妹たるもの!

鼓動の音がうるさいです。
顔が熱くって、頬が緩んで切なくって、泣きたいんだか笑いたいんだか解りません。
憧れの、ああ、恋焦がれた祥吾先輩がそこにいます。
ずっと、ずっと好きでした。好きでしたっていうか過去形じゃなくて現在進行形です。スキイングです。
だから彼女にして欲しいのです。彼女っていうと手を繋いで二人で地球温暖化対策について大いに語らったり、
急にしりとりしたくなってもちゃんと相手してくれたり休みの日には一緒に映画を見て、
マクドナルドで食い逃げが可能かどうか検証したりお買い物したり……あれ?これって友達ともでいますよね。
イエイエ、ここからが違うのです。彼女というとガールフレンドです。恋人です。マイ・プレシアスです。
手を繋ぐだけじゃなくて腕を組むのはデフォルトです。そしてプラネタリウムに行きます。映画よりゴージャスです。
そしてお互いの瞳にお互いの姿しか映らないくらいの距離で名前を呼び合って、キ、キ、キスです!キャッハー!!
そして……せ、せ、せせ性交渉もします。先輩は優しいからきっと優しくしてくれます!
………乱暴にされてもそれはそれでグーです!
天井の染みを数えます!でも人の顔に見えてきたら怖いので先輩の顔を思い浮かべて頑張ります!ラヴ!
ていうかもう、そうですね。恋人っていうか家族になりたいですね。
なんていうか、ボクの死に水を取ってくれないか的な。いやそーゆーのは男の人から言うのがロマンです。
というと、残されたポジションは…………。


…………………………妹?

「あたしを先輩の妹(スール)にしてください!」
「いいだろう」
「やったぁぁぁ!!」

こうして、あたしこと福沢 祐衣は先輩………いえお兄ちゃんこと小笠原 祥吾さんの妹になったのでした。



「ミスった……」

祐衣は頭を抱えていた。

「いやどんなミスよそれ」

すかさず親友からのツッコミが入る。
恋の告白に行って妹になって帰ってきたなんて聞いたこともない。
例えていうなら光の巨人に変身するためにスプーンを掲げるようなものだろうか。行動が明後日すぎる。

「てんぱっておったもので」
「悪いけどちょっとコレはフォローの範囲外っちゅーか」
「そんなぁ、慰めてよアイちゃん」

よよよと机に突っ伏したまま親友に手を伸ばす。親友アイコはその手をピシャリと払いのけた。
冷たい。
さめざめと制服の袖を涙で濡らす祐衣に追い討ちをかけるように続ける。

「まあOKした先輩も先輩だけどさ、そりゃアンタの所為でしょーが。なんですぐ訂正しなかったの」
「だってー」

突っ伏した上半身をごろりと親友の方へ向ける。腰骨がコキッといい音を出した。

「そのときはさぁ、OKしてもらえただけで天にも昇るっていうか。そもそもお兄ちゃんを前にしただけで
 冷静じゃいられなかったっていうか。あたしの脳内理性メーターが振り切れ立てたんだもん」
「アンタに理性メーターなんてついてたってことが今世紀始まって以来の驚きだよ」
「それでさー、妹になったってことで一応それっぽく構ってもらえてさ。
 ああ、これイイかもとか思ってたんですのよ」
「よかったじゃん」
「よかない!あたしはお兄ちゃんに女の子としてみて欲しいのですよ!」

じたばたと暴れる祐衣を珍しい生き物を見る目でしばらく眺める。
祐衣のアホな相談に乗るのは初めてじゃないし、
祐衣のアホな相談は話四分の一くらいに聞いているのが一番だとアイコは経験から知っていた。
爪のささくれを気にしながら聞くのが丁度いいレベルだ。親身になったら疲れるだけなのだ。

「……で、小笠原先輩はどうなん?」

祐衣が暴れ疲れた頃を見計らって訊いて見た。

「どうって?」
「だから、流石に戸惑ってるんじゃないかってこと。いくらあのヒトでもこのパターンは想定外っしょ」
「ううん、喜んでたよ。一人っ子だから兄妹欲しかったんだって」
「ヤツは小学生か」

祐衣の恋人……ではなく、兄貴分となった小笠原 祥吾は校内でも有名な変人である。
立ち入り禁止の屋上で一人タイタニックをしたり、絵画コンクールで優勝したり、親指がありえない方に曲がったり、
校内の不良生徒からさん付けで呼ばれていたり、教頭の盗撮行為を暴いたり、時々NASAから電話が掛かってきたり、
円周率をずっと暗唱していたり、邪気眼が発動したり、自転車に乗れなかったりしていることで有名だ。
典型的な美系さんであるがその奇人変人っぷりから女の子たちからは遠巻きにキャーキャー言われているだけの状態が続いていた。
たまに告白されても、「君とは鼓動(リズム)があわない」とかよくわからない返事をされるだけ。
妹とはいえ、色よい返事を受けたのは実は祐衣が初めてだったりする。
まあこの娘も結構人として軸がズレているから同族の臭いを嗅ぎつけたのかも知れないが。

369 名前:妹たるもの!(3/9)[sage] 投稿日:2007/10/21(日) 23:41:37 ID:tihDKI34

「小学生じゃないよ。あたしらのイッコ上じゃん」

こんな具合に。

「お似合いなのかもねぇ………」

溜め息混じりにそう呟く。
お似合いと言われたのが嬉しいのか、ニヤニヤしてる祐衣がムカつくのでひっぱたいてやった。

「ってそうじゃないよぉ。妹になれたのはそれはそれで嬉しいけど、あたしはお兄ちゃんとそれ以上の関係になりたいの」
「自ら選択したんでしょうに妹になることを。自分で何とかしなさいよ」
「そう言わずにさぁ~、知恵を貸しておくれよぅ」

アイコはしばらく半目で親友を見つめていたが、やがて諦めたように手を振った。
なんやかんやで面倒見のいいのが彼女のいいところであり、また不幸なところでもある。

「先輩としてる妹ごっこはどんな内容なわけ?それによって対応もまた変わってくるでしょうよ」
「………う~~んとね~~」

祐衣はもやもやと頭の上にピンクの雲を立ち上らせた。
回想シーンの始まりである。



「妹たるもの、お兄ちゃんと血の繋がりがあってはならない!」

祐衣が祥吾に告白(?)をしたその夜、祥吾に近くの家の公園まで呼び出された。
いきなり密会かとドキドキキャーキャーしながら可愛いぱんつに履き替え、出かけた先で開口一番、彼はそう言ったのである。

………さすがに訳がわからなかった。

「えーと、先輩?」
「先輩ではない!俺のことは今後お兄ちゃんと呼べ!貴様それでも俺の妹か!!」
「ひう。ご、ごめんなさい」
「………む、すまん。少々舞い上がっていたようだ。俺には兄妹がいなくてな。貴様のような妹を前々から欲していたのだ」

なんだかよくわからなかったが、祥吾はこれで喜んでいるらしい。
祐衣の当初の目的(ステディー)とは少し違うが、
好きな相手が喜ぶなら地獄の釜でも笑って飛び込むのが恋する乙女という生き物である。
祐衣は身も心も妹になることを誓った。その場のテンションで。

「すみません、お兄ちゃん」
「ハオ(良し)!だが言い方が固い!ごめんね、でいいのだ!」
「ごめんね、お兄ちゃん」
「もう一度!」
「ごめんね、お兄ちゃん」
「腹から声出せ!」
「ごめんね、お兄ちゃん!」

公園とは言え住宅街だ。迷惑に違いなかった。
しかしテンションの上がっている二人は気にしない。

「ベネ(良し)!じゃあ最初の話に戻るが、妹たるもの血の繋がりがあってはいかんらしいのだ」
「………え?でも妹ですよね?普通血縁で当然なんじゃ」
「うむ、俺もそう言ったのだがな。しかしこれは実際妹がいる友人の言葉だ。
血の繋がった妹なんて糞にも劣るという。信じられないが、信じるしかない」
「で、でも、あたしとお兄ちゃんはホントの兄妹じゃないよ!?」
「ああ。俺も両親に訊いたが俺は正真正銘一人っ子だそうだ。
が、念のためDNAを調べてみようと思う。すまないが、髪の毛を一本拝借する」
「え、はぁ……ん、どうぞ」
「うむ」

プチンと切った髪の毛を受け取り、丁寧に透明なビニール袋に入れ、そのまま用意していたらしいケースに仕舞う。
やたら手馴れているのが謎だが、まあこの男のストレンジャーっぷりについて今さら考えてもしょうがないな、
と思いそれ以上深く考えるのをやめた。

「これで結果が出たら、あたしは正式にお兄ちゃんの妹になれるの?」

ん、と祥吾が顔をあげる。
そして、静かにかぶりを振った。

「いや、友人に聞いたところまだ妹であるための条件があるらしい。
 妹たるもの、常にお兄ちゃんを愛するべし!」

それなら大丈夫だ、と祐衣は思った。
祥吾への愛ならエロスでもアガペでも世界一だと自負している祐衣である。
たとえニセ祐衣と祥吾の両腕を引っ張ることになったとしても、祐衣は痛がる祥吾の腕をすぐに離すだろう。

「妹たるもの、事ある事にお兄ちゃんを頼るべし!」

これは困ったことがあったらいつでも相談に来いということだろう。
いいのか、そんなこと言っちゃって。祐衣は毎日じゃれつきに行くぞ。
尻尾ブンブン振ってお腹見せる馬鹿な犬みたいになって
祥吾のクラスまで襲い掛かりに行くのが日課になることは受けあいだ。
むしろ祐衣の存在が祥吾にとっての困ったことになりかねない。
ああ、そういう遠慮をするなということかな、これは?


「妹たるもの―――」

その後も色々と訳のわからない妹としての務めが並べられていく。
なんだか妹モノの漫画やらアニメやらゲームやらの可愛い妹要素を集めて固めて整えて磨いたみたいな内容だったが、
一応祐衣は容姿や性格的な条件を全てクリアしていた。
それは運が良かったという他ないが……。



「貧乳が役に立ったというわけね」
「むきー!」

両手のゲンコを振り上げる祐衣だが、確かに歳相応と言うには少しばかり物足りない胸元であることは確かである。
背も平均身長を下回る点、童顔である点、祐衣はそう言われてみれば見れば見るほど「妹」だった。
祥吾の妹になってから下ろしていた髪もツインテールし、ますますその容姿に拍車がかかっている。
性格も微妙に幼くなったようで、なるほど、恋をすると女は変わるというが祐衣にもそれは当てはまるようだ。
愛嬌が出たといえば聞こえはいいが少し頭のネジが緩んだというのも確かではあるのだが。
そして、甘えてもいい、むしろ積極的に甘えるべしという
お墨付きを貰っている祐衣はまさにスーパーあまータイムに突入している。
というか、授業授業の合間にいつもどこかへそそくさと出かけていると思ったらそういうことだったのか。
これは傍目から見るとどう見てもうまくいっているようにしか見えない、というか。

「何?実はのろけ?彼氏イナイ暦と年齢がガッチリ一致する私に対しての精神攻撃?殺すよマジで」
「そうじゃないよーぉ。話はこれからなんだってば」



問題は妹としての行動パターンにあるのである。
あの日、深夜まで続けられた妹講習会(?)で、いくつも妹たるもの、○○するべしと叫ばれたのだが、
それも例に漏れずどこかの二次元的でデフォルメされたものばかり。
祥吾曰く、それが上手くできないと祐衣を妹として認めることはできないという。

「おじゃましま~す……じゃないや。ただいま~」

小声で挨拶をしながら鍵を開け、入る。

妹たるもの、お兄ちゃんを起こすべし。
それは妹というより幼馴染みの役割なのではと小首を傾げる二人(祥吾と祐衣)だったが、
妹のいない二人に明確な答えは出せない。
結局、祥吾の友人の言葉を信じてこれを実行することになったのだった。
祥吾は一人暮らしなので合鍵を貰い、こうやっ



「待った!合鍵!?なにそれ?未成年だよねアンタら」
「話の途中だよアイちゃん」

話の腰骨を折られ、剥れる祐衣。しかしこれは聞き逃せない不可思議ワードだ。
彼氏イナイ暦が年齢とバッチリ一致するアイコにとって、
これは団塊の世代が≠〃ャ儿文字を前にしたときを遥かに上回るカルチャーショックである。
思わず睫毛を伸ばして白目を剥き、背後に稲妻を走らせるアイコにかまわず、祐衣は続ける。



……こうやって毎朝起こしに行くのである。

「お兄ちゃん、朝だよぅ」

ゆさゆさ。
毛布に包まって丸くなっている祥吾を揺さぶるも、唸るだけでまるで起きる気配が無い。
祥吾は朝に弱いお兄ちゃんなのだ。
考えてみれば祥吾に認識されない間は馬鹿正直にお兄ちゃん扱いしなくていいのだが、
祐衣は残念ながらちょっと頭のあったかい子だった。まあ、馬鹿な子ほど可愛いって言うし。
しばらく揺さぶっていたが、お兄ちゃんは起きる気配がない。

「もー、お兄ちゃんってば!」

祐衣は両手を腰に当ててぷんすかと怒った。ちなみにこれは地である。
しかしむにゃむにゃとレム睡眠からなかなか先に進まない祥吾の寝顔を見つめているとそんな怒りも長くは続かない。
今、お兄ちゃんを独り占めしているのは自分なのだ。
お兄ちゃんの寝顔をこんなに間近で見ることのできる女の子なんて、世界中で祐衣一人しかいないのだから。

「……妹たるもの………」

兄に甘えるべし。
そう、これは妹の務め。妹である証。妹特権。略していもう特権。一字しか略せてない。


「お兄ちゃんと添い寝~」

祐衣は祥吾のベッドにもぞもぞと侵入した。
祥吾の体温か篭っている毛布は温かい。それにもう一人分―――祐衣の体温も加味されて、ますます熱を高めていく。
プラスではない。祐衣にとって、それは掛け算。

だって、こんなにもドキドキするのだから。

祥吾の背中は広い。ぴったりと密着すると、とくん、とくんと心臓の音が聞こえた。
そっと目を閉じると、思い出す。
小さいころの思い出が、次々と……。

お兄ちゃん……。
あたし、あたしね?
お兄ちゃんのこと、だいすきだよ……?

でも、それを告げることはできない。
自分は―――血の繋がりがないといえど―――妹なのだから。
妹からそんなことを言われたら、祥吾は困ってしまうだろう。
だから―――でも、こうして。

朝、このときだけ、あたしをお兄ちゃんの恋人にしてください。

このときだけでいいから……。

「………祐衣」

どきりとして顔を上げると、目の前に祥吾の顔があった。
思わず小さく悲鳴をあげそうになる口を、慌てて押さえる。
……どうやら寝返りをうっただけのようだ。名前を呼ばれたのは寝言らしい。
祐衣の夢を見ているのか。
嬉しさと同時に切なさが溢れ、涙となって零れ落ちる。
たまらず、祥吾の胸元に顔を埋めた。

(お兄ちゃんの、匂い……)

心臓の音色が変わる。
身体が芯から熱くなり、それが下腹部に集まっていくような錯覚を覚えた。
いや、錯覚ではない。
だって、触らないうちから、しっとりと汗ばんでいるのがわかる。
無論、それは汗だけではないのだけれど………。

「お兄ちゃん………」

呟いたその声に、自分でも少なからず驚いた。
こんなに妖艶な声を自分が出すとは……。
どくどくと鼓動が早くなり、さらにじゅん、と下腹部が―――いや、もう誤魔化せまい。
はっきりと、性器が、濡れていく。

その疼きは理性を焦がし、身体を支配して勝手に動かしてしまう。
そろそろと指が導かれるようにして股に近づいていく。
だめだ、こんな。
祥吾に、気付かれてしまう。
でも、もう止まらなかった。
ちゅく、と触れただけでたっぷりと水気を含んだ下着が音を立て、痺れるような快感が背筋を走り抜ける。

「は、は―――ふ、ぅ―――」

声を。
出してはならない。
寝起きの悪い祥吾だが、万が一にでもこんなところを見られたら―――恥ずかしくて死んでしまう。
だから、こうやって―――服の端を咥えて、耐える。
興奮を高めるのは指の動きよりも、間近にいる祥吾自身とその匂い。
そして、こんなところでこんなにはしたない痴態をさらしているという事実。
見られたくない、いや見て欲しい。
そのふたつがないまぜになって、祐衣の小さな身体を突き動かしている。
足に絡まるこの布きれが邪魔だ。
集中できないので、蹴り飛ばしてベッドの外へ落としてしまおう。
それが何を意味するのか、それを祐衣は考えない。
今この思考を占めているのは、快楽を求める衝動と吐息がかかる距離にいる愛しい兄のみ。
指は思考から切り離されたように祐衣の意思に反して大胆に動き、否応無しに絶頂へと高めていく。

―――つ、と。

ふとももを滑っていく雫を感じて、さっと頭の奥が冷えた。
愛液があふれ出て、今、シーツに落ちようとしている。
駄目だ。
そんなところに染みが出来てみろ。あきらかに不自然だ。
祥吾は寝起きが悪い割りに寝相がいいため、そんな場所にヨダレを垂らすことなどありえない。
いけない、すぐになんとかしなくては―――!!

しかし身体はもう絶頂へ向けてスパートを始めてしまっている。
ああ、こんな。こんな。
ここでイッたら、確実に痕跡を残してしまうというのに―――。
もう、達することしか考えられなくなってしまっていた。
この熱の前に一握りの理性など焼け石に水である。
性器をさすり続ける手は速度を速めていき、そして――――――。

ぎゅ、と。
抱きしめられた。

空白になる。
祥吾は起きてはいないようだ。
蹴飛ばした布団を自分で引き寄せるような感覚で、近くにいた祐衣を抱き寄せたのである。
しかし、それは。
今まさに絶頂に達しようとする少女にとって、止めどころか魂すら抜くような行為であった。

「~~~~きゅぅ~~~~ぅ~~~~~~!!!!」

声にもならない声をあげ、極まる身体は硬直したあと、くたりと脱力する。
心地よい倦怠に眠ってしまいそうになるが、落ちるわけにはいかない。
ここで寝てみろ。目が覚めた祥吾がどんな顔をするか、
それ、を想像するだ…けで――――――。

―――――――――。

………。



「―――でね、いっつもそこで寝ちゃうわけ。
 妹たるもの、こっそりお兄ちゃんでオナニーするべし!って。結構難しいんだよぉ。
 今日も遅刻ギリギリになっちゃうしさー。はぁ~あ。
 妹じゃなくて恋人なら、ひとりえっちのあと寝ちゃってもいいんだろうけどなぁ~。
 ねー、あたしどうすればいいかなぁ?お兄ちゃんに告白しなおしたほうがいいと思う?」

顔を上げた祐衣の前にはもう誰もいなかった。
アイコが座っていた椅子は倒れ、そこには『ちょっとホームセンター行ってくる』と書かれたメモが残されていた。

「アイちゃん……?」

祐衣の携帯が鳴る。
祥吾からだ。
もうそろそろ帰るらしい。
無論、祐衣がそれを無視するわけが無い。
いなくなった親友のことなど0.1秒で忘れ、祐衣はスキップで教室を飛び出した。


数分後、アイコが斧と鉈と鋸とベルトサンダーを買って帰ってきた頃には、もう祐衣の姿はどこにもなかった。

アイコは暗くなりつつある放課後の教室の中、ひとり佇んでいた。

ずっと、ずっと。


                 妹たるもの!~新ジャンル「妹」妖艶伝~ 完

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最終更新:2007年11月27日 20:59
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