しゃんしゃんしゃんしゃん…
12月某日。
街は瞬く照明で華やかに光り、行く人々もどこか顔をほころばせている。
ぼんやり眺めていると、家族連れやカップルの比率が普段より格段に高いのがわかった。
きっと家族連れはこれから暖かい家に帰って鶏足でも食うのだろうし、
カップルはどこぞのホテルにでも泊まって合体だ。
9月10月生まれの小さなお友達がまた増えることになることうけあいである。
聖なる夜。
クリスマス。
正確には今日はイブだが―――どちらにせよ、
今日この日を本気で有難がっているのはこの国では聖職者か、あるいは商売人しかいまい。
金が流れ込むイベント・デイ。
事の本質はすっかり歪み、ただのお祭りに成り果てた。
……この俺自身、クリスマスなんぞを敬う気はさらさらないし。
そもそも俺はクリスマスが嫌いなのだ。
「いいのかなぁ、そんなこと言って」
のし、と背中にふたつ、柔らかいものを感じた。
顔をあげなくてもわかる。
圧し掛かってきたのは仲居戸 赤葉(なかいど あかは)―――俺の同業者である。
女の子だけど。
「いいんだよ、別に。誰も聞いちゃいないんだから」
「あたし聞いたけどー?」
「お前、陰口叩いたらどーなるかわかってんだろうな?」
少し声を低くして脅してやるも、鈴はあははーといつも通り暢気に笑うだけだった。
「あたし、そんなことしないよ」
「……知ってるよ」
こいつとは一日二日の付き合いじゃないんだ。
年中顔を合わせてるわけでもないけど、
同じ地区担当ということで集会や訓練の時なんかはコンビを組まされることも多い。
お互い親の顔も知った仲であるし、陰口を叩いたりするのが苦手なヤツだと初めからわかっていた。
……そういえばコイツ、爺ちゃんにえらい気に入られていたっけ。
あの頑固爺をどうやって懐柔したのかは気になるところである。
まあコイツの能天気な顔を見ていたら爺ちゃんも怒る気無くすか。
「それに、クロだってあたしに酷いことはしないでしょ?」
「………あ?」
赤葉がごく自然に口にした、その言葉に俺は少なからず驚いていた。
ガッコじゃいわゆるフダツキで通っていた俺である。
……いや別に目立ったことはしていないが、
目つきが悪いとその一点が気に食わなかったらしい先輩に絡まれ、
面倒くさかったが足腰立たないくらいにしてやったらいつの間にか俺が悪いことになっていたのだ。
その評判を赤葉は知らないだろうが、
お世辞にも上品とは言い難い俺を見て『酷いことしない』とは一体どういう了見か。
同業連中でも『らしくない』と言われている俺なのに。
「あはは。そんなの嘘。クロが優しい人だっていうのは、あのコたち見てたらわかるもん。
クロのが一番毛並みもいいし、角だって立派じゃない。クロが頑張って世話してるからだよ」
能天気に笑う赤葉は―――相変わらずアホのようだった。
「自信持ちなよ。クロより向いてる人、そういないと思うよ?」
「………お前なぁ」
少しくらい動物の世話をするのが得意なくらいで太鼓判を押されてはたまらない。
それに、最初に言ったの聞いていたんだろうが。
俺は、俺たちの晴れ舞台となる今日、この夜―――クリスマスが嫌いなのだ。
それは、きっとなんてことのない。
ガキの頃からのトラウマである。
爺ちゃんも親父もお袋も―――家族全員がクリスマスに仕事で出払ってしまう俺の家は、
ずっと独りきりのこの日を過ごさざるを得ないのだった。
俺とはいえ、まだほんのガキだ。
友達の家の盛り上がりに比べ、胸に巣食うこの寂寥感は何だというのだろう。
でっかい鳥肉やケーキは一人で食べるには大きすぎたし、
TVをつけてもクリスマススペシャルしかやってなくて余計に気が滅入ったものだ。
さっさと寝てしまおうにも寝付けず、
朝になって目が覚めても―――枕元にプレゼントなんて置いてあるわけない。
そう、俺には一度もサンタクロースはやってこなかった。
いたのは、ただ、夜通し働いて帰って来た大人たちだけ。
俺はそんな、クリスマスの裏側というヤツを嫌ほど見てきた少年時代を過ごしたから。
文句は言わない。
軽蔑もしない。
理解はしている。
だから噛み殺すしかない。
そんな自分がまさかこのクリスマスを彩る張本人になっているなんて、
皮肉というか家柄には勝てないというか。
そもそもこの家に生まれてこなければこんな仕事に就くこともないだろうし、
また独りきりのクリスマスイブなんてものを三つの頃から体験せずに済んだろうが。
「……そっか。クロんちはそうだったね」
「―――ま、同業じゃ珍しくもなんともない話だろ。
俺だって今じゃ仕事だって割り切ってるしな。
ただ、クリスマスを楽しんだことのない俺がこの仕事に向いてるなんて間違ってるってだけの話」
「………………」
俺は、きっと今すごく恰好悪い顔をしていると思う。
いじけて、不貞腐れた俺なんぞにプレゼントを貰ってもきっと喜ぶガキはいないだろうに。
しかしそれを言うなら、俺は心からメリークリスマスと言ったことが果たしてあるのかということで。
きらきら笑いながらプレゼントを受け取るガキは
真正面から見るには少し、俺には眩しすぎるのかも知れない。
………なんだか気が滅入ってきた。
仕事前だというのに。
「わかったら、お前も自分の控え室に戻るなりトナカイの様子見に行くなり、どっか行っちまえ。
俺、機嫌直さなきゃ仕事できそうもないから」
そっぽを向いたままひらひらと手を振って、赤葉を追い出そうとし―――
突然、窓の外を眺めているその顔をがっしと掴まれたかと思うと、
強引に方向転換させられて、首の骨がいい音を立てていた。
「な、」
何をする、と言おうとした唇がふさがれる。
何が起きたのかよくわからない。
ただ、柔らかな感触と、赤葉の顔が異様に近くにあるのだけはわかった。
―――。
思考が停止する。
これは、もしやキスというものではあるまいか―――。
目を白黒させながら数十秒、やっと赤葉が唇を離したときにはもう、俺の顔は真っ赤っかになっていた。
と思う。
顔がやたら熱かったし、赤葉の顔も見たこと無いくらいに紅潮していたから。
「ぷは」
人様の唇を強奪した赤葉が大きく息をつく。
どうやら唇を付けている間、息を止めていたようだ。
俺はというと、もっと酷い。驚きのあまり呼吸を忘れてしまっている。
「な、なに……?」
やっと搾り出せた言葉は、それだけだった。
「………クリスマス・プレゼント」
にへへ、と笑ってはいるが、その顔色は茹蛸もかくやといった感じである。
俺は何を言ってるんだと思い、それから数秒かけて、
もしかしてこれはこいつなりに俺を元気付けているのではあるまいか―――と、気付いた。
「……クリスマス・プレゼントって、お前」
「あ、ははは。ほら、サンタクロースは誰にだってプレゼントをあげるのです。
クロには、その、乙女のキスをプレゼント」
明るく笑うが、それが照れ隠しだということは一目瞭然だった。
かっかと火照る身体の熱を逃がすためか、ぱたぱたとせわしなく動いている。
たかがキスくらいで照れすぎじゃないかとも思うが、
多分コイツだって経験豊富な方じゃないのだろう。もしかしたら初めてなのかも知れない。
赤葉のことだ、軽々しく男に何かできる性分じゃないことは明らかである。
そんな、こいつが―――
「わ」
―――なんだか、すごく愛しくなって、俺は気が付けば赤葉を抱きしめていた。
「わ、わ、わ」
「赤葉」
名前を囁くと、俺の腕の中で慌てていた赤葉が大人しくなる。
「な、なにかな?クロ」
何かな、ときた。何だろう。俺もよくわからない。
けど、せめて溢れてしまいそうな気持ちを伝えられるように。
赤葉の顎をあげ、さっきの赤葉と同じことを今度は俺から、した。
赤葉も俺が何をしようとしたのかわかったようで、緊張しつつも驚いた様子はなく、
すっと瞼を閉じて俺の行為を受け入れた。
決してなまめかしいものではない、触れ合うだけの幼い口付けだ。
けど、それは俺の何かに大きな罅を入れるには充分な破壊力を持っていた。
「…………………」
「……………」
唇を離し、ぽーっとしている赤葉の胸にそっと触れる。
「ひ!?」
その素っ頓狂な声を聞いて、俺ははっと我に返った。
何をやっているんだ、俺は。
クリスマスだ何だと浮かれ騒いでこーゆー行為に及ぶ馬鹿な若者をさっきも鼻で笑っていたくせに。
赤葉だって不貞腐れている俺を見て哀れんだだけだろうに、スキあらばこれである。
けだものか、俺は。
「す、すまん!」
ぱっと赤葉を離し、すぐ後ろを向いた。
これ以上赤葉を見ていたら、本当に洒落にならないことをしてしまいそうだったからだ。
クリスマス・プレゼントは赤葉の唇。
それだけでじゃんじゃんお釣りが来そうなくらいなのに、他に何を求めるというのだろう。
「あー、つまり、そういうことだから。ま、まあさっきのは犬に噛まれたと思って忘れてくれ。
………く、クリスマス・プレゼント、ありがとな」
頭に血が上って自分でも何を言っているのかよくわからなかった。
赤葉が出て行ったら一足先に屋上に上がって煮立った頭を冷やさなければ―――。
かゆくもない頬をぽりぽり掻いていると、再び背中に柔らかいものがあたった。
「………………」
赤葉である。
俺の胸に回された細い腕の力は女の子そのもので、それを振り払うことはきっと雑作もないに違いない。
けれど、それができる男がいったいどこの世界にいるというのだろう。
「………く、クリスマス・プレゼント……」
不思議なものだ。蚊のなくような声なのに、耳元で囁かれたかのようにはっきり聞こえる。
「もっと……あげても、いいかな………?」
爆音が聞こえそうな鼓動は俺のものか、赤葉のものか。
……きっと、赤葉のものだろう。
何故って、俺の心臓はさっきからオーバーヒートして止まりかけているに違いないからだ。
赤葉はベッドの上で身を固くしている。
心配そうな顔を見られたか、赤葉はあは、と少々無理矢理っぽく笑った。
「あ、いやいや、違うよ。無理はしてないよ。
ただ、さ。―――緊張しちゃって。おかしいね、相手、クロなのに」
そんな信頼されても困る。
俺だってそう経験がある方じゃない―――いや正直に言おう。自主練がいいところなのだ。
「あ、そなの?あはは、一緒だ」
………なんということだ。俺は今から赤葉にとんでもないものを貰うらしい。
「そ、そんなことないよぅ」
「いや、そんなことあるだろ。ていうか本当に俺なんかでいいのか。赤葉だったら、もっと他に―――」
「クロがいい」
少し眉を吊り上げて、赤葉は俺の頭をぐいと引き寄せた。
そうして、少し顎を引いて、上目遣いに呟く。
「クロじゃなきゃ、やだ」
「――――――……」
この娘は。
何回俺の心臓を穿てば気が済むのか。
これを天然でやっているのなら、底知れない俺殺しである。
それともこれがクリスマスパワーか。恐るべしクリスマス。
「と、ところでね?クロ……」
「う、うん?」
「服、脱がせてくれないかな?あはは、やっぱ緊張してるみたいでさ」
………………………恐るべし、クリスマスパワー。
女の子の服を脱がすというのがこんなに神経を使うものだとは知らなかったが、
死ぬ思いも報われたか赤葉の身体を包んでいた真っ赤な仕事着は今、
ソファの上にきちんと折りたたまれている。
赤葉だけに裸でいさせる訳にはいかないので俺もチャームポイントである同じ柄の服を脱ぎ、
絵面としてはトランクスの男がショーツとブラだけの女の子を押し倒している恰好になった。
「………ところで赤葉。なんでニーソックスは脱がないんだ?」
俺たちのユニフォームは基本的に同じだが女の子はズボンではなくスカートになる。
しかし冬空を飛ぶにはそれではいささか寒すぎるので、
太ももまである丈の長いニーソックスを穿いているのだ。
まあこの時期風俗店の前で呼び込みをしているお姉さんの恰好を
思い浮かべてもらったらわかりやすいと思う。
俺たちはパチもんじゃなく本職だけど。
「……え?クロ、この方が喜ぶと思って」
俺はいったい赤葉になんと思われているのだろう。
まあ、それは外れではないのでそれ以上突っ込むまいが。
「じゃ、さ、触るからな。痛かったり嫌だったら言えよ」
「あ、ちょっと待った」
柔らかそうな胸に顔を埋めようとした俺を赤葉の手が押し留める。
いきなりかい。
大分情けない顔をしただろう俺の下からもぞもぞと這い出て、赤葉は目を明後日に向けてくるくると髪を弄った。
「あたしからクロへのプレゼントなわけじゃない?だ、だからさ」
「?」
「先制はあたしからにさせて欲しいかな、なんて」
「………」
それがどんな意味を持つ言葉なのか、気が付いたのは赤葉が俺のしま柄のトランクスに手をかけた時だった。
「お、わい!」
口から漏れた奇声じみた静止も遅く、赤葉は下着を引き摺り下ろして俺のムスコを引きずり出す。
びょん、と飛び出したその元気さに、赤葉は目を丸くした。
「うわ。うわ。うわわわわ」
丸く、というより白黒させているといったほうが正しいか。
コイツも初めてだと言っていたし、勃起した男性器を見る機会なんてなかったろうし、面食らうのもわかる。
わかるからそうまじまじ見ないで欲しい。恥ずかしいから。
「だ、だって見ないとできないし!」
「やらんでいい!いくらクリスマスだからってお前、そりゃはしゃぎすぎだ!女の子だろ!」
「お、女の子だからクロに気持ちよくなって欲しいんでしょ!?」
………。
ああ、そうか。なんて、一瞬納得してしまった。
だってこれが男だったら相当気持ち悪いし。
「はむっ!」
「―――って!おい!!」
なんて、隙を見せたのが悪かったか。
赤葉は俺の下半身に食らい付いた。
―――その感触に、腰が抜けそうになる。
赤葉が超絶テクニックを持っているというわけではない。
まだ舌も絡めていない、口に含んだだけだ。
ただ、驚いたのは。
自分以外から受ける快楽とは、こんなにも桁が違うのかということで。
熱く湿度の高い赤葉の口内に、俺は情けない声をあげていた。
「―――っひ」
そこへ、ぬらりとした刺激が襲う。
舌だ。
赤葉の舌が俺の竿の裏から敏感な先端へ向かって這っていったのだ。
赤葉の口に含まれているのは半分ほど。
大きさとしては決して平均の域を出ない俺だが、赤葉の口が小さいのか、やはり臆するところがあったのか、
赤葉はまだ含むというより咥えているといったほうがより近い。
……それが、まずい。
深く突っ込んでいるわけではないので、亀頭に刺激が掠めていくことになる。
それは直撃せずとも意識が吹っ飛ぶほどの衝撃であり、
脳髄の奥が痺れるほどの興奮とはまた別のベクトルを持つ感覚がぞわぞわと背筋を駆け抜けていく。
知らなかった。俗にフェラチオと呼ばれるこの行為はとんでもなく気持ち良く、そして
がり。
………スリル溢れるものだったとは。
「痛ッてぇぇぇぇええええ!!」
「え?あ、あれ?」
亀頭とはおよそ人体で―――男にしかないが―――最も防御力の低い場所のひとつだろう。
そしてもっとも攻撃力が高いのは言うまでもなく歯。顎。
そう、フェラチオとは、まかり間違えば違う意味の悶絶を生む薄氷の上を歩くが如き愛撫なのである……!!
「く、クロ?」
ましてや赤葉は初心者も初心者だ。
慣れない行為に失敗はつきものというもの。
「だ、大丈夫………?」
大丈夫じゃない。
赤葉の歯は掠った程度だが、じんじんとした痛みはすぐ引くものではないだろう。
しかし赤葉の申し訳無さそうな顔を見てやせ我慢できないのは男じゃなく別の何かであり、
俺は歯を食いしばって親指を立てた。
「全然ヘーキ」
「全然平気そうじゃないけど」
全然、は否定。全然~~ではない、が正しい使い方なのだ。
「ごめんね、クロ」
―――コイツ、天然の狩人か。
それとも赤葉なりの介抱のつもりなのか。あろうことか今度は口に含むのではなく、
小さく舌を出して傷付けてしまった部分をチロチロと舐め始めたではないか。
繰り返すが赤葉の歯が当たったところはもっとも繊細な神経の通っている場所である。
腰から力の抜けるような刺激に俺はまたも情けない悲鳴をあげた。
しかし今度のは激痛ではなく快楽から。
思わぬ攻撃を受けたとはいえはち切れんばかりだったそこへの優しい愛撫に、
俺はとてもじゃないが耐えられなかった。
「―――赤葉…!顔、どけて……っ!」
「え?」
頭を掴んで押しのけるも間に合わない。
ぽかんとした赤葉の顔に、俺は白濁をぶちまけた。
額から鼻筋へ、そして口元へ。
とろりと流れ伝う精液で赤葉が穢されていく。
扇情的というにはあまりに罪深く、故に倒錯的とも呼べる興奮をもたらすものだった。
「……ん、変な味」
唇まで垂れたそれを舌で拭う。
決して美味しいものではないはずだ。実際味をみたことは勿論ないが、
ひどく生臭いその臭いだけでも充分想像はつく。
しかし赤葉はねっとりとそれを口の中で転がしたあと、目を細めて妖艶に微笑んだ。
「でも―――これがクロの味……かぁ」
くら、とよろけそうになる。
それは見たことも無いくらい妖しく、劣情を煽る仕草だった。
いつものほほんとしている赤葉の意外すぎる一面に
俺は二、三度まとめて心臓が止まりそうになり、そして。
「赤葉」
「え?ひゃ!」
赤葉の顔が汚れているのをそのままに、小さな肩を掴んで押し倒していた。
「ま、待ってクロ。顔、拭かなきゃ」
「待たない」
待たない。
待ってなどやるものか。
クリスマスプレゼントは愛しい少女。
そう。これは、俺のだ。
俺のものにするのだ。
―――くちゅ。
赤葉の下半身に指を這わせると、そこから水音が聞こえた。
薄い茂みに覆われた秘泉からはすでに愛液が滲んでいるようだ―――何もしていないのに?
いや、まさか。
「お前、俺の咥えて興奮してたのか?」
「………うぅ」
顔を赤くして俯く赤葉。
なんて女だ。人を噛んでおいて、自分はこんなに淫らになっているなんて。
もじもじとしている赤葉にお返しとばかりに意地悪く追い討ちをかけようとして、
「………だって、クロの、すごくえっちな味だったんだもん」
逆にこっちの脳が揺さぶられた。
だから、こいつは―――なんで、こう天然なのか。
「………スマン、赤葉。俺、我慢できそうにない」
「あ……う、うん」
女の子がどれくらい濡れれば『入る』のか、そんな知識すら俺は持っていない。
でも赤葉のここはもう湿っているし、何より、俺が持ちそうになかった。
さっき赤葉の口淫で出したばかりの性器が全く衰えようとしていない。
まだ、自分の本領には至っていないと言わんばかりに。
「入れるぞ、赤葉」
「うん……きて、クロ」
指一本でもきつそうな赤葉の大切なところに、俺のモノが身を突き立てる。
信じられないほど柔らかで、しかし硬く異物を拒むその場所を―――強引に押しのけ、蹂躙していく。
「あ、くぅ……っ!」
「う、あぁ……っ!」
俺は快楽から。赤葉は苦痛からだろう。喘ぎ声が重なった。
「赤葉……」
「大丈夫、わかるから……クロの入ってるの、わかるから……!」
背中に痛みを感じる。
破瓜の苦痛に翻弄される赤葉が、俺の背にしがみついて爪を立てているのだ。
それはぐいぐいと食い込み、皮膚を破って血が滲んでいる程かもしれない。
しかし、これは赤葉の痛みなのだった。
俺が貫こうとしている処女膜の、ほんの数割分の痛みであれ、今俺たちは同じ痛みを共有している。
「赤葉、貰うからな」
「うん……大事にしてね」
腕の中で、赤葉が涙を浮かべ―――微笑んだ。
それで、覚悟が決まった。
「あ、く、ぅぅぅうううッッ!!!!」
何かを破るような感覚。
俺は一気に腰を押し入れ、赤葉の膣内に侵入した。
腕の中の少女が苦しそうな呻き声をあげ、
背中に食い込む爪が肉を抉る―――それも、やがてゆるゆると力が抜けていった。
はぁはぁと荒い息をつく赤葉の汗を、犬のように舐めとってやる。
「入ったぞ、赤葉」
「うん……ね、クロ」
「うん?」
きゅ、と赤葉が背中を抱く腕の力を強める。
ただし、今度は痛みを共有するための爪ではなく、優しい指先で。
「――――――だいすき」
それで、俺は、赤葉を抱くにあたってまだ一言もその言葉を口にしていないことに気が付いた。
大馬鹿者である。
今さらだ。
しかし、こればかりはちゃんと言わなければならないことだった。
「――――――俺も、だいすきだ。赤葉」
ああ、よかった。
赤葉が、幸せそうに笑ってくれたから。
腰を、引く。
赤い乙女の証を穢した欲棒がずるりと姿を現し、半分ほどで今度は逆ベクトルへ。
再び肉の洞に侵入を開始する。
赤葉の内部はまだ俺という異物を拒んでいる。
しかし拒絶し閉ざされようとする膣内は絶妙な締め付けを生み、
俺はその度に尻の穴に力を入れて射精を我慢しなければならなかった。
赤葉の反応はまだ痛みに満ちている。
そもそも、初めてである今回赤葉が少しでも快感を覚えてくれるかは疑問だ。
苦しそうな声を聞いて、しかし俺は謝罪の言葉を口にはしないと密かに誓った。
謝ることで許しを得るのは簡単だ。
でも、それは違う。
俺は間違った行為はしていない。
だから、こうやってキスをする。
何度も何度も、赤葉の唇を貪る。
せめて赤葉の気が痛みから逸れるように―――。
大丈夫か、と訊いたら幸せだ、と返ってきた。
大丈夫ではないらしい。
腰は止まらない。
もどかしいくらい緩慢だったはずの動きは、いつの間にか身体が弾ける音をたてるほどになっていた。
飛沫が飛び散る。
赤葉が切なそうな声をあげる。
支えていた細い身体を持ち上げ、思い切り抱きしめた。
膝の上に来た赤葉も四肢を俺に絡め、振り落とされないようしがみつく。
奥に、
当たる。
余裕はない。
尿道に熱いものがこみ上げるのがわかる。
一瞬、このままでは膣内に出してしまうと思い、
そして赤葉はおそらく、放してはくれないだろうと思った。
何故なら躊躇に動きを止めたその一瞬、しかし水気を多く含む淫音は止まっていなかったから。
赤葉が、望んでいる。
俺は思い切り、赤葉を突き上げた。
「赤葉、赤葉、赤葉、赤葉、赤葉、あかは――――――」
「クロ、クロ、クロ、くろ、九郎、くろう――――――」
お互い世界で最も愛おしい相手の名を呼びあい、そして。
――――――白濁の想いを、放つ。
12月某日。
街は瞬く照明で華やかに光り、行く人々もどこか顔をほころばせている。
ぼんやり眺めていると、家族連れやカップルの比率が普段より格段に高いのがわかった。
きっと家族連れはこれから暖かい家に帰って鶏足でも食うのだろうし、
カップルはどこぞのホテルにでも泊まって合体だ。
9月10月生まれの小さなお友達がまた増えることになることうけあいである。
聖なる夜。
クリスマス。
正確には今日はイブだが―――どちらにせよ、
今日この日を本気で有難がっているのはこの国では聖職者か、あるいは商売人しかいまい。
金が流れ込むイベント・デイ。
事の本質はすっかり歪み、ただのお祭りに成り果てた。
……この俺自身、クリスマスなんぞを敬う気はさらさらないし。
―――しかし。
今の俺はどうしても、今日この日を嫌いにはなれないのであった。
「………大丈夫か、赤葉」
「へ、平気ー。……まだ何か挟まってるっぽいけど」
さっきまでとんでもないものが挟まっていたのだ。無理もない。
………そう、赤葉から極上にも勝るクリスマス・プレゼントを貰ってしまった以上、
クリスマスとやらを認めないわけにはいかないのだった。
「……そんなんで仕事できんのかよ。ガニマタのサンタガールなんて嫌だぞ」
「大丈夫じゃないかな?その分クロが頑張ればいいだけのことだし」
屋上から月や星は見えない。どうやら曇っているようだ。
………まさかとは思うが、雪が降るんじゃないだろうな?
「降るよー。降雪確率50%だってさ」
「マジか。勘弁してくれよ」
「なんでー。いいじゃない、ホワイト・クリスマスなんて絶好の仕事日和でしょ?」
「そりゃ見てる分にはな。でも実際飛ぶ側からしてみたら雪なんて邪魔なだけだろ」
ぶつぶつ言いながらトナカイたちにリードをつけていく。
トナカイたちにとっても今夜は年に一度の仕事日だ。
はしゃぐのはいいが、噛むな。帽子のポンポンを噛むな。千切れたらどうする。
「―――もうそろそろ12時だね」
「ん」
袋も積んだ、リードも付けた。
あとは乗り込んで………後部席の赤葉は居心地が悪そうにもぞもぞしている。
……本当に大丈夫か、コイツ。
「時間だよ、クロ」
「ん」
まあ、赤葉のいう通り俺がその分働けばいいだけの話で。
ぴしゃんとリードを振るうと、トナカイたちが走り出した。
決して広くない屋上の滑走路を飛び出し、聖夜の空を蹴り、飛ぶ。
――――――さあ、仕事だ。
サンタクロースは空を往く。
しゃんしゃんと鈴の音を響かせて、空飛ぶトナカイの引くソリに乗って。
「―――そだ。ねぇ、クロ」
「どした、赤葉」
赤葉は身を乗り出して、俺の頬に軽く唇をつけた。
「メリークリスマス、クロ」
赤葉はいたずら好きの子供のようににこにこしている。
俺は少しの間目を丸くして、
「メリークリスマス、赤葉」
そう、微笑みを返した。
誰が為に鈴は鳴る~新ジャンル「サンタ娘」妖艶伝~ 完
最終更新:2008年02月10日 23:02