「いやー、すまんすまん。思わず叫んじまったよ」
「はぁ…」
あっはっはと笑うと、そいつはなんとも言えない表情であたしを見た。
「ここってあんまり人いないだろ?だから思いっきり騒ぐには丁度いいんだよな」
「あー…そうですね、確かにあんまり人いないですね」
「だろう?だからたまにここで踊ってんのさ」
「でも、何でこんな所で?」
「え?あぁ、なんかダンサーって見世物っぽいじゃん?」
あたしがそう言うと、そいつは「はい?」と目をパチクリさせた。面白い表情する奴だな。
「あたしは別に見られたくて踊ってるわけじゃない、つーか見世物になりたくないからな。だからこうやって…」
「…人のいない場所で踊ってるんですか?」
「そうそう」
「でも、すっごい綺麗でしたよ?」
「そうか?あたしは普通に踊ってるだけだがな」
「綺麗なのに、勿体無いですよ」
「いや、だから…」
そいつがそう言った時、あたしの内心は怒りが沸いていた。
(お前が言うな、お前が)
はっきり言おう。コグニートのそいつはめちゃくちゃ美人だ。
すらりと伸びた手足、すっきりと整った顔立ち。上級魔道士が着るハイキャスに覆われた胸や腰周りも女の色気があり、物腰も落ち着いている。
たぶんその辺の男なら十中八九、同じ感想を言うはずだ。
同性のあたしですら――いや同性だからこそ――美人だと思う。
そんな奴に綺麗だと言われても、嫌味にしか思えない。
「どうしました?」
お前に嫉妬してるんだよ、とは言えるはずもない。「別に」と適当に濁しておく。
「それより、あんたはどうしてここに?」
「え?えぇと…フラフラとしてたら自然に足が向いてまして」
「ふーん」
困ったように笑うそいつを見てるうちに寒気がしてきた。
どうも噴水のすぐそばで踊ったから服が湿ってるらしい。
「あ、ちょいと着替えるわ」
「え?」
辺りに人がいないのを幸いに、あたしはさっさと濡れた服を脱いだ。
と、その途端。そいつの顔が真っ赤になった。
「え。ちょ、な、なに、何し、」
「あ?何だよはっきり言えよな」
しばらく口をパクパクとさせていたが、やがて大声を上げた。
「な、何で脱いでるんですかー!?」
「ちょ、声でけぇよ!何騒いでんだよ、お前」
一発頭を引っぱたいてやると、そのままそいつは崩れ落ちた。
そのまま妙にピクピクし始めたが、また騒がれても面倒なのでそのまま着替えをしておく。
「うう…痛いです」
「お前が騒ぐからだろうが、全く」
しばらくしてから、ようやくそいつは立ち上がった。涙目でこちらを睨んでくるが、どうも怖いとは思えない。
「つーか、何で騒いだんだ?別に誰かいるわけでもないし、女同士じゃねぇか」
「えっ!?」
なぜかひどく驚いた表情を見せた。え、なぜ?
「えっと、あの…い、いくら人気が無いからって、こ、こんな所で着替えるのは恥ずかしく無いですか?」
「んにゃ?全然」
「は、はぁ…。あの、でもそういうのはやめたほうが…」
「そうか?あんまり気にしたこと無いけどなぁ」
それに、どうも家庭の事情であんまりそういうのが気にならなくなっている、というのもある。
そう言うと、そいつはまだ未練がましくあたしを見ていたが、「…そうですか」と諦めたようだ。
「それよりあんた、この後暇か?」
「え?」
「いやー、ちょいと小腹が空いてきたんだが、あいにく手持ちが無くてな」
「はぁ…」
「いつもはキャンプにいるマリエルが寄こす配給を食ってるんだが、味気なくてなー。たまにはまともな飯が食いたいのさ」
「えっと、つまり僕に、奢れと…?」
「そうそう!頼むよ、ココで合ったのも何かの縁と思ってさ。な?」
んー…、とそいつは何度か考え込むように視線を飛ばし、
「奢るのは別にかまいませんけど…僕もそんなに手持ちが多いわけじゃないので、普通のしか用意できませんよ?」
「普通でいいんだって。あたしもそこまでたかる気はねぇよ」
「そうですか…じゃあちょっと待っててください。すぐ用意しますから」
「ん、分かった。……って、ちょっと待て!」
すぐにも走り出しそうなそいつを慌てて止める。聞いておくべき事があったのに気付いたのだ。
「何ですか?」
「えーと、あんた…名前なんて言うんだ?」
そう言うと、そいつは目をパチクリとさせた。
「……あれ?自己紹介、まだでしたっけ…」
「……したと思うなら、あたしの名前言ってみろ?」
「…………して、ないですね」
「だろ?」
なんでこんな事に二人して気付かなかったのか。しばらくして二人揃って大笑いした。
あとがき
プロローグというより、出会い編という感じになりました。
この二人がこれからどういう関係になっていくのかは…正直不明ですw
MasterofEpic、通称MoEは孤島"ダイアロス島"を舞台に剣と魔法の世界が広がっています。
MMORPGによくあるレベル制ではなく完全スキル制だったり、マップ高低の概念により他では見ない独自の遊び方があるなど、他のRPGとはちょっと違った世界になっています。
最終更新:2009年10月19日 23:21