目を覚ますと其処は見慣れた学校の教室とは違う、全体が白で塗りつぶされている部屋だった。
俺や他の生徒はそれぞれのイスと机に座らされていた。

せいや「おい・・・」
アラン「え、え?何?何?ここ何処?」

どうやら皆目を覚ましたらしい。殆どの者が状況を飲み込めずパニック気味になっている。

アナウンス「皆さんお目覚めでしょうか」

突然部屋に取り付けられたスピーカーから男の声が響いた。直後全身を黒で覆った
兵士が数人入って来た。その手にはゴミ袋のようなものが引きずられている。

アナウンス「皆さんにお集まり頂いたのは、いや集めたのはあることをやって頂くためです。

      それは・・・戦闘実験第六十七番プログラム・・・」

「戦闘実験第六十七番プログラム」それを聞いたとき俺は自分の体から血の気が引くのがわかった。
他の席からも数箇所、ガタンと机の震える音がした。

アナウンス「もうお分かりの方もいるでしょう。今日皆さんにやって頂くのは
       殺人ゲームです」

せいや「なっ・・・殺人ゲーム?」
アオイ「せいやクン何なの・・・?」

アナウンス「ご存じない方には説明いたします。前のモニターをご覧ください」
そうして戦闘実験第六十七番プログラムが制定されるまでの経緯、目的などが簡単に説明された。

アオイ「そんなの・・・酷い・・・」

アナウンス「それではルール説明に移ります。ルールは簡単。今からランダムに与えられる武器とポケモンを使い
       最後まで生き残ればいいのです。無論ここで他の生徒を殺害しても罪にならないのでご安心を」

案の定教室内は一斉にざわめき始めた。「何故こんなことをするのか」「そんなの聞いてない」

アナウンス「お静かに。皆様には法的に従う義務があります。もし我々に逆らうのなら・・・」

兵士が持っていたゴミ袋の中身を出した。出てきたのはさっき担任に決まったばかりの男。
生きている人間にはあり得ないほどに体は青白く、首には何かに噛まれたような痕があった。
部屋は一旦静かになったが、担任が死んでいることに気付くと今度は悲鳴や叫び声が聞こえてきた。

コトンッ
一人の兵士がモンスターボールを床に落とした。
その中身は実体化する前に姿を消し教室に異様な風が流れる。
誰かが立ち上がって何かを言おうとしたとき、そいつの机が真っ二つに切り裂かれた。
それとほぼ同時に他の数名の生徒の机も豆腐を細切れにする様にバラバラになっていた。
切り口はどれも滑らかだ。こんなものに触れたら骨すら簡単に切断されてしまうだろう。

兵士「静かにしろ。次に騒いだ奴は体を切り刻むぞ」
そう言った兵士の横に紫のコウモリのようなポケモン クロバットが姿を現した。

F「エアスラッシュかよ・・・これ。流石は軍用のポケモン。これ程の威力とはね」
BOYY「先公の傷跡もアイツか。血液を吸い尽くされたんだな」

アナウンス「あぁそうそう。こちらの先生ですが我々が頼んだ生徒を眠らせるという仕事の後
      急にこのプログラムに反対したので残念ながらこの様な対応をとらせて頂きました。
      全く、出会って間もない生徒達を守ろうとする姿勢は教師の鑑というべきでしょうね」

せいや「てめぇ・・・このやろっ!」
「やめろせいや!そんなことしたらお前も!」
せいや「くそっ!」

アナウンス「お静かになったところで続きを。舞台となるのはこの島。本土から500キロ離れた無人島です。
ここまでは数匹のエスパーポケモンでの力で転送いたしました。行動範囲は島なら何処でも自由です。
制限時間は40時間。時間内に勝者が決まらない場合は残っている全員に死んでいただきます。
そう、ちょうど今あなたがいじっているその首輪を爆発させてね」

やまけん「ヒィッ!」

首輪をいじっていたそいつはすぐに手を離した。
そういえば俺も含め今までこの首輪に気付かなかった奴は結構いたようだ。まぁパニックだったからしょうがないか。

アナウンス「それでは物資を配布しますので一人ずつ並んで、貰った人から外に出てください。  
      全員が外にでたら開始の合図をします」

アオイ「どうなっちゃうの?私達・・・。お家に帰りたいよぉ・・・ぐすっ・・・」
せいや「大丈夫。俺が絶対最後まで守るから」

テリー「ああ、神のご加護があらんことを・・・」

ん「大丈夫・・・。俺ならやれるさ。きっと」

「はぁ どうすりゃいいんだろうな。まったく・・・」

このままじゃどうにもならない事は分かっている。かと言って如何すればいいのかも分からない。
とりあえず今は奴らに従っておくしかないか・・・

アナウンス「全員外に出揃ったようですね。皆さんのご健闘をお祈りします。
      ご家族にはこのプログラムに参加していることは連絡済です。生き残って元気な顔で帰ることがここのお土産ですので。
      それでは、用意・・・スタート!!」

スタート!!と言われても誰も動かない。皆キョロキョロとお互いの顔を見ながら立ち尽くしていた。
当然いきなり殺し合えと言われても普通の人間ならそう簡単に出来るモンじゃない。

「ますは荷物の確認でも・・・」
タカオミ「はぁぁ!?何で俺のポケモンがこんな雑魚なんだ!?」

タカオミの声がこの場の静寂を切り裂いた。自分のポケモンを見て驚愕したようだ。
彼が引いたのはビッパ。なるほど、あれじゃ使い物にはならんな。
これなら大して怖くないだろ・・・と思っていたが怖いのはトレーナーの方だった。
タカオミは短刀を振りかざし、声を荒げてこっちに突っ込んでくる。

タカオミ「てめぇらのポケモンよこせぇぇぇぇぇぇ!!!・・・・え・・・?」

突っ込んで来るタカオミの横を黒い影がすれ違った。
そして彼の動きが止まったと思うと、その首に赤い線が走り勢いよく鮮血が噴出した。

数名の女子がその光景を見て悲鳴をあげた。
倒れて動かないタカオミの傍には爪を赤く染めたマニューラが立っている。

サン「早速ご苦労様。なかなかいい動きね」

サンは満足そうにその二つを見ていた。誰もが唖然としている。

せいや「お、おい・・・。何でいきなり殺したんだよ・・・」
サン「何で?じゃあアンタが素手で止めてくれたの?」

せいやはそれ以上何も言えなかった。サンがタカオミを殺さなかったら自分や他の生徒が被害にあっていただろう。
それだけは紛れもない事実だった。

アナウンス「開始5分 22番死亡を確認しました。お分かり頂けたでしょうか。やらなければやられるのです。
皆さんも友情を築いた友と殺し合うのは辛く、ためらいがあるでしょう。それらをなるべく軽減し、そして
スムーズにゲームが進行する為に貴方達がまだ他人同士のこの日を選んだのです」

せいや「見知らぬ人間だから殺せる?ふざけんな!」

アナウンス「殺したくないならそれで結構。貴方が死ぬだけです。しかしご家族の方は如何思われるのでしょうか。
      さぞ悲しまれるでしょうね。貴方が無事帰って来ることを願っているのですよ。他の誰を殺してでも・・・」

せいや「・・・」

アナウンス「あぁ。お気付きでしょうか。プレイヤーが死んだ瞬間、ポケモンは我らのところへ転送されます。
プレイヤーを殺せばポケモンに襲われる心配は無いのです。それとポケモンは道具ではなく大切なパートナー。
貴方達は半運命共同体。プレイヤーが死亡すれば後でそのポケモンは同じように処分されます。
勝ち残った者のポケモンだけが自由を得るのです。
ただしポケモンが死んでもプレイヤーが死ぬという事はありません。それでは引き続きお楽しみください。」

サン「さ~て 次はアンタみたいな馬鹿を殺っちゃおっかな。 マニューラ!」

サンの命令でマニューラがせいやに襲い掛かる。

せいや「くそっ! 何でもいいから出て来い!」
地面に叩き付けたボール。その中から出てきた赤い腕がせいやに振り下ろされた爪を弾き返した。

サン「むぅ ハッサムとは相性が悪い・・・。マニュ!
   そいつはいいから早くトレーナーを仕留めて!」

マニューラがハッサムを飛び越え再びせいやに爪を繰り出そうとする。
ハッサムはそれを叩き落し、今度はサンを切り裂こうと鋏を突き出した。

サン「ひゃあ! あぶないあぶない」

サンは身を捩ってそれをかわし、鋏は空を切った。

サン「やっぱ相性悪いかぁ。ここは退くよ。マニュ ねこだまし!」   

ハッサムの目の前で勢い良く擦り合わされた爪から火花が炸裂した。それに目がくらみ動きが停止した隙に
サンとマニューラは森の中へと走り去って行った。

せいや「ふぅ。何とかしのいだか。アオイ大丈夫か?・・・・・アオイ?」

返事はない。そこにはアオイだけでなく他の生徒さえ誰もいなかった。

皆の目の前で繰り広げられていた異常な光景。
ポケモンが相手のトレーナーを本気で殺そうとする異常なポケモンバトルに恐怖を感じた彼らは
既にその場を離れていた。

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最終更新:2009年04月25日 18:21