営め!リオルさん

白い岩と緑の草。荒野と森の境にある小さな草原に、三つのテントが並んでいた。
ひとつには荷物と腕っ節だけが取り柄の……まぁ、一応強いことだけは確かな青年が一人。
ひとつには犬猿の仲であり、
毎晩どちらがより青年の近くで寝るのか争っている物好きな少女が二人、寝息を立てていた。
そして、もうひとつ。
そこには稀代の天才と謳われ、つい先日世界の危機を救った少年と、
その恋人、いや伴侶、むしろ配偶者的存在の美少女が臥所を共にしているのであった。

「ジョ~ン~~♪」

少年の彼女、いやステディ、むしろスイート☆ハニィな美少女が隣の少年を揺さぶる。
少年はどうやら眠っていたらしく、ううん、と唸ってもぞもぞと丸くなった。

「ジョンってば」

少女はさらに少年、ジョンを揺さぶり続ける。
その目的は明らかだ。別に彼女はトイレについてきて欲しくて彼を起こしているのではない。
男女の営み、世に言うセックス。
少女はそのためにジョンに起きてもらうのだ。
誤解のないよう説明するが、彼女は別に淫乱だとか欲求不満だとか
痴女だとかいう団地妻じみた属性を持ち合わせているのではない。
少年と身体を重ねること。これは彼女が生きていくのに必要な行為なのだ。
詳しい話は割愛するが、彼女はある事情から自分でマナの吸収が出来ない身体であり、
一定時間マナの補給がなければ体内の『生命』を使い切って死んでしまう。
そこで、少年の精を受けマナを直接体内に注ぎ込んでもらっているのである。
よってこれは普通の人間にとって食事をするのと同じ行為、
欠かしてはならないライフワークということなのだ。
だから別に彼女がムラムラしているとかではない。
そりゃ、恥骨が砕けるくらいヤリ倒したいとは思うが。

「ジョン起きてってばぁ~」
「にゅう」

ジョンは目を擦り、薄目を開けた。

「なんですかぁ、リオル」
「えっちしよ」

少女、リオルがぐっと親指を立てる。いや立ってない。
手を握った状態で、人差し指と中指の間に親指を差し込んでいる。
しかしジョンは渋い顔をしてリオルに背を向けた。
無言の拒否。
嗚呼なんということだろう。
この血も涙もないコールドブラッドはリオルとの営みより惰眠を貪ることを選んだのか。
ジョン酷い。酷いジョン。

「そりゃ貪りますよ。荒野を抜けるのキツかったんですから」

ジョンがリオルに背を向けたまま眠そうな声でモノローグに口を尖らせる。

「そう?あたしへいちゃらですヨ?」
「そりゃリオルはそうでしょう。熱で体力を奪われることもありませんしね。
 でもボクは普通の人間なんです。休みたいんです」
「ジョンはあたしが死んじゃってもいいの?あたしマナが枯れちゃうよ?」
「ナフレザークを出る前に散々したじゃないですか。
 それにリオルは龍の魂が義体に定着してきたみたいですから、
 以前のように頻繁に補給しなくても大丈夫です」

なんという男だろう。
愛する男女の交わりは必要ではないと蹴ってしまうのか。
いや、それともこれはリオルの口から明確なアプローチをしろと暗に急かしているのか。
いわゆる、『ん?どうした、はっきり言わないと何をして欲しいのかわからないなぁ?』プレイである。
くそぅ、ジョンめ。なかなか味なことを考えるじゃないか。
いくら天真爛漫なリオルでも羞恥心がないわけではない。
具体的にナニをして欲しいのかおねだりするのは流石に恥ずかしいのだ。

―――しかし!これでジョンがより興奮するのならば!!

「………あたしのいやらしいお○んこに……ジョンの……
 ぶっとくて逞しいお○んちん………挿れてください……」

ジョンは寝息を立てていた。
リオルのオデコにプラスマークが浮かび上がる。

「火龍烈火吼!!」

静かな草原の夜に炎の柱が立ち昇り、旅の仲間たちが目を覚ました。

「敵襲か?」
「魔獣ですか?それとも盗賊?」
「我の眠りを妨げる者は誰だ……」

なんか目を擦りながら魔王っぽいこと言ってる魔王が若干一名いる気がした。
流石に人前でいたす性癖は持ち合わせていないのでリオルはあははと笑って誤魔化す。

「いやゴメン。寝ぼけてたみたいで」
「………けほ」

後ろで黒焦げになったジョンが何か言いたそうな目をしていたがあえて無視。
仲間たちは何か釈然としない者を感じながらも、眠気が勝ったのだろう。
小首を傾げながらそれぞれのテントに戻っていった。
と、赤髪の少女が青年のテントに入ろうとして金髪の少女に蹴られている。
二人はギャーギャー喧嘩して、青年に怒られて、睨み合いながらもテントに入っていった。
……と思ったらしばらくしてこそこそと移動し、二人して青年のテントに忍び込んでいく。
やがて寝息が聞こえ始める。寝つき良すぎ。

三人のコントを見届けてからリオルは振り返った。
煤をぱんぱんと払っているジョンが半目でこっちを見ている。
リオルはニコッと微笑むと、

「さ、しよ?」
「あのねえ」

ジョンはぷるぷると震え、何かを諦めたようにため息をついた。

「すぐ隣ではヒロトさんたちが眠っているんですよ?気付かれますって。
 朝どんな顔してみんなに挨拶すればいいんですか」
「大丈夫だって。いつも宿で使ってる防音結界使えば」
「あれは室内専用です。テントじゃ使えませんよ」

いちいち理屈が多いのはジョンの悪い癖である。
それなら声を殺してすればいいじゃん、ってそれはリオルの最も不得意とするところか。
リオルは快楽に忠実な性格だから。色々と。

「いいからするのー。ムラムラするのー」
「ムードもへったくれもありませんね」
「ムードなんて欲求の前には二の次です。したい。する。Ok」
「海賊ですか君は」

むぅ~っと睨み合うこと数秒、ツンとジョンはそっぽを向いた。

「いいです。勝手にしてください。でも、そんな我侭なリオルは知りません。
 ボクは寝ますから、どうぞご自由に」

どうやら意固地になってしまったらしい。
いつものジョンなら仕方がないとか言いながら
ちゃんと相手をしてくれたものだが、今日はどうやら本当に疲れていたらしい。
リオルは少し怯んだ。

「あ、あーそうですか。なら勝手にしますとも。
 後でやっぱリオルに一発キめないと眠れないですぅ~とか言うのはそっちなんだからねっ!」

こうなったらこっちも自棄である。
なんとかしてジョンを手篭めにしてやらないと元・魔獣の上位種、ドラゴンとしての何かが許さない。
だいたい最初はリオルのほうがリードしてたのに最近のジョンはその外見に似合わない下半身のアレが
己の武器であると気付いたようで、逆にこうやって余裕のある態度でリオルを挑発してくるのだ。
見てくれが見てくれだけに可愛さあまって憎さ百倍、思わず頬をふにふにしたくなる程である。

ここはどちらが性的な面で優れているか、この子猫ちゃんに思い知らせてやるべきでしょう。

「と、いうわけであたしは今からジョンを襲います」

夜這い。
夜、恋人のもとに忍んでいくこと。
相手の寝所へ忍び入ること。

とりあえず服は邪魔ですね。
リング状になっている留め具をかちゃかちゃ外し、
横になっているジョンの上に女豹のように擦り寄っていく。
ジョンの頭のすぐ上でリオルの双丘がたゆんと揺れた。

リオルの肉体はジョンが作り出した義体だ。
ということはこの姿がジョンのどストライクな容姿なのかしらん?
いやいや、この身体はリオレイアの魂を転送したら勝手に成長したそうだ。
始めはそれこそ人形のようだったという。
肉体のカタチは魂のカタチ。
もしリオレイアが人間の身体を持っていたらというIFを現実のものとしたのが今のリオルなのである。

「ま、そんなことどーでもいいけどね」

とは言うものの、リューのようにあおむけにねてもたいらな胸じゃなくてよかったとは思う。
ジョンだって掴みどころの無い胸元だったら寂しいに違いない。

………。

いや、無いのもそれはそれで魅力的ですよ?
貧乳はステータスだ!希少価値だ!ってどこかの誰かも言ってたような言ってなかったような。

「ま、まあいくらリュリルライア様だって心の中までは読めないよね……寝てる(はずだ)し」

なんか怖くなってきたのでさっさと行為に移ってしまおう。
ジョンの頬に軽いキスをし、そのままはみはみと耳元を甘噛みする。
それまで規則正しい呼吸をしていたジョンが、ぎしっ、
と身体を固くしたのを感じてリオルは唇を離し、ぺろりと妖艶に舐めあげた。
ジョンにぴったりとくっついてさわさわと胸やお腹の辺りに手を這わせる。
いきなり目的地に直行、なんて無粋な真似はしない。それがレディの嗜みなのだ。

「ふっふ~ん、ジョン。いつまで耐え切れるかな~?」

ふとももを撫でていると、ジョンがぴくっ、ぴくっと反応しているのが伝わってくる。
そうそう、これこれ。
なんか一方的にジョンをやっつけられるこれこそリオルの一番燃えるシチュエーションではあるまいか。
今度こっそりダメ勇者の荷物の中からロープでも持ち出してジョンを縛ってみよか。
涙目になって許しを請うジョンの顎を指一本でゆっくり撫であげ、
どこをどうして欲しいのかその豊富な語句を駆使して説明させるのだ。

………あ、やべ。ヨダレ垂れてきた。

まあその素敵プレイについてはあとで前向きに考えるとして、と。

「んふー♪ジョンくん、何かおっきいのが固くなってますヨー?」

ムニムニとおっぱいを背中に押し付けて、耳元でとびきり甘く囁く。
きゅ、と握るジョンのそこはどんどん充血し、大きくなっていった。
男の子の生理現象のことは良く知らないが、まあこれは仕方ないことだろう。
ここからが勝負なのだ。

「ほら、あたしもこんなになちゃってるんだ~。ジョンとおそろいだね」

ジョンの手を取り、リオルは自らの秘所に指先を導く。
そこはすでにしっとりと濡れており、ジョンの手が達したことでちゅく、と水音を立てた。
リオルのもう片方の手の中では肉棒が鉄のようになり、びくびくと脈打っている。
が、ジョンはそれでもケダモノにならない。
一度こうと決めたジョンの理性を打ち砕くのは難しく、
そうホイホイとリオルの誘惑に引っかかってもらっても困るのだが、これはこれでどこか寂しいものだ。

「……いいもーん。こうなったら、ジョンでひとりえっちしてやるんだから」

ジョンの手をとって動かし、はだけた胸を完全に露出させて小さな背中に擦りあげる。
敏感な突起を三点、同時に刺激してリオルは小さく声をあげた。

……いやいや待て待て。そういえばすぐ隣のテントにはバカ勇者を含む三人が眠っている(?)んだっけ。
いつもの調子で大きな声をあげたら、翌朝ジョンがいらない恥をかいてしまうことになる。
自分は別にどーでもいいが、ジョンが困ることは極力したくない。
………今、こうやってるのはいいのかって?
チッチッチ。それはそれ、これはこれですヨ。

同じようにして、ジョンの下穿きも下着ごとおろして狭い空間から外に解放してやる。
びん、と張るその一物を握ると、しっとりと熱く、鼓動が手のひらに伝わってきた。
こんなに硬く興奮してるんだから、意固地なんて捨てちゃってさっさと気持ちいいことしたらいいのにね。
二人のほうが、絶対に楽しいに決まっているのに。

ジョンの小さな身体を抱きしめ、抱えるようにして下腹部のそれを愛撫する。
ジョンのそこは相変わらず立派だ。不釣合いですらあるくらいに。
ラルティーグが生んだ稀代の天才は、夜の方も天才だから困ってしまう。
事実、リオルはすっかりジョンに開発されてしまっていた。
息が荒い。
これはどちらの呼吸なのか。自分か、ジョンか。興奮で火照った頭では判別できない。
でも、二人の吐息が混ざっていたらいいな、と思った。
いつの間にかジョンのそれを両手でしごいていることに気が付いた。
あれ?じゃあ、リオルの性器が変わらず愛撫されているのは何故?
………よくわからない。
キモチイイ。
スキ。

ジョンのペニスがびくん、びくんと脈打っている。
そろそろ臨界が近いらしい。
こちらももう突破するだろう。
できたら二人一緒にイけたらいいなぁ、と思って。
リオルに流れる血潮が、とうとう沸点に達した。
同時に手の中に熱いマグマが噴出す。

――――――ああ、一緒にできたのだ。

リオルは波が引くような倦怠の中、満足そうに微笑んだ。



「……リオル。わかりました、ボクの負けです」

と、目を閉じようとしたらジョンがむくりと身を起こしてきた。

「………へ?」
「すみませんでした。君が寂しい思いをしていたらなんとかするのはボクの役目なのに。
 君をないがしろにしてしまいました」

ジョンの目は、どこか据わっているようにも見える。
リオルは本能的なところで危機感を感じた。
もしや自分は、眠れる獅子を起こしてしまったのではないか?
その比喩はあながち誇張でもなく、ジョンの下半身は一度射精したことで
完全に火がついたのか文字通り覚醒し、身をもたげていた。
対するリオルは程よい倦怠の中ふたりで同じ毛布に包まってキスとかしながら
まったりモフモフしたい気分で一杯だ。

………あれ?やばくね?

「ちょ、ジョン?あたし、少し休みたいかな~って……」
「大丈夫、してる最中に体力も回復できます」

できません。
なんだその長距離走みたいなワザ。

「この間の戦いで久しぶりに“霊拳”を使ったでしょ?それで、少し思いつきまして。
 イヤ本当はこんなことに応用するのはどうかとも思うんですけどね、
 それでリオルが満足するならいいかなって」
「何?何?なんか知らないけど無茶はよくないと思うなあたし!ウン、ほら隣にみんないるよ?
 声、聞かれたら色々気まずいじゃん?」
「大丈夫、いざとなったら口を塞いでしまえばいいんです」

強姦だーーーーーー!!!!

ジョンの下半身にオーラが立ち上っている気がした。
いや気のせいではない。リオルには馴染みの深い“霊拳”の発動である。
ちょ、ちょっと待って欲しい。
屈強な戦士でも一撃でスタンさせるあれを膣内にぶち込まれたら一体どうなってしまうのか!?

「安心してください、痛くないはずです。“霊拳”の麻酔を調節してうまく快楽だけを引き出せれば、
 一突きごとに天国にイけるはず………まあ、無論実験はこれからですが」

なんですとーーーーーー!!!?

「大丈夫、何度気絶してもヒーリングで即回復ですよ、リオル」
「助け」

助けて、と叫ぼうとした。
しかし、それは叶わなかった。

次の瞬間、目を光らせた獣の影がリオルに襲い掛かり、そして。


リオルは、そこから先のことをよく覚えていない。



朝である。

朝霧の中、ヒロトは誰より早起きして朝食の準備をしていた。
今日の朝ごはんはウサギのスープである。
適当に狩ってきた兎を捌き、食べられる野草と共に鍋に放り込んだ雑な料理だ。
まあそれでも、一人で旅をしていた頃よりは大分ましになった。
あの頃はさらに調味料の類も一切なかったから。
ジョンの手持ちである薬にはスパイスとして使えるものもあり、野宿での食事に風味を与えてくれた。
煮込んでいる間も剣の手入れや簡単な稽古など、やることは多い。
特に剣の稽古は父親に教わった数少ない基礎の反復。
雨の日も風の日も火山が噴火して空から真っ赤に焼けた岩が降った日も欠かしたことのな日課である。
といっても、あまり張り切って身体を動かすと地形が変わってしまうのでその大半は瞑想に近い。
しかし空間を支配するような集中は足元に這う小さな虫、空を飛ぶ鳥、
遠く流れる川のせせらぎとそこを泳ぐ魚が何匹いるかまでも認識してしまうほどだ。

と、ヒロトは目を開けてテントのほうを振り返った。
はたしてそこには、目を覚ました仲間たちがもぞもぞとテントから這い出してきている。

昨日はどういうことかリューやローラが
ヒロトのテントに潜り込んできたが、そんなに寒かったのだろうか?
二人ともヒロトにピッタリくっついて眠っていたため、
起こさないようにテントを出るのに苦労したものだ。

「おはよ。よく眠れたか?」

軽く挨拶して仲間たちの顔色をみる。
そこで、ヒロトは目を瞬かせた。

「………何かあったのか?お前ら」

仲間たちの目の下には一様に、色濃い隈ができていた。
全員、ヒロトからなんとなく気まずそうに目を逸らして、しかし同時に声を揃えて答える。

「「「「………別に」」」」


……沸騰しているウサギのスープの鍋が、たかん、と音を立てた。


             営め!リオルさん~新ジャンル「人間じゃないが、エロい」妖艶伝~ 完

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最終更新:2007年11月27日 20:55
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