野望編「看病会戦 突入失敗」

新醤油学園から青山家に至る道。二人の少女が疾走していた。
「るかさん!!なんでついてくるのですか!?」
「私も忘れ物しちゃったんだよ~~。…夕圭ちゃんの部屋に。」
「……るかさん。……まさか?」
「…真知ちゃん、同時突入よ。時刻合わせて。」
「りょうかいです!」
敵対よりも共闘を選んだ二人…。
彼女らの向かう先には、こんな光景が繰り広げられていたりした。

「黒田、食べられるか?」
「うん。ありがと。」
湯気を立てるお粥と、丁寧に剥かれたリンゴ。
ちなみに添え物の梅干は、先日の温泉旅行の際に春樹は惚れ込んで購入した一品だったりする。
「…味、どうだ?」
「うん。美味しい。すごく美味しいよ。」
「そうか…、良かった。…黒田?どうした?何で泣いてるんだ?」
少女の頬を伝う涙…。こんな展開になれば、経験値の低い春樹はオロオロするしかない。

「…ゴメン。…凄く嬉しいんだ。今まで一人で暮らしてきたけど、今は一人じゃないんだって…。
 傍に青山くんや真知ちゃん、ルカちゃんたちが一緒に居て、ほんとに今は寂しくないんだ…。」
「そうだな。…お前、ずっと一人で頑張ってきたもんな。」
思わず夕圭の肩を抱きしめる春樹。
「春樹……くん。」
夕圭も春樹に身を委ね、彼の胸元に顔を埋める。
「元気が出るおまじないってヤツかな?ルカには特に効果覿面だったな。
 …黒田も無理するなよ。囲炉裏に振り回されながら生徒会も頑張って…。抱え込みすぎだ。
 俺なんかでよければもっと頼ってくれ。」

夕圭からの返事は無い…。しかし額が擦れる感覚から、何度も頷いていることは察知できる。
やがて春樹の胸元の濡れた感触は次第に乾いてゆき、さらに暫く後には安らかな寝息を立てている夕圭。
ベッドに優しく横たえ、彼女の眠りが深くなりつつ頃合を見計らい、台所に戻ろうとしたところ…。

「ゆかさ~~ん!!かぜ、なおりましたか~~~!?」
「ハル~~~~~!!夕圭さんの具合、どうなの!?」

勢い良く、黒田夕圭の部屋に突入してくる真知とルカ。
『だいなみっくえんとりー、せいこう…ですね!?』
『まだよ、囲炉裏巡査長!!ハルと夕圭ちゃんの分断まで行って、ようやく作戦成功なのよ!?』

しかし、彼女らを迎えたのは春樹の無言のリアクションだった。
人差し指を唇に当てた…それだけの格好なのに圧倒的な迫力が醸されていたりする。
『バカヤロー!!病人がいるんだぞ!?自重しろ!!』

予定外の事態に、当然慌てる二人。
『あ、あわわわわ。はるくん、ほんきでおこっちゃったです……。』
『あちゃ~~、こりゃ撤退…しかないか……。真知ちゃん、策を練り直すわよ……。』

乱入者の撤退を見届けたところで、再び夕圭に視線を向ける。
煩かったのか少し眉を潜めつつ寝返りをうつ夕圭の手を握ってやると、人肌の感触に安心したのか、安らかな寝顔に戻る。
『もう少し、ここにいるか…。』

しかし、彼は知らない…。第一波の真知、ルカの再襲来だけでなく、豆田姉妹も密かに策を練っていることも…。
彼は、黒田夕圭の穏やかな眠りを守れるのか…?

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最終更新:2008年07月11日 23:09
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