「勇者様、是非とも我等をお救い下さいっ…」
小さな村、其処にブレイズは居た…勇者として
「任せろ、魔物など俺が蹴散らしてやる」
依頼の内容はこうだった…
『森に数匹の魔物が発生し村民を襲っている、勇者は森に入り標的を駆除する』
たかだか数匹―…なんとも張り合いの無い依頼だ…
森の小屋の中でブレイズは考えていた
小屋に足音が近付いてきたからだ―どうやら魔物らしい…最初に見えた魔物は犬型だった…
小屋を飛び出し犬っころに切っ先を向ける……
「犬っころは嫌れぇなんだよ」
ズドッ―…悲鳴を上げ犬が倒れる
おそらく今の悲鳴で他の魔物にも気付かれただろう…
…………と、いうか唸り声が森全体から聞こえる気がするのだが…
槍を持ち直し―…魔力を込める
刹那、バジジジと音をたて槍―…グングニルが帯電する
魔力に反応し帯電する槍…師匠からの送り物の1つだ
「ガァアァァウ!」
鷲型の大形魔物がこちらに飛来する
獲物を見据え、大きく翼を開き滑空する
それは狩人の目でこちらにやってくる
ただ1つ―…彼が理解出来て居なかったのは、どちらが狩る側かそれだけだった
魔物に向かって走りだす、交差する刹那、魔物が爪を繰り出すよりも一瞬早くグングニルを前に突きだす
「喰らえ、神槍っ!!」
鷲型の魔物は悲鳴すら上げる事無く絶命した
…人間のみならず、全ての生き物は脳からの電気信号で動いている
故に体内にそれ以上の電撃をぶちこんでやれば、敵は動く事すら出来ずに絶命する
師曰く、槍のほんの尖端でも体内に入れば死、故に『神槍』―…
無論、魔法使いではない俺には師ほどの神槍は扱えないし、俺自身への負担も凄い
しかし、槍という武器の特性上魔物に囲まれるという最悪の展開を阻止するためにも使わざるをえなかった
後二回が限度だろうか―…
そんな事を考えていると、大きな唸り声が前から迫ってくる
巨大な三頭犬―…
俗にいうケルベロスである
咄嗟に左に回避し思わず口に出す
「くそったれ…あんなのが居るなんて聞いてねぇぞ」
木々を砕き、雄叫びをあげケルベロスが迫る
あれでは、槍で突く前に俺自身が粉々になる
仕方ないか―…
「くそっ…執行可能回数は後7回しか無いってのに」
…―胸に手を当て叫ぶ―…
「契約執行っ!」
初代ジャルシア王は血により魔物を操る『魔物使い』だったと記録が残っている―…体内に多数の魔物を住まわせ、その魔物と契約し、緊急の場合はその魔物と自分の身体を融合し『戦う王』だった
この間魔物は王家の血の麻薬効果で王の言いなりだった
その血が薄れていき、魔物に喰われるのを恐れ、王家で近親相姦を始めたのが三代目―…『恐れる王』
しかし、それも血が薄れるのを遅らせるだけだった
悩んだ六代目は体内に住まう魔物を一匹とした
その魔物はジャルシア王家の血を内側から飲む事で体内に留まる利益と体内に留まらざるを得ない縛りを同時に与えられた―…『考える王』の苦肉の策であった
そして、そして当代の王家ブレイズも魔物を引き継いでいるのだった
左肩胛骨から骨が軋む音と共に漆黒の翼が
ポニーテールが更に伸び、綺麗な青髪が紅く―…血のように紅く
白い柔肌がどす黒く異形の物に変わる
どこからともなくもう一本の槍がブレイズの手に収まる
その者は闇、闇の国の王家の当代
その者は光、闇の国の民にとって
その者は退化、混血故の片翼
その者は進化、混血故の片翼
「我は十六代目―…闇の王家の魔」
ケルベロスも雰囲気が変わった『私』に戸惑ってるのかしら、動きを止めてこちらを伺ってるわ
それもそうよね、今の『私』は人間というより―…魔物に近いんだから
うふふっ…いらっしゃい子犬ちゃん………八つ裂きにしてあげるわ
殺気に当てられたのかしら、ケルベロスが牙を剥き出しにしてコチラに飛び込んでくるわぁ
グングニルでそれを受け止め、もう一本―…フレアランスで目を潰す
ウフフフ…心地いいわぁ悲鳴が…もっといい声で鳴いて頂戴、子犬ちゃん
まだ戦闘意欲を失ってない子犬ちゃんの前足指に槍を突き刺す
もっといい声で泣いてくれなきゃ…
転げ回る子犬ちゃんの顎を掴んで、舌ピアス穴を開けてあげる
―…リード通してお散歩させたら楽しいかしら
でも―…もう飽きちゃった、終わらせましょ
グングニルとフレアランスを構えてケルベロスに飛び込む
羽根をしならせ、飛び上がりケルベロスの背中に着地する
「あははっ、いい声で泣いてね?」
右手に神槍蒼白く光輝く
左手に魔槍紅黒く燃える
神魔携え片翼の魔が吼える
『神魔二槍っー―!!』
あはっあはははは…血のシャワーが気持ちいいわぁ…
突如立ちくらみに襲われる『私』
あぁもう、タイムリミットなのね…残念…
――――………何度目だろうか、この吐き気がする『俺』が『俺』に戻る感覚
魔物と融合するとついついやり過ぎちまう
とりあえずこんなのが居るって知らせなかった村長を問い詰めてやる
最終更新:2007年09月22日 21:43