感謝 坂口大 

坂口 大

 僕と桃ちゃんの共通点は、作家灰谷健次郎。
小学校高学年のときに『兎の眼』を読んで衝撃を受けて以来、僕は熱狂的な灰谷文学のファンだった。
本を読み漁ることはもちろん、灰谷健次郎が登場した番組は録画して大切にしていたし、講演会に一人で出かけて行ったこともあった。
バレンタインチョコのお返しに、『兎の眼』をプレゼントしてしまうという今思い出すだけでも信じられない恥ずかしい思い出もある。

 でも、僕がこのように灰谷ファンになったのは、桃ちゃんの存在があったからに他ならない。
当時中学生だった僕は、灰谷作品の魅力を精いっぱい桃ちゃんにぶつけていたように思う。
どんな話をしたのかは残念ながら覚えていない。
ただただ自分のあふれる感動を必死に伝えようとしていたのだと思う。
心震える感動は誰かに伝えたくなるものだ。
そして、桃ちゃんがそんな僕の話に耳を傾けてくれた。
自分の気持ちを素直に出せてそれを受け止めてくれる大人が身近にいる……、
そのことが僕の世界を膨らませてくれたのだと思う。

 思春期のある時期、一生懸命になっていたことをやさしい笑顔と真剣なまなざしをもって、
一生懸命に聴いてくれる大人がいてくれた。
これは思春期を生きる子どもたちと関わる今の仕事と出会ってみて、本当にかけがえのない幸せな経験だったのだと強く感じている。
 桃ちゃんとの思い出で忘れられない出来事が一つある。
大学の卒論を控えていた桃ちゃんが(当時卒論がどれほど大変なものかは知る由もなかったが)笑顔で僕に言ってくれた。
「大ちゃんといろいろ話したおかげで卒論のテーマを決めることができたよ。卒論は灰谷健次郎にしたよ」
 今でも忘れられない言葉。

 中学生の僕に一人の人間として対等に接してくれた驚きと、
そして、なにより桃ちゃんの役に少しでもなれたうれしさが、あのときの僕にとってどれだけの自信になったことだろう。
すごくうれしかった。
「大ちゃんといろいろ話したおかげで……」
 あのときのうれしさと感動は、今も僕の仕事を支えている。

これからも、僕のあこがれの先輩として、天国から見守っていてください。

2010年12月
最終更新:2010年12月10日 16:23