「ハァッ、ハァッ、ハァッ……ッ!く、ハァ」
………その女は、逃げても逃げても追いかけてきた。
「ゼハッ、………ッ!はぁ、は、ハァッ、は、はぁ……」
俺だって学生時代は陸上部だったんだ。
……まぁ、結局はパッとしない選手止まりだったけど、体力には多少自信があった。
なのに。
「追いかけっこはあまり好きじゃないの」
この女は。
「だって、誰もアタシに勝てないんだもの」
どこまで逃げても、息ひとつ切らせずにやってきた。
「ひ!」
「そんなに怖がらないで頂戴。ただ、ひとつ聞きたいだけなんだもの」
口元を幾重にも巻いた包帯で隠した、陰気な女。
そいつは道端で俺に出くわすなり―――無論、こんな不気味な女に知り合いはいない―――
こう、訊いてきた。
「 ア タ シ 、 綺 麗 ? 」
俺は直感した。
“ホンモノだ”
ウソだろう?なんでこんな平成のご時勢に―――少なくとも噂が流れてからこんな時間差で、
こんなヤツがまだウロウロしているんだ!?
俺は逃げ出して、見ての通り、こうしてまた捕まったという訳だ。
こんなとき、どうすりゃいいんだっけ?
ああ、確か何か呪文みたいな、決まり文句があったはず―――ええい、思い出せない!
確か、確か――――――!!
「ねぇ、アタシ、綺麗?」
「あ、ああ!綺麗だとも!!」
ついそう叫んでしまって、俺は泣きたくなった。
何言ってるんだ、俺!?そうじゃない、決まり文句は決まり文句でもここはそうじゃないだろう……!!
だって、これを言ってしまったら、ホラ。
女は口元の包帯をしゅるしゅると解きはじめて。
その異形を、
見せ付ける………………!!!!
「 こ れ で も ? 」
………………………………………………………。
………………………………………。
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………………………。
………………。
「……キメェ」
「うわーん!!!!」
最終更新:2007年10月14日 17:42