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それを見たとき、最初は目の錯覚かと思った。
だって彼女は―
あまりにも楽しそうで―
あまりにも綺麗で―
そう、まるで絵本に出てくる妖精のようだったから。


暗い水面に、夜空と自分の顔がうつっている。
暗く、今にも消えてしまいそうな顔。
その顔は、確かに僕の心を映し出していた。
「はぁ…」
大聖堂のすぐ近く、大きな池に繋がる階段に腰掛け、ため息をこぼす。
アルターやすぐ隣の魔法研究所から露店の呼びかけの声が聞こえてくるけど、ここまではあまり届かない。
あまり人が多い所は好きじゃない。けれど、誰もいない場所は何だか怖い。
そんなどっちつかずな僕は、結局こんな中途半端なところで水面を眺めている。
「大体、マスターもひどいよ…たまにはゲリラ戦にも加われなんて。本隊戦にはちゃんと――嫌だけど一応――参加してるのに、」
と、そこまで言って愚痴が口から出てることに気付き、慌てて口元を押さえる。
幸い、今のは同じFS(フェローシップ)の人に聞かれずに済んだようだけど、何処に耳があるか分からない。用心に越したことは無いだろう。
「ふぅ…」
またため息。愚痴が知らず知らず飛び出すなんて、我ながらまいっているようだ。
――最近、全然ワラゲで見ないよね。
FSのマスターにそう言われた。ちゃんと行ってますって返したけど、どうやら向こうは戦争に加わって欲しいらしい。
…でも僕は、戦いが好きじゃない。
もし戦いから逃れられるのなら、そのほうが一番いい。僕はそう思っている。
「もちろん、その辺りは人それぞれだろうけど…」
確かに、一番初めにダイアロスに来た時、右も左も分からなかった僕を導いてくれたのは今所属してるFSの人達だ。
その恩は忘れたことは無い。けれど、それとこれとは話が別だ。
やりたくもない戦いを無理矢理やらされる理由にはならない。
―チャプン
「?」
水面が揺れた。魚でも跳ねたのかなと思ったけど、すぐに違うことに気がついた。
「……イクシオン」
ぽつり、と水から出てきたその半漁人の名を口にする。
そいつはちらり、と僕を見た後、すぐに興味を無くした様で辺りをうろうろし始めた。
「!」
と、何かを見つけたようで、一目散にどこかへ駆けて行ってしまう。
何となく行き先を目で追っていると、
「うお、イクシオンじゃねぇか!」
「ガード!誰かガード呼んで来い!」
すぐに誰かに見つかったようで――むしろ自分から突っ込んで行ったようだけど――派手な戦闘音が鳴る。
「…毎回思うけど、一体何がしたいんだろう?」
思わずつぶやく。ただ理由は何にせよ、一つ分かることがある。
「すぐに人が来るなぁ…」
一度イクシオンが現れると、必ず決まって人が集まってくる。
街中に敵が現れたのだから、次を警戒するのは当然なんだろうけど。
―どちらにせよ、ここにいるわけには行かない。騒がしいのは、嫌いだ。

「うーん…」
あてもなくフラフラと街中を歩いていく。
何となく魔法研究所の方に足が向いたけど、やっぱり人が多い。
今更戻る気にもなれないし、かといって西に行くとさらに人が多く集まってる。
と、なると……
「中央広場、かなぁ」
あそこも人が少ないし、のんびりするには丁度いいかもしれない。
そう思って、広場に足を踏み入れた。
「…?」
すると、どこからか歌声が聞こえてくる。
ふと気になって、歌声を辿ってみる。
「――!」
そして大きい噴水の前に来た時、彼女を見つけた。
身軽そうなドレスに身を包み、楽しそうに歌い、踊る彼女を。
まるで妖精のようだと思った彼女が、ニューターの女の人だと気付くのにしばらく時間が掛かった。
(綺麗…)
ほとんど動きを止めた思考の中、ただそれだけを思った。
時に力強く、雄雄しく、しなやかに。
時に楽しそうに、嬉しさが溢れんばかりに。
時にしとやかに、可憐に。
噴水から落ちて跳ね上がる水が、キラキラと彼女を彩っていた。
……一体どれだけ眺めていただろう。
何かの拍子にふと、目が合った。
「……」
「……」
時が、止まった。
それまで楽しそうに踊っていた彼女がピタリと動きを止め、ジーッとこちらを見てくる。
そして段々その顔が驚愕に包まれ始めー
「…うわああぁぁぁぁ!」
「ひゃああぁぁぁぁ!?」
二人して叫び声を上げていた。


あとがき

Master of Epicを題材にした小説、プロローグでした。
知らない方のために説明しますと、Master of EpicはMMORPGの一つです。
全く有名ではない、マイナー中のマイナーなゲームではありますが、独特の世界観とのんびりとした時間を楽しめるのが特徴です。
最終更新:2009年10月19日 00:41