麻酔銃とはいかなる物なのか?
『麻酔薬の入った注射筒やダート(矢)を発射する銃。拳銃型とライフル型が存在する』
と某百科事典には記載されている。
失態に我を忘れたのか、弾の回収を怠った貴子。
麻酔薬は貴子特製の薬であり、後遺症なしにスッキリ目覚めの優れ物である。
ある意味、物凄く危険な置き土産。その内のひとつが、膠着状態の戦いに決着をもたらす…
忍び槍とトンファーで激しく打ち合う理菜と夕圭だったが、理菜が大きく跳んで距離を取る。
「奥儀・乱れ吹雪っ……はぁ――っ!!!!」
理菜は渾身の力を籠めて苦無を投じる、しかも八本も。
「くっ!!やらせるか!!」
が夕圭も達人級の腕前、全ての苦無をトンファーで弾き飛ばす。
「ちっ…あれをしのぐとは……。黒田夕圭…流石ね!!」
「そう言う貴女こそ……只者じゃないわ…」
お互いを認めあう二人の少女。戦いはまだ続くと思われた、その時。
「は、ハルぅ―!!」
公園内に響く少女の声。二人の戦っている、すぐ近くから聞こえてきたその声は……
「ルカの声!?まさか春くんに何か!?」
「春樹くんに!?」
一体、春樹に何がおこったのか?夕圭と理菜の二人が青山兄妹に駆け寄ってみると……
春樹が大の字になって倒れていた。
「ルカ!!春くんはどうしたの!?」
「理菜!?…それに夕圭ちゃんまで!?」
ルカの目が険しくなる。
「…どうして二人がここにいるのかな?」
「る、ルカちゃん…説明は後でするから…それより春樹くんが…」
「ああっ!?は、ハルがいきなり『痛え!!』と言って倒れて!!」
夕圭はざっと春樹の体を見渡す。
「えーと…わっ、たん瘤が出来てる…!!『首に針の痕!?』」
微かにうなじの所に針で刺した様な痕が残されている。
『呼吸、脈に影響は見られない。…となると麻酔薬か何かで眠っているだけか』
ふぅと夕圭はひとつ息を吐く。
「大丈夫みたいよ…ただ気絶してるみたい」
「でも何で春くんが気絶をしたの?」
「ああ、多分…」
「……これなぁに?」
ルカがあるものを発見した。
「あっ!!それ私の苦無じゃん、なんで…」
「…これが多分落ちてきたんだよね…となると……ハルが気絶したのは…理菜のせい?」
キギッ
首を理菜の方へ向けるルカだが…
「る、ルカ…さん?……ひょ、ひょっとして…」
「怒ってるわよ」
口許は歯を見せているものの、目が尋常じゃなく血走っている。
「あ、あの…わるいとは…思って…」
「許すと思う?」
次の瞬間。
猛ダッシュで逃亡する理菜と、陸上部エース・ルカの追跡劇が始まった。
「ひぃ―――っ!!!!」
「待ちなさいよ―――、オラァ―――ッ!!!!!!」
その場に残された夕圭。
『おそらく、私が弾き飛ばした苦無が春樹くんの頭に落ちる
→痛みで春樹くんが下を向いた→麻酔弾が当たる→春樹くんが気絶…』
『ルカちゃんと遠山理菜は暫く戻らない。真智ちゃんも見当たらない』
『麻酔弾から豆田姉妹が近くに潜んでいるのは確実、場所を移動しないと春樹くんが…』
『そして、ルカちゃんにあげたシティホテルの券は、私も持っている』
夕圭の脳内で様々な情報が分析され、出した結論とは。
『ごっつぁんです』
夕圭は春樹を背中に背負い、足早にある方向を目指した。
シティホテルの方へ。
一方その頃。
「お姉ちゃん…じゃないトウバンジャン。後で必ず回収するから…」
豆田貴子は事態の経過を無視できず、倒れた姉を安全な場所に避難させ、再び公園へ戻る。
(本音は姉が重かったのと春樹が気になった)
「……あれは!?」
とっさに物陰に隠れた貴子の横を、逃げる理菜と追うルカが駆け抜ける。
「…いったい…何が?」
呟いた貴子だが、すぐ重要な点に気付く。
「…!!…春樹さんのそばには誰もいない!?」
貴子は知らない。自分の弾で春樹が眠ったこと、春樹のそばに「くされおっぱい魔人」
黒田夕圭がいることを。
「…私のチャンス…未来の旦那様に……ムチと…アメを…」
物騒な事を呟くと、貴子は疾走する。春樹というお宝奪取の為に。
シャー……
水の流れる音がする。
春樹は目を覚ました。
「…ん、……へんな夢を見たなぁ…ルカにマジ告白され……って俺の部屋じゃねぇ!?」
あわてて辺りを見渡す。
「…なんというか…ホテルっぽい部屋だ」
「あら?お目覚め?」
聴き覚えのある声。
「おう、黒田。ここはどこな…(ベフン!!)」
春樹の視線の先には夕圭の姿。ただし、バスタオル一枚纏っただけの。
「くくくくろだぁ!!!」
「ん?どうしたの、変な声だして」
「お前がそんな格好してりゃ出したくなる!!」
夕圭は自分の胸を見た後に春樹へと笑いかける。
「…春樹くんのエッチ」
「おまえがそんな格好してるのが悪い!!」
「…だって春樹くん背負って汗かいたし。仕方ないでしょ」
にやにや笑う夕圭。
「それともタオルが無い方が良かった?」
「おま…(タラリ)…あ、いかん鼻血が……」
経験値の低い春樹がピークに達し、鼻血が出てきた。ティッシュを探す春樹に夕圭が近付き…
じゅるっじゅるっ
「!!!!…ば、馬鹿!!な、何を!?き、汚いから辞めろ!!」
夕圭が春樹の鼻へ舌を伸ばし、鼻血を吸って舌で舐めとった。
「あは。しょっぱい」
「な、何を考えてるんだよっ!!汚いだろ、鼻血なんて!?」
「…汚くなんてないよ。春樹くんのだもん……」
「えっ!?」
夕圭の口許には笑みがあるが、目は真剣な色を浮かべている。
「私の…大事な人の物だもん。全然気にならないよ」
「黒田……」
夕圭はバスタオルから手を放し、春樹に抱きつく。
当然タオルは体からずり落ち、春樹の胸に夕圭の爆乳の感触がダイレクトに伝わる。
「だいすき。春樹くんになら………いいの」
夕圭は春樹の唇へそっと口付けをする。
「……二度目だけど。前のは事故だし…これが私の気持ちだよ…」
春樹の頭に霞がかかる。
『いい…におい…だ……もう…がまん……』
最終更新:2008年07月15日 23:58