わくわく誘惑ホームワーク

遅い梅雨明けを足踏みして待っていたのか。
夏休みの初日を祝福するかのように、太陽は容赦なく紫外線を振りまきメラニンを活性化させていた。
蝉はやかましいくらいに鳴き叫び、まるで短い青春を生き急ぐ俺たちのよう。
いや、別に生き急いでいる訳じゃないけど。だいたい連中は好き勝手に飛びまわれるだけまだマシだろうに。

「そうは思わないか?京子(きょうこ)」

頬杖をついて陽炎に歪む遠い町並みを眺めながら俺は呟いた。
特に予定があった訳ではないが、遊び盛りとしては夏の風物詩で煽り立てないで欲しいものだ。夏コンチクショウ、夏コンチクショウ。

「時生(ときお)。蝉は七年暗い土ン中でじっとしてたの。最期の一週間くらい好きにさせたり」
「俺はその十年長く生きてるけど連中ほどはっちゃけらんねぇわ」
「命燃やしてアブラゼミ、七日で生きた証を立てよ、と。はー、切な」
「青春は短いのだ。なのに何故俺は部屋に閉じこもってプリントとにらめっこせにゃならんのか!」
「そら、アホやしちゃう?」

さらり、と視界の隅で黒髪が流れる。
小川に墨を零したような長く綺麗な黒髪は、京子のチャームポイントである。
クラスの女子には特別なことは何もしていないと言っているが、俺はそれが嘘で、彼女がどれほど自分の髪を大切に扱っているか知っていた。

「おばちゃん笑顔の裏になんや険しいモノが見え隠れしてたけど。どやったん?成績」
「言うな。俺は過去は振り返らない主義なんだ」
「………やっぱりな。授業中寝てばっかしやもん。せっかくウチの特訓で赤点は免れたっちゅうのに」
「あれ特訓じゃないだろ。拷問だったぞほとんど」
「愛あらばこその鬼コーチです」

京子はそう言って無い胸を張ると、また俺のベッドに派手に倒れこんだ。
最近めっぽう痛んできた寝床がギシリと嫌な音を立てる。

「だーいぶ」
「埃立つから飛び込み禁止。俺のベッド壊す気か」
「壊れたら今度は回転するヤツ買ってぇや。それか水のアレ。一遍見てみたい」
「ばか」

ボケることもできたが、俺はそれ以上会話を続ける気にはなれず、嫌がらせとしか思えない量のプリントに向き直る。
京子もそれ以上絡もうとはせず、もぞもぞとタオルケットに包まってそのまま胎児のように丸くなってしまう。
しばらく、そうやって無言の時間が続いた。
蝉の声が、遠くから聞こえてくる。

「………………」
「………………………」

この静かな空間が心地いい。
俺はどっちかというと誰かといる時無言でいるのが苦痛なタイプなので、
こうして何も喋らず、黙ったまま同じ空気を共有できるヤツは貴重だったりする。

京子はそんな中の一人だった。

小学校の頃こっちに越してきたコイツに声をかけてやったのがきっかけで、
それ以来十年以上つるんでいる仲になるのだから、まぁ別に話をする必要もなくなるのは当然といえば当然か。
もともとこいつもお喋りが得意なタチではない。
関西出身だと聞いて、関西弁ででなにか喋ってくれと言う馬鹿なヤツもたまにいるが、京子はそういう時露骨に嫌な顔をして、

「なんでそんなことせなあかんの?」

と、わざわざご希望に答えてやるというから律儀なんだかひねてるんだかわからない。
普段標準語ペラペラのこいつが俺の前では素の関西弁に戻るのは、本人曰く意識しているわけではなく、自然とそうなってしまうのだとか。
心からリラックスしてくれてると解釈してもいいそうだ。そりゃどうも。

「……時生。まずいことになった」

京子がタオルケットから顔を出して、えらく真剣な顔で、

「暇や」
「帰れ」

だいたい、なんで京子がここにいるのか。
家が近所とはいえ、朝っぱらから人の家に上がりこんでウーロン茶飲みながらはなまる見てるとは何事だ。
今更それをどうこう言うような間柄じゃないけど、花の女子高生が男の家でその母親とテレビの話しているのはどうかと思う。
つうか、何普通に上がらせてるの母さん。

「何言うてんの。夏休みの宿題は二人でするのが小学生から決まりやろ」

何が二人でする、だ。
毎年毎年、自分はさっさとノルマ終わらせてごろごろしてるくせに。プリント見せろ。

「あかん。答えは自分で考えよし。わからんとこがあったら、解説はしてあげるから」

何がわからないのかわからない場合はどうすればいいんでしょうか。

「そっからか。ええか」

京子が俺の背中によりかかってプリントを指す。

「あー、ここか。こーゆーのは解き方のマニュアルみたいなのがあるの。ほら、っていうか端っこに解説書いてあるやん」

京子の絹糸のような髪が頬を、耳を、首筋をくすぐる。
甘い香りはシャンプーの匂いと彼女自身の香りのブレンドだ。この世のどんな香水にだって負けはしないだろう。
密着した身体は「ない」なりに柔らかくて、健全な男子としては―――待て。

「……ん?どないしたん?」

顔をあげると、そこにはニヤニヤと笑う京子の顔があった。

「んー?なんか質問があるんやったら、ちゃんと言うたほうがええよ?」
「……おまえワザとやってるだろ」
「さあ。なんのことやら、ウチにはわかりまへんなぁ」
「舞妓口調で話すな」

むかつく。
こいつ、俺をからかって楽しんでやがる。
男の子なめんな、手前の暇つぶしに純情を弄ぶたぁ太いヤツだ!

「………そうか。わかった」
「へえ、やっと問題解けたんか?」

……解けてないけど。
解けてないけど、俺は京子から出される問題からは逃げるわけにはいかないのである。
俺は立ち上がると手早くカーテンを閉め、ついでにクーラーもつけてやった。
飲み物やお菓子を持ってくるような母さんじゃないし、誰の邪魔も入らない。
上演中は音を立てませんようお願いします。で、ケータイの電源オフ。

これで準備は整った。煮るなり焼くなりするといい。
ただし―――火傷しても知らないぜ。

「時生……」

京子は頬を上気させて目を細めている。
ふふん、策を練っては策に溺れるのがコイツの悪い癖だ。
お前は下手に小細工しようとするから追い詰められていくんだ。
素直に直球使えばお前の誘いを断れる俺なんてどんな平行世界にもいやしないのにな。
そして、何勘違いしてやがる。俺はバトルフィールドの環境を整えてやっただけだぜ。
俺のバトルフェイズはまだ終了してないどころか始まってさえいないんだからな。

「……ふぅん。そーゆーこと、か」

挑発的な顔で見下ろしてやると、向こうもこっちの意図がわかったようで、同じようにケータイの電源を切って自分のバッグに放り込んだ。

「そーゆーこと、だ。さて、ここはどうやって解くんだ?続けてくれよ」

どっかりとさっきのポジション、京子の前に胡坐をかく。
そうとも、俺はお前と違って物分りが悪いんだ。丁寧に、それでいてはっきりと言ってくれなくちゃな。

「えーと、ここはな?」

京子は頬擦りするくらいに顔を寄せ、首に手を回してひっついてきた。
二人羽織でもここまで密着しないだろう。心臓の鼓動がどんどん大きくなっていくのを自覚する。
もっとも、それは京子だって同じことだ。
どくん、どくん、と。
背中に興奮の証である音が響いてくる。
そうとも、これはこういう戦いなのだった。
俺を挑発するのはいい。だけど京子。大胆になれば大胆になるほど、お前自身の興奮も否応なしに引き上げてしまうんだぜ?
それに、俺は防戦一辺倒に甘んじる気はさらさらないのだった。

「ひぅ!?」

京子が素っ頓狂な声をあげる。
俺はただ、手元に触れていた黒髪をさらさらと撫でてやっただけだ。うん、手入れが行き届いているだけあって滑らかで実に触り心地がいい。

「か、人の髪の毛弄らんといて!」
「なんでだよ。いいじゃん、『綺麗な髪なんだし』」

歯の浮くようなことを言ってやると、京子の顔が見る見る赤くなっていった。
お、面白い。
髪を褒められるのはコイツを喜ばせるひとつのツボだ。

―――綺麗な髪なんだし。

無論、俺はわざとその言い回しを使ってやった。
俺とコイツの馴れ初めである、そのきっかけの台詞を。



京子が引っ越してきたのは小学校二年の五月のことである。親父さんの仕事の都合らしいが、詳しいことは知らない。
とにかく、えらく中途半端な時期に転入してきたもんだ、と幼心に思ったことはよく覚えていた。
空いていた席も離れていたし、女にわざわざ話しかけんのもやらしくてかっこ悪いと感じるような年代なので、
とくに興味がないふりをしていたのだが。

「―――宮古(みやこ) 京子言います。よろしくおねがぃします」

クラス中が、一瞬真っ白になり、ざわざわと騒ぎ始めた。
中学生や高校生ならいい。方言というものの存在も認知されているし、関西弁ならなおさら、むしろ憧れといってもいいくらいだ。
しかし、不幸なことに俺たちは幼すぎたのだった。
狭い世界が全ての小学校低学年のガキどもは、自分たちと異なるものに敏感だ。
それは見た目であれ、言葉であれ、異端なものは排除こそしないものの極力距離を置こうとする。
ほどなくして京子も自分がストレンジャーだと気付いたようで、疎外の元となる関西弁を話さないように、つまり黙り込むようになった。
―――まずいことに、それはそれで異端と取られることがある。しかも関西弁なんかよりもっとわかりやすく、明確な弱点として。
いじめ、というほど大したものでもない。
ただ、京子はよくからかわれるようになった。
当時から綺麗に伸ばしていた黒髪と、だんまりを決め込むその様子から。
曰く、幽霊女、と。

転校してきたばかりで友達らしい友達もいなかった京子には、それがどれほど堪えたことだろう。
おせっかいな女子共が抗議しても、バカな男子はますます喜ぶばかり。

言葉は、耳で自然に覚えるより他にない。それには時間が必要だ。
だけど、この髪は、この髪が原因でからかわれるのなら―――

図工で使う、小さな鋏を髪の毛に当てたそのとき、俺が言った言葉。

―――もったいねぇよ。綺麗な髪なんだし。

……本当にそんなこと言ったのだろうか、俺。
実はよく覚えていないのだ。
ただ京子はこの言葉を聞いて髪を切るのを止め、俺に懐くようになったのは確かなようで。
コイツは機嫌がいいとき、黒髪を弄りながらこの話をよくしてくる。

この髪は時生との思い出だから、綺麗にしなければいけないのだと。



「あ、アホなこと言わんと集中しよし!」
「うい」

だから、褒めるとこんなにも簡単に照れさせることができる。
しかし、ほんとに心地いい髪だ。
キューティクルは光る黒い宝石のようで、甘い香りは思わずすすりこみたくなるような、口に含めば味がしそうな―――
―――それを、汚すことが許されるのはただ一人、俺だけなのだ。

―――シーツの上に広がる黒髪に、俺の白い欲望をぶちまけてやりたくなる―――

と、危ない。
誘惑が自分の興奮も高めるのは俺も同じか。ジェンガよりも微妙な精神的バランスが必要だな。

「せやから、ここの式を仮にDとしてやなぁ」
「……なんでD?」
「それは知らん。なんかの略やったと思うけど」

びくっ、と思わず背筋を伸ばしてしまった。

「ん?時生クン。どうかしたのかい?」

ふとももの上を京子の手が滑っていく。
さわさわと円を描くように、次第に起動をずらし内側に向かって……しかし、寸での所でターンしていった。
決して、肝心の部分は刺激しないように。
こ、こいつ……どこでこんな焦らし方覚えやがったんだ?
っていうかこんな変化球はお前には似合わないって言っただろう!言ってないけどな!
……やばい。気を確かに持とうとするけど、身体のほうはそうはいかない。段々、海綿体が充血していく。
そして、肉体が反応すれば心の方にも変化が現れるのは道理だ。
今すぐ京子を押し倒してしまいたい。
でも、それではこの小憎たらしい女の子に新しい武器を与えてやることになる。
「自分は変化球に向いてない」と自覚させなくちゃ、あっという間に尻に引かれてしまうだろう。
男として、それはどうか。

「……いや、別に」

だから、そっちがお触りしてきたんならこっちだってOKってことだよな。
攻撃は最大の防御なり。俺、いっきまーす。

「ひゃ!」

おしりに手を回して、ジーンズの上から形の良いヒップを楽しむ。
うん、小ぶりでキュっと締まってて、実に俺好み。こりゃあまた墓穴掘ったかも知れないなー。
そうとは解っていても、俺はもうおしりから手を離せないに決まっているのだが。
こいつのおしりは魔性のおしりなのだ。

「ん、あぁ、時生、ときおぉ……ここでぇ、さっき当てはめたDを……」

京子の解説が段々色づいてくる。
耳元に熱い吐息を吹きかけられて、俺の理性を溶かしていく。

そうだ、だいたいこのポジショニングが悪い。
コイツに後ろを取られたままじゃ、上手く攻撃できない……じゃない、解説が、色々と触ってやれないだろう。
そうと決まれば、強引に身体を半回転させて京子の腰に手をかけ、そのまま身体を戻す。

「わ、わわっ!」

軽いコイツの身体はそれだけで持ち上げられて、俺の正面、足の間にすっぽりと納まってしまった。
京子が慌てたように抗議する。

「こら時生。こんなん反則―――」


――――――


振り返った京子の唇と、俺の唇が掠った。

あ、駄目だ。
この柔らかさ、甘さ。
掠っただけで、痺れてしまった。酔ってしまった。
この勝負、俺の負けだ。
抱きしめて、もっともっと味わいたい。
我慢なんて、馬鹿らしい。
そもそも、俺は。
好きな女が同じ場所にいて、何を耐えようとしていたんだっけ……?

見つめあったのは、了解をとるためじゃない。
ムードなんて、必要ない。
だから、俺たちに小細工は必要じゃないんだ。
初めから。

唇を重ねて。
舌を絡ませて。
唾液を交換して。

「時生」
「うん?」
「すき。めっちゃ、すき」
「俺も、だいすき」

京子はにっこり笑って、嬉しい、と言った。
俺も、嬉しい。


「ごめん。時生のタオルに包まってたらなんか発情してきてな」

ベッドに横になった京子がくるくる髪を弄りながら笑った。
ああ、暇ヒマ言ってたあの時か。
退屈しのぎじゃなくて本気で誘惑してたのか。へったくそな誘惑だなオイ。

「そうみたい。ウチ、やっぱり直球じゃないとアカンわな」
「そうだぞ」

今日みたいなことはやめて欲しい。
いらない意地を張らなきゃいけなくなる……ってそりゃ俺が勝手にやったことだけど。

「ごめんな」
「いいけど」

言いながら、またキスする。
唇、鎖骨、胸元、おへそ。

「胸、全然育たないな」
「やかまし。将来に期待しなさい」
「パンはこねるとよく膨らむって言うぜ」

わきわきと手を蠢かせ、

「やらしー。時生やらしー」

問答無用でござる。

「あはは。こそばい、こそばい」
「暴れるなって。気持ちよくしてやるんだから」
「うふふ、お、お願いします、にひひ」

寄せて上げて、無理矢理谷間っぽいものを作ってやったり、フニフニと揉んでやったり、乳首を指先で転がしてやったり、摘んでやったり。

「ん、ふぁ、ジャ○おじさん、気持ちええかも……」
「誰がジャム○じさんか」

なまいきなおっぱいには制裁を。
乳首を口に含んで吸い付いて、舌でいじってやる。

「くぅん、あふ……ちょ、こらぁ。そんなんしたら、あかんてぇ………」

胸を愛撫しながら秘部に手を伸ばすと、もうその泉からは愛液が染み出していた。
触って欲しいと懇願するその部分の要望に答え、指を這わせてやると、
京子は甘く叫び声を上げて俺の頭を押さえつけた。

「ひゃあぁっ!!時生……ッ!そこ、まだエエからぁ!!」
「なんでだよ。京子のここ、もう欲しいって言ってるぞ」

愛液で濡れた指先を、わざと目の前で広げてやる。
にちゃあ、と音をたてて糸を引くそれは、どれほどお前が興奮しているかわかりやすく説明してくれるだろう。

「うぅ……でも、待った。まだせんといて」
「?」
「今度は、ウチが、するから……」

「時生のここ、やらしい臭いするー」

京子が俺のモノに鼻を近づけて、目を細める。

「マジか。一応毎日洗ってるんだけどな」
「夏やし汗かくからかなぁ?まあ、ええけど。時生のニオイ嫌いちゃうし」
「きょこタンえろい。えろいきょこタン」
「やかまし」

痛ッッ!息子は常にザ・グラスハートの思春期なんだよ。指で弾くだけでも大ダメージなんだよ!優しく扱えばか京子!

「ふ~~ん、そんなん言うてええんかなぁ?おたくの息子さんはウチが預かってんねんで?どないするかはウチの手心しだいっちゅうわけや」
「なんだと?頼む!息子だけは、息子だけは!!」
「安心しぃ。手荒なマネはせぇへん。むしろ優しぃ扱ったるわ。大事なお宝やもんなあ」

京子が大切そうにペニスを包んで、ぺろりとひと舐め、舐め上げる。
そうして今度は根元から先端にかけてゆっくりと舐めなぞり、右手で睾丸をフニフニとマッサージ。左手はそえるだけ。
チロチロと鈴口を突いていたかと思うと、大胆にも口に含んで口内で舌を回転させるようにしゃぶり倒す。
性交に慣れてきた京子が力で勝る俺に対抗するために手に入れた、スーパー京子スペシャルである。

いや、もうそこにいるのは京子ではない。
俺の息子をかどわかし、いいように弄ぶ悪女、首領(ドン)・キョーコなのだ。
ドン・キョーコは人質に手荒な真似はしない。
むしろ手厚く接待し、またさらってくださいとリピーターまでいる始末。
今回俺の息子が弄ばれるのも初めてではない。ドン・キョーコは俺専用の悪女である。
他のヤツに同じ真似してたらマジ泣きする。三日三晩マジ泣きする。死ぬかもしれん。
あ、なんか泣きたくなってきた。

「何失礼なこと考えてんの」

京子がサオをギリギリと握り締めたので、俺は馬鹿な妄想から強制的に排出された。
痛い痛い痛いっつうの!ドン・キョーコは息子に手を上げない優しい悪女だったはずだ!

「場合によりけりです。っていうか謝れ。けなされたウチの純情に謝れ」

どうやら口に出していたらしい。
ごめんな、ドン・キョーコ。
だってお前スッゲー上手いんだもん。練習相手がいるのかと思って不安になったんだもん。

「アンタのために色々考えてきてんの。心配せんでも、ウチは全部時生のンやし安心し」
「う、そう直球で言われると照れる」
「変化球はヘタクソやもん。そん代わしストレートは速いねん。ねんねん」
「つーか、ちんこ咥えながら語る愛ってどうよ?」
「そんな愛もアリっちゃアリ」

ニヒヒと笑う愛しの君。つられて笑ってしまう俺。
まったく、えろいことしてる恋人どうしとは思えない。
………まあ、そんな愛もアリっちゃアリ、だな。


「ん、んう………」

女の子の中心に侵入していくと、俺の下で京子は少しだけ眉根をひそめて小さく押し殺した声をあげた。

「まだ痛いのか?」
「ん、少しだけ。だいぶ慣れたけど」

軽くキスして、緊張をほぐしてやる。
京子もキスのお返しをしてくれる。うん、幸せだ。

「はっ、あ、うン……」

腰を引いて、また押し込んで。
ゆっくりとした前後運動だけど、腰が抜けそうに気持ちがいい。
京子の膣内は、キツい。でも、彼女自身そう言ったように、これでもかなりほぐれてきた方なのだ。
初体験のときは痛がってまともにできなかったもんなぁ。しみじみ。

「はぁ、んん……気持ち、ええよぉ………時生ぉ………」

声が湿っぽくなるにつれて、くちゅくちゅと淫靡な水音も大きくなってくる。
俺の動きにあわせて細い身体ががくがくと震え、大波に浚われてしまわないようにとぎゅっと目を閉じてしがみついてきた。
それが、とても可愛くて仕方が無い。
揺れない胸の先端を甘噛みしてやると、簡単に高く声をあげる。

「きゅうんッ!や、ちくび、やぁあ……」

そんな縋り付くような目で見るな。
もっと気持ちよくさせてやりたくなるだろう?
動きながら、嬌声を聞きながら、俺のモノが納まっている蜜壷の突起をこねてやる。

「きゃ!!とき、と、それ、反則ぅ!!」

膣内がきゅ、きゅう、と悲鳴をあげる。さっきの誘惑合戦と同じだ。相手を攻めれば、それは自分にも返ってくるのだ。
俺の中にも、段々凝った熱い塊がこみ上げてきていた。

ギシギシとベッドをきしませて動く二人のカラダ。
汗と淫液にまみれた中で、唯一穢れないものがある。
さらさらと、流れるような京子の黒髪だ。
蕩けきった京子だけど、彼女の髪だけはそれでも乙女のような美しさを損なわない。
そうだ。
そうでなければ、困る。
そこを辱めるのは、最後の仕上げ。
そこを蹂躙してこそ、俺はお前の全てを溶かしたことになるのだから―――

「んんぅ! あはぁぁッ!! ああッ!ひぅ、きゅうぅ……あッ!あッ!!時生、時生、時生ぉお!!!!」

京子の声が切羽詰まってくる。
もうそろそろか。そう言う俺はもうちょっとタイヘンなところまで来てるんだけどな。どうせなら一緒にイキたい。

「ふぁ、ふぁ、ひぁああああッ!!時生ぉ、一緒に、一緒にぃぃ……ッッ!!」

あ、ダメだ。もう我慢できない。ていうか射精を我慢するなんて器用な真似、知らない。
ただ、腰を叩きつけ、最後の瞬間に向かって――――――

「ああッ!ああぁッ!!あかん、もぉ……イ、くぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううッッッ!!!!」
「う、くぁ………ッッ!!」

限界を迎えるその一瞬だけ手前、俺は締まる膣内から男根を引き抜いて京子に―――その、黒髪に向ける。
びゅく、びゅくんと勢い良く放たれる精液が、この世でもっとも美しい黒を白く汚していく。

「あはぁあ……時生ぉ……すきぃ………」

ひくひくと満足げに身体を震わせる京子を見下ろしながら、俺は―――
―――あとで、怒られるだろうな、などと思っていた。



「髪にかけんなって言うたやろ」

案の定、怒られました。
精液は放っておくとかぴかぴになるのは勿論、丁寧に洗わないと臭いが残るし髪を乾かすのに時間がかかる。
シャワー浴びてる最中に俺が乱入してもう一回戦開始、気がついたら延長一時間なんてことになりかねない。
……俺としてはかなり満足度の高い行為なのでこれからも続行したいところだが、髪が痛むといわれれば自重せざるを得ない。
本当に精液って髪に悪いんだろうか。なんか栄養価高くて逆につやつやになりそうなもんだが。

「とにかく、髪にかけんの禁止。返事は?」
「はーーい」
「絶対またやるな。コイツ」

そりゃ、まあね。

「……はぁ。今日みたいに時間のある時はええけど。前、ホテルで失敗してんの忘れんように。お金あったからええものを……」

京子はぶつぶつ言いながらシャワーを浴びに行ってしまった。
うん、あの時は本当に肝が冷えたもんだ。カバンの底に転がってた百円が神に見えた瞬間だったな。
ホテルの延長料金には気をつけよう。
と、裏を返せばお互いの家でする時は髪OKってことじゃないか?
そのことに気付いた俺は思わず小躍りした。
なんだよ、京子だって実はまんざらじゃないんじゃないか?

そうと決まれば俺も風呂場へ向かおう。
今度は濡れた髪であの「髪コキ」とかいうヤツを試してみたい。
京子は渋るだろうけど、また挑発して誘惑すれば直球なアイツのこと、頷いてくれるに違いない。

「おい、京子。俺も風呂」

足取り軽く、京子のあとを追う。
と、京子は部屋を出たすぐのところでポカンと突っ立っていた。

「なーにやってんだよ。あ、もしかして俺のこと待ってたとか?愛いヤツめ」

うりうり、と撫でてやるが反応なし。
なんだよ、と京子の目線を追って顔をあげて、

「あ」


母さんいた。

……そういえば別にどこにも出かけてないよな。母さん。


「………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………………」

てことは、声とかベッドのきしむ音とか、割と聞こえちゃったりしてたわけで。
とーぜん、俺たち、情事のあとで素っ裸なわけで。
つーか、京子の髪に俺のアレがぶっかてあるわけで。

「………………………………………………………時生。宿題、終わった?」

すんませんまだです。
合掌。


             わくわく誘惑ホームワーク~新ジャンル「関西クール」妖艶伝~ 完

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最終更新:2007年07月29日 13:17
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