青春編「XOジャン 奮戦中」

朝四時前 起床

目が覚める。同時に右手を伸ばし、時計を止める。

3:55

今日もまた目覚しよりも早く目が覚めた。
我ながら現金な物だ。
わたしは一人赤面し、布団で顔を隠す。
誰も見ていないのに。

手早く制服に着替え、お姉ちゃんの朝御飯を用意し、わたしはまだ薄暗い外に出る。
ある場所へと向かう足は早く、次第に駆け足になるのを押さえられない。


五時過ぎ

わたしの足は一軒の家の前で止まる。ごくごく平凡な二階建ての一軒家。

それが今のわたしの戦場だ。

「…おはようございます」
勝手口から小声で挨拶をする。台所は既に明るく、中から一人の青年が顔を出す。
「おはよう、貴子ちゃん。今日も宜しくね」

青山春樹さん。わたしの未来の旦那様だ。

「春樹さん…おはようございます…」

にっこり春樹さんが微笑んでくれる。
わたしの幸せな瞬間第二位。春樹さんの笑顔を独占できるこの瞬間。


青山家は本来四人家族。未来の旦那様春樹さん、義妹さんの春香さん(年上だけど)、
学校の先生をしてるお義母様に、お義父様(お義父様は昔伝説の教師と呼ばれていた
らしい)。
四人分の食事を作るだけなら、春樹さんだけで十分だ。わたしの出番はない。


しかし、十人分食べる同居人が存在した。

囲炉裏真智子。
私の標的であり、障害物。更に私の出番をお膳立てしたある意味の恩人。
そして、春樹さん争奪戦最強の敵―


六時四十分

楽しかった(未来の)夫婦二人だけの時間は終り、お義母様達が起きてくる。
「おはよう、貴子ちゃん。今日もありがとうね」
「いえ…」
お義母様はもう40代中ばのはずだが、肌も若々しくとても二人の子持ちには見えない。
わたしの憧れの人だ。
反対に…

「や、やあ。おはよう…」
お義父様はお疲れの模様。本来はダンディなナイスミドルだが、朝はいつも弱々しい。
一度聞いてみた所、
「夫婦にもいろいろあってね…」
とお義父様は遠い目をして黙ってしまった。


七時半

春樹さんはいつもの日課をこなしに春香さんの部屋に向かう。
…要注意だ。密かに仕込んだ盗聴器のスイッチを入れる。

「ほれルカ、起きろ」
「あと五分…寝かせてよ…」
「遅刻するぞ。ほれ」
「ハルがチューしたら…起きる…」

!!……ダッシュで二階へ向かい、春香さんへの制裁を26通りシュミレーション。

…例え身内でも春樹さんへのキスは許さない!!

「るかさん。めーです!!」
「ぐにゃん!!」
「囲炉裏…寝てる人間にボディプレスは…」

どうやら、春樹さんの貞操は守られたようだ。ホッと(成長過程の)胸をなで下ろす。
…身内の貧乳は気にしない、わたしの胸はまだ成長過程なのだ。


七時五十五分

登校。流石に青山家で生徒会任務は出来ないので、朝のこの時間を利用。
…春樹さんと一緒に登校したいのに。


八時半

授業中。退屈なので春樹さんとの新婚生活を想像。

『うん、貴子の料理は最高だな』
『…ありがとう…春樹さん』
『春樹だろ?貴子は初々しくて可愛いなぁ』
チュッ
『……』


プシューッ


……いけない。それ以上考えられない。
知識は持っているが、自分をその立場に置くと頭が……


十二時半

昼休み。わたしはお弁当箱を手に高等部の校舎へ向かう。
目指すは屋上。


既に春樹さんは来ていた。
「貴子ちゃん、お疲れさん」
「…お待たせしました」
もっとも春樹さんだけではなく。
「あはは。貴子ちゃん待ってたよ~」
テンメンジャンが冷めた視線で笑いかける。
…この陰険クサレおっぱい女め。

そして、既にお弁当をかきこんでいる二人。
「あ、(もきゅもきゅ)おそかったですね。(もきゅ)…おいしいです」
…囲炉裏真智子、口に物を入れて喋るな。下品だ。
「…(ムシャムシャ)」
しかし、食べることに夢中で実妹に気付かないお姉ちゃんよりマシだ。
……この馬鹿姉。


一時ニ十分

午後の授業開始。
またしても退屈なので、明日のお弁当の献立を考える。
…最近お姉ちゃんに元気がないのでお肉を解禁するべきか?


三時過ぎ

放課後。囲炉裏真智子が泣いてやけ食いをしていたので、理由を聞く。

春樹さんが早々に帰ったらしい。…気になるので、追跡を開始する。


三時半

繁華街で春樹さん確認。しかし、青山家隣家の遠山理奈も一緒だ。
素早く近付き、さりげなく声を掛ける。
「春樹さん…」
「貴子ちゃんも帰りかい?なんか食べて帰る所だけど一緒にどう?」
私は首を縦に振る。
春樹さんの背後で、遠山理奈が物凄い目で睨んで来たが気にしない。
………負け犬め。


六時

帰宅。戸を開けたらお姉ちゃんが待っていた。

「貴!!腹減った!!!」
「ただいま……ちょっと待って…」
お肉料理にするからと言い掛けたが
「うがーー!!!腹減ったからすぐできる奴で頼む――!!!!」

お姉ちゃんは昨日の残り物で良いらしい。
私はお肉にしよう…


「貴!!なんであたしのが昨日の煮物なのに、貴がハンバーグなんだよ!!!!」
「…早くしろって言ったくせに…」
「あたしにも寄越せ!!」
「…お姉ちゃんはだめ。怒りっぽいからカルシウムが必要……」

煮干しの袋を渡す。
「それで我慢…」
「ちっくしょう!!orz」


八時

お肉を食べ損ねて泣くお姉ちゃんを横目に、お風呂へ入る。

洗い場の鏡を見る。
目の大きさとキュッとした唇が目立つ幼げ顔立ちに、頭の両端で結んでいる髪
(いわゆるツインテというらしい)、白いが起伏に乏しい体。

…わたしもいずれテンメンジャンの様な女らしい体になれるのか?


九時半

自室で校長への報告をメールで行う。
…校長は本日学校へは来なかった。何か問題でも発生したのか?


十時半

明日も早いので休むことにする。
目をつぶってわたしの一番大好きな瞬間を頭に浮かべる。

『貴子ちゃん、ありがとう(なでなで)』

春樹さんに頭を撫でて貰う。

わたしの大好きな瞬間。

春樹さんがわたしだけを可愛がってくれる瞬間―

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最終更新:2008年04月27日 20:51
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