ザーン……ザーン……
遠くで波が打ち寄せる音に耳を傾け、青山春樹は一人散歩を楽しむ。
実は陽子も付いて行く気満々だったが、昨晩のダメージは重く、留守番する羽目に。
「良いな、春樹!!変な物拾って食ったり、知らない女の後を付いて行くんじゃ無いぞ!!」
「俺は犬かよっ!!」
そんなやりとりを思い出しながら、春樹は思う。
『口うるさかったけど、豆田は俺の事心配してくれてるんだよな………
裸も見ちゃってるし、責任取らないと………でも黒田の事も……』悩み多き少年春樹が歩いていると、突然。
ヒュー……ベチャッ
「ぶはっ!!な、なんだ!?……紙?……絵だ」
風で飛んで来たのは一枚の紙だった。紙には簡単なタッチながらも、
海辺の風景が描かれている。
「びっくりしたが………しかしまたえらく上手い絵だ。誰だ?」
「あ、すみません。その絵………」
春樹が絵から視線を前に向けると、一人の女性が。
「はい。描いていたら風で…返して頂けますか?」
「そうか…はいどうぞ」
絵を女性に返してやり、感想を春樹は口にする。
「よく分からないけどいい絵ですね」
「まあ、ありがとうございます」
小さく目の前の女性が笑う。見たところ、春樹より5、6才年上の美女だ。
長い髪を束ねただけのラフな服装だが、なんとなく色気を感じてしまう。
「こらっ、お姉さんをじろじろ見るもんじゃないの。…照れるじゃない」
「あ、す、すみません」
慌てて春樹は謝る。
「絵も上手い上にあんまり綺麗なんで…あわわ」
「まあ、お上手ね」
「いやお世辞……」
言いかけた春樹の口を、女性は指を当てて黙らせる。
「!!!!」
「なら聞くけど。どういう風に良かった?」
笑いつつも、女性の瞳には真剣な色が浮かんでいる。
「えーと、その……うまく言えないんですが…」
「構わない、君の言葉で言ってくれる?」
「は、はい。…繊細な感じで…………あと……なんて言うか
…とにかく凄いとしか…」
「…ありがと。合格」
「へっ?」
「いや、最近ベタベタしたお世辞や評論ばかり受けてたし。
素直に感想を言ってくれて嬉しいな」
結局春樹と女性はその場で別れた。
「綺麗な人だったな…」
だが春樹は知らない。
再びある場所でその女性と会うことを。
一方その頃
「ゆ、ゆかさん。も、もうたべれません…」
「真智ちゃん……残しちゃだめ…ちゃんと食べないと……」
「ぷ、ぷりんでおぼれる………です」
ぐっすり夢の中、夕圭の胸の中で、うなされる真智子がいた。
最終更新:2008年04月27日 20:46