無謀な彼女

俺の彼女、浅井 茶々(あさい ちゃちゃ)は変態である。
いや、別になんかのナサギってわけじゃない。単純に変態性欲者なのだ。
尻を叩けだの縄で縛れだの罵れだの踏めだのはまだいいほうで、突然おしっこ飲みたいとかおしりでヨロシクとか言ってきたりする。
流石に尿道がどうとかぶつぶつ言ってた時は全力でご勘弁頂いた。だいたい、俺は異常性癖に理解があるわけじゃないのだ。
理解できるのはコスプレくらいのごくライトなもので、基本はお互い生まれたままってのが一番だろう。
保守的となんと言われようが、性交はお互いの愛こそ全てだと信じている。
ただ、その、そういう意味では俺は彼女のことが好きだし。
何事にも一生懸命で、ちょっとずれてるけど、何にでも興味津々なところは最高に可愛いと思う。

………………………。

………そうなのだ。
茶々は別にその手の行為自体に興奮を覚えている訳ではないのだ。
ただ覗き込んだ性の世界があまりに深遠かつ広大で、ちょっと持ち前の好奇心が刺激されているだけなのだ。
………と、信じたい。

色んな行為に手を出してはことごとく失敗しているのは証拠のひとつ。
尻を叩けば痛いと泣くし、縄で縛れば転んで泣くし、おしっこは霧状にして噴き出すしおしりは………ヴォナギノールにお世話になるし。
まあやり方が悪いのだと彼女は言うが、パートナーにやる気が一切無い時点でやり方も何も無いと思う。
………かと言って好奇心の赴くままに変態親父に浮気でもされてみろ。
俺も生きていけないほどのダメージを食らうだろうが、茶々だってお天道様の下を気兼ねなく歩けるような人生は望めまい。

曰く、好奇心は猫を殺す。

彼女が万が一にでも木から落ちて頭をカチ割らないよう、ほどほどの所で引き摺り降ろさなければ。
小さい頃から、茶々の無茶に付き合いブレーキをかけるのは俺の役目なのだ。
しかし…………ほら、なんかまた呼んでる。
スッゲェいい顔して俺を呼んでる。
ありゃあまたよからぬことを考えついた顔だ。
あんな顔されて、後々酷い目に合わなかったことなんて一度も無い。
でも。
やっかいなことに、茶々が一番可愛いと思えるのは―――。


――――ああいう、どんな曇天も一瞬で快晴に変えるような満点の笑顔のときなのだった。

「れんくーん」
「なんだよ、茶々」

二学期も中盤に差し掛かり、大まかな行事が終わってなんとなく学校全体がぼや~っとした空気に包まれた今日この頃。
コイツも例に漏れずダレちゃちゃと化していたと記憶にあるのだが、どうやら復活したらしい。
しかし、教室のド真ん中で「れんくん」とか呼ぶな。
恋人同士なんだからちゃんと「蓮二(れんじ)」と呼び捨てで呼べばいいじゃないか。

「何言ってんの。れんくんはれんくんでしょ?それよりさ、ハイこれ」
「ん?」

茶々は何気なく、本当に何気なくポンとそれを俺に手渡した。

手のひらにすっぽりと収まるサイズの箱状のナニカ。
小型のラジオのようにスイッチと目盛りが付いていて、ナニカの強弱を遠隔操作で調整できる、よ、うに―――――………。

「………………………………」
「ア・ゲ・ル♪」
「ィヤ~バダバドゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウ!!!!!!!」

それがナニカ悟った俺はくねくねさんの正体を知ってしまった憐れな被害者のように絶叫し、
一目散に窓へと駆け寄るとそのままの勢いで遠投を試みた!

「何すんのさ!」

しかし茶々は空中であっさりキャッチ、くるくると回転しすたっと着地。さすがだ。

「お前が何すんのさ!」
「プレゼント渡しただけでしょー。彼氏としてそれはどうかと思いますよわたし」
「いや、俺の反応は至って普通だと思う。むしろ彼女としてそれはどうかと思います」
「彼女………えへへ」

照れんな。

デッサンの蕩けた笑顔に思わずぎゅってしたくなるがなんとか堪え、俺は茶々の首根っこをひっ掴んでずるずるずる……。
とりあえず人気の無い階段の踊り場まで移動する。

「何、また怪しいもん買ったのお前」
「怪しくないヨー。カテゴリー的にはジョークグッズ。鼻眼鏡とかと一緒だヨー」
「お前はローターをつけてビンゴ大会に挑むのか」

そう。
茶々が手渡したのは小さくてぶるぶる震えて主に性器を刺激するニクイ奴、ピンクローターの遠隔操作リモコンだったのだ………ッッッ!!!!!
家にいるときなら、まあまだしもここは学校だぞ。まったく、何考えてるんだお前は。

「何考えてるんだお前は」

聞いてみた。

「そんなの決まってるよ。日進月歩で性癖開発!開け新たな快楽の扉!!
今日のチャレンジは『らめぇっ!れんくんここ学校なのにぃっ!!~女子高生恥辱授業編~』です!!!!」

聞かなきゃよかった。
っていうか何で俺が強制してるみたいになっているのか。
人気の無いところに移動してよかった。こんなこと聞かれたらまたよからぬ噂がたってしまふ。
縄を使った翌日早速手首の跡を見つけられて女子に喋ってしまうし(しかも何故か自慢げに)、
痔になったときなんか、教室内で「そんなのれんくんが優しくしてくれないからじゃん!」ときたもんだ。
直接単語を言わなかっただけマシだが、あれ以来俺は影で鬼畜呼ばわりされている。
誤解だ。
鬼畜なのは俺じゃなくて茶々のほうだっつの。
色々と素直なコイツのことだから、スイッチを入れた途端「ひゃんっ」とかちょっと可愛く叫んでバレてしまうに違いない。
これ以上生々しい伝説が増えるのは勘弁して欲しかった。

「大丈夫です。わたし我慢します。むしろ我慢することこそ真骨頂?」

そうは言ってもなぁ。

「な、せめて家に帰ってからにしようぜ?」
「ばっ、何言っちゃってんの?学校でするからいいんでしょうがぁ!それにもう中に入れちゃってるもん」
「ばっ!!」

はい、そうでした。茶々はこーいう娘でした。
いっつも無謀なチャレンジ繰り返して、それで周りをハラハラさせて、痛い目見てもけらけら笑って………
付き合ってやってる俺の身にもなれってんだ!
この際だからはっきり言ってやるぞ!!ああ、言ってやるとも!!!
俺はなぁ!!


……………地獄の果てまで付き合ってやんよ。

「えーえー、ヘタレですとも」

でもなぁ、アイツだけに危ない橋を渡らせるわけにはいかないのだ。
ここでかっこよく回想シーンとかに入れればいいのだろうが、
残念ながら俺と茶々の間にそんなドラマチックな歴史があるわけではない。
ただガキの頃から無駄に好奇心旺盛だった茶々の面倒を見るのが、俺の役目だっただけ。
思い返すだけでも涙が出る。
花見。ウイスキーをガブ飲みしてそのままリバースした春。
海水浴。漂流した夏。
キノコ狩り。遭難した秋。
スキー。遭難した冬。
………それに比べればまだマシなのかも知れなかった。茶々は悦んでるし、命の心配はしなくていいし。
いやホント。アイツのチャレンジは失敗がデフォだから、
海とか山とか自然相手のチャレンジには前もって遺書を書いていかねばならないのだ。
カエルを心底うまいと思った小学生はきっと全国的に見てもごく小数だろう。
腹が減ればなんでもおいしい。

授業なんてものは教科書読めばだいたいわかるからいいが、さて、どうしたものか。

俺は机の下で手渡されたリモコンをいじくりながら、小さくため息をついた。
電源はオンにしてあるから、この目盛りを捻るだけで電波がピピピと飛び、
茶々の体内(具体的には膣内)にセットしてあるローターのバイブレーションがサバイブすることになる。
でも俺としてはあんまり無茶はさせたくないわけであり、しかし動かさないと茶々は剥れるだろう。
すねた茶々はそれはそれで可愛いが食欲が普段より増すのが困りもの。
あとグルメになるのも困りもの。クレープと大判焼きの違いは大きいのだ。

やれやれ。

とりあえず目盛りを「弱」まで合わせて、

「ひぁあうぅぅ」

という間の抜けた声が聞こえた。
俺のすぐ隣から。

そう、茶々は俺のすぐ隣の席だったりする。
………近くね?
どうした、という教師の問いになんでもないです、と答えた茶々にアイコンタクトを送る。

(おい、何声出してるんだよ!)

済まなそうに見つめ返してくる茶々。

(ゴメン、いきなりだったからちょっと驚いた)
(やめるか?つーかやっぱやめようぜ)
(何を仰いますか!ここからが本番でしょうね!!)
(はぁ……わかったよ。仕方が無いなぁ……でも、一回止めるからな)
(いちいち了解とらなくてもいいの!)

ちなみにこの間所要時間0.6秒ジャスト。
付き合いが長く、様々な死線を超えてきた俺たちは最早翼クンと岬クンばりのアイコンタクトが可能なのだ。
おかげでいつだったかやった目隠しプレイは茶々の不安が倍増し、
途中からマジ泣きしだして必死になだめることになった。
まあどんな茶々も可愛いが、泣き顔の茶々も結構可愛かったりする………は!違うぞ、俺は違うぞ!
茶々を泣かせるやつは俺がブン殴ってやる!
よし、気を取り直そう。

この、ピンクロータープレイの醍醐味はなんと言っても羞恥心にあるだろう。
周りの連中に気付かれちゃう、くやしいっ!でも感じちゃうところだ。
いつ動き出すかわからない!嫌が応にも敏感になっちゃう身体がそれを増幅させる。
まぁ茶々の場合それがビクビクじゃなくてワクワクになってるところがアレなところだが。
んー、なぁんかキッカケみたいなものはないだろうかにゃー……などと、
適当にツマミをぐりぐりさせながら考えていたそのときだ。
机の下の目盛りが、知らずに『強』になっていた!

……ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ

すぐ傍から聞こえる、低い虫の羽音のような音。
音!
そう、振動による刺激だけではない!
静けさが尊ばれるこのご時勢、コイツだけはあえてギリギリの音こそ武器にしているのだッッッ!!!!
『中』はまあ、耳をすませば聞こえないこともない、くらいの振動音だったが『強』は違う。
たとえ茶々の体内にあろうとも、はっきり聞こえるバイブ音!
これは……コトだぜ!

「………………ぁ、う……?」
「………………………………!!」

度重なる振動攻撃に顔を赤く染めた茶々が俺を見る。
その目が何を言わんとしているのか、俺には耳で聞くよりずっとはっきりと理解することができた!!

「………………………………………………」

力強く、頷く。

逝ってこい。骨は拾ってやる。

そしてとうとう、茶々はその行動に出る。
左手を。
すっと、高く、高く。
挙げた。
それは茶々にとって自らを千尋の谷へ追いやる行為だ。
何故なら茶々の成績は常に中の下。
テストのたび俺に泣きつくのが常習となっている。
そういう生徒は、授業中教師に指名されまいと俯き、じっと終業の鐘が鳴るのを待つしかない。
もし当てられて黒板に書くことにでもなってみろ。
そのまま窓を突き破って逃走したい気分に駆られること請け合いだ。
そしてご存知の通り今の茶々はそれだけではない。
彼女の体内にある特殊振動波発生装置を衆目の前で起動させるのだ。
その衝撃たるや、腰骨を砕いて歩行不能にするに余りあろう。
だが――――――それは。

覚悟の上ッッッ!!!!!!

「おう、浅井か。珍しいな」

教師は普段滅多に自己主張しない(授業中ニ限ル)生徒の意外なアピールに興味を持ったようだ。
確かにあの手の挙げ方。
姿勢と言い腕のハリといい完璧である。
百人を超える講義中でも、あんな手の挙げ方をされては指名せずにはいられまい。
ましてや、数人しか手を挙げない授業中だ。

茶々は、優雅な足取りで黒板に向かう。

――――――俺の戦いはここから始まる。

感じなのはタイミング。
早くてもいけない、焦らすのは基本中の基本だ。
遅すぎてもいけない。
生徒たちが注目するのは問題を解く生徒とその答え。
黒板に書き終わって席に戻ってくる生徒などもはや視界から消えている……それでは意味がない。
俺は注意深く、茶々を観察する。
ひとつだけハッキリしているのは、あえて期待を裏切ること。
ここ!という以心伝心のタイミングから、心臓の音を数えて三回。
緊張が頂点に達し、ピークを過ぎたときこそ狙い目なのだ。
それを見定めろ、俺。
木陰の川蝉より鋭く。
草原の獅子よりなお鋭く。
灼熱の肉体と極寒の脳味噌が極限の集中力を呼び覚ます。
茶々が最も快楽を覚える瞬間を――――――。

って。

何やってんだ、あいつ。
なんか、チョークを持ってオロオロしているように見える。
っていうか、チョークを持ってオロオロしている。

………待て。
あいつ、まさか。
問題が―――わからないのか。
ウソだろ。
なんということだ。
茶々のヤツ、完全にノリだけで手を挙げたというのか―――!!!!


始めは、人前に立つことしか考えていなかった。
手を挙げ、師にこの名を呼ばれよう、と。
ああ、いつこの身を焦がす振動がくるのか。
心を躍らせて白亜を摘み、ふと気付く。
………まったく、わからない。
なんだろう、このアルファベットの羅列は。
………あれ?
わたしは。
なにを。
しにきたんだっけ?
問題を解く?
わからないのに?
あれ?

―――ナニカが、とてもズレていた。

赤面していた顔が一瞬にして蒼く染まる。
襲ってきた感覚は、焦燥。
あれ?あれ?どうしよう、わからない、どうすればいいかわからない……!!
ああ、そうだ。思い出した。
この身体には、今。
卑猥な振動の元が、入っている――――――!!!!
嫌だ、こんな。
たすけて、れんくん。
みんな、みんなが見てるのに。
みんながわたしを見ているのに――――――なんで。


笑いを、堪えきれないのか。
最高の混乱と緊張、それこそ我が絶好の機会に他ならない。
喰らえ、茶々。

――――――天国、見せてやんよ。


「ホントに大丈夫ー?」
「もう無理しちゃダメだよー?」

などと言っていた女子共も帰ってしまって、今保健室では俺と茶々のふたりきりだ。

「すまん……ッッ!!!!」

俺はとりあえず頭を下げていた。
あんなタイミングでスイッチを一気に『強』にするなんて、ホントどうかしていたとしか思えない。
俺はそんな鬼畜じゃないんだってば。
だがしかし、茶々を授業中失神させてしまったのは確かなわけで。
周りの連中にはバレていないのが不幸中の幸いというかナントイウカ。
すぐに目を回してしまった茶々を負ぶって保健室にダッシュしたから、誰も気付くヒマなんてなかったろうし。

「いいよ別に。わたしが言い出したことだしさ」

なんて、茶々は何故か済まなそう。

「それよりゴメンね。制服」

ああ、と俺は納得した。
ヒトは失神すると尿道のあたりがゆるくなるのだ。
茶々はそれが特に顕著らしく、俺は茶々のプレイに付き合わされる時何度かそれを実感している。
まぁ、ありていに言えばひっかけられた、ということで。
ジャージ持ってきてよかった。

「それこそいいって。俺が無茶させたんだから」
「ううー」
「ま、失敗するのはお約束だからさ。それに付き合うのが俺の役目、だろ?」
「…」

シーツに包まってしまった。
どうも照れているらしい。
………ずるい。俺も包まりたい。照れるから。

「じゃ、じゃあ俺、鞄持ってくるから」
「……待って」

このまま授業を受ける気にもなれないので今日はとっとと帰ってしまおう、と席を立った。
その背後から、声を掛けられる。

「……あのさ、今、センセいないじゃん」
「………………」

まさか。

「こんなチャンス、滅多にないしさ」

しかし。

「カラダ、なんか中半端だし」

今一度言おう。

「チャレンジ!保健室えっち~~!!!!」

………茶々はこの笑顔が、一番かわいいのだ。


                 無謀な彼女~新ジャンル「ピンクローター遠隔操作」妖艶伝~ 完



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最終更新:2007年10月14日 16:46
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