ぼくの姉さんはいわゆるダメな大人である。
どれくらいダメかっていうと、お酒が大好きな癖にビールは炭酸だから飲めないし、
惚れっぽくて好きな男の人がコロコロ変わるし、
夜中に一人でトイレに行けないくらいダメな大人である。
一応社会人になったんだから独り暮らししたいなぁと口癖のようにいっているけど、
姉さんみたいなのが一人暮らしなんかしたら三日で干物になると思う。
なにせコールスローさえ満足に作れない姉さんだ。
そりゃあ付き合った男と端からフラれるってもんである。
まあ、ダメな人間は傍から見てて勉強になるからいいんだけど。反面教師的な意味で。
「まーくぅぅぅぅん」
姉さんが帰ってきたようだ。おかえり、ダメ姉さん。
この時間帯に帰ってくるってことは、どうやら新しい男とは別れたらしい。
七日か。まあ、平均だな。
「姉さんねぇ、彼氏に振られちゃったよぉぉう」
「見ればわかるよ姉さん。鼻水拭きなよ。汚いから」
「うぅ、ごめんねぇ……」
姉さんはティッシュを五、六枚引き抜くと、ズビビと豪快に鼻をかんだ。
姉さんは繊細に見えて意外とこういうところが男らしい。
そこがギャップとなってますますダメに見える。
逆なら萌えポイントなのにね。
「で?今回はなんて言ってフラれたの?」
「ギャフン!なんでまーくん、姉さんが振られたって知ってるの?」
「さっき姉さんが言ったんだろ」
姉さんは若年性痴呆症のケもあるようだ。今度病院に連れて行ってみよう。
あの頭の輪切り写真と撮る機械で視てみたら、案外脳みそが虫並みにしかないのかもしれない。
………虫に脳みそってあったっけ?
まあどっちでもいいけど、男を見れば恋に落ちる程惚れっぽい姉さんより
一応相手を選ぶセミとかの方が賢い気もする。
セミに謝れ、姉さん。
「………生まれてきてごめんなさい」
よろしい。
「ねえまーくん、なんで今姉さん謝ったの?」
「生まれてきたからだろ」
「そっかー。ってまーくん酷い!!」
よーし、姉さんはとりあえず泣き止んだようだ。
これで事情が聞けるぞ。どうでもいいけど。
「はっ!もしかしてまーくん、姉さんを元気付けるためにわざと姉さんを罵ったというの!?」
その通りさ姉さん。
「さすがねまーくん!だから大好き!」
姉さんはダメな大人だ。
何かあるとすぐに抱きついてくる。よくこんなんで社会人が務まるもんだ。
姉さんの仕事は良く知らないけど、よっぽどやることない部署に違いない。
「ふーんだ。それはまーくんの前だけだもん。外では姉さん、結構ピシャッとしてるのよ?」
「……だったら家でもピシャッとしてなよ姉さん」
「やーですー。姉さんはまーくんに甘えるために生きているのですー」
歳が離れているせいだろうか、小さい頃から姉さんはよくぼくを構っていた。
そりゃあもう、昼も夜もないくらいに。
おかげでぼくはかなりの姉さんっ子であり、姉さんがいないとすぐ泣くようば少年だったそうな。
……それがはっきりと逆転したのはぼくが中学生に進学した頃だったと思う。
その頃から姉さんは以前から悪かった男癖がますます悪くなり、
しょっちゅうぼくに泣きつくようになった。
そして、それが起きたのだった。
「………ねえまーくん、慰めてくれないの?」
胸元にすがりついていた姉さんがぼくの首に腕を絡め、甘く囁く。
その唇は濡れ、息は熱い。頬はうっすらと紅をさしたように染まっている。
どうやらぼくの体臭を嗅いでいるうちにスイッチが入ったらしい。
―――そう、姉さんはとことんダメな大人なのだ。
なにせ、弟の身体を求めてくるんだから。
社会の常識も慎みもない、本当に救いようのない、ダメな姉さんなのである。
「―――慰めるって、慰めてるじゃないか」
だから、ぼくは意地悪をする。
姉さんの頭を優しく撫でて、それで終わろうとする。
もちろん、ダメな姉さんはそれで泣きそうな顔をするのを知ってのことだ。
「違うの。まーくんの身体で、慰めて欲しいの」
―――懇願の言葉はひどく生臭く、濃厚な雌の匂いがした。
ぼくは嗜虐の笑みを自覚しながら、勿論すぐに姉さんの求めに応じるなんてことはしない。
「ダメだよ、姉さん。何をどうして欲しいのか、ちゃんと言わないとわからないよ?」
囁きながら姉さんの胸をまさぐり、すでにこりこりに硬くなっている乳首を捻る。
姉さんの喉から、反射のように小さく声が漏れた。そのまま背中に手を伸ばし、
下着の止め具を外すとゆっくり円を描くように腰の辺りを撫で、火照っていく熱を感じた。
姉さんは切なそうにしている。
ぼくの手は段々降下してゆき、尾てい骨にも届きそう。
でも、ここから先へは進まないことを姉さんは知っていた。
これはまだ愛撫とさえ言えないような触れ合いであり、そこから先どうするかは姉さんが決めることだ。
ぼくは近親相姦なんて人の理を外れた行為を甘受するつもりはない。
ただ、姉さんがあまりにも憐れに思えるからこそ、情けをかけてあげるのである。
「ああ、まーくん。まーくん」
姉さんは切なそうに腰を振り、ぼくの頭を包み込むようにして抱きかかえる。
すぐ傍で熱い息がかかり、少しくすぐったい。ぼくの耳を甘噛みして、何度も名前を呼ぶ。
懇願の声は語らずとも何を求めているのかわかるほどだ。
でも、ちゃんと口に出さないと伝わらないこともあると思うよ?ねえ、姉さん。
「お願い―――まーくんのおちんちんで姉さんのおまんこ、たくさん擦って気持ちよくしてほしいの……。
姉さん、まーくんしかいないの……まーくんじゃなきゃダメなのぉ………」
ぞくぞくとした快楽が背筋を駆け上っていく。
ぼくの口元はきっと、三日月のようになっているに違いない。
弟であるぼくが言うのも何だが、姉さんは美人だ。
口を開けばダメ人間であることはすぐにわかってしまうけど、
黙っていたらなかなかのものだと思う。
でも、ぼくは知っている。
姉さんが一番綺麗に見えるのは、こうやって涙を浮かべてひざまづいて、
惨めな捨て犬のように媚びへつらう姿だということを。
―――ぼくだけが、知っている。
「ああ、仕方が無いなぁ。姉さんは本当にダメなんだから」
柔らかい胸の感触を鼻っ面で楽しみながら、一点、硬く存在を主張している部分を口に含み、吸う。
そうして胸に意識を向けさせておいて、知られず背中に回していた手をつつっとスライドさせ、
不意打ちのような形で尻肉を鷲掴みにした。
「ひゃぅ」
愛撫は少し痛いくらいが丁度いい。姉さんはそれが一番興奮するのをぼくは知っていた。
それだけじゃない。姉さんの身体の嗜好なら、ぼくが一番よく知っている。
服は自分で脱ぐより脱がされるほうが好きだとか、脇の下、肋骨の辺りを舐めなぞられると弱いとか、
キスするときに呼吸が苦しくなるほど唾液を流し込まれるのが好きだとか。
さながら、ぼくはヴァイオリニストのようだ。
姉さんを巧みに扱い、鳴かせて、淫靡な調べを奏でていく。
でも―――こうやって姉さんを悦ばせるのも、
突き放したときに姉さんの情けない泣き顔を見るための下準備に過ぎないのだ。
「あ、はぁ、あン、まーくん、わたし、イく―――」
姉さんの声が一段高くなる、その瞬間にぼくは愛撫を止めた。
姉さんは思ったとおり極上の、嗜虐心をさらに加速させる顔でぼくを見る。
もう少しだったのに、ひどい―――そう言いたいのかい?姉さん。でも違うだろう?
一人だけで気持ちよくなろうなんて、姉さんのほうがよっぽど酷いと思わない?ん?
「ご、ごめんなさい、わたし―――」
「いいさ。姉さん、ぼくで感じてくれて嬉しいよ」
笑い出しそうになるのを堪えながら、細かく震えている姉さんの肩を抱き寄せる。
姉さんは安心したように微笑んで、やっぱりまーくんは優しい、なんてのたまった。
ああ、
本当に、
姉さんは可愛い。
姉さんはお詫びにと、今度はぼくの身体全身にキスの雨を注いでいる。
ついばみ、跡を残す口付けなんてさせない。舐めるような奉仕だ。
てらてらと自らの唾液が糸を引く様子を見て満足そうに目を細め、
姉さんは味蕾で直接ぼくの身体を味わうように舌を蠢かせる。
そのおぞましさときたら、土砂降りの雨の中アスファルトの上を這いずる蚯蚓の方がまだ上品に感じるほど。
あまりの浅ましさにくらくらする。
姉さんは愛撫を下へ下へを進め、ついにその部分にたどり着いた。
求めるぼくの膨れ上がった部分に、姉さんは喉を鳴らす。
姉さんの痴態をさらに引き出す鉤は未だ下穿きの中に潜み、
しかしその存在は最早隠せないほどになっていた。
餌をねだる小動物のような目で姉さんが見上げてくる。
雄に媚びる雌の貌。
熱に浮かされたようにとろりと濁ったそれは、ぼくの好きな姉さんの表情のひとつだ。
ぼくがつま先で姉さんの茂みの奥をつつくと、
そこは案の定、既にしたたるかと思うほどにぐっしょりと濡れていた。
「―――なんだ、姉さん。まだちんこ食べてもないのに、
こんなにびしょびしょになっちゃったのか。いやらしいなぁ、姉さんは」
くすくす笑うも、姉さんはもうぼくの言葉なんかほとんど耳に入っていない様子だった。
焦点は揺れ、口元はだらしなく開いて涎を垂らし、ひくひくと時折痙攣している。
「あ、は―――なの、だめ、な―――おちんちん、ないと、どうにか―――なっちゃうのぉ……!」
興奮しすぎてろれつも回らないのか。潮時だな。
これ以上焦らしたら、我を忘れた姉さんに組みしかれかねない。
ぼくはやれやれと肩をすくめると、ジーンズとトランクスを脱いで姉さんに向き直った。
「さあ、おあがり。姉さん―――」
「あ、あぁ……おちんちん、まーくんの―――おちん、ちん―――」
むわ、と解き放たれた熱気が濃厚な異臭となって姉さんの鼻腔を満たし、
その理性のひとかけらも残さずに砕いていくのが目に見えてわかる。
姉さんは飢えた獣のようにぼくの下半身にむしゃぶりついた。
そそり立つペニスに頬ずりするようにして根元から裏筋を舐め上げる。
恥垢を味わえないのが不満なのか、えら張った亀頭を転がし、口に含んで歯に軽く引っ掛け始めた。
舌とは違う硬い感触が心地いい。
勿論ひとつ力加減を間違えればぼくは激痛に襲われることになり、
そんなことになれば姉さんには金輪際フェラチオをさせてあげないと脅してある。
その時の姉さんは真っ青になり、世にこんな絶望があるものか、と涙を浮かべて許しを乞うてきた。
大丈夫、ヘマをしなければまだ姉さんの相手をしてあげるから、と安心させるのもひと苦労な程に。
まったく、手間のかかるダメな姉さんだ。本当に。
まあ、そのおかげか、姉さんはフェラチオが格段に上手くなったのだけど。
じゅぽ、ぶぽぽ、と唾液とカウパー液のカクテルをすする姉さんにマナーなんてない。
あるのはただ、水では癒せない喉の渇きを潤そうとする色欲だけだ。
けだものを躾けるには罰―――それもフェラチオをさせないという罰は、
この精液中毒者にとって致死にも勝る罰則である。
そりゃあ神経も使うってものだろう。
―――射精感がこみ上げてきた。
姉さん曰く、射精の兆候は味変わるのでわかるようで、
全体を舐るのではなく亀頭のさらに先端、鈴口をちろちろと細かく刺激して白濁を催促する。
「欲しい、あ、あぁ、はぁっ!まーくん、欲しいのぉ、ぐぽ、精子、せいしぃいぃィ!!」
「出すよ―――たっぷり味わいな、姉さん―――!!」
びゅくるるっ!びゅるるっ!!
発射する直前、姉さんの喉の奥に自ら性器を突っ込んでスペルマを叩きつけた。
咽喉から食道へ、胃へ―――味わう間もなく直接臓腑に注ぎ込んでいく。
姉さんにしてみれば陸で溺れるような感覚だろう。肉体の反射として腹から内容物が逆流するのを、
それでも意思の力で吐き出すことなく、反芻して逆に味わい、飲み干す。
うん、それでいい―――自分から欲しがったものを吐き出すなんて失礼にも程があるからね、姉さん。
「げほ、ごほ、まーくん……おいしいよぉ」
咳き込み、苦しみながらも満足げに目を細める。
でも、まだその熱は醒めずにらんらんと瞳の奥で揺らめいていた。
そりゃあそうだろう、まだ姉さんのお願いをぼくは叶えていないのだから。
『お願い―――まーくんのおちんちんで姉さんのおまんこ、たくさん擦って気持ちよくしてほしいの……』
―――なんて穢らわしい、ぼくの愛しいダメな姉さん。
胃袋では満たされない、そのもっと下。
子宮が満ちてこそ静まる欲望に身を焦がし、自制もきかずに股を開く。
雄を、求める。
馬鹿な女だ。貴方を満たせる男なんて、このぼく以外にいないのに。
……まあ、別にいいけどね。
「あの、まーくん。あのね、わたし……」
「わかってるよ。さあ、おいで。姉さん―――」
―――それを理解しているからこそ、ぼくは姉さんの男好きについて諌めようとはしない。
放っておいても、どうせすぐここへ帰ってくるとわかっているからだ。
ぼく自身、姉さん程抱き心地のある女を知らないし。
姉さん以外の女など、どいつもこいつも途中で腰が抜けてしまう話にならない肉袋だろう。
姉弟だからか。いや、姉弟なのに、というべきだろうか。
ぼくたちの相性は66億分の一の確立で出会うツガイのようにぴったりなのだった。
傍にいられる幸運に感謝するべきだろう。
とうに、結ばれない不幸などこの快楽の前には些細なものとなっている。
ああ、今おかしな言い方をしたな。
結ばれない?違うだろう。
ぼくたちは、今こうして結ばれているじゃないか―――。
「はいる、はいってくよぉ、まーくんっ!」
「いいよ、姉さん―――気持ちいい」
「まーくんも!?まーくんも!?嬉しい、わたしも―――姉さんも、気持ちイイよ!
挿入(イ)れただけで、もぉ、ずっと、イッてるのぉぉ――――――!!」
姉さんがぼくの上で跳ねる。
腰を動かすたび、ぱちゅん、ぱじゅん、と水音が弾けて飛沫が散る。
膣内の襞が肉棒を愛撫し、子宮口が亀頭とキスをしているのがわかる。
カリが愛液を掻き出し、もう下腹部の上はびしょびしょに濡れていた。
よく見ると、ストロークのたびに潮を吹いているらしい。
件の姉さんといえば、よがりすぎてほとんど何を言っているのかわからない。
上体を支えるだけの力がないのか、ぼくの上に覆いかぶさって、
それでも腰だけはがくがくと別の生き物のように止まらずにいた。
「は、ぐ、ぉあひ、気持ち、イ―――あ、まーくん、おまんこぉ、すご、ひぐぅぅぅっ!!?」
恥骨が砕け、火花が飛ぶ。
「いいのぉ、いいのぉ、コレ、が―――ぁぁああッ!?あ、ひぁ、一番―――あぁ、狂っちゃ、あ、ああッッ!!」
腰から下が融解して、離れなくなる。
「もぉらめッ!もぉらめッ!ひんじゃぅ、ひ、死んじゃ―――ン―――るぅ、くるぅうッ!
来るの、来る、すごいの、狂ぅッッ!!」
もう腰を振っているのかがくがくと痙攣しているのかわからない。
しかし快楽を得られるのならそんなことは関係なく、
ただ、この肉壷を破壊するように抉る肉槍を貫き穿つ――――――!!
「あ」
そして、
奥に、
届き、
「あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁああああああああ――――――ッッッ!!!!」
放つ。
襞という襞が肉棒を絞り上げるように蠢き、ぼくは姉さんの子宮にたっぷりと精を注ぎ込んだ。
満たす悦び、満たされる悦びが重なる。
ぼくと姉さんはお互いを抱きしめあい―――しがみ付きあい。
やがて、くたりと力が抜けてずるずると倒れこんだ。
「―――はぁ、はぁ―――出る……」
「え?」
脱力した姉さんがうわ言のように呟く。
と、まだ繋がっていた下半身に温かい感覚が広がっていった。
おもらしだ。
どうにもここ最近、姉さんに変な癖がついてしまったようで頭が痛い。
事の最中での粗相は興奮しないこともないけど、終わった後はちょっと困る。
後片付けが大変なのだ。
おまけに―――。
「姉さん、ちょっと」
「……ん、くぅ……」
姉さん寝るし。
ということは、ぼくが処理しなければならないということか。
まったく、姉さんのダメっぷりにはあきれ果てる。トイレもまともに行けないなんて、
オムツからやり直したほうがいいのではないか。
こんなでかい赤ん坊の面倒を見るなんてぼくはご免被るが。
「はやくいいパートナー見つけて、ぼくの手を煩わせないようにしてくれよ」
なんて、呟いてみる。
―――多分、そんなことにはならないだろうな、と思いながら。
すぅすぅと寝息を立てる姉さんが、んむ、と唸って寝返りをうった。
きっと、この関係に得られるものはなにもない。
倫理も禁忌も家族愛も情欲さえも、全ては圧倒的な悦楽に翻弄されくらげのように漂っている。
行為は性交というより、他者を使った自慰に等しい。
きっとお互い、異性として姉を、弟を見ていないのだから。
それがわかっているからこそ、姉さんもぼくも何も変わらずにいる。
姉さんはぼく以外のオトコを求め、ぼくは適当に彼女でも作って遊び呆けるだろう。
ただ、それで満足することもないに違いない。
禁断の果実は蕩けるほどに美味で、それに比べれば他の食べ物など砂にも等しいと感じてしまった。
ぼくらはきっと、そういう星の下に生まれてきたから。
ダメな弟はずっとここにいて、いつだってダメな姉を迎えるだろう。
―――おかえり、ダメ姉さん。
そう、静かに微笑みながら。
おかえり ダメ姉さん~新ジャンル「姉」妖艶伝~ 完
最終更新:2008年02月10日 23:03