豆田貴子が構える狙撃銃の、スコープ越しに写る少女の笑顔。
自分の愛する男の、双子の妹。将来は義妹となる彼女とは良好な関係を築きたいとは思っていたのだが…。
彼女に微笑みを向けているであろう少年の笑顔を想像し、嫉妬の炎を滾らせながら改めて標的を睨み付ける。
『春樹さん……。……ルカさん、覚悟!』
引き鉄にかけた指に力を込め、射撃する。
そしてサイレンサーを通じて音も無く放たれた弾丸は、いつも通りに標的を貫く………ハズだった。
「……何故?」
飛翔した弾丸はルカから大きく逸れ、通路を挟んだ向かい側の木の幹を微かに抉ったのみだった。
改めて狙いを付け直し、再発射するものの、今度は植木の葉っぱを打ち落とすのみ。
脳内に数多の疑問符を浮かべつつ、今度は適当な生垣の花を狙い発射。
今度は狙い通りに椿の花…しかも花弁を一枚のみを打ち落とせた。
『照準は狂っていない……。何故外れたのか判らないけど……これなら!!』
もう一丁用意しておいた突撃銃。
サイレンサーの具合を検め、セレクターレバーをセーフティーからフルオートモードに切り替え、斉射。
今度は春樹もろとも気絶させる可能性があるが、仕方ない犠牲と心の中で謝罪する。
まぁ姉の陽子と二人掛かりなら、春樹を連れてこの戦場を離脱することも可能だろう。
……しかし。
『…馬鹿な。』
1マガジン20発の麻酔銃を打ち込んだにも関わらず、何事もなかった様にいちゃついている二人。
認めなければならない…。何の手品か奇跡かは知らないが、標的の青山春香に対しては飛び道具は通じないようだ。
『そういえばダンボール愛好家の工作員が言ってた…。
……ライフルやグレネードすら通用しない、幸運の女神の名を持つ女戦士がかつて居た事を。』
しかし、今の相棒はなにより肉弾戦を得意とする者…。彼女なら、この戦局を打開できる。
『お姉ちゃん…。狙撃に失敗、接近戦を開始して。』
しかし、彼女からは返事は無い…。双眼鏡を姉の方に向けると…。
『…ね、寝てる?…!まさか、流れ弾で!』
これは見事に作戦失敗としか言いようがない。
…こんな所で爆睡している姉をこのまま放置しておけば、今回のデートを阻止できるだろう。
春樹が姉を連れて帰るという形で…。…それもそれで腹が立つ。
『…お姫様抱っこの二回目は無い。お姉ちゃんを回収して、出直す。』
しかし、撤退を行う前に一仕事だけはこなしておく。
撤退の合図の橙色の信号弾…。
「あれ?ハル、花火上がってない?」
「そうだな。でも、一体何なんだろうな?」
自分たちの連絡ですら、スウィートな話題の一環にされてしまうこの悔しさ…。
『春樹さん……。浮気する旦那様は、後でお仕置き………。』
「……ぅうう~ん。春樹ぃ~~。」
「………くっ!!」
額に青筋を浮かべながら、幸せそうに眠りこける姉を引きずりつつ退場する豆田貴子。
I'll be backと、堅く心に誓いながら…。
最終更新:2008年07月15日 23:57