「ねぇ、悟史くんは聞いたことあるかな?――かな?」
悟史の後ろに、ピタリと張り付くようにして少女が立っていた。
カナカナというもの悲しげなひぐらしの声音で彩られた通学路から、少しそれた脇道に二人はいた。
「な、なんのことかい?レナ。」
悟史が喉をヒクリと動かして答えた。
直前まで少女―レナは悟史と向き合っていたはずだった。
それが、瞬き一つの合間に悟史の背後に回っていたのだった。
「足音。」
レナがぼそりとくぐもった声で答えた。
その吐息が首筋に触れただけで、悟史はヒヤリとしたものを感じた。
まるでメスを使ってステーキを切り分ける無神経な医者に手術を任せるような、
薄氷の上でコサックダンスを踊り狂うような、判然とした恐怖だ。
「足音だって?足音が聞こえるのかい?」
しかし、悟史にはレナの言葉に心あたりがあった。
レナに背後を取られた瞬間から失っていた感覚を、手のひらに集める。
ギチリと握ったその先には、バットの質感がはっきりと感じられた。
「そう。ヒタヒタってね、ついてくるんだよ?」
レナは耳たぶに口付けするように囁いた。
「でも、振り返ってもだぁれもいないの。」
「レナも‥‥なのか?」
頭だけ振り向いた悟史の目と、レナの澄んだ青い瞳が交差する。
いつしか、ひぐらしの鳴き声が止んでいた。
「『レナも』ってことは、悟史くんもなんだね?その足音の正体、何か理解るかな?‥‥かな?」
「足音の‥‥正体?」
レナに気づかれない程度に、悟史が体重を片足に預けた。そしてバットを握り直す。
「うん。悟史くんも信じてるよね?オヤシロさま。」
背中に押し当てられた豊かな胸越しの鼓動が、悟史には足音のように感じられた。
「は、はは。オヤシロさまなんて、いるわけないじゃないか‥‥」
自分でも白々しいと感じるその返答と同時に、悟史は小さな覚悟の火を灯した。
「――嘘だよね?本当はいるってわかってるんでしょ?
そうじゃなきゃッ!!!私の、悟史くんの後ろからついてくる足音は何なのッ!!!」
「僕だよ。」
「――え?」
一瞬鷹のように鋭くなったレナの視線が、呆気にとられた丸へと転じた。
悟史がその隙を見逃すわけもなく、体重を預けた軸足を中心にぐるりと体を回転させ、
遠心力をともなった鉄の塊りをレナの横腹目掛けて横薙ぎにした。
何が起こったのかわからないといった表情のレナだが、咄嗟のバックステップで難を逃れる。
「流石だね、レナ。」
しかしそれを読んで一歩半踏み込んだ悟史が、返す刀でまたもバットを横薙ぎにした。
それがステップ後の硬直で止まっていたレナの左横腹に過たずミチリと食い込んだ。
「がぁっ!!」
女の子らしからぬ悲鳴を上げて、レナはその場に崩れ落ちた。
「その足音だけど、きっと僕だ。僕がレナの跡をつけていたときの音だよ。」
「ゲホッ‥‥ はぁ はぁ、そんなわけ、はぁはっ、ないよッ!!」
「あぁ、姿が見えなかったことを言ってるのかい?そんなの、尾行の基本じゃないか。」
横腹を庇う様に手を押し当てているレナの、逆の横腹をつま先で小突く。
「怯える君は、とても美しかった。」
いつの間にか逆転した立場に、レナは鈍痛に耐えることでしか抗えなかった。
「ねぇレナ、君は人形をどう思う?」
腹部の鈍痛に身を折って耐えるレナの傍らに悟史が屈み込んだ。
「人形は抵抗をしないから御し易いっていうのが一般的な認識だと思うんだ。
でもね、僕は何も言わずにこちらを見つめ返す、あの瞳が何よりもおぞましい物だと思うんだ。」
「‥‥‥」
「だから人形はやめた。口で目ほどに物を言ってくれる人間が一番なんだ。」
滔々と語り出した悟史が、静かにレナのセーラー服の裾に手を伸ばした。
そして一息に、肋骨があらわになるところまで引き上げた。
「うん。この温もりがいいんだ。ビスクドールのような貫徹した冷たさも捨てがたいけど、やはり人肌には敵わない。」
先ほどまでバットを握っていた汗ばんだ指が、線を引くように肋をなぞる。
レナの表情に羞恥の色が混じり、同時に嫌悪の歪みも見せだした。
「やめて‥‥ こんなの悟史くんじゃないよ!」
「うるさいなぁ」
ぎちり、と肉が潰れる音がした。
「ぎゃあぁああぁぁ!!」
「え?」
レナの絶叫に逆に悟史が驚く。
悟史がしたのはレナの脇腹をつねるという子どもじみた動作、ただそれだけだ。
しかし少女の柔肌を潰すには、バットを振って鍛えられた男の握力は十分すぎた。
「ひぁッ‥い、痛い‥」
「あぁごめん、ごめんよレナ。痛かっただろう、どうも加減がわからなくなってるみたいなんだ。
でも、僕に口答えをしたレナだって悪いんだよ?君は僕の生きる人形だってのに、そんなのダメじゃないか。」
あくまでも優しい声で、しかし最後は狂気を混めた声で釘をさした。
「さ、悟史くん‥‥どうしちゃったの?驚かせちゃったならレナ謝るよ!だから――ひぐッ!!」
今度は、スカートの中の太ももがもじりで穿たれたように爪の進入を許した。
「言ってるはしからそんなんじゃ、立派な人形になれないよ?」
太ももにあてがわれた手がそのまま下着を剥ぎ取り、滑らかな肌を人形の髪を梳くように撫でた。
「――っ!」
レナは腰を捩ってスカートで股間を隠そうとするが、腹部の鈍痛がそれを妨げる。
悟史の視線に晒され、羞恥に溢れたそこは不随意にヒクヒクと震え水気を増していった。
「この反応も人形には無いものだね。人形は着せ替えられようと、全裸にされようと全く動じないんだ。」
「んっ!や、やめて、お願い!」
三度の抵抗に悟史のイライラも募ったのか、舌打ちをすると秘所を弄っていた手がへその下へとズンと食い込んだ。
「えぁッ!?ぐっ‥‥!そんな‥‥大事なとこを‥‥!!あれ‥?」
その時、レナの中に一つの疑念の火が灯った。悟史が狙う部位の共通点に思い当たったのだ。
「んーここはマズかったかな?でも、人形は赤ちゃんなんて産まないんだから問題ないよ。」
灯った疑念の火はやがて炎となり、悟史の言葉一つ一つを思い出すうちにメラメラと手がつけられない程に燃え上がった。
レナの推測が正しいのだとすると、それはレナの許容値を優に越していた。
「悟史くん、レナはお人形さんじゃないよ?」
「まだそれを言うのかい?僕にあまり暴力をふるわせないでおくれ。人形を傷つけるのは趣味じゃないんだ。」
人形を嫌悪しながら人間を人形扱いしようとする行為の矛盾に悟史は気づかない。
「ううん、気づきたくないんだよね?」
「え?何か言ったかい?」
レナの双眸がすっと鷹のように鋭く、鷲のように深みを持った色に転じた。
「レナの跡をつけてた足音は誰?」
「僕だよ。」
「じゃあ、沙都子ちゃんを虐待したのはだぁれ?」
「――――。」
「あれれ?答えられないの?おかしいなぁ、なんでだろ?だろ?
答えろッ!!悟史!!!」
優位を保っていたはずの悟史の顔が一瞬にして蒼白になった。
「なんで叔父さんだよって即答できないのかな?かな?ねぇ、答えてよ。」
まるで目から色を吸い取ろうとしてるかのごとき眼光に悟史が怯む。
「くっ‥‥、いつから気づいてた‥‥」
悟史が観念したようにポツリと呟いた。
嫌な推測が的中した形となったレナは、哀れみの視線を投げかける。
「最初は、沙都子ちゃんがお弁当箱を落として錯乱しちゃったあの時かな。」
沙都子が弁当箱を落としただけで何かに怯えたように泣き喚き、ついには嘔吐したあの日のことだ。
「あそこには守ってくれる悟史くんがいたはずなのにあの怯え様、どこかおかしいと思ったんだ。
でもね、こう考えたら得心がいったの。あそこにいたのは怒るこわーいお兄さんだったのならって。」
悟史が無言で続きを促す。
「仲のあまり良くない叔父さんとの仲を取り持ってくれるお兄さんしか頼ることのできない沙都子ちゃんは、
しかしお兄さんから虐待を受けていたのでした。それでもお兄さんを頼るしかないかあいそうな沙都子ちゃん。
そんなジレンマとストレスが積もりに積もったらどうなるのかな?かな?」
ずんとコブシがレナの腹部にめり込んだ。
それは権力者が異論を力で揉み消すような荒業だった。
「知ったような口を!!」
「けほっ‥‥ぐぅ、、これが、二つ目のヒントだよ‥」
レナのその年にしては大きめの胸から、ブラジゃーが剥ぎ取られた。
股間を見られたときから立ったままの乳首がひやりとした外気に撫でられる。
「腹部への殴打も!つねりも!太ももへの爪も!全部普段は服に隠れる部位なんだよ!」
「うるさい!うるさい!」
レナのマウントポジションをとり、悟史は胸を荒く揉みしだく。
意識してか否かは定かでないが、爪が食い込みところどころ血の玉が浮いている。
「あくぅっ!これは、普段から沙都子ちゃんにやり馴れてるってことだよね!?」
ぎゅむりと、乳首が悟史の全力でもって潰された。激しい痛みと快感が一瞬レナの脳を支配した。
「やれやれ‥‥とんだ名探偵がいたもんだなぁ!そうさ!僕がやったのさ!」
勢いと共にガチャガチャとベルトを外すと悟史は自らの男性器を解き放った。
そして爪の伸びた人差し指をダーツの投擲のようにストンとヘソの中央へと突きたてた。
下腹部にくると思った異物感が突如腹の中へと出現しレナの脳に至る痛みが警報を鳴らす。
「んあぁあ!イぎかはぁッ!!」
「ここだって繋がる場所、もとい繋がってた場所なんだ!」
鋭い爪で肌を貫通した指が、腹のなかでウネウネと動きまわり、その動きに連動して苦悶の吐息が漏れる。
豆腐の中に熱から逃れようとするドジョウのような、遠慮容赦のない侵入だ。
「それともやっぱりこっちがいいかな?はは、しっかり濡れてるじゃないか!
まさかとは思うけど、腹の中を蹂躙されて興奮したなんてことはないよな!?」
準備が既に整っていることを確認した悟史は、性器に性器をあてがい一気に腰を突き出した。
本日二度目の異物が体を貫く感覚にレナは声も出せずに、酸素を求める金魚のように目を見開いて口をパクパクさせる。
「うん?血が出てるってことは、初めてだったのか。あはは!記念に後ろの穴もいってみようか!?
初めての日に同時に3つの穴を攻められるなんて享楽の極みじゃないか!」
言うと、躊躇わずに空いた方の手で肛門をたしかめ、一気に指を突き入れた。
これで都合3つの穴が同時に塞がれたこととなる。もっとも一つの穴はもともと塞がっていたものだが。
舗装されていない土の道路には、汗と血とよくわからない液体が散乱していた
最終更新:2007年02月13日 18:10