「せい!!」
遠山理菜の手元から放たれた飛び苦無。
「たぁ!!」
もっとも、黒田夕圭とて大人しく殺られるつもりもない。
ベルトに押し込んでいたトンファーでなぎ払う。
「へぇ~。貴女、得物も扱えるの?…なら私も!」
懐から忍び槍を取り出し、再度構えなおす理菜。
『豆田姉妹はあっさり撤退…か。…彼女達を過剰評価してたみたいね。
距離をとってチマチマやるのも時間が惜しいし…。一気にカタを着ける!!』
一方の夕圭の方も、戦いを楽しむ余裕などまるで無い。
『真智子ちゃんに、豆田姉妹…。いつまでも彼女相手に手間取る訳には!!』
囲炉裏が春樹の布団で眠っていることも、豆田姉妹が撤退したことも今の彼女に知る由は無い。
裂帛の気合が周囲を包んだとき、少女たちは文字通り火花を散らしあっていた。
そんな殺伐とした空気とは全く無縁な二人の姿。
ルカお気に入りのスポットである池のあるエリアは、水鳥が優雅におよぐ平和そのものな光景であった。
そこでルカはとある提案をする。
「えへへへへ。お腹空いたし、そろそろお弁当にしようか?」
「ああ。そうだな。」
本日の昼食は珍しくルカ謹製のサンドウィッチ。
彼女も料理はできるのだが、如何せん朝に弱いために豆田姉妹のように早朝の台所に立つことができない。
そして放課後も部活に参加しているため、ルカが作った料理もかなり久しぶりだったりする。
それでも春樹は思う。これは良い仕事をしていると。
『ベーコンとレタスとチーズ…。定番だけど良い取り合わせだよな。
こっちは鶏ハムに玉ねぎと春キャベツでマヨネーズの味付け…。…この組み合わせ、サラダで試させてもらうか。』
なにより自分と味の好みがほぼ完全に一致している。
やがて、二人前の弁当を二人で平らげると、春樹に擦り寄ってくるルカ。
「ねぇハル、膝枕、してあげよっか?」
春樹の方は戸惑うしかないだろう。
普段の休日は正午を廻らないと起きて来ない妹が目覚ましなしに目を覚まし、弁当の準備までこなしていたのだから。
しかも、何か妙に気合が入っている。普段から見慣れているルカの顔なのに、薄化粧している為かより可憐に見える。
「お、おい…。そこまでしなくてもいいぞ?そういうのは彼氏とか、大切なヤツが出来た時まで取っておいていい。」
しかし春樹の返答に、ルカの太陽のような笑顔は曇りだす。
「ハル…。何も判ってない…。」
「ルカ?」
「私の大切な人はハル一人だけなの!」
「お、おい?何を…むぐぅ。」
一気に距離を詰められ、ルカに抱きしめられる春樹。そして強引に唇で塞がれる口。
触れ合った頬の隙間を彼女の涙が伝った事で、春樹は妹の覚悟を思い知る。
「好きなんだ、ハル…。きっと、生まれた時からずっと…。それに、これから先もずっと好きだから…。」
唇を離し、そうつぶやくルカ。
血のつながった妹の、しかし男を誘う女の目をした彼女に対し、春樹は明確な返答を返せずに居た。
最終更新:2008年07月15日 23:57