「圭一……、それはなに?」
「若さ、と答えておくぜ」
「……今日はもうしないわよ」
ぴんっと人差し指で先っぽを弾くと、圭一がおおうっと奇妙なうめき声を上げた。射精したばかりで敏感になっているだろうことは想像に難くなく、主導権を握るなら今が機と考えないこともなかったが、それ以上に梨花自身の身体のほうが苛め倒されそうだったのでやはりやめておくことにした。
「わかってるって。また明日な」
にやにやした笑みで、それじゃ風呂にいこうと梨花を促す圭一。足腰がままならないということは知れていたため、梨花の身体はひょいと抱きかかえられた。
「お風呂じゃ、何もしないでよ」
「ちょっと触るようなこともか?」
「う……それはいいけど……」
言葉に詰まる。静かな廊下に、ぺたぺたという圭一の足音だけが響いた。
梨花はもじもじと手を遊ばせながら、背の下に屹立しているであろう圭一のものに意識を向ける。
「このおっきくしたものに必要な行為をしないでってことよ」
「そういや、終わった後の風呂が好きだったんだっけ?」
「そうよ。とにかく温かくして、ゆっくりしたいのよ」
風呂場の扉が開くと、石鹸の匂いが鼻をくすぐった。ほう、梨花はため息をつく。来るまでに少し冷え始めた身体が安心し、弛緩したのだった。梨花の頭では、浴槽にためたお湯の中、静かに抱き合う光景が思い浮かんでいた。
「……意地悪なんかして、本当に何もしないなんて、やめなさいよ」
「はいはい」
圭一が、笑ってそれに答えた。



――雛見沢分校校舎裏――

「都合よく、同じ場所に振り分けられたな」
箒を持った圭一が呟く。あまり陽の当たらない校舎裏、放課後の掃除担当箇所のひとつには圭一と梨花が二人そろって作業をしていた。そわそわと落ち着かぬ様子で手元をおろそかに、周囲を何度も確認している圭一は、これから行う色事に備えているに違いなかった。
梨花は、すすす、と擦り寄ってくるのを一歩ずつ避けていくが、仕舞いには壁に追い詰められてしまった。
「ほ、本当にするの?」
「男に二言はない!」
「うぅ……」
二人の衣服は当然のごとく、いつもの制服。それに身を纏い、学校にいるということはそれだけで行動の在り様を制限されてしまうはずであった。率先して逸脱しようとする圭一に、頑として逆らうようなことをしないのは、梨花自身にも好奇心があったからに他ならない。
きらきらとした瞳で見下ろしてくる圭一から視線をはずして俯くも、スカートの下では期待に熱くなり始めてもいた。その自覚があったからこそ、追い詰められるまでに梨花もそれとなく周りの状況を確認していたのであった。
「じゃ、じゃあ……」
「二言はなくても二発目、三発目はあるぜ!」
「は、はぁ? するなら一回だけにしてよ! そんなに時間もないでしょ?」
それに対する返事はなく、代わりに圭一の手がスカートの中に滑り込む。膝上あたりからやらしい手つきで撫で上げ、行為自体の大胆さとは逆に指先がパンツ越しの秘所を突くのには控えめさがあった。
「ん、は、あぁ……」
当然、反応する声が出てきてしまうわけだが唐突に遠くから生徒の声が聞こえてきたので、驚いてしまった梨花は快感の芽を瞬時に飲み込み、圭一はとっさに体を離した。放り投げていた箒を拾い上げ、掃く振りをするまでの動きには一切の無駄もなかった。
まもなく、生徒の声に自分たちに対しては何事もないということがわかると、二人して息をつく。
「ふぅ。やっぱりスリルがあるな」
「そう思うなら、やめたほうがいいんじゃない?」
背を壁から離そうとするも、圭一の手に遮られる。あまり好ましくは思えない笑い方に訝る梨花だったが、その目前にもう一方の手が掲げられる。指先が何がしかの液体でかすかに光っていた。
「やめたら困るんじゃないか?」
はっとしてスカートの端を押さえる。
幼い顔立ちにばつが悪い表情を浮かべ、それでも反撃する。
「け、圭一だって大きくしてるじゃない」
「じゃ、お互いさまってことだな」
屈んだ圭一が、梨花の頬を引き寄せてキスをする。そのまま首元のリボンを解くのに手を使い、梨花はそのゆっくりとした動作をどきどきしながら見下ろしていた。小さな胸を覆うのにまだブラジャーは必要なく、薄い下着だけで隠されていた。折れそうに細い鎖骨を圭一の舌、というより唇がなぞる。それに対する反応が乳房の中心に集まっていき、だんだんと先端が布に触れる感覚を強く引き起こされるようになった。
完全には脱がされないブラウスが華奢な両肩に引っ掛けられている状態になる。
「硬くなってきた」
「い、いわなくていいから……っ」
耳元にやや強めの声を落とす。感度を増し、圭一ほどの距離では透けていることが容易にわかる段階にきたようだった。しかし軽く弄っただけで、圭一は顔を離す。
「じっくりってわけにはいかないか……」
そう呟いて、梨花の大事なところを覆う下着を脱がしにかかった。昨日、処女を失ったばかりの身で十分な前戯もなく挿入にいたることに少しだけ不安を覚えながらも、圭一の手を止めるようなことは言わなかった。しかし断続的に吐き出されていた荒めの息にはその影響が出たらしく、心なし弱く不規則になってきている。
「梨花ちゃん、足あげてくれ」
「ちゃ、ちゃんと脱ぎきらなきゃだめなの?」
「んー、半端にパンツを履いたままでってなプレイを梨花ちゃんが好むなら別だぜ?」
まるでそれがおかしなことであるかのように、圭一は皮肉げな物言いをした。
「……っわかったわよ」
右足を少し地面から離して、まず片方を下着の輪からはずしたまではよかった。自然だった。しかしもう一方の足が必要以上に持ち上げられたのでは梨花も疑念を抱かないわけにはいかない。その理由は圭一の目が追う先を見れば明らかで、スカートから覗く薄ピンクの縦筋が狙い打ちされていたのであった。
「……変態」
梨花は自分から脚を下ろそうという気にもならず、圭一が視姦に満足いくまで辛抱することにしたようだった。
「…………」
その間何の言葉も発してはくれない。
「…………っ」
しかしやはり、圭一の顎に手をやる観察者気取りのポーズには居心地の悪さを感じずにはいられないのか、興を削がれた風を装っていたつい数十秒前の仏頂面に赤みが差してきた。次第に目も泳ぎだして、何の気配もないのに辺りの様子をきょろきょろと見回してしまう。そうして意識を逸らしてしまった間を縫って、圭一の頭が下腹部のすぐ近くにまできてしまっていた。
「っひぅ!」
未発達な身体とはいえ太ももには十分な肉感がある。小動物が擦り寄ってくるような手つきでその内側を撫でられると、愛でられる心地よさに梨花のほうが尻尾をふってしまうというおかしな感覚が生まれてきてしまった。
「エロいなぁ……梨花ちゃん」
「あ、あ、あんたが、でしょっ……」
くっくと笑う圭一。校舎裏での行為に安心感など生まれもしないはずなのに、いやに余裕ぶった笑みだった。それは梨花にたいする圭一の性の優越感からのみくるものであり、自分たち以外の状況など今の圭一にとってどうでもいいものに成り下がってしまった証拠だった。むしろ征服欲のために利用しようとさえしかねなかった。
「けっ、圭一」
「ん?」
「最後までするんでしょ……その……、濡らしておかないと痛いから……」
圭一に立つように促してから、ズボンのチャックに手をかける。
「お、おう」
張り詰めた亀頭が顔を見せ、すっと顔の前におりてくる。蒸れた匂いが一瞬鼻をつくが梨花にとっては慣れた獣くささだった。尿道口にぷっくりとした先走り汁を確認した後で、チャックの下りきったすぐ後ろの玉袋も外に出す。
「な、なんか急に恥ずかしくなってきたな……」
触れば反応する従順ともいえる感覚器が手元にあると考えると、梨花にも余裕が生まれる。
「……くす。さっきまでそんなこと気にしてなかったみたいだけど?」
「梨花ちゃんこそ、さっきまでのしおらしさはどこにいったんだよ?」
「ま、攻守交替ってことね」
ぱくと赤く熟れた亀頭を口に含む。先に留まっていた精液を舌先で唾液と一緒に絡めると、エラのあたりまでをあっという間に濡れさせる。さらに多くの唾液を先端いっぱいにまぶして口を離した。尿道口から裏筋に繋がっていくところ、その境界のあたりを何度も舌先で往復する。竿を握る左手には唾液と精液の混ざったものが重力にしたがって垂れてくるのを利用して、ゆっくりしごき始める。一方の右手では梨花自身の局部をいじっていた。
「ん、んっ、んむっ、ちゅ」
口内の粘液にキスを繰り返すためか梨花の喘ぎ声そのものなのか定かでない卑猥な水音が、夕方の色から隠された場所で二人以外誰にも感じられずにいた。
「り、梨花ちゃん、そ、それはまずいって……っ」
苦悶の表情のとおり言葉も発しづらそうにした圭一が言う。
「ふぁ、なにがよ?」
「ここで、そのオナニーは反則だってっ」
「……あんた、何と闘ってんのよ?」
「そりゃ、ってうおう!」
初めて梨花が竿ごと吸い上げるような口淫を行ったため、あまりの刺激に圭一は一際鋭敏な反応を見せてしまっていた。その先に続く言葉は遮られてしまっても、それに対する不満は全くないといわんばかりのだらしのない顔になっている。
「……くだらないこと言おうとするからよ……」
梨花の呟きも聞こえていなかった。
やがて、ズボンから取り出したときよりもさらに硬さと大きさを増し、感度も上がったとみたところで梨花は口と手を離す。ほとんど自慰のみに費やした指の濡れ具合と、ほぼずっと圭一の陰茎に触れていたそれとはあまり変わらないようだった。
「ん……もういいわね……」
立ち上がったときのふらつきが、長く屈んでいたから、というだけではないことを感じながら圭一に向けてお尻を突き出す。同時に、挿入しやすいよう濡れそぼる秘所を片手で広げた。
「今挿入れたら……あまりもたないような気がする、けど……っ」
「……けど?」
「我慢できねぇ! いや! できるほうがおかしいっ!」
そして膣に圭一の一物が宛がわれる。その感触にびくりと震えるも、それよりも別のことが気になったようで、
「す、少し声を抑えなさいよ……っ」
と焦った声を出していた。
「うおおおお!」
ずん、と響きそうな重い一撃が梨花の膣奥に放たれた。瞬間的に、大量の空気を肺に入れてしまったために身体の得た快感に相当するような声は出せなかった。さらには、顔からつま先にかける全体が壁に張り付いてしまいそうだったので咄嗟に両腕でささえることが必要だった。ただ強く突き上げられた下腹部はこらえきれず、冷たい壁に若干強く触れてしまう。
「あぅっ」
梨花の秘所から湧き出ている愛液。圭一が腰を引くたびに透明の糸が伸縮を繰り返し、その多くは弾けて地面に散っていく。
「あっ、んんっ!」
昨夜よりは確実に早い段階で陰茎の膨張を感じ取る。腰の動きも小刻みになり、奥行きの深くはない膣内を、ほとんど同じ箇所だけ擦られていた。
「っ、射精る……!」
「んぅ……、……っ! っは……あん……」
梨花は地面に向かい、苦しそうな呼吸をしていた。揺さぶられることのなくなったお腹の辺りを見つめる。その中を見ることはできないが、長い射精を受ける熱さを、じっと感じていた。射精に伴いびくりと跳ねるたび、熱くなった瞼を閉じる。紅潮した頬付近では心臓の鼓動がどくどくと響いていた。
「も、もうでねぇ……」
「……よくだしたわね……」
「ああ、気持ちよかったからな……」
ふぅと息をつく。疲労感に襲われているのだろう、圭一は壁に背を預けていた。
二度、精液が股から垂れてきたのを見て、梨花は挿入されていたときの姿勢からなおる。へそにまでずらされていたスカートを普段どおりの位置に下げていると、いつの間にか上半身がほぼ裸であったことに気づいた。下着が左肩からずり落ちそうだったし、制服のブラウスはかろうじてスカートに留められている装いだった。
「いつの間に脱がしたの?」
「さあ……」
圭一にすらわからないものが梨花にわかるはずがなかった。
「そろそろ戻るか。一応まだ掃除時間……」
そう言ったとき校長の鳴らすチャイムが壁越しに響いた。
「ちょうど終わったみたいね」
「とっくに過ぎてると思ったんだけどな。案外短いもんだったな」
放り投げていた箒を手に圭一が教室へ戻ろうとする。
ボタンをかけながらその後ろをついていく梨花だったが、下半身の風通しのよさに今更ながら気づいて立ち止まる。
「……圭一……パンツは?」
「ここにある」
半身だけ梨花のほうに振り向き、右ポケットをぽんぽんと叩いていた。地面に落ちているようなことがなかったので安心する梨花だった。当然返してくれるものと思い、お礼を言う用意までしていたのだが、圭一は歩みを止めることなく橙の陽だまりの中に消えていこうとする。
「ちょ、ちょっと、圭一? どこ行くのよっ」
「……梨花ちゃん……君のパンツは預かったっ!」
何を言っているかという咄嗟の理解が及ばず、一瞬梨花は呆けてしまった。 
「な、なに考えて……っ。ノーパンで過ごせっていうの……?」
「お? なんだか満更でもなさそうな反応だな」
「あんたの変態さに呆れてるのよ!」
憎たらしい笑顔を一喝すると、圭一が急に真剣な顔をして黙りこんだ。
「……返す気になったの?」
「いや、今そのスカートの下が何にも守られていないって考えると……」
「このド変態!!!」
「ははは、まぁまぁ。あとはいつもの部活だけだし、何とかなると思うぜ?」
そう言って校舎裏から姿を消した圭一だった。
「……はぁ」
梨花は大きなため息をついた。

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最終更新:2009年02月06日 12:06