「俺には今好きな女の子がいる。おれの幼馴染みで、物心つく前からの腐れ縁で、ついでに恋人だったりもする女というヤツだ。
家は隣同士。しかもお互いの部屋の距離が窓を挟んで1mもないというお約束ぶり。
ガキの頃はよくこの窓を伝ってお互いの部屋に遊びに行き来したものだ。そして、今でもそれは活用していたりする。
ところでこの窓だが、便利な反面近すぎるという欠点もある。俺たちがこの歳になるまで彼氏彼女の関係にならなかったのは、
ひとえに距離が近すぎるので男女というよりは家族として認識していたためだ。
俺と女がいかにしてライクの関係からラブの関係にシフトチェンジしたのかは、まあ長くなるので割愛しよう。
そう、窓の話だったな。
すぐ目の前にお互いの部屋が見えるということは、つまり、カーテンさえ開けてあれば
そこで何をしているのか丸見えなわけで。
………勘のいいヤツはそろそろわかってきただろう。そう、俺は見てしまったのだ。
女が、ええと、その、自分を慰めている光景を。
始めは何をしているのかわからなかった。ただ、部屋に戻ったら名前を呼ばれている気がしたので、
気軽にいつもの調子で声を掛けてみたのだ。
………顔が本当に熱くなって喉が一瞬にして干上がり、絶句してまじまじと見てしまった。
女の方も同じような反応で、しばらくフリーズしていたがしばらくしてギコギコと油の切れたロボットのような動きでカーテンを閉めた。
……そうして次の瞬間、見ちまった、見られたと叫んだ声が壮絶な羞恥のハーモニーを奏で、俺は母さんにおたまを投げられてこぶができのだった。
今の俺にそのこぶはもうない。つまり、それだけ時間がたったということだ。
しかし、あれ以来女とはロクに話もしていない。切ない声で俺を呼ぶあられもない姿をどうしても思い出してしまうのだ。
恋人といっても俺たちは手をつなぐくらいで、キスもしたことがないプラトニックな間柄だ。理由は、まあ仕方が無いといえば仕方が無い。
家族期間が長かった為か、どうもムーディーな空気を作りにくいのだ。肝心なところで、いつもおちゃらけてしまう。
……いや、これはいい訳だな。俺がヘタレなだけだ。
だからあいつは、欲求不満になって自分を慰めていたんじゃないか。
俺は男で、あいつは女。わかってたはずだろう?俺。
そういうことをするのが、恋人なんだってこと。
恥ずかしいことじゃない。俺だって女を想って自分を慰めたことは両手両足の指で数えても足りないくらいだ。
お互いがお互いを求めてるんだから、ここはひとつ、俺が男を見せて―――」
男「授業中にッッッ!!人のモノローグをッッッ!!!!!寝言で言うなッッッ!!!!!!!!!!」
ガタッ
女「……ふぇ!?」
最終更新:2007年07月26日 22:14