「ああ、疲れた……」
俺はネクタイを緩め、そのまま敷きっ放しの布団に倒れこんだ
鍵は閉めたし、チェーンもかけた
これ以上、何もする気が起きない
あ、携帯とPCのメールはチェックしとかなきゃ……もしかしたら仕事先から何か来てるかもしんない
更にもしかしたら駄目元で行ったかの大企業から取引の持ち掛けメールが来たりなんかしたりして
「……あるわけねーか」
現実は非情だ、何のスキルも無いごく普通のサラリーマンにそんな奇跡が起きるわけない
申し遅れた、俺の名前は「筧布 団」……去年大学卒業したばかりのペーペーだ
入社してから色んなことを知ったし、学ばせてもらった
けど、その分だけ苦労や疲労は積み重なるわけで……正直限界がきていた
毎日規則正しく起きて出勤、真面目に働いて帰宅してさ……下戸だから同僚と飲みにもいけない
そんな生活に嫌気がさしてきて、今ではこの柔らかな布団の上が俺の安息の場だった
元々、俺に会社勤めは無理だったのさ
大学時代、休みの日は引きこもってPCで2ちゃんを見続けてきた現在進行形の童貞だぜ?
今まで良く保ったよ、えらいよ俺、ほめてやる
つーか、誰か俺をほめて……
そんなことを考えてる内に、俺は眠りの海に引きずりこまれていった
柔らかな布団は次第に俺の体温でぬくもり、中身の綿が優しく包み込んでくれる
ほんと幸せだよ
明日は有休とって、このまま寝続けてようかn…………
……
「起きて……起きて下さい、団さん」
……あー、もう少し寝かせて
「起きないと、会社に遅れますよ」
遅れても良いよ、だって布団がいつもより気持ち良くて
「そ、それは嬉しいのですが」
はぁ、そうだよね、布団が気持ち良いと嬉しくなるよね
ほら、こんなに柔らかくて……ムニュムニュしてて
「……んっ、そんな……変なところに触らないで下さ……ぃ」
ムニュムニュ? 普通、布団ってふわふわしてないか?
そりゃ万年床だけどさ、まだ綿の柔らかさは健在で……つーか、この感触覚えがあるな
そう、なんていうかずーっと昔……赤ちゃんの頃とか?
「ぁ……んっ、はぁっはぁっんんっ……!!」
あー、ふわふわじゃないけどこれも触ってて気持ち良いや
なんていうか、温かくていい匂いがして……まるで夢にまで見た女の人の柔肌のようで
……ん?
「……も、だ……ひゃめ……」
少し冷静に考えてみよう
この童貞の家に、なんで艶っぽい女性の声が聞こえてくるんだ?
あれか、脳内妄想が激しすぎて幻聴の域に達したのか
「そうじゃありま……んんっ!」
俺はおそるおそる、その目をパッチリと開けてみた
目の前に見えたのは、黒髪の女性
紛れもなく女性
しかも、俺に覆い被さってるじゃありませんか
「……お、おはようございますぅ」
まだ興奮醒めぬような赤みを帯びた顔で、その女性は俺に挨拶した
「おはようございます」
俺は反射的にそう返して、その後…………ショックのあまり気絶した
寝起きに明らかに感じ入って、頬を赤らめた黒髪美女を見たこと以外にな
俺の手が、明らかにその女性のふくよかな胸の辺りをもみもみしてたんだわ
てっきり布団だと思ってたものは、今まで母ちゃん以外触ったことのないおっぱいで
それがとどめだったんだ、童貞には
まるで現実逃避するかのように、俺が気絶したのは当然なのさ
笑わないでくれ……頼むから
「……はい、今日は体調が優れないので、医者に行ってからの午後から出社させて下さい。……いえ、急ぎの仕事はありません。はい、はい……」
俺は声の調子を落としながら電話口に立ちながら、何度も何度もお辞儀した
課内で俺が下戸なのは皆知っているから、二日酔いのズル半休ではないって考えてくれてる
「有難う御座います。では、失礼ゴホゴホッ……失礼しました」
最後の咳はわざとらしかったかな
こういうことをやるのは初めてだから、よくわからん
「しっかし、本当に休むことになるとは……」
それも、まさかこんな形で取ることになろうとは
「あ、あのー……お電話終わりました?」
ええ、おかげ様で
「そうですか」
いえ、礼には及びません……ってか、先ず幾つか良いですか?
「あ、はい」
あなたはどこの風俗嬢ですか? 俺、童貞卒業の決意を固めてどこかに電話しましたか?
「いえ、そうじゃないんです」
ああ、もしかして泥棒さん? 俺の童貞を盗みに来てくれたんですか?
「それも……違います」
おお、顔を赤らめて俺から目を逸らすなんて……そそるじゃないか
つーか、先ずね、あなたの服装が問題なのですよ
何ですか、そのけしからん格好は
「え? へ、変ですか?」
男としては非常に嬉しいのですが、世間一般からすればかなりおかしい部類に入ります
なんで、布団カバーのチャックから顔を出すような奇抜なファッションを取ってるんですか?
しかもその下、未だ手に残る感触から…………何も着てないでしょ?
「はい」
こら、そこ、嬉しそうな顔をするんじゃありません
大体、寒くはないんですか
「いえ……あなたが一晩かけて温めてくれましたから」
女性の頬が更に赤くなる
俺、やっぱり何かしちゃったんだろうか
すんません、童貞なんで避妊失敗してるかもしれません
見たところ、ゴムも使ってないみたいだし
「え……あ、あの……」
うーん、この場合、俺が誘ったってことで俺が責任取らなきゃいけないわけだよな
どうしよう、親御さんに謝りに行ったほうが
いや、この見た目の年齢だと……むしろ旦那さんのところへ行かないと駄目?
まさか美人局? ああ、とんでもないことをしでかしてしまったよ、母ちゃん
……そうだ、こんな時こそ2ちゃんだ、安価だ、助けてヴィパえもん達よ
「あのぅ、私の話聞いてくれます?」
ハッ……勿論ですとも
むしろ、あなたの口から総ての事情……もとい情事の詳細をお聞かせください
無我夢中で記憶も無い童貞卒業なんて、卒業してないのと変わらないんです
「……私、おふとんなんです」
………………ハイ?
もう一度お願いします。わんもあぷりーず。今、なんて仰いました?
「私、おふとんなんです」
あ、本当に頭が痛くなってきた
こりゃ、午後からの出社も無理かもしれん
……
「私、おふとんなんです」
いや、全くわかりませんよ
なんですか、おふとんって?
そういう名前なんですか? 変わってますね
「そうじゃなくて……なんて言ったらいいんでしょうか。……団さん、つくも神って知ってますか?」
つくねなら焼き鳥屋でよく食べるけどね、たれのやつ
「えっとですね。長いこと使われているものにはその内、魂が宿って……いわゆる妖怪化するってものなんです」
はぁ、神って付くのに妖怪なんですか
ていうか、それ、だいぶ違う気がするけど……まぁいいや
「ですから、私、おふとんのつくも神なんです」
ああ、それで「私、おふとんなんです」ですか
なるほど、なるほど、そっかーなるほどねー
「理解してくれましたか」
出来るかボケェぇえぇぇえぇぇぇっ……!!!!!
「え、えぇーーーーーっ!!!?」
そんなん、いきなり言われてもね、現実味が無さ過ぎるんですよ
要するに、あなたはおふとんの擬人化さんなんですね
いわゆる新ジャンルなんですね
「あ、はぁ……最近はそう言うんですね」
ごくごくごくごく一部ではそう言うんです
「私はおふとんの擬人化……つくも神です。具体的にはあなた達の言う肉体は中身の綿が、服は」
その布団カバーってこと?
「そうです。そんな風に変化したみたいです」
とてつもなくエロいですよ、それは
「は、はぁ……」
うん、これはやばいですよ、そこの見ているあなた
だって、白の薄い布団カバーだけですよ?
下は素っ裸、全部見えるより興奮するものがありますよ
どうも身体の方は普通の女性らしいし、何よりグラマーなんでいけない突起物や身体のラインが隠しきれてないんですよ
窮屈そうで、こうチャックを全開にしてあげたいくらい
「だ、団さんって助平なんですね……」
いや、あなたの身体や格好が反則的過ぎるだけですよ
ていうか、なんで女性なんでしょう?
「さぁ……私は団さんに使われていたおふとんですから、それなりに団さんの思念がそうさせたんじゃないでしょうか?」
つまり、俺はこういう色っぽい黒髪若妻属性があるってことなんですね
否定出来ませんよ、だって俺の下半身が正直にそれを証明してるもん
「というわけで、これからも宜しくお願いします」
おふとんさんが布団カバーの中から三つ指つけて、丁寧にお辞儀した
ん? どういうことでしょうか?
「いえ、ですから、これからも団さんのおふとんとして使命を全うさせてください……てことです」
な、何だってー!!!(AA略)
……そ、それはマジですかぁ!!?
「そんなに喜んでもらえて、私も嬉しいです」
い、いや嬉しいのは嬉しいんですが……こう……世間体や俺の理性が……
「どうして?」
おふとんさんが布団カバーを引きずらせ、俺の傍にそっと近づく
カバーの中からきしゃな指先を俺の頬に添わせ、しだれかかってくる
「私はこう、おふとんとしてあなたを包むだけなのに」
あ、もうやばいです……息、桃色の吐息が俺の耳にかかってますよ
「綿がこんなお肉になってしまいましたけれど、こうしてより一層あなたと密着出来るようになりました」
そう言いながら、おふとんさんが俺の身体を抱きしめる
もうね、人肌ですよ人肌……あったけぇー
柔らかいもんが当たってますよ、いけない突起物が薄布一枚越しに押し付けられてますよ
「気持ち良いですか?」
はい、勿論
…………考えてみれば、おふとんさんに恥ずかしいとか何とかって気持ちは無いんだろうなーと思う
だって、おふとんさんはいつもの職務を全うしてるだけで、俺が意識しちゃってるだけなんだもん
こりゃ罪作りにも程があるよ
ほんとにもう、いつ理性が飛ぶかわかりませんわ
あなたなら、ふとんに欲情したって世間一般から蔑まれても構いません
つーか、もうムラムラして下半身が限界突破しそうです
……聞くのもあれですが、あなたの身体でイッちゃってもいいですか?
ていうか、思い切りぶっかけちゃっていいですか?
ていうか、布団カバーから中身引きずり出して……ほんとに完全に女体化してるか色々突っ込んでみても良いですか?
ていうか、あなたのま○こで俺の童貞卒業決めちゃってもいいですか?
「私は構いませんけど」
私は構いませんけど
私は構いませんけど
私は構いませんけど
私は構いませんけど
・
・
・
キタ――――――ッ!!!!!
こりゃもう、午後から会社なんて言ってられるか
今日一日ズル休みして、あなたという存在を堪能しつくしてくれる
おふとん擬人化でも構いませんよ、もう
あなたという存在で童貞卒業なんて夢のよう
こりゃ、明日辺りに2ちゃんにスレでも立てよう
サブジェクトは【ついに】おふとんは俺の嫁【童貞卒業】にでもするか、いやもっと良いのを考えよう
なんたって、今日は人生最良の日…………無宗教な俺だけど、神様有難うっ!!!!
俺がはしゃぎまくってる最中、おふとんが首を傾げながら言った
「私の身体で何してくれても構いませんけど、汚したらちゃんと洗って干してくださいね?」
……ええ、勿論! 汚したら干してあげます!
あなたの為ならなんでもしてあげますよ! もう!!!
…………ん? もう一度お願いします。わんもあぷりーず。今、なんて仰いました?
「いえ、ですから汚れたら洗ってくださいって。そして、干してくださいって」
干すってどうやって?
「私の中身を取り出して、たまにやってくれてるようにベランダに。二つ折りとかで」
ベランダに
ベランダに
ベランダに
ベランダに
・
・
・
ノォ――――――ッ!!!!!
な、なんでそんなこと……俺、近所からなんて言われると思うのよ!!?
「知りません。私、おふとんなんです。今だって、布団カバーが汚れてるのが気になってるのに、中身まで汚れたとなったら耐え切れません」
いや、そりゃそうかもしれないけどね
でもね、あなたが耐え切れない以上に私の下半身が耐え切れないのですよ
「いつもは、せめて私だけでも汚さないように処理してくれてたじゃないですか。そうしてください」
そんな! 極上のあなたを目の前に、いつものように済ませろと!!?
そりゃ酷い、酷すぎます!!!
「私は、おふとんなんです。そりゃ……あなたのおかげで私は生まれたんですけど、それ以前に私はおふとんなんです!」
……うん、気持ちはわかるよ
でもね、俺の気持ちもわかってほしいなー……
「私は、おふとんなんです」
うん、だからね……童貞卒業……
「私は、おふとんなんです」
うん、だから……
「私は、おふとんなんです」
うん、だ……
・
・
・
うん、わかった……そうするよ……
「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いしますね」
おふとんさんはにっこりと微笑んだ
母ちゃん、俺の童貞卒業はまだ先の話になりそうだよ
……明日のスレ立て、サブジェクトは【まだ】おふとんは小悪魔【童貞】でいこうかな
ああ、完全に会社行く気失くしたよ……
俺ががっくりと肩を落とし、いつものようにティッシュを用意する
今まではエロゲに頼ってたけど、今日から目の前にあるものが代わってくれる
その分だけ、今までよりマシかなと思える俺はちょっと凄くね?
誰かほめて、ねぇ……ほめてよ……
「……あぁ、あのさ、せめてフェラだけでも……してくれない?」
と意気消沈気味に頼もうとしたが、そういえば顔も綿が変化したものなんだと思い至る
経験の無い俺が我慢しきれず、口内発射でもしたら…………そう思うとそれも頼めない
俺の憂鬱を気にせず、おふとんさんは新たな自分という命を再認識するかのように、きょろきょろと辺りを見回している
ああ、かわいいよかわいいよおふとんさん……ハァハァ
……それで気づいたんだが、おふとんさんは滅多にその場から動かない
やっぱり元がおふとんだから、動くのがおっくうなんだろうか
それにしても、あの柔らかさ……あの……ゥウ……ッ!!?
「……団さん」
おふとんさんが何か思いつめたような顔で、俺に声をかけた
……俺はもう少しでイケそうだったんだが、これの所為でちょっと萎えたぞ
なんだ? まだ何か?
おふとんさんが自らの服というカバーをくんくんと臭いをかぎ、そしておもむろに中からチャックをこじ開ける
「やっぱり我慢出来ません。今日はとりあえずカバーだけでも洗濯して下さい!」
全開にしたチャックから勢い良く飛び出るおふとんさん
恥じることなく総てをさらけ出したおふとんさん
ふくよかなおっぱい、白い肌に腰のくびれ、ヘアーもスジも隠そうとしないで実に堂々としていた
その絶景に、俺はまた気絶した
童貞卒業の前の、モザイクかかった2次元のしか見たこと無い俺には刺激が過ぎたんだ
笑わないでくれ……頼むから
なぁ母ちゃん、童貞卒業前の俺に、どれだけこの苦行に耐えろって言うんだい?
誰か、教えてくれよ、頼むよ
……そうだ、こんな時こそ2ちゃんだ、安価だ、助けてヴィパえもん達よ
-完ー
最終更新:2007年07月26日 17:43