夏の終わりのツンデレラ3

葛城すすきは焦った、気にある同級生男子に自分の半裸の姿を見られたことより、
廊下から聞こえる聞き慣れた声に焦った。

「-----、って信じられるか!」
あの思い込みが激しい上にそそかしくっておっちょこちょいな癖に、司馬遼太郎の
「竜馬がゆく」の奇兵隊の下りに感心してバカ正直に素振りだけを毎日欠かさなかったので
面打ちだけは上手くなった叔母の声。

あのいつにない緊張した声は、何か得物を(多分階段の登り口に管理人の温子おばちゃんが
置いているほうき)を持って構えてるに違い無い。
一度痴漢を見事な面で撃退して以来面打ちは彼女の必殺ブロウなのだ、たとえそれが痴漢だと
思った相手が出入りの庭師の小父さんで、後で平謝りに謝り、両親にこっぴどく叱られたとしても。

服なぞ着替えている暇はない、的を誤認するあの必殺剣を止めねば。
ざっと見渡して、目についた寝巻き代わりのダブTを上から被ると部屋を飛び出す。

「だめぇ!いず姉ぇ!」
次の瞬間、彼女は背中から抱きすくめられた
『え?え?い、生駒?何を?』
「くそ!」
耳もと少年の呟きも吐息ともつかに声がした刹那、身体がくるりと反転し
ぎゅうと抱き締められた。
「え?え?いやぁーーん」
バッシィーン!
「ぐぁ」

おもわず叫んだのと
強烈な破裂音と
少年の断絶間の声が聞こえたのが同時だった。

ぐぐっっと背中が重くなる。
「あ?あ、ああ、ちょっちょとだめ、だめよ、ああっ」
小柄なすすきのに後ろから竹生がのしかかる事になるからたまらない。
彼女はたちまちバランスを崩す、このままだと倒れるのは必至だ。
彼女を縛る腕には既に力は無い、このまま振り解けば彼女は倒れることは無いだろう、
しかし
竹生のこの行動が自分を庇う為の行動だと理解したすすきにはそれは出来ない。

「ああっすーちゃん!この痴漢奴なんて事を、ゆるさん!」
「だめ!いず姉ぇ、違うの!この人は-」

  • この人は-

  • コノヒトハワタシノ-

「違う!違うの!...この人は違うの!あ、ああ」
もう倒れると思ったが、はっと気が付いたすすきは部屋側の壁に倒れこんだ。
バスンと竹生の身体がかべによりかかる、これで彼もろとも床に倒れる危機は回避出来た。

「ちょっとちょっと待ちなさい、すーちゃん!何、どういう事?合意の上って事なの!?
だめよ!ダメダメ!お姉ちゃんそんなの許さないわよ!あなたね、まだ若いうちからそんな」
「もう!いず姉ぇ、ちょと助けてよ!そんなんじゃ無いの!この人は-」

  • ワタシノダイジナ-

「同級生よ、友達なの!いいから早くなんとかしてぇ!」
「ど、同級生ぇ?な、だからなによ、だってそいつあんたの」
「和泉(いずみ)ちゃん!」
「おばさん?」
「温子おばちゃん!なんとかしてぇ!」

助かった。
温子おばちゃん、元々本家の家政婦だったのが、家を飛び出した和泉を心配してついてきて
結局このアパートの管理人に収まった、和泉の親代わりにして頭の上がらない存在。
(飛び出したと言っても、その時に和泉は祖父からこのアパートを建てて貰っているのだが)

「お、おばさん、だって、だってこいつすーちゃんに」
「何言ってるの和泉ちゃん!、この男の子が庇ってくれなかったら今頃すすきちゃんの額を
あんたがそのほうきで割ってるとことだよ!まったくあんたって子はたまに帰ってきたらこれかい」
「あ...」
「ほら、よいしょ、可哀想に目回して..ほら、和泉ちゃん手を貸して、あんたはそっち持って、
あんたらの部屋じゃ散らかってるからあたしの部屋に。まったく二階はあんたらしか使ってないんだから
もうちょと静かに..和泉ちゃん、いくらあんたのモンだからって下には店子がいるんだからね...
すすきちゃん、ほら何時迄そんな格好してるの、はやく着替えてらっしゃい」

その後は

「おばちゃん」に和泉はこっぴどく叱られ、気が付いた竹生に平身低頭。
ぜひ医者にという和泉に頑として断る竹生。
何言ってんだい、子供が遠慮しなさんなと温子おばさんに言われ、それじゃと竹生。
それじゃわたしがと、和泉。
何言ってんだいあんたが出ていくとロクな事になんないよ。すすきちゃん、あんた付いて行っといで。
と、
ぽぉんとふたりして送り出される。

医者に行くたって、まさか造影剤いれて精密検査なんてしやしないから、
いやぁ見事なたんこぶだねぇ、気分が悪く無いかい?まぁ脳震盪だね、なんかあったらすぐ来なさい。
くらいのことで済んでしまう。
会計はすすきがカードで済ましてしまい、
お前カード持ってるのか?
そうだけどうして?
なんて当たり前の様子のすすきにちょっと格の違いを見せられた思いの竹生。
保険証なんかいらないのかと言う竹生に
いいよこれくらい、どうせ後から姉ぇさんに請求するし、と言いかけ、あ、と思ったすすき。

「そうね、んじゃ...今度、今度来る時に持ってきて」
「今度..今度か..葛城、あのな」

あのな?何?彼は何を言い出そうとしている?駄目だ、駄目、ダメ、それだけは言わせるな。

「何、来ないの?もう全部読だなんか言うつもり?」
「いやさすがに其れは無いが..あの、とりあえず色々すまん、もうこれ以上お前に迷惑」

駄目だ、ダメダメダメ迷惑かけたからなんだ?そうは行くか、迷惑かけたって言うなら、

「迷惑?ほんと迷惑だわ、勝手に飛び込んでくるわ、ひとの恥ずかしい姿見るわ、それから人の...」
「すまん!あれはホントに事故だった」
「事故?なにが事故」
「いや、それはなんだ、咄嗟の事だったから、...すまん!この通り」

でもそれでお前は助かっただろう?とは、この少年は言わない。
ああそうだ、いつもこの人はそうだった。
思わず手を合わせて拝む様に頭を下げる竹生を見てすすきは思う。

いつも突然現れて
勝手に人をどきどきさせて

そして

「あ、ありがとう」
「え?」
「あ、ありがとうって言ってるのよ、助けてくれて..その、ありがとう」

困った時は助けてくれる

「い、いやそう言われるとその、なんだ困る」
「もう!だから!迷惑なんて思ってないわよ!なによいつも勝手に解釈して!」
「そ、そうか、すまん」
「もう!もう!だからその『すまん』て言うのやめなさいよ!いい?今度言ったら罰金よ!」
「罰..そうか.ああそのお礼はーあれだ、、いつも世話になってるからな、こちらこそ有難う」
「え?あ、あ、そう、そうね、だからお相子、あいこよ。だから又来ればいいじゃない、あのほら、
『英雄伝』の新刊も買ってあるよ?」
「お、そうだついにヒロトとローラが再会したしな」
「え!ウソ!そうなの!」
「あ、しまったお前まだ読んでなかっ..すまん」
「え?あ、あ!罰金!『すまん』って言った!」
「あ、しまった、そうか罰金...罰金か」
「そうよ、罰として次ぎに来る時になにか美味しいものを持ってくること!いい?」
「う、ううん、そうか、やっぱりどら焼き欲しかったのか?」

でもどこかズレてる

なんでこうなんだろう、この鈍感。
だから
だからもうすこしこのままで、もうすこし時間をかけて

じっくり思い知らせてやる、この鈍感に。

「もう!またそれぇ!」
そう言って、あははっとすすきは笑った

新ジャンル
 「ラブコメ分追加...出来たのだろうか....orz」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年09月15日 16:30
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。