(1)
僕は海を見たいと思った。窓の外では激しい雪が横殴りに街を叩いている。こんな日は浜に出るべきだ。石狩の海は僕の怠惰で緩み温んだ精神を鍛えなおしてくれるのではないか。
街を覆いつくす白い嵐を眺めながら、暖かな室内にいて珈琲をすする僕は皮肉に笑った。今日は海を見には行かないことだけは確かなことだ、と思っただけだった。
キッチンに立ち、まな板を出し野菜を刻み始めた僕は、これから作る料理のイメージさえ無かった。人参と大根と牛蒡を短冊に切りバットに盛った。ラップで包むと冷蔵庫に入れた。野菜を切ることで気分は晴れ、僕は再び珈琲をドリップした。焦げ茶色の泡が部屋一杯に香った。することの無い長い休日の始まりの第一日目であった。
最終更新:2007年01月20日 22:37