「理菜!!止まりなさい!!」
「止まれと言われて止まる人なんて、TVの中にしかいないわよ!!」
春樹の昏倒直後から続く、デッドヒート。
しかし、10分を過ぎた辺りから趨勢は決まりつつあった。
春樹とのデートという事で、おめかしに気合を入れてきたルカ。
お気に入りのワンピースにヒールが高めのミュールは、少なくとも運動に向いた格好ではない。
対する理菜の方は殺る気満々な格好。
黒の革ツナギ、靴も軍用の無骨なブーツ。
装備の差は決定的な戦力差となり、加えて煙球を使用した理菜は辛うじて逃走に成功する。
「…何なのよ、一体。」
残されたルカ…。これでもかという程に落ち込んでいる。
折角、兄の春樹に勇気を振り絞って告白したのに、返事の前に昏倒され、その元凶(と勘違いした)理菜には逃げられた。
気に入っていたワンピースも、理菜を追って茂みに突っ込んだ際に破れてしまったし、挙句にはミュールの踵も折れてしまった。
そんな傷心の彼女がたどり着いたのは、公園の端にある展望台。
「そういえば、ここって…。」
初めてここに来たのは、幼稚園の時…。
はしゃぎにはしゃいだ末に迷子になったルカ。この高台で一人で泣いていた時に、兄が向かえに来てくれた。
その当時から、誰よりも優しかったハル…。
…ハルと二人で遊びにきたはずなのに。…なんだか泣きたくなって来た。
涙で視界がぼやけかけたが、大きく呼吸することでどうにか堪える。
…そんな中、聞きなれた想い人の声。
「ルカ、ここに居たか…。」
「ハル!?」
やがて、春樹の手が、ルカの手を包み込む。
思わず顔を赤らめているルカに、普段どおりに話しかける春樹。
「…帰るか。」
「…うん!(…ハルから手を握ってくれたの、何年ぶりだろ。)」
往路と同じく、仲睦まじく帰路を進む兄妹。
「えへへへへ。」
春樹の腕を抱きこみ、彼の肩に頭を預けるルカ。
「随分とご機嫌だな、ルカ?」
「…だって色々あったけど楽しかったから。誰よりも好きなハルとのデートだったんだし…ね。」
頬を染めて答えるルカと対照的に、見る見る顔が青ざめている春樹。
『ゆ、夢じゃなかったのかよ!?』
改めて自分の置かれた環境を思い知る春樹。
理由はわからないが、自分に思いを寄せる少女は名乗り出ただけで3名…。
…憩いの我が家も、戦場になる日は遠くなさそうだ。
最終更新:2008年07月15日 23:59