特別な君と、平凡な日々を

「午後六時、化学室で待つ…て言われてもなぁ……」

あれはまだ夏が続くといってもいいほどの猛暑が続いていた夏休み明けのこと。
口ではぶつくさ言いながらもしっかりと文化祭で行う演劇の雑用でこき使われていた夏樹は、
クラスメイトに呼び出されて人気のない化学室の扉を開けていた。

「なんなんだ……?」

暗い。

夕日がわずかに差し込むだけのこの特別教室は、確かに鍵は開いていたものの中に誰もおらず、
しかも電気も点いていなかった。
ただ、そこにはがらんとした空間だけが広がっている。

「三田嵐、いないのか」

響く声にも返事はない。
呼び出したのは向こうなのだから、てっきり既に待ち構えているものだと思っていた夏樹は少し拍子抜けした。
………拍子抜けには、ちょっとだけ、安堵も入っているというのが正直なところだろう。

三田嵐 庵(みたらし いおり)は学園でも有名な変人だ。
背が低く、かなりの美人であるにもかかわらず、誰にも感心を持たないその姿勢は当初こそ何かと構われていたが、
やがてそれが出来合いのポーズではなく地のものらしいということにみんな気付き始め、
距離を取ってあまり関わらないようになっていた。
同じ小学校・中学校出身のヤツの話では彼女はずっとそうだったそうで、友達らしい友達もいないのだとか。
何やら本ばっかり読んでる謎の女の子、というのが夏樹の印象である。
ただ、いつも涼しげなその目つきは少し気に入っていたけど。

だって、少し恰好いいじゃないか。

夏樹のような平々凡々の普通人からすれば、
ああいう少し浮いている―――あるいは沈んでいる?人間はミステリアスに映るものである。

「……いない、みたいだけど………鍵開いてたよな………」

化学室に限らず、音楽室やパソコン室―――いわゆる特別教室は
授業以外ではしっかりと施錠するのが決まりになっている。
特にここは重要な実験器具が保管してあり、
すぐ隣は危険な薬品も陳列している化学実験室なのだから戸締りもより厳重な筈。
その扉が開いていたということは、三田嵐は既にここに来ているということだが―――。
………トイレかな?

「……仕方ない。待つか」

このまま帰ってしまうなんて頭の端にも掠めない辺り、夏樹はお人よしである。
それにすっぽかした場合あの三田嵐に何されるかわかったもんじゃないし。
基本的に夏樹は頼まれればNOと言えない日本人、典型的なテキツクラナイ主義なのである。

とにかく暗いので、手探りで蛍光灯のスイッチを入れようとして、

「きてくれて、ありがと」

そこにいた白く小さい影に仰天して思わず大声を出しそうになった。
あまりにもじっと動かないのでヒトだと思わなかったのだが、
ああ、教卓上の明かりに照らされたその姿は―――。

「み、三田嵐。いたのか」
「うん」

コクンと頷く小さな女の子。
いつもの涼しげな眼で夏樹をじっと見つめる彼女は、間違いなく件の変人・三田嵐 庵である。
影が白かったのは白衣を着ていたからだ。
学校指定の地味なセーラー服の上に翻る白衣は、なんだかこの小さな少女に恐ろしく似合っていた。
まさにその姿、若くして数々の論文を発表し世界に注目される天才美少女のよう。

「――――――で、で?一体何の用?」

馬鹿な妄想をブンブンと振り払い、どもりながらも夏樹は訊ねる。
三田嵐は手に持っていた試験管を掲げた。
そこにはこれまた怪しげな、透き通った桃色の液体が入っている。

………。
……いまいち、意図が掴めない。

「あの、それが何か」
「―――――――――ン」

三田嵐は試験管をくいっとあおると、

―――夏樹に、唇を、重ねた。

加賀美 夏樹(かがみ なつき)と三田嵐 庵はいわゆるひとつの恋人同士というヤツである。
付き合い始めて早いもので三ヶ月近くなろうか。お互い異性と交際するのはまったく初めての経験なので、
イロイロ手探りながらもバラ色の学園生活を送っていた。
………いや、バラ色かどうかは微妙だが。
なんせ彼女であるところの三田嵐 庵は校内でも有名な変人であるからして。

身長140ほどのチビ助である彼女は、その実天才的な頭脳の持ち主だ。
なんでも実家が江戸時代から続く科学者の家計らしく、
彼女の部屋に通された時そのあまりに女の子らしくない装いに仰天したものである。
……いや仰天はしなかったか。だいたい予想通りだったし。
同世代の友達は一人もいないらしく(彼女曰く、夏樹は友達ではなく彼氏らしいので)、
小学生の頃からずっと休み時間は小難しい論文や新書を読んで過ごしてきたとか。
そういう周りから外れた人間は―――特に子供だと―――なにかと、ちょっかいを出されやすくなるものだが、
彼女の場合異様すぎてイジメの対象にすらならなかったというから筋金入りの偏屈者である。

だからこそ夏樹は彼女に惹かれているのだろうし、
庵も夏樹が無味無臭の凡人だから好きになったのかも知れないと分析している。
………夏樹はコクコク頷く庵に悟られないよう、そっと涙を拭いたものだ。

「いい天気だなぁ」
「ん」

空は青く青くどこまでも澄み渡り、冬に相応しく突き抜けるように高かった。
時は12時50分。昼ご飯である幕の内庵スペシャルも食べ終わり、
誰もいない屋上でまったりと過ごしているひと時だ。
ちなみに誰もいないのには訳がある。

「……しかし、いいのかなぁ。立ち入り禁止だろ、屋上」
「禁止だね」
「なんでその鍵を庵が当然のように持ってるのかスゲー謎」
「二人きりがいいから」

……ということらしい。

「でも、寒くない?」

暖冬とはいえ、冬だ。
日差しは暖かくても吹く風はピュウと冷たい。
寒がりな彼女には堪えるはずだが。

「平気だよ」

夏樹の足の間にすっぽりと収まってピッタリと身体をくっつけていた。
なるほど、これなら確かに二人の体温が伝わって温かい。
それに周りに他の人間がいる場所では、警戒心の強い彼女はここまでベタベタに甘えてこないだろう。

「………」
「…」

それっきり、会話は途切れてしまった。
別に重苦しいものじゃない。
もとより夏樹は自ら進んでお喋りができるタチじゃないし、庵に至っては木や石と同じくらい無口な女の子だ。
このような沈黙はごく自然なものだった。
はじめは息苦しく感じていた夏樹だが、今ではこの静けさが結構気に入っている。
こうやって自然に佇んでいられる相手は今までいなかったし、多分、これからもそう出会えるものじゃないだろう。

「庵」
「ん?」

顔を上げた庵に、夏樹はそっと唇を重ねた。



「――――――――――!!!!?」

夏樹は目をぱちぱちと瞬かせ、そして驚愕に見開き、さらにボン、と音が出る勢いで真っ赤になった。
な、な、な。
なななななななな、
なにをーーーーーーーー!!!?

しかもそれだけではない。
三田嵐の口から温かいものが流れ込み、夏樹の喉へ流されていく。
ひどく鼻に掛かる甘さのそれを思わず飲み下し―――そこで、やっと三田嵐は唇を離した。

夏樹に流し込まれた液体は試験管の中身のもの。
隙だらけの夏樹の頭をホールドし、爪先立ちになっての一瞬の出来事であった。

それでも……夏樹にとってはファーストキスである。

「なななな、なにするんだよ!!?」

慌てて三田嵐と距離をとる。
三田嵐の方はというと、何やら唇をしきりに触っている。
そしていつもの涼しげな顔で、

「キス」

とか言うのだった。
あまりにもあんまりな言葉に、夏樹は絶句するしかない。

「………キス、て」
「必要なことだから」

さっぱりわかりません。
しかし三田嵐の方は何かわかっているようで、てこてこと夏樹に接近する。
逃げたかったが、後ずさった拍子に椅子につまずいて盛大にスッ転んだ。

「大丈夫?」

三田嵐は心配なのか言ってるだけなのか判り辛い半目のポーカーフェイスで夏樹の顔を覗き込み、
―――そのまま、完全に夏樹に覆いかぶさってしまっていた。
丁度ひっくりかえっている夏樹のお腹の上に乗っかっている恰好である。
ええと、これなんてお父さんを起こす日曜日の娘?

ではなく。

「え、ちょ、みた、三田嵐!?」

わたわたと無意味に空をかき混ぜる手を取って、またキスをされた。
一回だけではない。何度も何度も、重ねては離し、離しては重ねると繰り返す。
まるで子猫が、ミルクをぺろぺろと舐めるかのように。
ピッタリとくっついたその身体は幼い体型ながらも柔らかで、火傷しそうなくらいの熱を持っていた。
どくどくと鼓動が伝わる。
いや、これは自分の心臓の音か。
突然起きた事態にもう頭がパンク寸前である。

「三田嵐!!」

肩を掴んで、なんとか彼女を引き離すことに成功した。
間に合った。
あのままキスをされ続けていたなら、夏樹は酸素が足りず目を回していただろう。

「いきなり、なんだよ!?」

とりあえずはそこである。
三田嵐が夏樹にした行為―――は、キスに間違いない。多分。
キスというと、恋人同士が愛情を確かめ合ったりすることだ。外国じゃ挨拶にもなっているらしいけど
流石に唇にダイレクトアタックはしないだろう。
で、なんで三田嵐は夏樹を呼び出してキスなんぞブチかましたのか。
三田嵐は夏樹の恋人ではない。
いくら三田嵐だって、ただのクラスメイトにこんなことはしない……と、思う。
なら、何故?

「せっくすするから」

――――――夏樹の思考回路は完全に凍結した。



「せっくす、する?」

長い長い口付けを終え、二人がやっと唇を離すと、唾液が銀の糸となってつぅっと橋を作った。
庵はぺろりと唇を舐め、夏樹の下腹部に指を這わせる。
柔らかく撫で上げた夏樹の男性は、スラックスを突き破らんばかりに大きく固くなっていた。

「だって、お前すごく柔らかくていい匂い」
「そうかな?」

くんくんと鼻を鳴らす庵。それから、柔らかく微笑んだ。

「なーくんの匂いがする」

普段はすましているので、庵が笑うとそれはとても可愛い。
夏樹が、思わず抱きしめてしまうほどに。
庵が屋上にあがると言い出した時はまたこのコは妙なことを言い出したなぁと思ったものだが、
こうやって可愛い庵を見られるのなら何度でも喜んで屋上のドアを蹴破ろう。いや合鍵あるけど。

「でも、流石に脱いだら寒くないか?」
「下だけ脱げば大丈夫」

などと言いながら立ち上がり、するすると下着を脱いでいく。
今日の庵のショーツは女の子らしい、水色と白のボーダー柄である。
夏樹と付き合う前はそれこそ味も素っ気も色気もない、デパートでまとめて千円、
てなものだったが今はこうやって可愛いものをと気にしているようだ。
周りの人間なんてみんなじゃがいも、という知り合う以前から比べたら大した進歩である。

「むー」

そう口にしたら、ちょっとだけ睨まれた。
他人から見ればガン付け以外の何物でもないこれも、今の夏樹にはわかる。
これは別に怒っているわけじゃない。照れているのだ。
だがにやにやしているのを見られるとますます庵は剥れてしまうだろう。
夏樹は口元がむずむずしているのを、目の前にある庵の下腹部に顔を埋めることによって隠した。
勿論そのままじっとはしていない。
鼻先を擦り付けるようにして頬ずりし、スカートを少し下ろしてお腹に唇をつける。

「あ」

そのままショーツのゴム跡に舌を這わせ、そのちいさな臍の下にちゅ、ちゅうっと吸い付いた。
唇を離すと、そこには赤くポッチが残っている。
庵の白いお腹に残るそれは、彼女が夏樹のモノであることの証明だ。
彼女がもぞもぞとくすぐったそうにしているのが可笑しくなって、
何度も何度もキスをしてそのマークを刻み付けた。
さてキスの位置を性器まで下げようとして、ふと思いつく。

「なあ庵、スカート持ってて」

庵は頬を染めながら、とろんとした目を瞬かせた。
よくわかってないらしい。

「脱いだ方がしやすい」
「いやそりゃそうだけども。いいから」

庵は小首を傾げたが、素直にスカートの裾を摘んで持ち上げる。
おお、これぞたくし上げ。
愛撫を受ける女の子が自らその身をさらし、下半身を露出させることによって
男の子におねだりするという無敵の型である。

「………?」

庵はまだよくわかってないようだが。

(まあ、庵はいつもそうだったよな……)

既に有名大学の教授に目をつけられているという程の優れた頭脳を持ちながら、
庵の世間とのズレっぷりは半端じゃないものがある。
特に自分の魅力の見せ方や年頃の女の子が男に甘えるときどうすればいいのか、
ということについては完全に守備範囲から外れていたらしく、
庵と夏樹はまだまっとうにデートもしていない。

しかし夏樹を屋上に誘い、さっきのようにぴったりくっついてきたりと庵は庵で自然に甘えてくれるので、
世の女の子たちがするような流し目などされたら夏樹は逆に寂しい思いをしそうな気もする。
それより問題なのは自分がどれだけ可愛いか庵に自覚がないことで、
彼女がお洒落をしたらクラスメイトたちは残らず庵にめろめろになることは確実だ。
そんなことになっては困る一方、こんなに可愛い彼女を自慢したい気もする。

………まあ、庵の一番可愛いここは絶対に絶対に誰にも譲る気などないが。

毛のまったく生えていない、しっとりと汗ばみながらもぴったりと閉ざされた未成熟な性器。
触るとぴくんと震え、女の子も持つ独特の匂いが鼻腔をくすぐった。
庵の標準よりかなり小さな身体は幾度か身体を重ねている今もあまり行為に馴染んでいない。
行為の前には、よくほぐしておく必要があるのだ。

「触るよ、庵」
「……ん」

ぷにぷにと弾力のあるそこを、筋に沿って擦り、撫ぜる。

「ふ、ぁあ……」

庵の甘い声をBGMに少女のクレバスをさらに強く摩り、割れ目を開いて充血したそこにつぷっ、と侵入した。
幼い中心はまだ夏樹の指を異物として拒んでいる。きゅうきゅうと締め付けるそこはまだまだ狭く、
かつて本当にここが夏樹の男性を受け入れたのかと疑ってしまうほどだ。
それでも、小さな恋人は夏樹を必死に感じてくれているのがわかった。
普段は眠そうな調子でしか喋らない彼女が甘く高く鳴いている。
それが夏樹を落胆させないための演技ではないことは、やわやわと緩み、
汗とはまた別の体液で湿ってきた性器を見れば一目瞭然だ。

「庵。庵、いおり、いおり、可愛いよ。いおり―――」

囁きながら指を離し、つ、と糸を引く愛液をひと舐めする。
舌の上に広がる雌の味に、たまらずに直に秘裂に口をつけ、大きく啜りこんだ。
庵が嬌声をあげるも、夏樹にはほとんど聞こえない。
がくがくと震え、今にも崩れ落ちそうな庵の腰を抱き寄せて無理矢理支えてやる。
下半身が痛い。夏樹の怒張は今真っ赤に腫れ上がってるだろう。
そのくせ、まだスラックスから出してやっていないのだから痛みを覚えて当然だ。

「なーくん、なーくん。わたし、もぉ……」
「準備、大丈夫か?」
「うん、だいじょぶ……」

夏樹は自分のブレザーを脱ぐと、コンクリートに敷いた。
固くて冷たい屋上に直に座ってはいくらなんでもお尻が痛くなってしまう。
夏樹はびん、と空を指す強張りをなんとか解放し、その上にあぐらをかくと手を広げた。

「ほら、自分で入れてみな。庵」
「………ん」

庵は夏樹のそれを調整しながら、ゆっくりと腰を下ろしていった。



「――――――く、ぁあッッ!!」

放心していた夏樹は下半身、それも股間に発生した猛烈な快楽にはっと我に返った。

「な、何やってんだよ三田嵐!?」

三田嵐が腰を下ろしたのは間違いない、自分の性器がツイている場所そこピンポイントである。
ということは、ということは、ということはああ、その部分は三田嵐のスカートに隠れて見えないが、
もしかするともしかしなくてもまさか自分は今まさにロストチェリー?

「せ、せっくす……する……ぐ、ぁ………」

真っ赤な顔をして、がちがちと震えながら三田嵐が答える。

「――――――いや、お前」

セックスしている!?この、ほとんど喋ったこともない変人クラスメイトと?
なんでそんなことに!?

痛いくらいに締め付けられ、というか実際痛みさえ伴うこの行為は
色々な媒体で手に入れた夏樹の性の知識とは少し外れている。
女性ならともかく、男である夏樹はもっとこう……気持ちいい『だけ』だと思っていたのだが。
いや、気持ちいいにはいいんだけど―――って、待て。

「ぐ、ぁあ、ぁ……、ぅ………ぅ」

三田嵐の様子が尋常じゃない。
歯を食いしばり、汗を玉のように浮かばせている。
いつもの能面のようなポーカーフェイスからは考えられない表情だ。
まるで、激痛に耐えているかのような―――。

「………って、お前!初めてかよ!?」
「……、ん……」

こくん、と頷く三田嵐に夏樹はどう返していいのかわからない。

「いぁ……」

夏樹が動いたからか、三田嵐はまた顔を歪めて歯を食いしばった。
その様子からだけでも、彼女が相当な痛みを覚えているのがわかる。
それはそうだろう、夏樹のモノは三田嵐にとって異物そのものだ。
夏樹と彼女では体格差がありすぎる。
それを碌な前戯も無しに無理矢理捻じ込んだのだ、たとえ処女でなくても激痛が走って当然というもの。

「バカ、何やってんだお前!抜けってば!」

夏樹は三田嵐の身体を支えようとして、しかし途中で力が抜けてがくんと手をついた。

「あ、れ……?」
「加賀美くんは、気持ちよく、ない……?」
「い、いや……気持ちいい、けど………」
「そう……………よかった……」

瞳の端に涙を浮かべ、痛みを堪えて微笑む。
その少女に―――夏樹は、いい様のない感覚を覚えた。
胸が締め付けられるような、どこかの奥から湧き上がる想い。
それは口どころか言葉にさえできないもので、つまり、夏樹が今までに体験したことのないものだった。
だが今はそれに思考を巡らせている場合ではない。
力が入らない。
その上、気持ちいい。
きつすぎる締め付けも、慣れてくれば一人で処理するのとはケタの違う快楽に変わってた。
まだ三田嵐は全然動いていないのに射精してしまいそうになる。
とくん、とくんと伝わってくる鼓動は三田嵐のものか、それとも夏樹自身のものか。
あるいは二人の心臓のリズムが溶け合って、同調しているのか。


これが、セックス。


なるほど、これは、確かに腰が抜けそうなほど気持ちいい―――!!

……って、本当に身体が弛緩して腰が抜けたように動けないのだが。

「三田嵐、お前何か盛ったろ」
「……く、ぅん、ん……オリジナルの、媚薬を、……ぁ」

痛みの下で三田嵐が答える。
媚薬―――いや確かに尋常じゃない気持ちよさだが―――って、オリジナル!?

「わたしが、調合したの。……わたし、得意だから。そういうの」

それはまあ、信じられないこともない。何せ三田嵐 庵だ。学園でも有名な変人。
噂では大鍋に入った緑色の液体をぐつぐつ煮込んでいるようなイメージだが、
まさか本当にそうだったとは思わなかった。
でも、それでも解せないことがある。
何故?
何故、三田嵐はわざわざ媚薬まで用意して夏樹を襲うのか?
こんな、平々凡々で普遍的男子を絵に書いたら佳作にも引っかからなかったような加賀美夏樹を……。

「すきだから」
「はい?」

夏樹は一瞬、快楽も身体も痺れも何もかも忘れた。

「加賀美くんが、好きだから。理由なんか知らない。一目見たときから、ずっと好きだった。
 でもわからないから、わたし。女の子のやり方なんて、わたし、全然知らなかったから。
 どうすればいいかわからなくって、怖くて、それで―――」

強攻策に出た、と。
ぽろぽろ流れ出す涙は、きっと痛みからくるだけのものじゃないに違いない。
そう、思いたかった。
変人?
アホか。
女の子のやり方を知らない?
何を世迷言を。
こんなに女の子にドキドキしたのは、生まれて初めてだよコンチクショウ……………!!

「………ひく、っく、すん」
「三田嵐」
「ふぇ?」

倦怠で動かすのも億劫な身体を根性で持ち上げ、泣きじゃくる三田嵐の身体を押し倒す。
スカートが捲くれ上がって二人の結合部が見えた。
初めて見る、しかしそれでもびっくりするほど小さく幼い三田嵐の秘部に、夏樹の凶悪なものが刺さっていた。
そしてそこからは、
血が、
一筋、流れ出ている。

「………………」
「あ、の。加賀美くん……?」
「動くから。俺も初めてだから……多分、すぐ、終わる」
「あ、ぇ……?」

目を瞬かせる三田嵐の小さな身体に、夏樹は一息吸い込むと、自分の腰を打ちつけた。


「あ―――は、くぁ、はいってる……!なーくんの、いちばん、おくまでぇ……っ!!」

彼女の小さな身体が踊る。まだ痛みは感じているようだけど、
夏樹のことを必死で受け入れてくれている姿が愛おしくて、
何度も何度も、呼吸が間に合わなくなるくらいにキスをした。

「三田嵐、三田嵐―――、可愛いよ、お前、すごく、可愛い――――――!!」

壊れてしまいそうなくらい強く抱きしめて……抱きしめられているのは夏樹の方だろうか?
この背中に回されているのは彼女の腕か。
荒れ狂う嵐に、放り出されないよう船体にしがみつくクルーのよう。
もっと上手くできるのならいいのだろうが、媚薬の効果か―――いや、そんなことは関係あるまい。
腰から下が、臍から上が、指先が、唇が、鼓膜が、鼻腔が、眼球が、心臓が、脳髄が。
まるでけだものになってしまったかのように言うことを聞かない。
いや、そもそも命令系統が完全にショートしている。
今はただ、この愛しい少女に想いの猛りをぶつけるだけ。

「だいすき、だいすきだよぅ、加賀美くん、加賀美くん―――!」

「庵、俺も、好きだ!大好きだ!世界で一番、庵が好きだ!!」

「嬉しい、わたし、なーくんのことぉ、あ、ひぁ、すごいよぉ……!」

「三田嵐……!」

精が解き放たれる。
終わりを忘れたような長い射精は少女の膣に残らず注ぎ込まれ、
子宮まで貫くように彼女の身体を満たしていった。
結合を解くべくペニスを引き抜くと、穿たれたそこから白濁がこぽりと流れ出す。
少女は自らの膣内から流れ出た液体をぬら、と掬い。

「こんなに、たくさん―――嬉しい……」

――――――柔らかく、微笑むのだった。



「授業、始まってるなぁ」
「ん」

校庭から、サッカーの授業だろうか、青春してる若い声が聞こえてきていた。
夏樹は庵を抱えるようにして、庵は夏樹の足の間にすっぽりと入り込むようにして、
二人してぺたんと座り込みまったりしていた。

「何か俺たち、まともな場所でしてないなぁ」
「わたしの部屋でしたよ?」
「あれはまともじゃない。まともな部屋にビーカーやらアルコールランプやらメスシリンダーは置いてない。
 結局なんだったんだよ、あの馬鹿でかい機械は」
「製氷機」
「エメット・ブラウン博士かお前は」

庵は夏樹と付き合い出した今でも、このように変人である。
でも、随分変わったとクラスメイトたちは言う。
表情が優しくなった、と。
いっつも無表情なのに変わりないのに、何故か話しかけやすくなったというのだ。
それに、ちゃんとそれに答えてやっているようだし。
彼女の変化が自分をきっかけにしているのなら、それはどれほど幸せなことだろう。
夏樹は、心からそう思っていた。

「……なーくんは、やっぱり普通の方がいいの?」
「少なくともえっちの場所に関してはそうだな。尻が痛い」
「痔?刺す?」
「違うよ!何をだよ!真顔で怖いこと言うな!」
「……冗談」

夏樹だって相変わらず平凡である。
秀でたところは何もない、自分の短所はパッパと思いつくのに
長所となるとさて、何が自分の特徴なのかわからない。
全国男子を足してその数で割ったような男を、相変わらず続けている。
それでも、ひとつ自慢できるとすれば、庵の無表情を読み解くことができるようになってきたことだろうか。
無論以心伝心には程遠いし、エスパーじゃないんだから庵の心の中を察知するなんて無理だ。
でもどうすれば庵が喜ぶのか、嫌がるのか、何が好きで何が嫌いなのか。
それを知っている。
うん、これは自慢できることなんじゃないだろうか。


あのとき、放課後の化学室で、彼女の気持ちに答えた夏樹に庵がどんな顔をしたのか。
それを、きっと夏樹は一生忘れない。

―――恋を、している。

この先、どんなに二人が変わろうとも。
そこだけはきっと、変わらない。
二人が二人でいる限り、きっと。


「ところで、なーくん」
「―――ん?どした、庵」
「わたし、さっきね……イっちゃった」
「………」
「実は初めてだったんだ。……わたしの身体、えっちになってるのかな」
「……………」


………この小さな彼女に参ってしまっているのも、きっとこの先……変わらないだろうと思う。



                 特別なきみと、平凡な日々を~新ジャンル「理系さん」妖艶伝~ 完

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年02月10日 22:57
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。