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著者不詳
「貴之」 貴司が出て行ったドアを呆然と見ていた俺にお袋の声がかかった。 振り向くとお袋と目が合う。全部ばれていそうな、そんな目で見つめてくる。 「なに?」 そのままお袋はアゴを軽くドアのほうに動かして見せた。 なるほど、やっぱりお袋にはバレバレなんだな。全く頭が上がらない。 「あなた、これ、おいしいわよ。冷めないうちにいただきましょう」 お袋に感謝しつつ俺は席をたつ。 「俺もちょこっと飲みすぎたみたい。トイレいってくる」 「行儀悪いぞ」 「悪い」 親父の注意もそぞろに、俺はトイレに向かった。 トイレに着くと、貴司はぼんやりと鏡を見ているようだった。 声をかけようと近づき、俺は貴司の目の端に光るものを見つけてしまった。 「……貴司」 「なんでもない」 驚いたように振り返ると、ぐしぐしと袖で顔を力任せに拭いている。 「なんでもないってことないだろう。どうしたんだ?」 俺はそっと貴司の頭に手を置き、あやすようにポンポンとかるく叩いてみる。 いつもなら、そうしていると笑顔になる貴司も今日ばかりはちがっていた。 急に折れの手を払ったかと思うと、両手でギュッと胸元に握りこまれ、 強い視線が俺の目を射すくめる。これ、ちょっとヤバいかもしれない。
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