さて、クシャスの街はちょっとした騒ぎになっていた。
昨夜突如現れた、それまで見たことも無い、灰色のドラゴンの強襲である。
そのドラゴンは古代の結界を食い破り、温泉を襲撃して一人の少女をかどわかし飛び去っていったという。
そんな龍が出没するとなれば聖堂教会は嬉々としてこの異教徒の街に介入するだろうし、
温泉街として築き上げてきたクシャスの信頼も地に落ちることとなる。
さらに警備隊の調べでは、少し離れたカルデラ湖が丸ごと消滅しているという
とんでもない事態になっていた。
いったい何が起きたというのか、というか何をどうすればこんな『根こそぎ』の破壊が可能だというのか。
クシャスの町の長は頭を抱えた。
こんな危険な魔獣が現れたとあってはもう気に食わないだの何だの言っていられない。
一刻も早く国なり聖堂教会なりに協力を要請して、
聖堂騎士団を―――いや『勇者』を派遣してもらわなければ。
あのカルデラ湖のように、クシャスがまっさらなクレーターになってからでは遅いのだ。
それに、その少女は今どれほど心細いだろう。
いや、状況から考えて生きているとは限らない。
あの少女の連れ添いの人たちは、今頃どんな気持ちでいるのだろう。
絶望と希望の狭間に置かれ、ごりごりとやすりで身を削られるような思いの中でただ祈っているに違いない。
しかし、現実は冷たく、残酷だ。
もし、などという言葉は圧倒的な現実の前には大時化に翻弄される小船のようなもの。
それが無事港に着く可能性は限りなく、低い―――。
ああ、ここで奇跡でも起きて、偶然にも勇者がこの街に滞在してくれていたら……。
この絶対的絶望の暗黒に、光が差し込むというものなのに。
おお、勇者よ。
君は今、何処にいる………?
「ここにいるぜッ!」
突然、ばがん、と町長室が蹴破られる。
悩めるクシャスの民の前に飛び込んできたのは短髪の男、小柄な少女、長身の女性のシルエットであった。
バサァ、と翻るマフラー。背には大きな十字手裏剣、バンダナには額当て。
白い歯がキラリと光を放つ、そう、彼らこそは誰が呼んだか異色の勇者。
その名は……!
「………と、いうわけで、お客様の捜索には『勇者』リューマ・イシカワ様のご協力を頂ける事になりました」
呼び出された町長室。ドラゴン襲撃について察知できなかったことを謝罪され、
しかし幸運にも救いを求めるものには救いの手が差し伸べられるというか、
救出作戦は決行されると拳を握り締め熱く語られたヒロトとジョンは
揃ってアゲハ蝶の幼虫を噛み潰したような顔をした。
………なんか、大事になってる。
ドラゴン襲撃て。
まあ傍目にはそう見えたかも知れないが、あれはなんというか、
焦りとすれ違いと早とちりの三拍子揃った不幸から引き起こされた悲劇であり、
しかもとっくに解決して件のかどわかされた少女も宿に戻って今はくぅくぅと寝息を立てているのだ。
しかも勇者?
勇者ならここに二人もいますけど、なんでまた増えるんだ?
ジョンはこめかみを押さえた。
一箇所に勇者が三人も集結する、そんな事例は今まで何度あったことか。
しかも偶然。教会に召集をかけられたとかならまだわかるが、
何の打ち合わせも無くこんな温泉街で勇者が三人もフラフラしてるなんて、一体誰が思うだろう?
ちゃんと仕事しろ!
などと、自分たちのことは棚に上げて怒るジョン。
「………ええと、勇者…」
「リューマ様です」
リューマ・イシカワ。
ヒロトの出身国でもあるヒイヅルに選定された一人目の勇者だ。
なんでもかなりの気分屋で、風が吹いたから南に行こう、というようなマイペース至上主義らしい。
また極度の戦闘好きでもあり、本来勇者は参加できないはずの
闘技都市のコロシアムに飛び入り参加して優勝を掻っ攫い、
賞金はお客さんたちに!と派手なマイクパフォーマンスをして喝采を浴びたかと思えば
どこからか飛んできた苦無を後頭部に受け失神、
リングに上がってきた無表情の女の子に引き摺られ去っていったとかなんとか。
勇者の義務であるところの各街にある教会巡礼もサボりがちで、
一時期行方不明どころか死亡扱いにさえなっていたという有名な不良である。
品行方正、マジメに勇者をやっているヒロトやジョンとは対極にいる存在とさえ言えた。
「……それでも、聞く限りでは実力は確かです。その神速は誰の目にも捉えられないとか」
「ううん、そりゃあね。俺にスピードで勝てる奴はそういないわなぁ」
ならば余計にタチが悪い。
だいたい、こっちも勇者だと知られたら戦闘狂のリューマのこと、嬉々として挑みかかられるに決まっている。
ジョンは武勲という点ではパッとしない研究職の勇者だからまだいいが、
ヒロトなんかは完全に戦士職。しかも『始まりの勇者』の再来とさえ謳われる『龍殺し』である。
きっと目を輝かせながら噂に聞く神速でどこまでも追いかけてくるに違いない。
………正直なところ、ヒイヅルの話には興味が尽きないがそれ以上にリスクが大きすぎる。
ここは丁重にお断りするのが吉だろう。
ジョンとヒロトは視線で会話し合い、頷いた。
短髪の男があからさまに不満そうな顔をする。
そんな顔をしても駄目だ。厄介事は煙に巻いてとっととドロンが一番なのである。
「―――って誰だ!?」
びっくりした。
いつの間にか会話に紛れ込んでいた、この軽薄そうな男。
黒髪に黒い瞳、ヒロトと同民族系の顔立ちだが、なまじパーツの造型が似ているため逆に全く似ていない。
こいつは確か昨日のコーヒー牛乳を奪っていった男ではあるまいか。
「リューマ・イシカワ。行方不明のお嬢さんは必ず俺が助けるぜ!」
ヒロトとジョンは顔を見合わせ、はあ、と溜息をついた。
「―――で?結局そのリューマとやらと一緒に助けにいくことになったというのか。
………我を」
宿に戻った二人はとりあえず残っていた女性陣に事情を説明した。
昨日の一件が外でなにやら勝手に尾ひれはひれが付き、妄想の大洋を突き進んでいること。
間の悪いことにそこに勇者が居合わせて、騒動は収束するどころか後戻りできない領域に入ってしまったこと。
このままとんずらしてしまうのはどうにも難しそうだということ。
「考えてみたら、クレイドラゴンが本物の龍だと思われてるということは、
このまま逃げたらこの土地のヌシに迷惑が掛かることになるしな」
ヌシとは地域ごとに生息する魔獣の管理人でもある。
クシャス一帯のエリアのヌシは岩猿スクナ・ハヌマーン・クシャス。
彼にとってはこの事件は正に寝耳に水だろうし、せっかく友好的な関係を築いているのに
人間の町にドラゴンをけしかけたのではと疑われるのも忍びない。
「良いではないか。ここはスクナに任せて行方をくらませてしまえば」
「………だから、関係ないヤツを巻き込むわけにはいかないだろう。
それに元はといえば騒ぎを起こした俺たちが悪いんだしな」
部下に押し付ける気マンマンな魔王を半目で睨むヒロト。そこに、ローラが皮肉げに続ける。
「そうですとも。……というか、腹いせに湖を吹き飛ばすなんて何を考えていますの?
廃墟街のときと成長がまるでないのではなくて?」
「違うわ馬鹿者!ヒロトが我の告白をスルーしたからだな!」
――――――。
つむじ風が一陣、どこからか葉っぱを運んでくるりと舞わせ、そして去っていった。
凍結。硬直。数秒たって、解凍。
『えぇぇぇぇぇえぇぇぇええええぇぇええ!!!?』
さらに絶叫。
リューは己の失言に気付いて真っ赤になり、ヒロトは眉根を押さえ―――
でも頬がちょっと染まっている―――ローラがビシィッ!とリューを指差す。
「裏切り者!!」
「なんでだ!貴様、告白どころか求婚していたではないか!!」
「ねぇねぇ!リュリルライア様!なんて言って告白したんですか?ねぇ教えてくださいよぉ!」
「っていうかスルーですか。ヒロトさん、それはちょっと」
「……いや、スルーはしてないぞ。俺は思ったことを言っただけだが」
「なんだとこの天然スケコマシが!堂々と二股とはどんな身分だ!!」
「あら、王になるというお方なのですから妾の一人くらいかまいませんわ。無論、正妻はわたくしですが」
「ローラ貴様ァァァァアアアア!!!!」
リオルがきゃいきゃいとはしゃぎ、ジョンがそれに振り回され、
ローラが何故か勝ち誇り、リューがこめかみに血管を浮かび上がらせる。
ヒロトは―――。
「………リューマ・イシカワの対策はどうするんだ……?」
遠くを見つめていた。
それにしても。
「ヒイヅル、か……」
それはまだ見ぬ自分の故郷の名だ。
口にしてみると、そのなんと遠いことか。
実際の距離だけではない、それが自分の故郷だということが輪郭を持てずにいる。
おそらくはヒイヅルを訪ねたところで、それは自分にとって異国の地でしかないに違いない。
そんな場所に自分のルーツがあるとは、なんだかむず痒かった。
しかも始めて会ったヒイヅルの人間が自分と同じ勇者だとは。
数奇なものである。
「リュリルライア様を選べー!」
黄昏ていたヒロトの顔面に、リオルの投げた枕が直撃した。
第一次枕投げ大会はヒロトとリューの決着が付かないという結論に達した時点で中断された。
“天輪”vs.“豪剣”は幾度と無く繰り返された対決だが、
まさかエモノが枕になってまでぶつかるとはあきれ果てる。
といっても、リューの基礎体力はパーティ中最弱なので投げた枕は誰も仕留めることができず、
ただ魔法障壁に拠る絶対防御(反則)で最後まで音をあげなかっただけということは明記しておこう。
「とりあえず、スクナに話を合わせてもらうことは必須だと思う」
「同感です」
煎餅布団を積み上げて作ったバリケードの上に腰掛けて、ヒロトはぴっと指を立てた。
それにジョンが頷く。
クシャスの民はスクナを土地神と崇めている。
いわゆる神族ではなく、この土地土着の信仰対象としての『神様』だ。
その信頼は今さら説明するまでもなく高い。
こちらにはその神様を従えることが出来る魔王様がいるのだから、
これを利用しない手はないというものである。
……といっても、極力巻き込むわけにはいかないので協力を得るのではなく、
無関係でいてもらうという方向ではあるが。
もしリューの姿を見て「魔王様!」などと叫ばれた日にはまた話がこんがらがること必至だからだ。
ドラゴン襲撃事件は首を突っ込まずに洞窟の奥でおとなしくしておいてください、なのである。
「で、ジョンとも話し合ったんだが話がここまで大きくなっている以上、
いっそ本当にドラゴンはいるという腹で話を進めたほうがいいと思うんだ」
「え?」
生真面目なヒロトが積極的に他者を騙そうとする、その意外な姿勢にローラは声をあげた。
そこに、ジョンがボクの発案です、と続ける。
「……問題は、結界を壊したのがリューさんであるということです。クレイドラゴンを召喚したのもね。
あの程度、リューさんにとって手品レベルのことでしかないとボクらは知っていますが、
それを他者に説明しようとするとこれが大変に難しい。
結界を破壊し、あの精度を持つゴーレムを召喚して使役する。
それだけで既に“湖”の魔導師クラスのやることですから。
何故あの状況でそんな強大な魔力の要ることをしたのか―――普通はその場から走り去るだけのこと。
魔導師の名家でもないリューさんは一体何者なのか―――そもそも人間ですらないじゃないか。
カルデラ湖を消し飛ばしたのはいったい何者なのか―――地形を変えるほどの魔法を
痴話喧嘩で行使するなんてありえない。
………などなど、取り繕おうとも探られればボロが出ることは目に見えています。
ならいっそ、はじめっからドラゴン襲撃事件として片付けさせてしまえばいいのではと思いまして」
なるほど、確かに後ろめたいことは何もないくせに
世間に隠しておいたほうがいい秘密はやたらあるのがこのパーティである。
それを見ず知らずの勇者にペラペラ明かしていいものかは、今さら考えるまでもないだろう。
バカ正直なヒロトもそこは納得したようで、うん、と頷き、
「と、いうわけでリューにはもう一度クレイドラゴンを召喚して
こっそり普通のドラゴンとして振舞わせて欲しい。適当に退治したらリューマも納得するだろうし」
「いや、適当に退治したらって。一応アレ、そこらのヌシなんか話にならない位強いんだが。割と硬いし」
ちなみにクレイドラゴンは決して傷つかない金属ミスリルと同じ硬さを持っている。
以前ヒロトにバラバラにされたが。
「……それは貴様の規格外が問題だ。本来なら攻城弓(バリスタ)の直撃を受けても
毛ほどの傷も付かぬというものを」
「と、いうわけでいざというときは俺がクレイドラゴンを仕留める。
リューは適当にゴーレムを暴れさせていてくれ。
クレイドラゴンをやっつけたら、適当に助けだされておしまいだ」
「………………了解」
リューはなにやら納得がいっていないようだったが、頷いた。
なんのかんのいっても惚れている相手の頼みだ。断るという選択はない。
「リオルはスクナのところまで飛んで事情を説明してきてくれますか。
終わったらリューさんと合流してフォローに回ってください。
リオルの体質を知られるとまた面倒なことになりかねませんから」
「いえすさー」
「ローラは……救助メンバーだな。
口が回るから、できればリューマが何か気付きそうになったらかく乱してくれ。
これはあくまでドラゴンにさらわれた女の子の救出劇、それで納得させるんだ」
「わかりましたわ」
てきぱきと指示を出す勇者二人。その辺のリーダーシップは流石というべきか。
昨日の説教が少しは効いているのかと思うと、ローラは少しおかしかった。
「さて、行くか。リューを助けに」
『おー!』
ヒロトが立ち上がり、一同が続く(リュー含む)。
平和な温泉街に突如現れた謎のドラゴン。その魔獣はうら若き乙女を襲い、連れ去ってしまった!
果たして少女の運命は!?捜索に繰り出した勇者たちは、見事少女を救い出すことができるのか!?
その答えはまだ、誰も知らない!!
そして―――ローラがふと、部屋を出ようとする足を止めた。
リューがクレイドラゴンを召喚したのは結界を壊した後のことだ。
しかし、噂ではドラゴンが結界を壊したことになっているらしい。
口伝いに話を広げる過程でそう切り替わっていった、それは間違いないだろう―――しかし。
「……………?」
頭をよぎった違和感についてローラは考え込もうとしたが、
ヒロトの呼ぶ声がしたのでそれ以上は一旦中断せざるを得ない。
……もしその場にジョンがいたなら、こと民衆に関しては勘の働く
ヴェラシーラ王女のローラを知っている彼なら、
その違和感についてもっと考えるべきだと言っただろう。
しかしその時、彼はもう宿を出て、勇者リューマとの合流地点へ歩き始めている最中だったため、
彼女の違和感はやがて砂のように崩れ、散っていくことになる。
街の入り口、恐ろしい形相をした二匹の猿が向かい合う石像の上にリューマはいた。
黒い装束に口元まで隠れるマスク。鉢金―――というのだろうか、
額に金属のプレートをあしらった長い鉢巻を巻き、背には大きな十字手裏剣を背負っている。
「シノビスタイル、ですわね」
ほう、とローラがため息をついた。それは果たして、感動しているのか呆れているのか。
シノビはヒイヅルが生んだ独自の情報工作のスペシャリストである。
手裏剣や特殊なカタナなど特徴ある道具を使い、
忍術と呼ばれる『言霊を用いない』魔法を操る彼らは世界で最も有名なスパイだとされている。
しかし実在するかもあやふやであり、未だまともにその姿を見たものはいないようだ。
それが、今、ここにいる―――。
「忍べよ」
ヒロトのツッコみである。
「お、きたきた」
ヒロトたちの姿を認めると、リューマは口元のマスクを顎まで下げて
ニカッと人懐っこそうな笑顔を浮かべた。
そうして跳躍すると、次の瞬間にはもうヒロトたちの前に現れている。
綿がふわりと落ちるように着地の時音を発しない、それはあきらかに闇夜に働くシノビの業だ。
それだけで見事と感じるほどだが、こうも目立った恰好をしていては台無しだと思うヒロトであった。
「うわぁぁ、リューマさんはシノビだったんですね!」
「そだよ。あんたたちは何、もう準備できたの?」
シノビに感動しているらしいジョンに親指をたてるリューマ。
ヒイヅルのことは良く知らないヒロトだが、シノビについては聞いたことがある。
シノビは一流の戦士としても有名なのだ。
主に絶対の忠誠を誓い、命令を遂行するためなら
死すら作戦の一部として扱う様は世界規模で見ても類のない冷徹さを持っているという。
だが、なんかイメージと違うなぁ、というのが正直な感想だった。
………シノビって、こんなに軽いものなのか?
「案外、ただのコスプレかも知れませんわね」
ローラが懐疑的な目を向けている。
確かに、リューマは相当なてだれであることは間違いないだろうが、
それが噂通りの強さかというとそうではない気がする。
なんだか拍子抜けした気分だった。
「おおぉ!美人がいる!!」
「はい?」
今ローラに気付いたらしいリューマは、両手両足をあげて大げさに驚いている。
じろじろと無遠慮にローラを見つめて、大きく頷いた。
「うむ、スリーサイズは上からきゅうj」
何かがリューマのこめかみに突き刺さり、リューマは満足そうな笑顔のまま
吹っ飛ばされて地面をズザザザザと転がっていった。
その何かはくるくると回転すると、音もなく着地する。
女の子だ。
リューマと同じ装束を着た小さな少女である。
長いバンダナがひらひらと舞い、ふわりと落ちた。
突然のことに一同は声も出ない。
なにより、あれほどの飛び蹴りだというのに、その気配を全く察知できなかったのが驚きだった。
敵か。
いや殺気は感じない。
なによりこの黒装束、もしかしなくとも。
「な、なにすんだよクルミ!」
砂埃を振り払って憤るリューマ。やっぱり仲間だったか。
クルミと呼ばれた少女は感情の読み取れない半目でリューマを黙らせたあと、
ゆっくりとローラ、そしてジョンに視線を移していった。
「―――9回、6回」
「え?」
「……リューマがその気になったら………さっきまででそれだけ死んでる」
……なんというか、返答に困る言葉だった。
ヒロトたちが絶句していると、クルミはぷいとそっぽを向いた。
「……リューマは、弱く…ない」
「あ……」
どうやら、リューマの軽さを侮っていたことが気に食わなかったらしい。
いきなり蹴り飛ばすから何事かと思ったが、彼女は彼女でちゃんとリューマを信頼しているようだ。
それにしても『死んでる』とは物騒な。
と、ふと思い立つ。
回数は二人分。
向けられた視線から考えるに、ローラとジョンのことだろう。
では、ヒロトは?
「うぉぉぉぉい、何いってんの!?―――悪いな。こいつ人見知り激しくって。
こいつはクルミ。俺の連れだ。お仲間探索に参加するってことになってたんだけど、
なぁ、お前今までどこにいたん?」
「…………………」
ぐりぐりと頭を撫で付けられるクルミ。
彼女は答えず、じっとされるがままになっていたが、
やがて解放されるとそれまで一瞥もしなかったヒロトを真正面から見つめた。
ヒロトは、知らずに息を飲んでいた。
クルミは相変わらずの無表情。しかし、まぶたが下りていた半眼は今やぱっちりと見開いて、
爛々とした黒がヒロトを映している。
「あなたは―――」
それはまるで、予言のように。
薄い唇が、滑らかに動く。
「1回」
最終更新:2008年02月10日 23:24