とあるバレンタインの日の出来事だった。

バタンっ
「ん?」
「お兄様っ、デートしましょう!」




「えーと…咲耶、一体どうしてこんな事になってるんだい?」
何故か咲耶と腕を組み。街を歩いている俺がいた。
「どうしても何も、今日はSt.Valentine's dayよ?
 愛し合う二人がこうなるのは当然の事じゃない。」
「あ、愛し合う、って……
 俺たちは兄妹じゃないか。それに俺には花穂が……」
相当気が動転していたようだ。何か間違ってるような気がして仕方が無い台詞が出てきた。だが、これは俺の本心だ。
「お兄様、デート中に他の女の子の名前なんか出しちゃダ・メ・よっ♡」
いやそもそもこれはデートじゃ……、そんな俺の考えを見透かしたかのように咲耶の言葉が続く。
「それともお兄様、私のこと嫌い?私となんかデートしたくない?」
咲耶が俺を見つめてくる。

咲耶は俺の大切な妹だ。もちろん嫌いなはずはない。だが、デートとなれば話は別だ。
そんなことを考えているとあろう事か咲耶が瞳を閉じた。

ちょっと待て。これはキスしろって事か?俺と咲耶は兄妹だぞ?そんなことがあるはずが………
いや、ありえる。咲耶ならありえる。というか100%間違いない!!どうする?俺。花穂とだってまだしたこと無いのに!?

「…………やあ……兄くん。……困っているようだね………。」
「ちっ、千影っ?!」
「千影ちゃんっ?!」
「………どうやら邪魔をしたようだ。………悪かったね…………。」
「いや、別にそんなことは……。ところで、千影、一体どうしたんだい?」
「……なに、今日はバレンタインデーだからね……。…………兄くんにこれを渡そうかと思ってね………」
「チョ、チョコレート……だよね?これ………」
「………今日と言う日に、兄くんに渡すもの…………他にあるわけないじゃないか……………。」
「そっ、そうだよね。ありがと。」
「………なんてことは無いよ。……兄くんがそれを食べれば、私を忘れられなくなる…………それだけだよ………」
「はははは……」
「………それじゃあ私は帰らせてもらうよ。」
「あ、ああ。それじゃあまたね。」
「………ああ。………咲耶ちゃんも、本当に悪いことをしたね……。」
「ホントに……悪かったわよ………」
「咲耶?」
「なっ、何でもないわ。」
「そっ、そう?」
「…………フフフフ………。」

「そっ、それじゃあ行きましょうか。」
「あ、ああ……って、そういえば何処に行くんだっけ?」
「もう、お兄様ったら。何言ってるの?デートなんだからお兄様がリードしてくれなきゃ。」
「そうなの?」
「そうなの!」
「うーん……うーん………特に何にも思いつかないや。とりあえず、歩くか。」
「もうっ、お兄様ったら……ふふふ。」

咲耶に腕を組まれて歩いていく。ちょっとしたことを話すだけで凄く嬉しそうに笑ってくれる。
咲耶って……いつからこんなに可愛く、女の子らしくなったんだろう……

「ねえ、お兄様………」
「ん?」
「お兄様、って……花穂ちゃんのことが好き………なんだよね?」
「……うん………」
「そうよね……分かってたわよ………。分かってたけど……でもっ!
 お兄様、私じゃダメなの?私だって、お兄様のこと大好きなのに。花穂ちゃんと同じくらい……ううん、花穂ちゃんになんか絶対負けないくらい大好きなのに……。」
「お兄様、お願い……私を見て………。」
「咲耶………。」
見上げてくる咲耶の視線。目をそらせない。本当に……ちょっと意識しなかった間にいつの間にこんなに可愛くなったんだろう………
あれ?なんだか段々咲耶の顔が近づいてくるような……違う、これは俺から近づいていってるんだ!
ああ、ダメだ……やめるんだ…俺………ああ、咲耶の唇がこんなに近くに……
「………お兄ちゃん?」
「っ」
「かっ、可憐ちゃん?」
「……と、咲耶ちゃん………何やって……」
「いや、あの、可憐。これはだな……」
「咲耶ちゃん……もしかして………。咲耶ちゃん、ちょっとこっち来て。」
「……イヤ。イヤよ………私絶対お兄様から離れないから。」
「いいから!」
「イヤ…だってあと少しで……あと少しでお兄様と………。」
可憐に引っ張られていく咲耶。咲耶の方が力は強かったはずなんだけど……なんだか今日の可憐は、鬼気迫るものがある。
「かっ、可憐?」
「お兄ちゃん、お願い…止めないで。これは私達の問題なの……。もしそれでも止める、って言うなら私、さっきのこと花穂ちゃんに………花穂ちゃんに言っちゃうから!
 そんなことしたらお兄ちゃんに嫌われちゃう、って分かってる。分かってるけど……だからお願い……お兄ちゃんに嫌われるようなこと、私にやらせないで。お願い、お兄ちゃん………。」
「可憐………。」
「お兄様ぁぁぁぁぁぁぁ。」
「…………咲耶…ごめん………」



「ねえ、咲耶ちゃん、聞いて。」
「イヤ………イヤぁ…………。」
「私達、前にみんなで話したよね?」
「イヤ……聞きたくない…聞きたくないっ!!」
「咲耶ちゃん!!!!!」
「っ」
「前にみんなで決めたよね?花穂ちゃんを応援しよう、って。お兄ちゃんとうまくやっていけるようにお手伝いしよう、って。」
「それなのに……それなのに………ぐすっ…………。咲耶ちゃんだけずるいよ。私だって、私だってお兄ちゃんのこと大好きなのに!
 ……それに私だけじゃなくて衛ちゃんも、雛子ちゃんも、鞠絵ちゃんも、白雪ちゃんも、鈴凛ちゃんも、春歌ちゃんも、四葉ちゃんも、亞里亞ちゃんも……もちろん千影ちゃんだって……。みんな、お兄ちゃんのことが大好きなのに………それなのに……咲耶ちゃんだけそんなことするなんてずるい……ずるいよ…………。」
「可憐ちゃん………。」
「そう……そうだったのよね………。ごめんなさい……。」
「咲耶ちゃん……。」

「ねえ、可憐ちゃん?」
「なあに?咲耶ちゃん。」
「お兄様に……チョコレート渡すくらいなら…いいわよね?」
「もちろん!私だって、渡したいし。そこまでは遠慮しなくても……いいよね?」


その頃……

あそこでもし可憐が来なかったら俺は………まだ花穂とだってしたこと無いのに。
花穂とだってしたこと無い?どうして?俺と花穂は付き合ってるのに。なのにどうして?どうして……

   ド ウ シ テ マ ダ カ ホ ト キ ス サ エ ヤ ッ テ イ ナ イ ?



「お兄ちゃまーーーーーー」
「はぁ、はぁ……お兄ちゃま、やっと見つけた。」
「お兄ちゃま、これねバレンタインのチョコレー……」
「花穂っ!」
「なっ、なあに?お兄ちゃま……。」
「花穂とキスがしたい。いいよな?俺たち付き合ってるんだし……。」
「うっ、うん……いい………けどお兄ちゃま?一体急にどうしたの?」
「別にどうもしないさ、逆に今までがおかしかったんだよ。」
「そうだろ?花穂………」
一歩ずつ後ずさる花穂。
「どうして逃げるんだい?花穂……さあ。」
こけっ。
「あっ、チョコレートが……。」



     ぐちゃ

「あ………れ……………?花穂の……チョコレー…ト………あれ?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」







「ぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 
「この声って……咲耶ちゃん?」
「花穂ちゃんの声…よね?」
「急ぎましょう!」
「ええ」




「花穂ちゃん!」
「花穂ちゃん!大丈夫?その男が……って、お兄様?」
「お兄ちゃん……。よかった、お兄ちゃんが来てるならもう安心だね。」
「ねえ、お兄ちゃん、一体何があったの?」
「可憐ちゃん、待って。」
「……咲耶ちゃん?」

「ぁ……ぁぁ………。」

「花穂……花穂ぉ………」

「おにい……ちゃん?」
「可憐ちゃん、花穂ちゃん連れて行って。お願い。」
「ううん、なんとなく……ホントになんとなく、なんだけどね?逆の方がいい気がするの。
 だから、咲耶ちゃんが、花穂ちゃんつれていってあげて?」
「え、ええ。」



「チョコレート……花穂のチョコレート………お兄ちゃまにあげるはずだったのに……。」
「ねぇ、花穂ちゃん?」
「……あれ?咲耶ちゃん?どうしたの?」
「いや、それは私が聞きたいんだけど……。」
「お兄ちゃまは?花穂、お兄ちゃまを一生懸命探して、やっと見つけて…それからチョコレートを渡そうと思って走っていって………。」
「そうしたらお兄ちゃまが、キスしよう、って。それで……。」
「花穂だって、お兄ちゃんとキスしてみたかったし……それで今日はバレンタインデーだから……ちょっと期待だってしてたの………。だけどなんだか違ったの。なんだかお兄ちゃまが怖くて……そしたらなんだか花穂逃げちゃってて……それで…」
「あれ?ちょっと待って、花穂ちゃん。花穂ちゃんって、もしかして……お兄様とキスしたこと……無いの?」
「う、うん……そうだけど………変、かな?」
「変、とは言わないけど、意外……だったかな?」
「そ、そう?」
「うん。お兄様のことだもん、きっとすぐに手を……出さないか。もしそんな人だったら私だってとっくに……。」
「でもそんな人だったら私きっとお兄様のこと、好きになんかなってないよね。あーあ、世の中ってうまくいかないなぁ………。」
「咲耶ちゃん?」
「ああ、ごめんね。で、それなのにお兄様が急に花穂ちゃんに、キスしよう、ってやってきたのね。」
「う、うん。なんだかお兄ちゃま、凄く怖くて……。」
「……花穂ちゃん………ごめんね………。」
「咲耶ちゃん?どうして咲耶ちゃんが謝るの」
「お兄様がそうなっちゃったの、私の所為、だと思うから。」
「?」
「私ね、さっきお兄様に大好きだ、って迫っちゃったの。そしてキスもねだっちゃった………。」
「!?」
「だけどね……ダメだった………。後ちょっと、ってところで可憐ちゃんがやってきてね、止めてくれたの。
 でもね、きっとあのままでもお兄様は私にキスなんか出来なかったと思うの。だって、お兄様……その後ちょっと、って所でずっと止まってるんだもん。
 ホント、悔しいな……私だってお兄様を想う気持ちじゃ絶対花穂ちゃんにも負けて無いのに……。」
「咲耶ちゃん……。でもね、花穂だって咲耶ちゃんに絶対負けてない、って思うもん。花穂が世界で一番お兄ちゃまをすきなんだから!」
「花穂ね、お兄ちゃまのところいってくるね。どんなに怖くてもお兄ちゃまだもん。大丈夫、もう怖くないよ!」
「花穂ちゃん……。ふふ、頑張ってね。」
「うん!」

「あーあ……やっぱり敵わないなぁ………。お兄様…………。」



一方
「お兄ちゃん!」
「花穂…花穂………。」
「…………」
お兄ちゃん…、ごめんね………
「んっ」
パシンっ。
「っ……。あれ?可憐?一体どうして………。」
「お兄ちゃん、自分で考えてみて。分かるでしょ?どうして叩かれたのか……。」
「・・・・・・・・・・花穂?」
「ああ、花穂……俺は一体なんてことを………。」
「ねえ、お兄ちゃん。可憐の大好きなお兄ちゃんはこんなところでうじうじしてるお兄ちゃんじゃなかったよ?
 これ以上、可憐にお兄ちゃんがかっこ悪いところ、見せないで……。このままだったらお兄ちゃんの事嫌いになっちゃう……。
 ううん、きっと違う……。このままだったらきっと今の弱ってるお兄ちゃんに可憐、つけこんじゃう。今のお兄ちゃんになら可憐を好きになってもらえる、そんな風に思っちゃうの。だから、ね?お兄ちゃん。花穂ちゃんのところに行ってあげて。」
「可憐……ありがとう。」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんはね私達みんなの分も絶対幸せにならないといけないの。だから、頑張って……ね?」
「ああ、分かった。可憐、情け無いお兄ちゃんで、ごめんね。それじゃ!」
「あっ、お兄ちゃん。ちょっとまって。」
「?」
「これ……ちゃんと持っていってね。」
「……ああ。」
「それじゃあ、ね。バイバイ、お兄ちゃん………。」




「…………もう泣いてもいいよね?…ひっく、……ひっく………ぐす………お兄ちゃん……お兄ちゃん………うわーーーーーん。」






「はぁ、はぁ……花穂………何処に……。」/「お兄ちゃま、何処に行っちゃったのかな?」


「花穂ーーーーーーーーーー!!!」/「お兄ちゃまーーーーーーー!!!」


「花穂?」/「お兄ちゃま?」


「はぁ、はぁ…花穂…花穂……。」/「お兄ちゃま…お兄ちゃま……。」

「花穂!」/「お兄ちゃま!」
「花穂……ごめんな………。」/「お兄ちゃま…ごめんなさい……。」
「俺が………」/「花穂が………」
「花穂から……」/「お兄ちゃまから……」
「ぷっ…」/「くすっ」
「「あははははははは。」」
「お兄ちゃま、花穂から言うね。」
「ああ。」
「あのね、お兄ちゃま、花穂ねお兄ちゃまが大好きなの。それにね、その……きっ、キスだってやってみたいと思ってるんだよ?本当だよ?
 それなのに…それなのに、ね……逃げちゃってごめんなさい………。お兄ちゃま………。」
「花穂……花穂は悪くないよ。誰だってあんな風になったら逃げちゃうよ。それに……それにきっとあのままキスしちゃってたらきっと後悔しちゃってたと思うから。だから逃げてくれて、ありがとう。」
「お兄ちゃま……。」
「花穂………。」
自然と近づく俺と花穂の唇……ついに………あれ?
「あっ!」
「!?おっ、お兄ちゃま?」
「まだ、まだダメなんだよ……まだ花穂とキスしちゃ………。」
「?」
「これ………。」(チョコレートを取り出す)
「あ……。」
「これ、さ。花穂から俺に渡してくれないかな?」
「でも、こんなんじゃ……。」
「ううん、これがいいんだ、これじゃないとダメなんだよ、きっと………。」
「お兄ちゃま……うん、分かったよ。」

「お兄ちゃま、ハッピーバレンタイン♡」
「花穂……ありがとう。」

「食べさせてくれる?」
「うんっ♡」




そして……
「ありがとう、おいしかったよ。」
「ううん、花穂まだまだ下手っぴだから……。」
「そんなこと無いよ、おいしかったよ。」
「お兄ちゃま……。」
「花穂……。」

そして…………




「チェキーーーーーー!」

「「!?」」

「幾らなんでもそれ以上は四葉の目の黒いうちは許しません!!」

「四葉!?」/「四葉ちゃん!?」
「一体いつから……」
「四葉はいつでも兄チャマをチェキしてるデス!」
「……つまりは最初から、ね………ははは。」
「それにしても花穂ちゃん、お顔が真っ赤です。これは是非ともチェキしなければ……」
「もうー、四葉ちゃんーーーーーーー!!!(/////」
「それにもうそろそろなのデス。」
「「?」」

「あにぃ、ボクの気持ち受け取ってよ!」
「おにいたまー、ヒナと一緒にチョコ食べよー。」
「兄上様………、私のチョコも受け取ってください。」
「にいさま、姫特製フルーツチョコレートですの!」
「アニキ、チョコあげるから資金援助して。」
「兄君さま、ワタクシのチョコも……。そしてゆくゆくは………ポッ。」
「兄や、亞里亞とショコラ、食べる?」



「ハハハハ……結局こうなるんだね………はぁ。」
「ま、たまにはみんなでこうやって、ってのも悪くないよ……ね?花穂。」









「……………ふふ。………なかなか上手くいったみたいだね……。………みんなと約束したから……今世ではお手伝いさせてもらうよ………。……これ以上は、さすがに……ダメだけどね……………。
 …………それに………来世では手加減しないから……覚悟しておくんだね………花穂ちゃん…………………。」

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最終更新:2007年02月14日 02:38