隠し部屋に連れ込まれたものの、陽子は何をするでもなく、何かに考えを巡らせている。
手持ち無沙汰な春樹にできた事は、そんな彼女の顔を眺めていることくらいだったりする。
『…珍しいな。豆田が真面目な表情で考え事をしてる。』
彼女の勉強の面倒を見ている際にも、ここまで真剣になっていない。
やがて電話を切った陽子が、春樹の視線に気づく。
「ん?春樹、どうした?」
「いや。お前がそんな表情してるって珍しいと思ってな。」
と、みるみる陽子の顔に朱がさしてくる。
「み、見てたのか?…ずっと、あたしの顔を。」
「あ、ああ。そうだが…。」
「…………」
…ついには、真っ赤になって黙ってしまった。
そのリアクションに今更気づく。…ああ、こんな狭い部屋に二人っきり。
そういえば、さっき喋っていた時に顔が近い気はしていたし、豆田の吐息すら届いていた気も…(ガムを噛んでいたのか、ミントの香りだった)。
陽子の身体からは女の子特有の甘い感じのいい匂い…。…うん。コレはマズイ。
…性欲が鎌首をもたげ上げる前に、どうにか話題を変えないと。
そこで、今更ながらな疑問が生まれてくる。
「なぁ。…そもそも何でこんなことになってるんだ?」
「あ、あぁ。…春樹はこんな噂を聞いた事はないか?ウチの校長、気に入った男子生徒を【飼う】って話。」
噂どころか、公然の秘密である。
「らしいな。……もしかして!!」
「…多分、春樹も標的にされてる。」
「げ…。マジかよ…。」
「ああ、だが心配するな。春樹はあたしが守る!絶対に!!」
「豆田…。」
陽子の瞳に宿る強い意志…。
その瞳が次第に近づいたかと思うと、急に目を閉じ…。
「っ!?ま、豆田!?」
唇に伝わる柔らかい感触に、ただただ驚愕するだけの春樹。
「へへ。景気づけってことで、春樹の唇貰っちまった…。かわりにあたしの初めてをあげたから、文句ないだろ?
…じゃ、あたしは少し出てくるけど、春樹はゼッタイにここから動くなよ!?」
「…………あ、ああ。」
いきなり校長に迫られて、豆田とその知り合いにこんな小部屋に押し込まれ、なんだか豆田を見てたらドキドキして、挙句にはキスまで…。
一言で言うと『何がなんだかさっぱり判らない』くらいに混乱している春樹を残し、陽子は一人、隠れ部屋を飛び出す。
『貴ならあの場所で待ち伏せているはず!!…ルカと夕圭が来るまで、派手に暴れてやるさ!!』
最終更新:2008年08月23日 20:23