新ジャンル「女体化しないペットに性的なイタズラをして萌える」

新 我輩は猫である






 私は猫である。

 名前はクリスティーナ。
 由緒正しき血統書付きのアメリカンショートヘアである。父は全米品評会で
金賞を受賞した大物。母は英国のさる皇族が寵愛したロイヤルキャット。

 すなわち、私こそ世界に冠たる超お嬢様なのだ。
 世が世ならば日本の庶民の家庭になどくるはずがない。うさぎ小屋に住む貧
乏学生など、「クリスティーナ様」と私に毎日最上の礼を以て仕えるべきなの
だ。
 ほら、私の飼い主が奉仕に参上した……。

 「おーい、クリ吉!」

 頭の悪そうな飼い主がやってきて私を抱き上げた。
 こら、クリ吉とはなんだ、無礼者。
 しかも、私に断りもなく抱き上げるんじゃない。失礼じゃないの。

 にゃにゃにゃにゃにゃにゃっ

 「ははは、喜びのあまりはしゃぎすぎだぞ、こいつぅ」

 嫌がってるんだ、バカ!!

 「ほーら、こちょこちょこちょ」

 あ、こら。喉をくすぐるんじゃない。
 くすぐるなったらくすぐるなヴォケ!

 ……………………。

 ……やぁん。か、感じてしまうでしょ……。

 んにゃん、んにゃん

 「ははは、クリ吉はこうされるのが好きだなぁ」
 私の主人であるアホ男はひとしきり私をもてあそび、このカラダを熱くさせ
るだけ熱くさせると、唐突にその行為に飽きて私を解放した。

 はぁ、はぁ、はぁ……。

 ……………………。

 ──べ、別に、気持ち良かったわけじゃないんですからねっ!


 私の飼い主は、暇さえあると寄ってきてはちょっかいを出してくる。

 私が丸くなってまどろんでいると、「クリ吉、肉球ぷにぷにっ」と言って私
の手をマッサージしてきたり、私の耳が敏感なのを知っていてわざと息を吹き
かけてきたりする。
 私は暢気に丸まって眠っているのが好きなので、あまり居眠りの邪魔をされ
たくはない。
 だが、私に構って欲しくて仕方がないというのであれば、貴重な時間を割い
て付き合ってやらないでもない。
 何しろ、私には英国皇族に寵愛されたロイヤルキャットの血が流れているの
だ。

 「そぉらそら、クリ吉、猫じゃらしだぞお」

 にゃうにゃうにゃうにゃうっっっ

 「こらこら、そんなに興奮したら危ないよ。落ち着けってクリ吉」

 にゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃぅっっっっ

 誘うように揺れる猫じゃらしの先端に向かって前肢を伸ばす私。猫じゃらし
はいたずらっぽく私の手をすり抜け、逃げ回る。

 ええい、じれったい。後肢で立ってしまえ。

 おらおらにゃああああっっ。

 むきいいいいいいいいっっっ


 …………………………違うのっ。

 そうじゃなくて、これはカラダが勝手に……っ!!

 猫じゃらしはカラダが反応してしまう悪魔の罠なのっ!!

 だから私のせいじゃないのっ!!


 猫じゃらしで私のカラダを弄ぶ主人は、時にもっと直接的な辱めをしてくる
ことがある。

 私がいつものようにお腹を上にして居眠りをしていると、
 「よく眠ってるな~、クリ吉。よっしゃ、ノミでも取ってやるか」
 主人の繊細に動く指が私のお腹の上を這い回る。
 十本の指が独立して蛇のように滑り、くすぐったいようなもどかしいような
切ない感触を伝えてくる。
 ああ。私が居眠りしている所に夜這いをかけてくるなんて、なんて破廉恥な
のかしら。
 もし私が人間だったら、すぐにも手が後ろに回るわよ。
 この性犯罪者! 変態!! 助けて日本警察っ!

 ゴロゴロゴロゴロ

 「喉を鳴らしちゃって、可愛いなぁ」

 これは生理的反応なの。決して感じてしまっているわけではないの。

 「クリ吉の乳首はいつ見ても面白いなぁ。人間よりいっぱいあるんだよな。
うりうり」

 いやあああああああっ!! 八個もある乳首を刺激するのはやめてえっ!!

 「ふうっ」

 ひゃんっ!! 耳の穴に息を吹き込まれたら、力が……抜けちゃうでしょ…
…ばか。

 「クリ吉、今日はマタタビを取ってきてあげたよ」
 主人の言葉に、私は細めていた目を大きく開いた。
 そこには、私たち猫族にとって悪魔の薬、マタタビの白い実がぶら下がって
いた。

 「ふふふ。クリ吉はこれが大好きだからな。ほら、食べな」

 私は催眠術にかけられたようにマタタビの実に顔を近づけ、軽く歯を立てた。
 ふわっ、と不思議な香りが私の鼻をつく。

 次の瞬間、目に見える景色のすべてがまわっていた。


 にゃはははははははっっっ

 楽しい、楽しいわ。

 「ははは、マタタビを食べるとクリ吉はすっかりご機嫌になるなぁ」

 そりゃそうよ。にゃはは。矢でも鉄砲でも持って来いってなもんよ。

 「クリ吉、喉をこちょこちょこちょ」

 んにゃんふ。

 私はお腹をさらして喉をくすぐられ、喉をゴロゴロと鳴らしながら主人に甘
える。
 お腹をくすぐられると、骨が抜けたかのようにぐにゃぐにゃになる。私はい
つしか主の膝の上に抱かれ、彼の顔に頬擦りしていた。

 ごろにゃん、ごろにゃん

 「おいおい、よせよ、くすぐったいよ」

 ぺろぺろ、ぺろぺろ

 主人の顔をざらついた舌で舐め続ける。頬と言わず、口と言わず、鼻と言わ
ず顔の造作のすべてを舐め尽くす。

 ごろにゃん。にゃははっ

 ご主人様、だ~いすきっ!!

 ………………………。


 ………………………。

 あああああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!

 違うのっ!!

 昨日のあれは私であって私じゃないのっ!!

 別人格よっ。

 別人ったら、別人!! 私が言うんだから間違いないわっ!!

 みんな、忘れなさいっ!!

 一切合財、忘れなさいっ!!

 未来永劫、忘れなさいっ!!


 に゛ゃあああああああああああああああああっっっ。




 「──この猫を譲って頂きたい」
 ある日、背広姿の男が家を訪問してきた。

 「十分なお礼をいたします」
 静まり返った居間で、男は主人に言った。
 「この猫の母親を亡くされた英国のやんごとなきお方が、非常に悲しんでお
られるのです。そのお方がこの猫の写真をご覧になり、ぜひ引き取ってお育て
したいと望んでおられます。
 この猫は、母親に生き写しなんだそうです」

 どうやら、悪い話ではないようだった。
 うまくすれば、私はこの貧乏な部屋から英国皇族の広い家へ移り、贅沢三昧
の暮らしができるようだった。

 「お返事は急ぎません」
 と言って背広の男は帰っていった。

     ◇

 夜。
 夜行性の私は意識が冴え渡るのだが、主は眠る時間帯なので、私も彼の布団
の中に潜り込んでいつも寝ることにしている。

 一体、この間抜けな主人は、私がいなくなったらどうなるのだろう。
 いつも何かと構っている私がいなくなったら、彼はどうするのだろう。
 私の脳裏に、ひっそりと手持ち無沙汰で背中を丸めている主人の映像が浮か
び、なんだか胸が切なくなった。




 「こらーっ、クリ吉。おまえテーブルに出しといた俺の晩飯つまみ食いした
ろ!」

 ふん、知らないわ、そんなもの。

 「口元に魚の身がべったりくっついてるぞっ!!」

 んむぅ。どうやら、些細なミスが命取りになったようね。

 「お仕置きだっ!」

 に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ

 主人は私の首根っこをつかむと、ひょいと持ち上げた。
 じたばたする私だが、こうされてしまうと成すすべがない。

 「うらっ」

 彼は私を布団の上に転がし、お腹を上に露出させた。
 そして、後肢を左右に割り開く。

 な、なな、なんてことするのっ!! 私はレディーですのよっ!!

 「まんこくすぐりの刑だぞっ」
 主人は私を押さえつけたまま、大切な女性器に指を伸ばし、こちょこちょと
くすぐりはじめた。

 いやあああああああああああああああああああああっっっっっ

 「はははっ、なんだクリ吉、感じてるんじゃないのかっ?」

 殺すっ!! ぶっコロス!!!!!


 私は想像を絶する恥辱を味わわされ、主人からそっぽを向いて不機嫌をア
ピールしていた。

     ぱたぱたぱたぱた

 「なんだ、クリ吉。尻尾を振って、そんなに嬉しかったのか?」

 猫が尻尾を振ってる時は怒ってるんだよ、アホっ!!

 私は激怒し、当分の間は主人とは口を聞かないつもりだった。

 「おーい、クリ吉。おまえのご飯できたぞ~」

 な、なにっ。しょうがない。そういうことなら口を聞かないのはご飯が終わ
ってからにするかな。

 私は皿に出された今夜の夕食に口をつける。

 美味美味。母をロイヤルキャットに持つ私をここまで感嘆させるとはなかな
かレベルの高いディナーだ。やるな、貧乏人。

 「いつものことながら、クリ吉は美味そうに猫まんま食うよなあ」
 と、主が感心したように言った。

 よくわからないが褒められたようだ。
 うん、美味美味。

 ………………………。

 ……そう言えば、ご飯を食べ終わったら何かする予定だったような気がする
が、なんだっけ……?

 まぁ、いいか。


 「……え? お断りされるんですか?」
 あれから数日後。
 再び家を訪れた背広の男は驚いたように言った。
 「これだけの良い話は普通ありませんよ。本当にお断りされるんですか?」
 主人はきっぱりと断った。

 彼は、ちらっと私を見た。
 人間と猫の間では、残念ながら言語によるコミュニケーションが成立しない。
 しかしこの時、瞳を通して私と主は以心伝心した。

 私は、素早く背広姿の男に飛び掛ると、その顔に爪を立てた。

     ばりばりばりばりばりばりっ

 「おわあああああっ」

 そして軽やかに跳ねると、主人の肩に飛び乗った。
 「こういうことさ!」
 と主人は言った。


 その夜。
 飼い主は大いびきをかきながら暢気そうに布団の中で眠っている。
 私も同じ布団の中に潜り込んでいる。

 どうやら、英国王室入りする話は流れてしまったようだ。

 だが、それほど残念な気持ちはない。
 むしろ、ほっとしている。

 血統書がなんだ。
 私は今の暮らしが気に入っている。
 ならば、それでいいと思う。

 「ぐおおおおっ」
 主人が布団の中で大きく寝返りを打った。

 に゛ゃあ゛あ゛っ

 私は布団の中から外へと蹴り出されてしまった。
 驚異的な寝相の悪さだ。

 まったく。

 使えない上に馬鹿でスケベな飼い主を持つと、猫は苦労するのだ。

 再び布団の中へ戻ると、むにゃむにゃ、と布団の中で彼が甘えてきた。

 「クリ吉~」
 と、彼は寝言を洩らした。

 …………………………………。

 しょうがない。
 ま、我慢してやるとするか。

 「むにゃむにゃ。クリ吉、オケツカンチョー!!」

 ……どんな夢を見てるんだ、このアホ。

 私はゴロゴロと喉を鳴らし、飼い主の布団に潜り込んで目を閉じた。


                 おしまい

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最終更新:2007年10月14日 17:11
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