「けーいーちくーん!」
圭一はその声の聞こえる方に顔を向ける
いつもの風景、いつもの香り、その中でも何より大切な…
狂おしいほど愛しい笑顔をこちらに向けて…
「おはよう圭一くん!」
慌てて走ってきたのか、肩で大きく息をしている
「おはようレナ、それにしても珍しく遅かったじゃねぇか。もしかしてお寝坊さんか?」
「ううん!違うよ違うー!お寝坊さんじゃないもん!お弁当作るの遅れちゃっただけだもん!」
レナはぷくーとほっぺを膨らませ子供のようにそっぽを向く
茶色の髪を優しくなでてやる
はぅ…と声を出し顔を赤くして俯くレナ
その姿が可愛くてしかたない
2人で歩き出す。いつものように…
最近、授業中もレナのことで頭がいっぱいで内容が何一つ入ってこない
青色のぱっちりとした瞳、茶色の綺麗に切りそろえられた髪、ピンク色の潤った唇
レナの全てが俺を魅了する
その美しさに自然と惹かれる
俺はきっと…レナのことが好きだ
「─ちゃーん?おーい、圭ちゃーん?」
「うわぁぁぁ!?」
「うわぁぁ!?」
いきなり話しかけられ、びっくりする
魅音だ
圭一の驚きようを見て魅音も驚く
「なっ、なんだよ魅音!」
「何って、圭ちゃんこそ何ボーってしてんの」
「っ…それはっ…」
「もしかして、好きな人でも出来たァ?」
「ばっ!バカっお前!そんなはずないだろ!?」
思わず図星をつかれ慌てる
「あっそうなんだぁ。へへっおじさんが相談にのろうかぁ?」
魅音がニヤニヤして肩を組んで来る
「おいおい勘弁してくれよ」
あまり怪しまれないように軽く流す
「どうしたの?圭一、魅音?」
声のした方を見る。悟史だ
「いや!何も……」
「圭ちゃんねぇ、好きなひ…うぐっ」
咄嗟に魅音の口を手で塞ぎ、悟史になるべく笑顔で話しかける
「いや違うんだ悟史!今日の部活は何かなと思ってだな!ははは…」
上手にごまかせているだろうか?少し不安だった
「……むぅ」
悟史は困ったように喉を鳴らした
休み時間に圭一はお手洗いに行った
その時に偶然見た
レナと悟史が人目につかないような場所で、話しているところを…
こんなところで何を話しているのだろうか?
わざわざ人目のない所を選ぶのだ
人気のない場所でしかできない話とすると…
相談?それとも……
駄目だ考えれば考えるほど悪い方向へ行ってしまう
考えるな、考えるな…
その後の部活も俺は休み時間のことが忘れられなかった
「圭一くん、今日は乗り気じゃないのかな?かな?」
レナが圭一の顔を覗き込む
「ごめん、ちょっと具合悪くなっちまった。今日は帰らせてくれ」
途中抜け出して1人帰ることにした
「圭一…くん?」
「何〜?圭ちゃん逃げちゃうの〜?」
と、後ろからそんな声が聞こえてきたが無視した
1人で帰るのは珍しいから少し寂しかった
隣にレナがいるのが当たり前になっていた
だが、休み時間に見たことがちらちら頭にでてくるのだ
レナは悟史が好きなんだろうか
レナは俺の事仲間としか思ってないのだろうか
「……レナ」
さっき別れたはずなのに会いたくて仕方がない
自分から帰っといてなんて身勝手なんだろう
しばらくすると家の前に来た
隣を歩くレナがいないとこんなにも道のりが長くなるのかと少し驚く
中に入り、ドアを閉めかけた時…
「圭一くーん!」
圭一は反射的に振り向いた
圭一が今1番見たかった顔であり、今1番聞きたかった声
レナが俺の元へ走ってくる
それでも先程いきなり部活から抜け出し、帰ってきたものだから、少し気まづかった
レナは息を整えようと大きく息をしている
「レナ、どうしたんだ?」
「け…、圭一くん、具合、大丈夫かな?かな?」
「…レナ、…部活は?」
この少女は、レナは、圭一のことを心配してここまで追いかけて走ってきてくれたのだろうか?
こんな俺のために…?
「心配で抜け出して来ちゃった。でももう遅かったね!あはは…」
乾いた笑みを浮かべてレナは残念そうに俯く
「それで、具合は…?」
「あ…ああ…もう大丈夫だよ」
「よ…良かったぁ!レナ、心配したんだよ!」
最初から具合なんて悪くもないのに心配してくれるレナが愛らしく感じる一方自分に腹たった
暫くの沈黙が2人を襲う
先に口を開いたのはレナだった
「じゃ…じゃぁ、まあ明日!圭一くん!」
レナは手を力なく振りながら踵を返した
思わずその手をパッと掴んでレナを止めた
離れたくない、まだ君と一緒にいたい
「あ…えっと…とりあえず寄ってかないか?」
「……うん!」
レナはパァっと表情を明るくし、頷いた
「はうぅ!圭一くんのお部屋!」
レナははぅはぅいいながら圭一の部屋の中を見物していた
「そんな大したものないぜ、ま、ゆっくりしていってくれよ」
「はーい」
圭一の部屋を一回り見たレナは圭一が座っていた横に腰を下ろした
また2人に沈黙が襲う
「レナ」
「圭一くん」
どちらも沈黙に耐えられなかったのか同時に相手の名前を呼びハモりが生じる
「あ、ごめん、先に…いいぜ」
「あ…ううん、大したことじゃないから」
「えっ、いやでも…」
「いいから」
「あ、ああ…」
真剣な顔で言われるものだから、圭一が折れた
「あのな、レナ、聞きたいことがあるんだ…」
「?何かな、かな?」
うるさい心臓の音が聞こえない振りをして口を開く
「俺のこと…好きか?」
「うん!好きだよ!」
レナは可愛らしい笑顔で応える
「じゃあ、悟史のことは好きか?」
「うん!好き!」
レナのことだからそう応えるのは正直知っていた
レナが仲間を傷つけることを言うわけが無い
だが、レナが言った好きはきっと…圭一がレナに抱く『好き』とは違う『好き』
続いて圭一は口を開く
この質問の答えが圭一が本当に聞きたかった答えだ
「レナは俺と悟史、どっちが好きか?」
「えっと……ぇ?」
レナは戸惑う
当然だろう
レナに、そんな選択、決められるはずがない
「…圭一くん?どうしてそんなことっ…ん!?」
俺は咄嗟にレナの唇に自分のそれを重ねる
重ねると言うより、噛むような勢いだった
「けぃ……ち…くん…やっ…」
レナは酸素を欲しがるように口を少しだけ開けた
圭一はすかさずそこから舌を入れた
レナの舌はそれから逃げるように奥に引っ込んだ
しかし圭一はレナの舌を捉えると舐めまわすように自分の舌を絡めてきた
ねちゃ…ねちゃ…ねちゃ…
いやらしい音が口の中から聞こえてくる
「んっ…んぁ……!」
レナの顔がとろけてきて力が入らなくなってきたのか後ろに2人して倒れた
しばらくして息が苦しくなってきたレナが圭一の胸元を力ない拳でポンポンと叩いてきた
圭一は惜しむような思いで唇を離す
艶のある銀の糸が2人の唇を繋いだかと思ったらレナの方へ落ちていった
「……はぅ、け…圭一くん?」
とろりとした瞳でレナが圭一を見る
少しの理性を頼りに圭一は口を開く
「俺は…レナが好きだぜ。友達じゃなく、1人の女性として」
「……はぅ」
レナは既に火照っていた頬をさらに赤くした
「レナは、俺を1人の男性として好きになってくれるか?」
「…えっと、んぅ」
圭一は自分で聞いた問の答えを聞くのが怖かった
だからまたレナの唇を塞いだ
圭一はたまらずレナの服の中に手を入れた
「圭一くん!それは……やっ…」
2人の恋はまだ終わらない
続く
最終更新:2021年08月22日 02:01