新ジャンル「サムライボーイ」新醤油学園野望編

豆田家執事見習いの少年、塩崎勝四郎は大いに頭を抱えていた。
彼の一族…塩崎家はこの地域の領主である豆田家の譜代家臣として、何代にも渡り忠節を尽くしてきた。
戦の際には鎧兜を纏って馳せ参じ、選挙戦の際には街頭宣伝車の運転手を務め、平時には執事として侍る。
主君への忠義こそ、彼ら塩崎家の誇りであり、誉れであった。

そして塩崎家現当主の彼は大いに苦悩している。…主筋である豆田貴子からの命令を無視してしまっていた件で。
…しかも、恋人のレーファと喫茶店でいちゃついていたという、草葉の陰のご先祖たちが激怒しかねない理由で…。

……僕、もうダメかも。この事が母さんにばれたら、きっとこんな展開に…。
『…塩崎家当主たるあなたが、なんと不甲斐無い振る舞いを。
 …不肖ながらも、母としての最後の勤めです。介錯して差し上げますから、潔く腹をお切りなさい。
 …心配しなくて良いわ。私も後を追いますから。』

…うん。嫌な汗が止まらない。というか、母さんまで巻き込むのはマズい。
そんな彼の表情の変化にうろたえるレーファ。

「ダ、ダーリン?…どうしたネ?」
「…レーファ。短い間だったけど、君と一緒に居れて楽しかったよ。
 母さんの事、よろしく頼めないかな?あと、次代は久蔵兄さんを推挙してたとも伝えて欲しいんだ。
 生まれこそ分家の人だけど、腕も、頭の切れも申し分ない方だしね。勘兵衛先生が付いていれば、間違いないとも。」
 
「だ、ダーリン…?」

「え~と…。
 『五月雨と 共に散るかな わが命 愛しき人よ 君に幸あれ』
 うん。辞世の句はこんなものでいいかな?」

「ダ、ダーリン!!少し落ち着くネ!!!」
妙に悟りきった顔でシャツを脱ぎだした勝四郎を、あわてて止めるレーファ。
そりゃ普段は奥手な彼が自ら服を脱ぐなんて美味しいシチュエーション、喜ばしいに決まっている。
しかし、腹を切るとなると話は別なので、とりあえず平手打ちを何発か入れて落ち着かせる。

「ダーリン…。確かにサムライとしては失態なのかも知れないヨ…。
 …でも、闘いが始まってるなら、武功を挙げることで挽回すればいいネ。」

ちょっぴりやり過ぎたかな…と心の内で反省。
レーファとしても、従者としての勤めを果たす為に意図的に彼を引き回していた事実もある。
まぁ貴子の命に従った勝四郎を、陽子の側に付いた自分が拘束していた事を証言すれば、彼の名誉は守れるだろう。
一定時間の足止めを果たせた以上、自分の任務も達成できているはずだし。

「…うん。そうだね。」
勝四郎の腹も固まった。放逐されたとしても、それ以上の功を挙げて帰参すれば良い。
少年の顔は、先ほどまでの頼りない表情ではなく出陣に望むサムライの貌へと変っていた。
「行ってくるよ。レーファ。」
「うん。ダーリン。」

竹刀袋から愛刀を取り出し、腰のベルトに鞘を固定する勝四郎。
そしてレーファを振り返ることなく、戦場にむかって歩みだす。
目指す先は新醤油学園高等部の第3会議室……。

しかし、彼は知らない。………わずか2ブロック先の交番で、職務質問を受ける運命が待ち受けている事を。

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最終更新:2009年01月24日 02:13
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